S9 mix非存在下および存在下で短時間処理(6時間処理後18時間の回復時間)した場合,50 %の増殖抑制濃度はそれぞれ3.0 mg/mLおよび4.2 mg/mLとなった.また,連続処理(24時間処理)した場合は1.8 mg/mLとなった.このことから染色体異常試験では,短時間処理群においては,5.0 mg/mLの濃度を最高処理濃度とし,また,24時間連続処理群については,50 %増殖抑制濃度の約2倍濃度である3.5 mg/mLを最高処理濃度とし,公比2で計5濃度を設定した.
染色体分析の結果,S9 mix存在下で短時間処理した場合,最高処理濃度である5.0 mg/mLの濃度群で,29 %の細胞に染色体の構造異常が誘発された.それ以外の処理群では,いずれも染色体の構造異常の誘発は認められなかった.倍数性細胞については,必ずしも明確な濃度依存性は認められないものの,いずれの処理系列においても,低頻度(2 %未満)ながら有意な増加を示す群,S9 mix非存在下では2.5 mg/mL(高濃度群)で1.3 %,S9 mix存在下では2.5 mg/mL(中濃度群)で1.9 %,24時間処理では0.44 mg/mL(低濃度群)で1.5 %,が認められたことから,倍数性細胞を誘発すると判定した.
以上の結果より,本試験条件下でディスパーズレッド206は,染色体異常を誘発する(陽性)と結論した.
なお,被験物質は39.1 %水溶液のため,濃度についてはディスパーズレッド206に換算した値とした.
その結果,連続処理における50 %細胞増殖抑制濃度は1.8 mg/mLであった.S9 mix非存在下および存在下の短時間処理では,それぞれ3.0 mg/mLおよび4.2 mg/mLとなった(Fig. 1).
また,陽性対照物質として用いたマイトマイシンC(MC,協和醗酵工業(株))およびシクロホスファミド(CP,Sigma Chemical Co.)は,日局注射用水((株)大塚製薬工場)に溶解して調製した.それぞれ染色体異常を誘発することが知られている濃度を適用した.
染色体異常試験において,溶媒対照群と処理群では1濃度あたり4枚のディッシュを用いた.このうちの2枚は染色体標本を作製し,残りの2枚については単層培養細胞密度計により細胞増殖率を測定した.無処理対照群および陽性対照群については細胞増殖率測定は行わなかった.
作製したスライド標本のうち,1つのディッシュから得られた異なるスライドを,4名の観察者がそれぞれ処理条件が分からないようにコード化した状態で分析した.染色体の分析は,日本環境変異原学会・哺乳動物試験研究会(MMS)1)による分類法に基づいて行い,染色体型あるいは染色分体型のギャップ,切断,交換などの構造異常の有無と倍数性細胞(polyploid)の有無について観察した.また構造異常については1群200個,倍数性細胞については1群800個の分裂中期細胞を分析した.
一方,S9 mix存在下の短時間処理群においては高濃度群(5.0 mg/mL)で29.0 %の構造異常(gapを除く)を誘発した(Table 3).
倍数性細胞については24時間処理した低濃度群(0.44 mg/mL)において有意な増加が認められた(出現頻度1.5 %,Table 1).短時間処理群においても,2.5 mg/mL(S9 mix非存在下の高濃度群,S9 mix存在下の中濃度群)において有意な増加が認められた(S9 mix非存在下:1.3 %,S9 mix存在下:1.9 %,Table 2, 3).
これらの処理群における倍数性細胞の出現頻度は,いずれも低頻度(2 %未満)であり,濃度依存性も必ずしも明確ではなかったが,3つの異なるすべての条件下で有意差が認められたことから,再現性のある結果と判断し,弱いながらも最終的には陽性と判定した.なお,いずれの被験物質処理群においても処理中に沈殿が認められた.
染色体の構造異常の誘発が認められたS9 mix存在下の短時間処理群について,D20値4)を求めたところ,4.3 mg/mLとなった.倍数性細胞については,いずれも最高濃度の10倍ないし最低濃度の10分の1以下の値となり,D20値は対象外となった.
本試験で構造異常陽性の結果が得られたS9 mix存在下の最高濃度群では,強い増殖抑制作用(26.5 %の増殖率)を示し,細胞毒性による構造異常誘発の可能性も示唆されたが,細菌を用いる復帰変異試験において陽性の結果が得られている5)ことから,被験物質の直接的な作用により構造異常が誘発されたと考えられる.
陽性対照物質として用いたMCは,S9 mix非存在下で短時間処理および24時間連続処理した場合において染色体の構造異常を誘発し(Table 1, 2),CPはS9 mix存在下で短時間処理した場合において染色体の構造異常を誘発した(Table 3).これらの陽性対照物質の結果より,本実験系の成立が確認された.
以上の結果より,ディスパーズレッド206は,本試験条件下でCHL/IU細胞に染色体異常を誘発すると結論した.
1) | 日本環境変異原学会・哺乳動物試験分科会編,"化学物質による染色体異常アトラス,"朝倉書店,東京,1988, pp. 16-37. |
2) | 吉村功編,"毒性・薬効データの統計解析,事例研究によるアプローチ,"サイエンティスト社,東京,1987, pp. 76-78. |
3) | 吉村功,大橋靖夫編,"毒性試験講座14,毒性試験データの統計解析,"地人書館,東京,1992, pp. 218-223. |
4) | 石館基監修,"<改定>染色体異常試験データ集," エル・アイ・シー,東京,1987, p. 23. |
5) | 原巧ら,化学物質毒性試験報告,10, 559(2003). |
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試験担当者: | 山影康次,高橋俊孝,若栗 忍,中川ゆづき,橋本恵子,三枝克彦,加藤初美 | ||
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Authors: | Noriho Tanaka(Study director) Kohji Yamakage, Toshitaka Takahashi, Shinobu Wakuri, Yuzuki Nakagawa, Keiko Hashimoto, Katsuhiko Saegusa, Hatsumi Kato | |||
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