一般状態の観察では,40 mg/kg以上の群の雄および 200 mg/kg以上の群の雌で,投与期間の中期以降に少数例〜過半数例で投与後に一過性の流涎がみられた.
投与期間中の体重は,各投与群の雌雄とも対照群との間に有意差は認められなかった.
摂餌量測定では,1000 mg/kg群の雄および 200 mg/kg以上の群の雌で,投与 1 および 2 週には有意な低値が認められた.
摂水量は,1000 mg/kg群の雌で,投与 4 週と回復 1 週に有意な高値が認められた.
尿検査では,1000 mg/kg群の雌で,投与期間終了前には尿量が有意な高値,尿比重が有意な低値を示した.当変動は,回復期間終了前には消失した.
血液学的検査では,200 mg/kg以上の群の雌雄ではヘモグロビン量が,200 mg/kg以上の群の雌と 1000 mg/kg群の雄ではヘマトクリット値が,200 mg/kg群の雌では赤血球数が,1000 mg/kg群の雌では平均赤血球容積が,いずれも有意な低値を示した.これらの変動は,回復期間終了時には消失した.
血液化学的検査では,1000 mg/kg群の雌で,総コレステロール量が有意な高値を示したが,回復期間終了時には消失した.
剖検では,被験物質の投与に起因すると思われる変化は認められなかった.
器官重量測定では,1000 mg/kg群の雌で,肝臓絶対重量および相対重量がともに有意な高値を示した.また,200 mg/kg以上の群の雄と 200 mg/kg群の雌で肝臓相対重量が,1000 mg/kg群の雌で腎臓相対重量が有意な高値を示した.これらの変動は,回復期間終了時には消失した.
病理組織学的検査では,被験物質の投与に起因すると思われる組織変化はみられなかった.
以上により,当試験条件下におけるリン酸トリス(p-クメニル) の毒性学的無影響量は,雄では 8 mg/kg,雌では 40 mg/kgと推察された.
投与検体液は,被験物質をコーンオイルに溶解して調製した.投与開始前および投与終了前の 2 回,各投与検体液中の被験物質濃度を測定した.その結果,いずれの投与検体液も適正範囲内の値を示した.コーンオイル中の 1.6 および 200 mg/ml濃度の被験物質は,冷蔵・遮光・気密条件下で調製後 7 日間までの安定性が確認された.そこで,各投与検体液の調製は 1 週間に 1 回以上行い,1 日分ずつ分割して冷蔵・遮光・気密条件下で保存し,用時室温に戻して投与に用いた.
動物は,室温 20〜24 ℃,湿度 40〜70 %,明暗各 12 時間,換気回数 12 回/時に設定した飼育室で飼育した.検疫・馴化期間中はステンレス製懸垂式ケージを用いて 1 ケージあたり 5 匹までの群飼育とし,群分け後はステンレス製五連ケージを用いて個別飼育した.
飼料は固型飼料[CRF-1,オリエンタル酵母工業(株)]を給餌器に入れ,自由に摂取させた.飲料水は,水道水を給水瓶を用いて自由に摂取させた.飼料および飲料水の検査の結果,いずれも試験成績は当試験施設で定めた基準値の範囲内であった.
投与期間は,1 日 1 回の 28 日間反復投与とした.また,28 日間の投与後に対照群および最高用量群の一部の動物について 14 日間の回復期間を設けた.なお,初回投与日を投与 1 日とし,最終投与日の翌日を回復 1 日とした.
群構成は,以下の如くとした.すなわち,被験物質投与群として 4 群を設定し,その他に対照群を設けた.一群の動物数は,雌雄それぞれ対照群および最高用量群は投与期間終了時剖検例 10 匹と回復期間終了時剖検例 5 匹の合計 15 匹とした.また,被験物質の低用量,中用量および高用量群は,雌雄それぞれ投与期間終了時剖検例 10 匹とした.
投与量設定の理由:雄ラットを用いた 2 週間経口投与による予備試験(投与段階:0,62.5,125,250,500 および 1000 mg/kg)の結果,最高用量の 1000 mg/kg群で少数例に軟便がみられた以外には一般状態の異常は観察されなかった.また,体重推移および剖検でも異常はみられなかった.したがって,当試験の投与量は,化審法のスクリーニング毒性試験ガイドラインで限界用量とされている 1000 mg/kgを最高用量とし,以下公比 5 により 200,40 および 8 mg/kg群を設定した.対照として,被験物質と同一容量の媒体(コーンオイル)を投与する群を設けた.
2) 体重:投与期間中および回復期間中とも 1 週間に 2 回,ならびに剖検日前日と剖検日に測定した.
3) 摂餌量:投与期間中および回復期間中ともに連続 2 日間量を測定して 1 日量に換算し,1 週間に 1 回測定した.なお,剖検前日の夕刻からは絶食とした.
4) 摂水量:摂餌量測定と同様にして摂水量を測定した.ただし,絶食期間中は給水を行った.
5) 尿検査:投与期間終了前には投与期間終了時の剖検用動物について,また回復期間終了前には回復期間終了時の剖検用動物について実施した.すなわち,採尿ケージを用いて絶食・給水下で 3 時間で採取した尿(3 時間尿)と引き続いて給餌・給水下で 21 時間で採取した尿(21 時間尿、合計 24 時間尿)について,以下の検査を実施した.
3時間尿:色調は,外観判定とした.pH,潜血,蛋白,糖,ケトン体,ウロビリノーゲンおよびビリルビンは,エームスクリニテック用検査紙[マイルス・三共(株)]に尿を滴下後に,エームス尿分析器(クリニテック 200,エームス)を用いて検査した.尿沈渣は,沈渣を尿沈渣染色液で染色後に顕微鏡下で観察した.
21 時間尿:比重を,屈折率により屈折型比重計[ユリペット,(株)ニコン]を用いて測定した.
24 時間尿:尿量を重量により測定した.
6) 血液学的検査:最終投与の翌日および回復期間終了後に,ペントバルビタールナトリウムの腹腔内投与による麻酔下で腹大動脈からカニュレーションにより血液を採取し,以下の検査を行った.
プロトロンビン時間(PT)および活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)は,3.13%クエン酸ナトリウムで処理した血漿について,散乱光検出方式により血液凝固分析装置[コアグマスター�供∋斡Α奮堯法呂鰺僂い涜�定した.
赤血球数(RBC),ヘモグロビン量,ヘマトクリット値,血小板数および白血球数(WBC)は,EDTA-2K コーティングしたサンプルカップに採取した血液について,多項目自動血球計数装置[Sysmex E-2000,東亜医用電子(株)]を用いて測定した.また,平均赤血球容積(MCV),平均赤血球血色素量(MCH)および平均赤血球血色素濃度(MCHC)を算出した.
網状赤血球数は,EDTA-2K 処理した血球を Brecher 法により超生体染色してスライドグラスに塗抹後,Giemsa 染色した標本を作製して顕微鏡下で赤血球 1000 個中の数を数えた.
白血球百分率は,EDTA-2K 処理した血液をスライドグラスに塗抹し,May-Giemsa 染色した標本を作製して顕微鏡下で白血球 100 個を分類計数した.
7) 血液化学的検査:血液学的検査用の血液と同時期に腹大動脈から採取した血液から分離して得た血清について,以下の検査を行った.
GOT および GPT は Henry 変法,ALP は ρ-NPP 基質法,γ-GTP は γ-G-P-NA 基質法,総蛋白(TP)は Biuret 法,総ビリルビン(T-Bil)は Azobilirubin 法,尿素窒素(BUN)は Urease・GlDH 法,クレアチニンは Jaff
法,ブドウ糖は Glucose dehydrogenase 法,総コレステロール(T-Cho)は COD・DAOS 法,トリグリセライド(TG)は GPO・DAOS 法,Ca は o-CPC 法,無機リン(IP)は Molybdenum blue 法により,いずれも自動分析装置[AU 500、オリンパス光学工業(株)]を用いて測定した.
Na および K はイオン選択電極法により,Cl は電量滴定法により,いずれも全自動電解質分析装置[EA04,(株)A & T]を用いて測定した.
蛋白分画は,自動電気泳動装置[AES 600,オリンパス光学工業(株)]を用いて測定した.
アルブミン量は総蛋白量および蛋白分画値から,A/G 比は蛋白分画値から算出した.
8) 剖検:上記のように採血した動物について,さらに放血致死させた後に,器官・組織の肉眼的観察を行った.
9) 器官重量の測定:剖検時に以下の器官を摘出し,その重量を測定した.なお,対器官は一括秤量した.さらに,剖検前に測定した体重を基準として,器官重量の体重比(相対重量)を算出した.
脳(大脳,小脳,延髄),肝臓,腎臓,副腎,精巣または卵巣.
10) 病理組織学的検査:以下の器官・組織を摘出して 10 %中性緩衝ホルマリン液(ただし,眼球はグルタールアルデヒド・ホルマリン液)で固定し,全例について常法に従ってパラフィン包埋標本を作製した.
心臓,肺,肝臓,胃,脾臓,腎臓,膀胱,精巣,卵巣,下垂体,副腎,甲状腺(上皮小体を含む),脳(大脳,小脳,延髄),眼球,骨髄(大腿骨).
投与期間終了時剖検例の対照群および最高用量(1000 mg/kg)群の心臓,肝臓,脾臓,腎臓,副腎および骨髄について H-E 染色組織標本を作製し,病理組織学的検査を行った.また,剖検で異常がみられた 1000 mg/kg群の雌の胃および対照群の 1 例の胃についても病理組織標本を作製し,観察した.
体重,摂餌量,摂水量,尿量,尿比重,血液学的検査成績,血液化学的検査成績,器官重量および相対重量は,各群で平均値および標準偏差を算出した.多重比較検定では,Bartlett 法による等分散性の検定を行い,等分散ならば一元配置法による分散分析を行い,有意ならば対照群との群間比較は Dunnett 法(例数が等しい場合)または Jaff
法(例数が等しくない場合)により行った.一方,等分散と認められなかった場合は,順位を利用した一元配置法による分析(Kruskal-Wallis の検定)を行い,有意ならば対照群との群間比較は順位を利用した Dunnett 法(例数が等しい場合)または Jaff
法(例数が等しくない場合)を用いて行った.
回復期間中には,対照群および 1000 mg/kg群の雌雄とも異常症状は観察されなかった.
回復期間中は,1000 mg/kg群の雄の体重が対照群に比して低値であり,回復 11 日には有意差が認められた.
回復期間中は,1000 mg/kg群の雌雄とも対照群とほぼ同程度であった.
回復期間中は,1000mg/kg群の雌で対照群に比してやや高値であり,回復3日には有意差が認められた.
色調,pH,蛋白,糖,ケトン体,ビリルビン,潜血,ウロビリノーゲンおよび沈渣は,各投与群の雌雄とも対照群とほぼ同様であった.
色調,pH,蛋白,糖,ケトン体,ビリルビン,潜血,ウロビリノーゲンおよび沈渣は,1000 mg/kg群の雌雄とも対照群とほぼ同様であった.
腎臓:ごく軽度の腎症が,対照群の雌雄および 1000 mg/kg群の雄の各 1 例にみられた.
上記の肝臓および腎臓の組織変化には,投与用量との関連性は認められなかった.
剖検で腺胃粘膜の白色化がみられた1000mg/kgの雌では,著変はみられなかった.また,心臓,脾臓,副腎および骨髄ならびに対照群の胃では,いずれも著変はみられなかった.
投与期間中,投与期間終了前あるいは投与期間終了時にほぼ用量依存性を示し,対照群との間に有意差が認められた変化は,以下の如くであった.投与期間初期における摂餌量の低値(200 mg/kg以上の群の雌,1000 mg/kg群の雄),投与期間後期における摂水量の高値(1000 mg/kg群の雌),尿量の高値および尿比重の低値(1000 mg/kg群の雌),赤血球数の低値(200 mg/kg群の雌),ヘモグロビン量の低値(200 mg/kg以上の群の雌雄),ヘマトクリット値の低値(200 mg/kg以上の群の雌,1000 mg/kg群の雄),平均赤血球容積の低値(1000 mg/kg群の雌),α3-グロブリン比の高値(1000 mg/kg群の雄),総コレステロール値の高値(1000 mg/kg群の雌),肝臓相対重量の高値(200 mg/kg以上の群の雌雄),肝臓絶対重量の高値(1000 mg/kg群の雌),腎臓相対重量の高値(1000 mg/kg群の雌).また,一般状態では 40 mg/kg群の雄および 200 mg/kg以上の群の雌雄で,投与後に流涎が観察された.
流涎は投与期間の中期以降から最終投与日まで,少数例〜過半数例でみられた.当症状は投与終了直後から発現したが,継続時間は約 20 分間の一過性のものであった.
摂餌量は,200 mg/kg以上の群で投与期間の初期〜中期にかけて低値であった.しかしながら,体重に影響を及ぼす程の変動ではなく,投与期間の後期には対照群とほぼ同程度まで回復した.
摂水量は,1000 mg/kg群の雌で投与 4 週目で高値であり,投与期間終了前の尿検査における尿量の高値と尿比重の低値との関連性が得られた.なお,摂水量の高値は回復 1 週目までみられたが,その後に消失した.尿量に関連する器官である腎臓は,当該群で相対重量が高値を示したものの,絶対重量には有意差は認められなかった.また,尿検査のその他の項目で異常はみられず,血液化学的検査で腎機能障害を示唆する変動はみられず,病理組織学的検査でも腎臓に著変はみられなかった.したがって,摂水量および尿検査値の変動は,機能的および器質的変化を伴わないものと思われた.
血液学的検査では,赤血球数,ヘモグロビン量,ヘマトクリット値,平均赤血球容積などの低値が認められた.当変動の内,赤血球数には投与用量との関連性はなかったものの,200 mg/kg以上の群では貧血傾向を示したと考えられた.しかしながら,網状赤血球数に影響はなく,病理組織学的検査で骨髄に著変はなく,また肝臓および脾臓に髄外造血,褐色色素沈着などの変化はみられなかった.さらに,今回の 200 mg/kg以上の群の値は当試験施設内のほぼ同週齢のラットの集積値との大きな差は認められなかった.したがって,今回の試験で認められた貧血は器質的変化を伴わないごく軽度のものと思われた.
血液化学的検査では,1000 mg/kg群の雌で総コレステロール値が高値を示した.当検査値と関連すると思われる器官の肝臓は,絶対重量および相対重量がともに高値であった.しかしながら,血液化学的検査で他の肝機能障害を示唆する変動はみられず,病理組織学的検査でも当群に特異的な変化は認められなかった.したがって,当変動はごく軽度の機能的変化に留まるものと思われた.また,1000 mg/kg群の雄では α3-グロブリン比に有意差が認められたが,その他の蛋白分画値には有意な変動がみられないことから,当変動は毒性学的な意義のない変化と考えられた.
以上の投与期間中,投与期間終了前あるいは投与期間終了時に認められた変化は,いずれも回復期間中あるいは回復期間終了時には消失する可逆性のものであった.なお,1000mg/kg群では回復期間中あるいは回復期間終了時に対照群に比して有意差を示す検査項目がみられたが,投与期間終了時にはいずれも有意差が認められない項目であり,毒性を示唆するものとは考え難かった.
剖検では 1000 mg/kg群の雌で腺胃粘膜の白色化がみられたが,1 例のみであること,病理組織学的検査で著変がみられないことから,毒性所見とは思われなかった.また,病理組織学的検査では,1000 mg/kg群に被験物質の投与に起因すると思われる変化はみられなかった.
以上の如く,一般状態の異常(流涎)が 40 mg/kg以上の雄と 200 mg/kg以上の雌で,摂餌量の低値が 200 mg/kg以上の雌と 1000 mg/kgの雄で,摂水量の高値が 1000 mg/kgの雌でみられた.また,血液学的検査(貧血傾向)および器官重量(肝臓)への影響が 200 mg/kg以上の雌雄で,尿量の高値と尿比重の低値が 1000 mg/kgの雌で,血液化学的検査(総コレステロール)への影響が 1000 mg/kgの雌で認められた.したがって,当試験条件下におけるリン酸トリス(p-クメニル)の毒性学的無影響量は,雄では8 mg/kg,雌では40mg/kgと推察された.
| 連絡先 | |||
| 試験責任者: | 和田 浩 | ||
| 試験担当者: | 藤村高志,木村 均,渡邊ゆかり,古橋忠和,山本明義 | ||
| (株)日本バイオリサーチセンター羽島研究所 | |||
| 〒 501-62 岐阜県羽島市福寿町間島 6-104 | |||
| Tel 058-392-6222 | Fax 058-392-1284 | ||
| Correspondence | |||
| Authors: | Hiroshi Wada (Study director) Takashi Fujimura, Hitoshi Kimura, Yukari Watanabe, Tadakazu Furuhashi and Akiyoshi Yamamoto | ||
| Nihon Bioresearch Inc. Hashima Laboratory | |||
| 6-104 Majima, Fukuju-cho, Hashima, Gifu, 501-62, Japan | |||
| Tel +81-58-392-6222 | Fax +81-58-392-1284 | ||