4−エトキシベンゼナミンのチャイニ−ズ・ハムスタ−
培養細胞を用いる染色体異常試験

Chromosomal Aberration Test of 4-Ethoxybenzenamine
on Cultured Chinese Hamster Cells

要約

4−エトキシベンゼナミンはチャイニ−ズ・ハムスタ−細胞株(CHL)において、代謝活性化系の存否にかかわらず染色体の構造異常を誘発することが明かとなった。倍数体については、試験条件下において有意な出現頻度の増加は認められなかった。

緒言

当試験所、安全性生物試験研究センタ−で行われている既存化学物質毒性試験の一環として、4−エトキシベンゼナミンについてチャイニ−ズ・ハムスタ−培養細胞を用いる染色体異常試験を行った。

方法

[被験物質]

純度99.36%の4−エトキシベンゼナミン(4-Ethoxy-benzenamine)を使用した。

[細胞および試験方法]

チャイニ−ズ・ハムスタ−肺由来の線維芽細胞株(CHL)を用い、直接法および代謝活性化法による染色体異常試験を常法に従って行った1, 2)。直接法においては、細胞2×10^4個を6cmのプラスチックシャ−レに播き、3日目に検体を加え、24時間および48時間後に染色体標本を作製した。検体濃度は予備試験によって、細胞増殖が約50%抑制される濃度を求め、それを指標として公比2で3濃度を設定した。

代謝活性化法においては、細胞播種後3日目に被験物質をS9 mixと共に6時間処理し、さらに18時間培養した後、染色体標本を作製した。S9は、フェノバルビタ−ル(PB)および5, 6−ベンゾフラボン(BF)処理したSDラットの肝から調製した。

染色体異常の観察は、各濃度当り100個の分裂中期像について行い、染色分体型あるいは染色体型の構造異常(ギャップ、切断、交換など)をもつ細胞の出現頻度を記録した。さらに、倍数体(染色体数が倍化した細胞)についても併せて記録した。結果の判定は、未処理及び溶媒処理の対照群では通常4%以上の異常はみられないため、5%未満を陰性(−)、5%以上10%未満を疑陽性(±)、10%以上を陽性(+)とした。

結果および考察

チャイニーズ・ハムスター培養細胞による染色体異常試験の結果をTable 1、Table 2に示す。4−エトキシベンゼナミンは、明かな染色体構造異常の誘発性を示した。0.05 mg/mlの24時間処理では23.0%に、48時間処理では48.0%の細胞に染色体異常が観察された。なお、主な染色体異常は交換型及び切断であった(Table 1)。

代謝活性化法においても染色体の構造異常が有意に増加した。S9 mix非存在下では、濃度依存性が明かではないが、S9 mix存在下では濃度依存性がみられ、最高濃度の0.2 mg/mlでは21.0%の出現頻度を示し、大部分が交換型異常であった。

倍数体については、4−エトキシベンゼナミンの処理による有意な出現頻度の増加は認められなかった。

4−エトキシベンゼナミンについての細胞を用いる変異原性に関しては、ラット肝初代培養細胞を用いた不定期DNA合成(UDS)試験で陰性結果を示したことが報告されている3)。

文献

1)M. Ishidate Jr. and S. Odashima, Mutat. Res., 48, 337 (1977).
2)祖父尼俊雄, 松岡厚子, 環境変異原研究 , 5, 4 (1984).
3)N.Yoshima, S. Sugue, H. Iwata, K. Niwa, H. Mori, C. Hashida and H. Simizu, Mutat. Res., 206, 183 (1988).

連絡先:
試験責任者祖父尼俊雄
国立衛生試験所安全性生物試験研究センタ−
変異遺伝部
〒158東京都世田谷区上用賀1-18-1
Tel 03-3700-1141Fax 03-3700-2348

Correspondence:
Sofuni, Toshio
Division of Genetics & Mutagenesis,
Biological Safety Research Center,
National Institute of Health Sciences, Japan
1-18-1 Kamiyoga, Setagaya-ku, Tokyo, 158, Japan
Tel 81-3-3700-1141Fax 81-3-3700-2348