分娩時観察では,150 mg/kg 群で 1例が分娩中に死亡した.また,同群で哺育期間中に全児死亡の認められた動物が 3例観察され,新生児の哺育 4日生存率が低値傾向を示し,分娩あるいは哺育機能の障害を惹起する可能性が示唆された.なお,妊娠期間および分娩時間に被験物質投与の影響は認められなかった.新生児の外表検査では,外表異常は観察されず,新生児の体重も哺育 4日まで順調に増加した.死産児,死亡児および哺育 4日の剖検でも被験物質投与によると考えられる異常所見は認められなかった.
以上の結果から,6-tert-ブチル-2,4-キシレノールの反復投与毒性は,雄では 30 mg/kg/day 以上,雌では 150 mg/kg/dayの投与で認められ,無影響量は雄で 6 mg/kg/day,雌で 30 mg/kg/day と推察される.また,雄の生殖に及ぼす影響は 150 mg/kg/day投与によっても認められず,無影響量は150 mg/kg/dayと推察される.雌の生殖能および児動物の発生・発育に及ぼす影響は 150 mg/kg/day投与で認められ,無影響量は 30 mg/kg/day と推察される.
被験物質は,コーンオイル(ナカライテスク(株))に溶解し 1.2, 6 および 30 mg/mlの濃度になるよう各群の投与液を調製した.調整後は,使用時まで冷暗条件下で密閉保管した.1.2 mg/mlの場合,冷暗条件下で少なくとも 8日間安定であることが確認されている.
投与液の濃度分析は調製開始時に調製した各群のバッチから無作為にサンプルを抽出し実施した.その結果,設定濃度の99.3〜104%の範囲で調製されておりほぼ所定量の6-tert-ブチル-2,4-キシレノールが含有されていたことを確認した.
動物は,温度22〜26℃,湿度45〜65%,換気回数15回/時間,照度 150〜300 lux ,照明時間12時間(午前 7時点灯,午後 7時消灯)に設定されたバリアシステムの飼育室で飼育した.アルミ製前面・床ステンレス網目飼育ケージに動物を1匹ずつ収容し飼育した.妊娠18日以降の母動物は哺育 4日までアルミ製前面・床ステンレス網目飼育ケージに哺育トレーおよび巣作り材料(アルファードライ)を入れて飼育した.
飼料は, オリエンタル酵母工業(株)製造の NMF固型飼料(放射線滅菌飼料)を使用し,飼育期間中自由に摂取させた.飲水は,水道水を自由に摂取させた.供給した飼料,水および巣作り材料には試験に支障を来す可能性の考えられる夾雑物の混在はなかった.
投与経路は,OECDガイドラインに準じて強制経口投与とした.投与容量は,体重100 g当たり0.5 mlとし,個体別に測定した最新体重に基づいて算出を行い,胃ゾンデを用いて毎日 1回強制経口投与した.対照群にはコーンオイルのみを同様に投与した.雄の投与期間は,交配前14日間と交配期間の14日間を含めて交配期間終了後17日間の連続45日間とした.雌の投与期間は,交配前14日間と交配期間中(交尾成立まで最長14日間)および交尾成立後の妊娠期間を通じて分娩後の哺育3日まで(41〜48日間)とした.なお,妊娠不成立の雌は妊娠25日の解剖前日までの44日間とした.
新生児は哺育 0日に出産児数(生存児+死亡児)を調べ,分娩率[(総出産児数/着床数)×100]および出生率[(出産生児数/総出産児数)×100] を求めた.生存児については性別を判定するとともに外表異常の有無を調べた.また,哺育 0および 4日に雌雄別の同腹児重量を測定し,雌雄別 1 匹当たりの平均重量を算出した.哺育 4日の新生児の同腹児重量を測定後に新生児全例をエ−テル麻酔により屠殺し,主要器官の肉眼観察を行った.なお,哺育期間中の死亡児についても同様に主要器官の肉眼観察を行った.また,新生児の 4日生存率[(哺育 4日生児数/出産生児数)× 100]を求めた.
a) 血液学検査
検査はEDTA3-Kを添加した初血について,THMS H 6000 (テクニコン社)を用いて白血球数( WBC:暗視野板法),赤血球数(RBC: 暗視野板法),ヘマトクリット値(HCT: 全赤血球の容積より補正),ヘモグロビン量(HGB: シアンメトヘモグロビン法),平均赤血球容積(MCV:RBC, HCT より算出),平均赤血球血色素量(MCH:HGB, RBC より算出),平均赤血球血色素濃度(MCHC:HGB, HCT より算出),血小板数(PLT: 暗視野板法)および白血球百分率(フローサイトケミストリー法)を測定した.網赤血球(RC)比率の算定については網赤血球染色用ガラス毛細管キャピロット(テルモ(株))で染色後,血液塗抹標本を作製し鏡検した.
b)血液生化学検査
検査はクリーンシール((株)ヤトロン)に血液を採取し,30 分間放置後 3,000 r.p.m. 7 分間遠心分離して得た血清について,多項目生化学自動分析装置CentrifiChem ENCORE II(ベーカー社)および EKTACHEM 700N(コダック社)を用いて総蛋白(ビューレット法),アルブミン(B.C.G.法),A/G (計算値),血糖(グルコースオキシダーゼ法),尿素窒素(ウレアーゼ改良法),クレアチニン(Jaff
法),総ビリルビン(ジアゾ色素法),グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ(Karmen改良法),グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(Karmen改良法),γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(Szasz 改法),カリウム(電極法),塩素(電極法),カルシウム(アルセナゾIII色素法)および無機リン(モリブデン酸アンモニウム法)を測定した.
発見後直ちに剖検した.皮膚,乳腺,リンパ節,唾液腺,胸骨,大腿骨(骨髄を含む),胸腺,気管,肺および気管支,心臓,甲状腺および上皮小体,舌,食道,胃,十二指腸,小腸,大腸,肝臓,膵臓,脾臓,腎臓,副腎,膀胱,卵巣,子宮,腟,眼球,ハーダー腺,脳,下垂体および脊髄を10%中性緩衝ホルマリン液で固定した.
b) 雄動物
45日間投与した日の夕方から餌を除き,約16時間の絶食させた翌日にエ−テル麻酔下で安楽死させた.剖検では主要器官の肉眼的観察を行い,胸腺,肝臓,腎臓,精巣および精巣上体重量を測定し器官重量・体重比(相対重量)を求めた.また,全動物の重量測定器官に加えて脳,心臓,脾臓,副腎,精嚢,前立腺,下垂体および肉眼所見として変化が認められた器官・組織として肺および腹腔内の塊を10%中性緩衝ホルマリン液で固定した.なお,精巣および精巣上体はブアン氏液で固定した.
c) 自然分娩した雌
哺育 4日にエーテル麻酔下で放血安楽死させた.剖検では主要器官の肉眼的観察を行った後,胸腺,肝臓,腎臓および卵巣重量を測定し器官重量・体重比(相対重量)を求めた.また,全動物の重量測定器官に加えて脳,心臓,脾臓,副腎,下垂体および肉眼所見として変化が認められた器官・組織として腹腔内の塊を10%中性緩衝ホルマリン液で固定した.剖検時に黄体数および着床数を調べ,着床率[(着床数/妊娠黄体数)× 100]求めた.
d) 自然分娩の認められない雌
妊娠25日に,エーテル麻酔下で放血安楽死させた.剖検では主要器官の肉眼的観察を行った後,皮膚,乳腺,リンパ節,唾液腺,胸骨,大腿骨(骨髄を含む),胸腺,気管,肺および気管支,心臓,甲状腺および上皮小体,舌,食道,胃,十二指腸,小腸,大腸,肝臓,膵臓,脾臓,腎臓,副腎,膀胱,卵巣,子宮,腟,眼球,ハーダー腺,脳,下垂体および脊髄を10%中性緩衝ホルマリン液で固定した.着床痕が認められない動物は妊娠不成立と判定した.
e) 全児死亡の認められた雌
生存児すべての死亡または喰殺が確認された日またはその翌日にエーテル麻酔下で放血安楽死させた.剖検では主要器官の肉眼的観察を行った後,皮膚,乳腺,リンパ節,唾液腺,胸骨,大腿骨(骨髄を含む),胸腺,気管,肺および気管支,心臓,甲状腺および上皮小体,舌,食道,胃,十二指腸,小腸,大腸,肝臓,膵臓,脾臓,腎臓,副腎,膀胱,卵巣,子宮,腟,眼球,ハーダー腺,脳,下垂体および脊髄を10%中性緩衝ホルマリン液で固定した.剖検時に黄体数および着床数を調べ,着床率[(着床数/妊娠黄体数)× 100]求めた.
皮膚,乳腺,リンパ節,唾液腺,胸骨,大腿骨(骨髄を含む),胸腺,気管,肺および気管支,心臓,甲状腺および上皮小体,舌,食道,胃,十二指腸,小腸,大腸,肝臓,膵臓,脾臓,腎臓,副腎,膀胱,卵巣,子宮,腟,眼球,ハーダー腺,脳,下垂体および脊髄について実施した.
a) 妊娠を成立させた雄
対照群と高用量群の全例の脳,胸腺,心臓,肝臓,腎臓,脾臓,副腎,精巣およびすべての群の異常病変部組織.6 および 30 mg/kg群の全例の胸腺,肝臓,腎臓および副腎についても組織学検査を実施した.
b) 自然分娩した雌
対照群と高用量群の全例の脳,胸腺,心臓,肝臓,腎臓,脾臓,副腎,卵巣およびすべての群の異常病変部組織.6 および 30 mg/kg群の全例の胸腺,肝臓,腎臓および副腎についても組織学検査を実施した.
c) 妊娠を成立させなかった雄および妊娠不成立の雌
全例の脳,胸腺,心臓,肝臓,腎臓,脾臓,副腎,腟,子宮,卵巣,精巣,精巣上体,精嚢,前立腺および下垂体について実施した.
d) 全児死亡の認められた雌
皮膚,乳腺,リンパ節,唾液腺,胸骨,大腿骨(骨髄を含む),胸腺,気管,肺および気管支,心臓,甲状腺および上皮小体,舌,食道,胃,十二指腸,小腸,大腸,肝臓,膵臓,脾臓,腎臓,副腎,膀胱,卵巣,子宮,腟,眼球,ハーダー腺,脳,下垂体および脊髄について実施した.
の多重比較検定で対照群と各投与群間の有意差を検定した.Bartlettの等分散検定で不等分散の場合は Kruskal-Wallis の順位検定を実施した.有意で各群の標本数が同数の場合は Dunnettの順位検定,各群の標本数が異なる場合は Scheff
の順位検定で対照群と各投与群間の有意差を検定した.出産率,交尾率および受胎率についてはχ^2検定5, 6) を用いた.病理学検査の異常所見頻度についてはFisherの直接確率検定法 6)を用いた.なお,哺育期間中の新生児に関する成績は 1母体当りの平均を 1標本とした.有意水準は* :P< 0.05 および**:P< 0.01の 2段階とした.
受胎は,対照群で 1組が不成立であり,その他の被験物質投与群では全例が成立した.性周期観察では,偽妊娠(連続した発情休止期像)も観察されず,いずれの群もほぼ 4〜 5日の性周期を示し,平均性周期に群間差は認められなかった.
雌の 150 mg/kg群で妊娠期間中に体重増加抑制が認められたが,雄については投与期間を通じ被験物質投与の影響は認められなかった.摂餌量において,雄の 150 mg/kg群で投与29から36日の平均 1日摂餌量が増加したが,軽度で,かつ体重に一致しない変化であり,背景値と比べて差はないことから,被験物質投与による影響ではないと判断された.
雄の血液学検査では,150 mg/kg 群でヘマトクリット値,ヘモグロビン量および赤血球数が低値,網赤血球比率が高値を示し,軽微ながら貧血傾向が認められた.なお,6 mg/kg 群で網赤血球比率が高値を示したが,ヘマトクリット値や赤血球数に低値がみられず貧血傾向のないことから,被験物質投与の影響とは考えられなかった.血液生化学検査では,30および150 mg/kg群で GOTの低値およびγ-GTPの高値が認められ,このうちγ-GTPの高値は肝臓の機能低下を含む被験物質投与の影響が示唆された.GOT の低値についてはその機序は明らかでなかった.なお,すべての被験物質投与群で塩素の高値およびカルシウムの低値が,さらに 150 mg/kg群でカリウムが低値を示したが,当施設の背景値と比べ差はなく被験物質投与の影響ではないと判断された.30および 150 mg/kg群で総蛋白およびアルブミンが高値を示したが,その機序は明らかでなかった.
器官重量では,雄の 30 mg/kg 以上の投与群および雌の 150 mg/kg群で肝臓,腎臓の実重量および相対重量が増加または増加傾向を示し,剖検所見においても雄の 30 および 150 mg/kg 群で肝臓の肥大が,雌の150 mg/kg 群で肝臓および腎臓の肥大が認められた.
病理組織学検査の結果,被験物質投与の影響の示唆される病変として,雌雄の 150 mg/kg群で肝臓に小葉中心部の肝細胞腫脹が観察され,さらに雌では肝細胞の壊死性変化,細胞分裂,腎臓の近位尿細管の壊死,顆粒状の蛋白円柱,細胞分裂および腎乳頭部の PAS陽性顆粒の沈着などが観察された.また,全児死亡の認められた動物および死亡動物に共通する所見として舌および食道の錯角化症が認められた.肝臓に観察された肝細胞の腫脹,変性および壊死はすべて小葉中心性に発生する特徴を示した.腎臓に認められた種々の変化についても同様に被験物質の影響と考えられるが,顆粒状の蛋白円柱の由来については,壊死した尿細管で好酸性顆粒状を呈し崩壊していく像が多数観察され,その存在部位が近位尿細管から下位であることなどから,壊死,崩壊した尿細管上皮であると考えられる.雄で明らかに被験物質投与の影響が認められた器官は肝臓のみであり,発生率も程度も雌に比べて軽度であった.また,雌において胸腺の萎縮が対照群に比べ被験物質投与群で増加傾向を示した.このうち 150 mg/kg群で観察された胸腺の萎縮は腎臓および肝臓の病変の程度と相関性が認められ,被験物質投与の影響が示唆された.しかし,6 および 30 mg/kg で観察された萎縮は,他の器官の病変と相関性が見られないことや,対照群においても中等度の例があることから自然発生性のものと考えられた.なお,雄の被験物質投与群で発生率増加がみられた副腎皮質の空胞化は自然発生的に観察される所見であり,対照群で観察された空胞化と形態的な差異も認めなかったことから,被験物質投与の影響とは考えられない.また,雄の腎臓において器官重量の増加傾向がみられたが,それを裏付けるような明確な形態学的変化は観察されなかった.その他の器官に観察された諸所見については用量に関連して増加する傾向も認められず,自然発生性の病変と考えられる.
以上のことから,6-tert-ブチル-2,4-キシレノールの反復投与により,30および 150 mg/kg 群の雄で GOTの低値およびγ-GTPの高値が,150 mg/kg 群の雌で死亡,体重増加抑制,肝臓,腎臓の重量増加および肥大,雄で貧血傾向,肝臓および腎臓重量の増加,肝臓の肥大が認められた.また,病理組織学検査では,150 mg/kg 群の雌雄で肝臓,さらに雌で腎臓を中心とした異常所見が認められ,本剤における標的器官は肝臓および腎臓と考えられた.従って,無影響量は雄で 6 mg/kg/day,雌で 30 mg/kg/day と推察される.
分娩時観察では,150 mg/kg 群で一部の新生児を娩出した後に死亡した動物が1例観察された.哺育期間中に全児死亡の認められた動物が 30 mg/kg群で 1例,150 mg/kg群で 3例観察され,さらに 150 mg/kg群で新生児の生後 4日生存率の低値傾向が認められたことから,6-tert-ブチル-2,4-キシレノールの 150 mg/kgの投与により分娩あるいは哺育機能の障害を惹起する可能性が示唆された.また,150 mg/kg 群で着床数が減少したが,当施設の背景値14.0〜15.3と比べて差はないことから被験物質投与の影響ではないと判断された.なお,妊娠期間および分娩時間では被験物質投与の影響は認められなかった.
新生児の外表検査では外表異常は観察されず,新生児の体重も哺育 4日まで順調に増加した.また,死産児,死亡児および哺育 4日の剖検でも被験物質投与による影響は認められなかった.
以上のことから、6-tert-ブチル-2,4-キシレノールによる雄の生殖に及ぼす影響は,150 mg/kg/day 投与によっても認められず,無影響量は 150 mg/kg/dayと推察される.雌の生殖に及ぼす影響および児動物の発生・発育に及ぼす影響は,150 mg/kg 群で哺育期間中の全児死亡の母動物数の増加が認められたことから無影響量は 30 mg/kg/day と推察される.
| 1) | EPA TSCA Test Submission (TSCARTS) Data Base, January, 1994 |
| 2) | "環境化学物質要覧," 丸善, 東京, 1992. |
| 3) | OECD Guidelines for Testing of Chemicals:Extended Steering Group Document Vol. 3, 1990. |
| 4) | C.G. Shayne, S.W. Carrol, "Statistics and Experimental Design For Toxicologists," Telford Press, 1986. |
| 5) | 佐久間昭, "薬効評価�機欸弉茲伐鮴蓮�, " 東京大学出版会, 東京, 1977. |
| 6) | 石居 進, "生物統計学入門," 培風館, 東京, 1975. |
| 連絡先 | |||
| 試験責任者: | 萩田孝一 | ||
| 試験担当者: | 田中亮太,渡 修明, 庄子明徳,山川誠己, 小林和雄 | ||
| (財)食品農医薬品安全性評価センター | |||
| 〒437-12 静岡県磐田郡福田町塩新田字荒浜582-2 | |||
| Tel0538-58-1266 | Fax0538-58-1393 | ||
| Correspondence | |||
| Authors: | Koichi Hagita(Study director), Ryota Tanaka, Nobuaki Watari, Akinori Shoji,Seiki Yamakawa, Kazuo Kobayashi | ||
| Biosafety Research Center,Foods,Drugs and Pesticides(An-pyo Center),Japan | |||
| 582-2 Shioshinden Arahama ,Fukude-cho, Iwata-gun, Shizuoka,437-12,Japan | |||
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