毒性予備試験を行った結果,雄および雌マウスにおける最大耐量は,それぞれ 1500 mg/kgおよび1250 mg/kgであった.小核予備試験において,1250 mg/kgを雄マウスに投与し,投与後24,48および72時間に骨髄の塗抹標本を作製した.小核出現頻度は,24時間群と他の群との間に明瞭な差は認められなかった.また,赤血球中に占める幼若赤血球の比率を指標とした骨髄細胞の増殖抑制も認められなかった.これらの結果から,雄雌ともに小核本試験でのリン酸ジフェニルクレジルの最高用量を1250 mg/kgとし,標本作製時期を投与後24時間に決定した.
リン酸ジフェニルクレジルの 312.5,625および1250 mg/kgを雄および雌マウスにそれぞれ投与し,投与後24時間目に標本を作製した.小核出現頻度は,いずれの投与群においても,溶媒対照群と比較して統計学的に有意な増加は認められず,用量依存性も認められなかった.また,全赤血球中に占める幼若赤血球の比率は,いずれの投与群においても,溶媒対照群との間に有意差は認められず,被験物質が標的細胞を充分暴露した証拠は得られなかった.しかし,高用量に近い用量である,1750 mg/kgで雄に,1500 mg/kgで雌に死亡例が認められていることから,充分評価に耐える試験結果であると考えられる.
以上の結果から,リン酸ジフェニルクレジルは,本試験条件下で Crj:BDF1雄および雌マウスの骨髄細胞において,小核常誘発作用を示さないと結論した.
動物は,床敷としてホワイト・フレーク (R)(CRJ)を入れたTPX樹脂製ケージ(CRJ)に1匹ずつ収容し,バリアーシステムの飼育室(設定温度:23±1℃,設定湿度:55±5%,換気回数:約15回/時間,明暗サイクル:午前7時点灯,午後7時消灯)で,マウス繁殖用固型飼料(MMF)と水道水を自由に摂取させて飼育した.動物の群分けは自由群分け(無作為抽出)により行った.
試験に先立ち, 312.5 mg/kg群および1250 mg/kg群の投与検体について室温遮光条件下でリン酸ジフェニルクレジルの局方オリブ油中での安定性を調べた.その結果,調製4時間後における各濃度の平均含量は,それぞれ初期値(0時間)の平均値に対して,95.2および104%であった.また,同検体について,含量測定試験を行った.その結果,312.5 mg/kg群および1250 mg/kgの投与検体について,含量はそれぞれ 110および104%であった.
また,陽性対照物質,サイクロフォスファミド (CPA, Sigma Chemical Co.)は,局方生理食塩液に溶解して所定の濃度に調製し,50 mg/kgを単回強制経口投与した.
骨髄標本はそれぞれの個体について, 2名の観察者によりブラインド法で観察した.1個体あたり2000個の幼若赤血球(polychromatic erythrocytes)を観察し,その中の小核を有するものの数を記録した.また赤血球を1個体あたり500個観察し,その中の幼若赤血球の比率を調べて,骨髄細胞の増殖抑制の指標とした.
その結果,投与 6時間後,1250 mg/kg以上の投与群において自発運動の低下が認められた.死亡例は,雄については1750 mg/kgおよび2000 mg/kg群で,それぞれ2匹認められ,雌では 2000 mg/kg群ですべて死亡し,1750 mg/kg群で3匹,1500 mg/kg群で2匹の死亡が確認された.したがって,リン酸ジフェニルクレジルの強制経口投与によるCrj:BDF1雄および雌マウスの最大耐量は,雄では1500 mg/kg,雌では1250 mg/kgであると判断し,小核予備試験に用いる投与用量を,1250 mg/kg と決定した.
リン酸ジフェニルクレジルは,チャイニーズ・ハムスター培養細胞を用いる染色体異常試験で,代謝活性を受けた後に染色体異常を誘発することが認められているが 8),本小核試験においては,最大耐量である1250 mg/kgの用量においても陰性の結果が得られた.これらの試験結果が異なった理由については不明である.
以上の結果から,リン酸ジフェニルクレジルは,本試験条件下で Crj:BDF1雄および雌マウスの骨髄細胞において,小核誘発作用を示さないと結論した.
1) | W. Schmid, Mutat. Res., 31, 9, (1975) |
2) | W. Schmid, "Chemical Mutagens," Vol. 4, ed. by A. Hollendar, Plemum Press, New York, London, 1976, pp. 76-78. |
3) | M. Hayashi, T. Sofuni and M. Ishidate, Jr., Mutat. Res. 120, 241, (1983). |
4) | 林 真,"小核試験," サイエンティスト社,東京 (1991), pp. 44-55. |
5) | 吉村 功 編,"毒性・薬効データの統計解析," サイエンティスト社,東京,(1987), pp. 76-78. |
6) | 吉村 功,大橋靖雄 責任編集,"毒性試験講座14,毒性試験データの統計解析," 地人書館,東京,1992,pp.18-222 |
7) | 吉村 功 編,"毒性・薬効データの統計解析," サイエンティスト社,東京,1987,pp. 67-69. |
8) | 田中憲穂ら,化学物質毒性試験報告,2,299, (1995). |
連絡先 | |||
試験責任者: | 澁谷 徹 | ||
試験担当者: | 堀谷尚古,加藤基恵,原 巧,関野早苗,松木容彦,飯田さやか,中込まどか |
Correspondence: | |||
Authors: | Tohru Shibuya(Study Director) Naoko Horiya, Motoe Katoh, Takumi Hara, Sanae Sekino, Yasuhiko Matsuki, Sayaka Iida, Madoka Nakagomi | ||
Hatano Research Institute, Food and Drug Safety Center | |||
729-5 Ochiai, Hadano-shi, Kanagawa, 257, Japan | |||
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