ディスパーズレッド206のラットを用いる単回経口投与毒性試験
Single Dose Oral Toxicity Test of Disperse Red 206 in Rats
要約
0.5 %メチルセルロース水溶液に懸濁したディスパーズレッド206の0および2000 mg/kgを1群あたり雌雄各5匹のCrj:CD(SD)IGSラットに単回経口投与してその急性毒性を検討し,以下の成績を得た.
死亡は,雌雄ともに認められなかった.一般状態では,雌雄ともに異常は認めらず,体重推移では,雌雄の2000 mg/kg群で対照群との間に有意差は認められなかった.剖検でも,雌雄ともに異常所見は認められなかった.LD50値は2000 mg/kg以上であると推定された.
方法
1. 被験物質および投与液の調製
ディスパーズレッド206 [Lot No. 00132,提供者:三井BASF染料(株)(福岡)] を乾燥させて粉末としたものを被験物質(純度:97.65 %)として使用した.ディスパーズレッド206は,融点150 ℃以上,比重約0.5,分配係数log Pow 3.91の水に懸濁するが不溶で,DMSOおよびアセトンにも不溶の赤黒褐色で無臭の粉末である.被験物質は気密容器に入れ,冷所に保存し,使用期間中の被験物質の安定性を確認した.溶媒はメチルセルロース400 cP(和光純薬工業(株))を日本薬局方精製水(ヤクハン製薬(株))に溶解した0.5 %メチルセルロース水溶液を用い,これに被験物質を所定の濃度となるように懸濁させた.投与液の調製は投与日に行なった.投与液の安定性および均一性,ならびに投与液中の被験物質濃度について分析し,確認した.
2. 試験動物および飼育条件
日本チャールス・リバー(株)より受け入れた4週齢のSprague-Dawley系ラット(Crj:CD(SD)IGS)を7日間の検疫・馴化を行った後,雌雄各10匹を選択して5週齢で試験に供した.投与日の体重範囲は雄が112〜127 g,雌が101〜110 gであった.動物は,温度21〜23 ℃,湿度50〜70 %,換気回数10〜15回/時間および照明時間12時間(8:00から20:00まで点灯)に制御されたバリアシステムの飼育室で,ブラケット式金属製金網床ケージに群分け前は3匹以内,群分け後は個別で飼育した.飼料は固型飼料(CRF-1,オリエンタル酵母工業(株))を金属製給餌器を用いて,飲料水は札幌市水道水を自動給水装置を用いて,自由に摂取させた.
3. 投与量および投与方法
投与量設定試験では2000 mg/kgのディスパーズレッド206を雌雄各3匹のCrj:CD(SD)IGSラットに1回経口投与した結果,死亡が認められなかったため,OECD試験法ガイドライン(401)で定められている限界投与量である2000 mg/kgおよび溶媒のみを投与する対照群を設けた.1群の動物数は雌雄とも5匹とし,投与前日の体重に基づいて層化無作為抽出法により群分けを行った.
17〜18時間の絶食後,胃ゾンデを用いて胃内に強制的に1回経口投与した.投与後約4時間経過した時点で給餌を再開した.
投与容量は10 mL/kgとし,各個体の投与液量は投与日の体重に基づいて算出した.
4. 検査項目
1) 一般状態観察
動物の生死,外観,行動等を投与日(投与後0日)の投与直後から投与後1時間までは連続して観察し,投与後2時間から6時間までは約1時間間隔で観察した.投与後1日から14日の剖検日までは,1日1回観察した.
2) 体重測定
体重は0(投与日の投与前),投与後1,3,5,7,10および14日(剖検日)に測定し,0日から投与後14日までの体重増加量および体重増加率を算出した.
3) 剖検
投与後14日に,体外表を観察した後,エーテル麻酔下で放血致死させ,全身の器官・組織を肉眼的に観察した.
5. 統計解析
体重,体重増加量および体重増加率についてBartlettの検定法を行い,等分散性を解析した.等分散の場合は一元配置分散分析法により解析し,不等分散の場合はKruskal-Wallisの検定法で解析した.Kruskal-Wallis法の解析の結果,有意差が認められた場合には,Mann-WhitneyのU-検定法で解析した.
これら対照群と被験物質投与群との間の検定においては,いずれも有意水準を5 %とした.
結果
1. 死亡状況およびLD50値
死亡例は,雌雄ともに認められなかった.LD50値は,雌雄ともに2000 mg/kg以上であると推定された.
2. 一般状態
雌雄ともに異常は認められなかった.
3. 体重
雌雄ともに2000 mg/kg群と対照群との間に有意差は認められなかった.
4. 剖検
雌雄ともに異常所見は認められなかった.
考察
0.5 %メチルセルロース水溶液に懸濁したディスパーズレッド206の0および2000 mg/kgを1群あたり雌雄各5匹のCrj:CD(SD)IGSラットに単回経口投与してその急性毒性を検討した.
死亡例は雌雄ともに認められず,一般状態,体重推移および剖検においても,雌雄ともに被験物質投与の影響を示唆する変化は認められなかった.
以上のことより,2000 mg/kgのディスパーズレッド206をラットに単回経口投与した場合に毒性徴候の発現しないことが確認され,本試験条件下でのLD50値は2000 mg/kg以上であると推定された.
連絡先 |
| 試験責任者: | 古川正敏 |
| 試験担当者: | 木口雅夫,咲間正志,平田真理子 |
| (株)化合物安全性研究所 |
| 〒004-0839 札幌市清田区真栄363-24 |
| Tel 011-885-5031 | Fax 011-885-5313 | |
Correspondence |
| Authors: | Masatoshi Furukawa(Study director) Masao Kiguchi, Masashi Sakuma, Mariko Hirata |
| Safety Research Institute for Chemical Compounds Co., Ltd. |
| 363-24 Shin-ei, Kiyota-ku, Sapporo-shi, Hokkaido, 004-0839, Japan |
| Tel +81-11-885-5031 | Fax +81-11-885-5313 | |