O,O'-ジエチルジチオリン酸のラットを用いる単回経口投与毒性試験

Single Dose Oral Toxicity Test of O,O'-Diethyl dithiophosphate in Rats

要約

 O,O'-ジエチルジチオリン酸を雌ラットに1回経口投与し,その毒性について検討した.投与量は,第1回試験は2000 mg/kg,第2回試験は300 mg/kg,第3回試験は300 mg/kgとした.媒体には1.0 vol% Tween 80を含む0.5 w/v%カルボキシメチルセルロースナトリウム水溶液を用いた.各群の使用動物数は各3例とした.

 死亡例は,2000 mg/kg投与で投与後1日までに3例全例に認められた.

 一般状態において,2000 mg/kg投与で流涎,自発運動の低下,腹臥位,チアノーゼおよび緩徐呼吸がみられた.300 mg/kg投与では,投与直後に流涎がみられた.300 mg/kg投与では,体重推移に異常はみられなかった.剖検において,2000 mg/kg投与で胃穿孔,腺胃粘膜暗赤色斑,腺胃粘膜肥厚,前胃粘膜肥厚および腹水貯留がみられた.300 mg/kg投与では,異常はみられなかった.

 以上の結果から,O,O'-ジエチルジチオリン酸の急性毒性は,GHSのカテゴリー4に分類される.

方法

1. 被験物質および媒体

 O,O'-ジエチルジチオリン酸は,暗青色のメルカプタン臭を有する強酸の液体であり,ほとんどの有機溶剤に可溶,水にもわずかに可溶である[Lot No. ASK5069,純度:98.9 %,密度:1.180 g/mL(20 ℃),和光純薬工業(大阪)].入手後は,冷蔵・遮光の条件下で保管した.投与終了後に被験物質を分析し,使用期間中安定であったことを確認した.

 O,O'-ジエチルジチオリン酸は,1.0 vol% Tween 80を含む0.5 w/v%カルボキシメチルセルロースナトリウム水溶液で所定濃度となるように,懸濁して調製した.なお,被験物質の調製に際して,純度による換算を実施した.1および200 mg/mLの調製液は,調製後,冷蔵,遮光および気密の条件下で7日間保管後,さらに室温,遮光および気密の条件下で24時間保管しても安定性に問題のないことが確認されている.投与検体は,用時調製とし,調製後6時間以内に使用した.

 投与に使用した投与検体中の被験物質濃度を測定した結果,被験物質濃度に問題はなかった.

2. 使用動物および飼育条件

 7週齢のCrj:CD(SD)IGS雌ラット(SPF)を日本チャールス・リバーから購入した.入手した動物は,5日間の検疫期間およびその後2日間の馴化期間を設け,一般状態および体重推移に異常の認められなかった動物を群分けした.群分けは,第1回試験,第2回試験および第3回試験とも投与日にコンピュータを用いて無作為抽出法により行った.

 動物は,室温20〜26 ℃,湿度40〜70 %,明暗各12時間(照明:午前6時〜午後6時),換気回数12回/時に維持された飼育室で飼育した.検疫・馴化期間中および群分け後とも,ステンレス製ケージを用いて個別飼育した.飼料は,固型飼料(CRF-1,オリエンタル酵母工業)を自由に摂取させた.ただし,投与前日の夕刻から投与までの約19時間と投与後約6時間まで絶食した.飲料水は,水道水を自由に摂取させた.ただし,群分け時から投与後約6時間までは絶水した.

3. 投与経路,投与方法および投与量

 投与経路は,経口投与を選択した.投与に際しては,金属製経口胃ゾンデを取り付けたポリプロピレン製ディスポーザブル注射筒を用いて,強制経口投与した.投与液量は,投与直前に測定した体重を基準として10 mL/kgで算出した.投与回数は1回とした.投与日の週齢は8週齢であり,体重範囲は169〜179 gであった.

 O,O'-ジエチルジチオリン酸のラット経口投与によるLD50値は4510 mg/kgとの情報がある1).従って,OECD Test Guideline 423で最高用量とされている2000 mg/kgを第1回試験の投与量とした.第1回試験の2000 mg/kg投与で3例全例が死亡したため,300 mg/kgを第2回試験の投与量とした.第2回試験の300 mg/kg投与で死亡例が認められなかったため,300 mg/kgを第3回試験の投与量とした.各試験の動物数は,3例とした.

4. 観察および検査項目

1) 観察期間

 投与後14日間とした.

2) 一般状態

 投与日は投与後6時間(投与直後〜投与後30分,投与後2,4および6時間)まで,投与翌日からの観察期間中は1日1回,一般状態および死亡の有無を観察した.

3) 体重測定

 投与日(投与直前)ならびに投与後1,3,7,10および14日に測定した.

4) 剖検

 死亡動物は,速やかに剖検した.生存動物は,観察期間終了日にジエチルエーテル麻酔下で腹大動脈から放血致死させた後に剖検した.

5. 統計解析

 LD50値は概略の範囲を推定した.

 体重は,各群で平均値および標準偏差を算出した.

結果

1. 死亡状況,LD50値および一般状態(Table 1)

 死亡例は,第1回試験の2000 mg/kg投与で投与後6時間に2例と投与後1日に1例の全例に認められた.第2回試験および第3回試験の300 mg/kg投与では,死亡例は認められなかった.O,O'-ジエチルジチオリン酸のLD50値は,300 mg/kgと2000 mg/kgの間にあると推定される.

 一般状態において,第1回試験の2000 mg/kg投与で投与直後に流涎が2例,投与後約5分に自発運動の低下および腹臥位が各1例,投与後2時間に腹臥位が2例と自発運動の低下が1例,投与後4時間に緩徐呼吸が3例,腹臥位およびチアノーゼが各2例と自発運動の低下が1例,投与後6時間に腹臥位および緩徐呼吸が1例にみられた.第2回試験の300 mg/kg投与では,異常はみられなかった.第3回試験の300 mg/kg投与では,投与直後に流涎が1例にみられたが,投与2時間以降に異常は認められなかった.

2. 体重

 第2回試験および第3回試験の300 mg/kg投与では,体重は順調に推移した.

3. 剖検

 第1回試験の2000 mg/kg投与による死亡例では,腺胃粘膜肥厚が3例,胃穿孔,腺胃粘膜暗赤色斑および腹水貯留が各2例と前胃粘膜肥厚が1例にみられた.

 第2回試験および第3回試験の300 mg/kg投与による生存例では,異常はみられなかった.

考察

 O,O'-ジエチルジチオリン酸の急性毒性は,GHSのカテゴリー4に分類される.

 O,O'-ジエチルジチオリン酸の2000 mg/kg投与により,流涎,自発運動の低下,腹臥,緩徐呼吸およびチアノーゼ,剖検で胃穿孔,腺胃粘膜暗赤色斑,腺胃粘膜肥厚,前胃粘膜肥厚および腹水貯留が認められたことから,O,O'-ジエチルジチオリン酸は消化管粘膜に対して直接的な刺激作用を有し,この作用に基づく消化管障害により死に至ったと考えられる.

文献

1) 和光純薬工業,未発表.

連絡先
試験責任者: 古橋忠和
試験担当者: 藤村高志,内藤一嘉,吉島賢一
1日本バイオリサーチセンター 羽島研究所
〒501-6251 岐阜県羽島市福寿町間島6-104
Tel 058-392-6222 Fax 058-392-1284

Correspondence
Authors: Tadakazu Furuhashi(Study director)
Takashi Fujimura, Kazuyoshi Naito,
Ken-ichi Yoshijima
Nihon Bioresearch Inc.
6-104, Majima, Fukuju-cho, Hashima, Gifu, 501-6251, Japan
Tel +81-58-392-6222 Fax +81-58-392-1284