染色体異常試験に用いる濃度を決定するため,細胞増殖抑制試験を行った結果,連続処理法の場合は,24時間および48時間処理でそれぞれ625および313 μg/mL以上,短時間処理法の場合は,S9 mix非存在および存在下でそれぞれ 800および1600 μg/mL以上の濃度で,50%を上回る細胞増殖抑制が認められた.したがって,染色体異常試験における濃度は,連続処理法の場合20, 39, 78, 156, 313および625 μg/mL,短時間処理法の場合200, 400, 600, 800, 1400および1600 μg/mLとした.
試験の結果,連続処理法では,24時間および48時間処理ともに最高濃度の625 μg/mL(出現頻度88.5および76.5%)で染色体構造異常細胞の有意な増加が認められた.短時間処理法においては,S9 mix非存在下で細胞に対する毒性のため観察可能な分裂中期像が認められなかった高濃度を除く200〜600 μg/mL(出現頻度6.5, 49.5, 87.5%)で,また,S9 mix存在下では,800〜1600 μg/mL(出現頻度13.5, 99.5, 100%)で濃度依存的な染色体構造異常細胞の有意な増加が認められた.
以上の成績から,本実験条件下において,2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリラートは,CHL細胞に対し染色体異常を誘発する(陽性)と結論した.
連続処理法では,培養開始3日後に被験物質供試液を加え,24時間および48時間処理した.また,短時間処理法では,培養開始3日後にS9 mix非存在および存在下で6時間処理し,処理終了後,新鮮培養液でさらに18時間培養した.
実験終了後,被験物質提供元において残余被験物質を分析した結果,安定性に問題はなかった.
その結果(Appendix 1, 2),連続処理法の場合は,24時間処理では625 μg/mL以上の濃度で50%を上回る細胞増殖抑制が認められ,50%細胞増殖抑制濃度は313〜625 μg/mL間にあるものと判断された.48時間処理では156 μg/mL濃度で50%細胞増殖抑制が認められ,313 μg/mL以上の濃度で50%を上回る細胞増殖抑制が認められた.短時間処理法の場合は,S9 mix非存在および存在下でそれぞれ800および1600 μg/mL以上の濃度で50%を上回る細胞増殖抑制が認められ,50%細胞増殖抑制濃度は,それぞれ600〜800 μg/mL間および 1400〜1600 μg/mL間にあるものと判断された.
Appendix 1
Cell growth inhibition test of CHL cells continuously treated with 2-(dimethylamino)ethyl methacrylate without S9 mix
Concentration (μg/mL) | Average cell growth rate (%) | |
24-hour treatment | 48-hour treatment | |
0(Solvent) | 100 | 100 |
78 | 66.0 | 62.5 |
156 | 61.5 | 50.0 |
313 | 58.0 | 39.0 |
625 | 26.5 | 20.5 |
1250 | 12.0 | 3.5 |
2500 | 10.0 | 3.0 |
5000 | 8.0 | 2.5 |
Appendix 2
Cell growth inhibition test of CHL cells treated with 2-(dimethylamino)ethyl methacrylate with and without S9 mix
Concentration (μg/mL) | Average cell growth rate (%) | |
without S9 mix | with S9 mix | |
0(Solvent) | 100 | 100 |
600 | 56.5 | 81.0 |
800 | 41.5 | 70.5 |
1000 | 28.0 | 70.5 |
1200 | 18.0 | 70.5 |
1400 | 16.5 | 57.5 |
1600 | 11.5 | 43.5 |
1800 | 17.5 | 33.0 |
陽性対照として,連続処理法ではN-methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(MNNG, Sigma Chemical Co.)を2.5 μg/mL,短時間処理法では3,4-benzo[a]pyrene(B[a]P, Sigma Chemical Co.)を10 μg/mLの濃度で用いた.陽性対照物質の溶媒には,いずれもDMSO(和光純薬工業)を使用した.
ギャップを含めた染色体構造異常細胞および倍数性細胞の出現頻度について,多試料c 2検定を行い有意差(有意水準5%以下)が認められた場合は,フィッシャーの直接確率法を用いて溶媒対照群と各濃度群との間の有意差検定(有意水準は多重性を考慮して,5%または1%を処理群の数で割ったものを用いた)を行った.
その結果,溶媒対照群と比較して,被験物質による染色体異常細胞の出現頻度が2濃度以上で有意に増加し,かつ濃度依存性あるいは再現性が認められた場合,陽性と判定した.
短時間処理法による結果をTable 2に示した.S9 mix非存在下では,200〜600 μg/mLで濃度依存的かつ有意な染色体構造異常細胞の増加(出現頻度6.5, 49.5, 87.5%)が認められた.S9 mix存在下では,800〜1600 μg/mLで濃度依存的な染色体構造異常細胞の有意な増加(出現頻度13.5, 99.5,100%)が認められた.S9 mix非存在および存在下ともに,倍数性細胞の誘発作用は認められなかった.なお,短時間処理法S9 mix非存在下の800 μg/mL以上の濃度では,被験物質の細胞に対する毒性のため,観察可能な分裂中期像が認められなかった.
以上の成績から,本実験条件下では,2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリラートのCHL細胞に対する染色体異常誘発性は陽性と判定した.本試験結果は,CHL細胞において,染色体異常を有する細胞の出現頻度が10%以上を陽性とする生物学的判定基準2)からみても明らかに陽性を示すものであった.陽性結果が得られたため,D20値3)(分裂中期像の20%に異常を誘発させるために必要な被験物質の濃度)を算出したところ,連続処理法では妥当と考えられるD20値は得られず,短時間処理法において算出された0.19 mg/mLを本被験物質のD20値とした.
なお,類縁化合物である(ジメチルアミノ)エチルアクリラートの変異原性についてもCHL細胞を用いた染色体異常試験並びにSalmonella typhimuriumおよびEscherichia coliを用いた復帰突然変異試験で陽性4)と報告されており,エチルメタクリラートについては,S.typhimuriumを用いた復帰突然変異試験で陰性5),L5178Yマウスリンホーマ細胞を用いた染色体異常試験で陽性6),CHO細胞を用いた染色体異常試験では陰性7)および姉妹染色分体交換試験で陽性7)と報告されている.また,2-(ジメチルアミノ)エチル塩化物については,麦酒酵母菌を用いた復帰突然変異試験で陽性8)と報告されている.
1) | 日本環境変異原学会・哺乳動物試験分科会編,"化学物質による染色体異常アトラス,"朝倉書店,東京,1988,pp. 16-37. |
2) | 石館 基 監修,"改定増補 染色体異常試験データ集," エル・アイ・シー,東京,1987,p. 19. |
3) | 厚生省生活衛生局企画課生活化学安全対策室 監修, "化審法毒性試験法の解説 改訂版,"化学工業日報 社,東京,1992, pp.51-52. |
4) | 厚生省生活衛生局企画課生活化学安全対策室 監修,"化学物質毒性試験報告 Vol. 5,"化学物質点検推進連絡協議会,東京,1997,pp. 595-604. |
5) | E. Zeiger,B. Anderson,S. Haworth,T. Lowlor,K. Mortelmans,W. Speck,Environ.Mutagen.,9(suppl. 9), 1(1987). |
6) | M.M. Moore,A. Amtower,C.L. Doerr,K.H. Brock, K.L. Dearfield, Environ.. Mol. Mutagen., 11, 49(1988). |
7) | "The Dictionary of Substances and their Effects," Vol.4,eds. by M.L. Richardson,S. Gangolli,The Royal Society of Chemistry,Cambridge,1994,pp. 430-432. |
8) | F.K. Zimmermann,R.C. Borstel,E.S. Halle,J.M. Parry,D. Siebert,G. Zetterberg,R. Barale, N. Loprieno,Mutat. Res.,133,199(1984). |
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