4−エトキシベンゼナミンのラットにおける
経口投与による簡易生殖毒性試験

Preliminary Reproduction Toxicity Screening Test of 4-Ethoxybenzenamine
by Oral Administration to Rats

要約

4−エトキシベンゼナミンのラットにおける経口投与による簡易生殖毒性試験を行い、雌雄動物の性腺機能、交尾行動、受胎および分娩などの生殖発生に及ぼす影響について検討した。投与段階は、3、12、50および200 mg/kgとした。

I.反復投与毒性

1.雄(P)に及ぼす影響

一般状態:50 mg/kg群では投与後に流涎が、200 mg/kg群では投与後にチアノーゼ、よろめき歩行、自発運動の減少、うずくまり、呼吸緩徐、流涎などがみられたが、いずれも翌日の投与前には消失していた。

体重:200 mg/kg群では、投与期間の初期から中期かけて有意な低値が認められた。

摂餌量:50および200 mg/kg群では、投与期間の初期に有意な低値が認められた。

剖検所見:50および200 mg/kg群では、全例で脾臓の大型化がみられた。

器官重量:精巣および精巣上体重量は、各投与群とも対照群とほぼ同程度であった。

病理組織学的検査:対照群および200 mg/kg群の精巣および精巣上体には、被験物質の投与に起因すると思われる組織変化は認められなかった。

2.雌(P)及ぼす影響

一般状態:交配前および交配期間中では、200 mg/kg群の症状は雄の同用量投与群の場合とほぼ同様で、投与後にチアノーゼ、よろめき歩行、自発運動の減少、うずくまり、呼吸緩徐などがみられたが、いずれも翌日の投与前には消失していた。妊娠期間中では、200 mg/kg群でチアノーゼ、流涎、自発運動の減少、表皮温下降、分娩の遅延、下腹部の被毛汚染などがみられ、妊娠23〜25日にかけて12例中9例が死亡した。新生児を分娩し、哺育したのは1母動物のみであった。哺育期間中にも、200 mg/kg群の1母動物で流涎およびチアノーゼがみられた。

体重:各投与群とも、対照群とほぼ同程度であった。

摂餌量:200 mg/kg群では、投与期間の初期に有意な低値が認められた。

剖検所見:生存例では、50および200 mg/kg群の各1例で脾臓の大型化がみられた。未分娩例の200 mg/kg群で脾臓の大型化、胸腺の小型化がみられた。死亡例では、胸腺の小型化、肺の暗赤色化、脾臓および副腎の大型化、腺胃粘膜に暗赤色点などがみられた。

病理組織学的検査:対照群および200 mg/kg群の卵巣に、著変はみられなかった。

II.生殖発生毒性

1.親動物(P)の生殖発生に及ぼす影響

発情回数、交尾率、妊娠動物数および受胎率:各投与群とも対照群と同程度であった。

妊娠期間および分娩状態:50 mg/kg以下の投与群の妊娠期間は、対照群とほぼ同程度であった。一方、200 mg/kg群では分娩が終了したのは1母動物(妊娠期間:23日)のみであった。1母動物は新生児出産後死亡、2母動物は死産児を出産後に死亡、6母動物は未分娩のまま死亡(以上、いずれも剖検により死亡胎児確認)した。残る2母動物は未分娩状態で妊娠25日まで生存していたが、剖検により子宮内に胎児の死亡が確認された。

着床痕数:各投与群の着床痕数は対照群とほぼ同程度であった。

出産率:50 mg/kg以下の投与群の出産率は100%であり、対照群と同様であった。一方、200 mg/kg群では12母動物中2例に新生児がみられたのみで、出産率は16.7%と有意な低値を示した。

2.新生児(F1)に及ぼす影響

出産児数:50 mg/kg以下の投与群の総出産児数は、対照群とほぼ同程度であった。一方、200 mg/kg群では4母動物に出産児がみられたが、その内の2母動物は死産児のみの出産であり、総出産児数も対照群の約半数であった。

分娩率:50 mg/kg以下の投与群の分娩率は、対照群とほぼ同程度であった。一方、200mg/kg群では4母動物に分娩がみられたのみで、分娩率も低値であった。

死産児数:50 mg/kg以下の投与群では対照群とほぼ同程度であったが、200 mg/kg群では高値であった。

出生率:50 mg/kg以下の投与群の出生率は、対照群とほぼ同程度であった。一方、200mg/kg群では低値であった。

児の産出率:50 mg/kg以下の投与群の児の産出率は、対照群とほぼ同程度であった。一方、200 mg/kg群では低値であった。

哺育1日の新生児数:50 mg/kg以下の投与群では、対照群とほぼ同程度であった。一方、200 mg/kg群では低値であった。

性比:50mg/kg以下の投与群および200 mg/kg群の2母動物の新生児の性比には、被験物質投与の影響はみられなかった。

哺育4日の新生児数:50 mg/kg以下の投与群および200 mg/kg群の1母動物では、対照群とほぼ同程度であった。

外表観察:異常はみられなかった。

一般状態:異常はみられなかった。

哺育4日の生存率:50 mg/kg以下の投与群および200 mg/kg群の1母動物では、哺育4日の生存率は対照群と同程度であった。

哺育4日の剖検所見:異常はみられなかった。

体重:50 mg/kg以下の投与群の体重は、対照群とほぼ同程度であった。一方、200 mg/kg群の新生児の体重は雌雄ともやや低値であった。

未分娩胎児および死産児:200 mg/kg群では、死産児および未分娩胎児(死亡胎児;少数の早期吸収胚および後期吸収胚を含む)がみられた。その他に、対照群および3 mg/kg群で各1例、12 mg/kg群で4例、50 mg/kg群で3例の死産児がみられた。

以上の如く、4−エトキシベンゼナミンは50 mg/kg以上で雄(P)の一般状態(流涎)および摂餌量ならびに雌雄(P)の脾臓(大型化)に対して、200 mg/kgで雌(P)の一般状態(流涎、チアノーゼ、分娩の遅延など)、雄(P)の一般状態(チアノーゼ、よろめき歩行、自発運動の減少、うずくまり、呼吸緩徐)、体重および雌(P)の摂餌量に対して影響がみられた。また、200 mg/kgで妊娠23〜25日に母動物が死亡し、交尾率および受胎率などには影響がみられなかったものの、周産期(分娩)の母動物および雌雄の新生児の発育に影響を及ぼしていると思われた。

したがって、当試験条件下における一般毒性学的な無影響量は雌雄とも12 mg/kgと考えられた。また、生殖発生毒性学的な無影響量は雄の生殖に関しては200 mg/kg、雌の生殖および児動物の発生に関しては50 mg/kgと考えられた。

緒言

既存化学物質の毒性学的性質を評価するために、OECD GUIDELINE FOR TESTING OF CHEMICALS、 Preliminary Reproduction Toxicity Screening Test に従って、4−エトキシベンゼナミン(CAS No.156-43-4)を雌雄ラットに1日1回、40〜49日間経口投与し、性腺機能、交尾行動、受胎および分娩などの生殖発生に及ぼす影響について検討した。

方法

1.被験物質および媒体

被験物質の4−エトキシベンゼナミンは、融点約3℃、沸点253〜255℃、比重1.07で水に不溶の無色の液体である(Lot No.FBV01、東京化成工業株式会社、純度99%以上)。なお、投与終了後に残余被験物質の一部を販売元に送付して分析した結果、純度は規格値に適合しており、保管期間中の安定性が確認された。

媒体として、コーンオイルを用いた。

2.投与検体および濃度確認

被験物質を秤取し、コーンオイルに溶解して必要濃度の投与検体液を調製した。なお、被験物質は純度換算しないで投与量は原体重量で表示した。

投与開始前および投与終了前の2回、当試験施設内で高速液体クロマトグラフィーにより、各投与検体液中の被験物質濃度を測定した。その結果、被験物質濃度は適正範囲内の値を示した。

コーンオイル中の200 mg/ml〜2 mg/ml濃度の被験物質は、冷蔵・遮光・気密の保管条件下で調製後10日間までの安定性が確認された。そこで、当濃度内の投与検体液の調製は1週間に1回以上行い、1日分ずつ分割して冷蔵・遮光・気密条件下で保存し、用時室温にもどして使用した。当濃度範囲以下の投与検体液は、用時調製とした。

3.使用動物および飼育条件

(1)動物種および系統

試験には、生殖・発生毒性試験に汎用され、自然発生奇形等の成績に関する知見が多く得られているSprague-Dawley系雌雄ラット[Crj:CD (SD)]を用いた。動物は、日本チャールス・リバー株式会社から8週齢で雌雄各73匹を購入した。入手後2日の体重範囲は、雄で245〜305 g、雌で198〜232 gであった。

(2)検疫および馴化、群分け法ならびに個体識別法

入手した動物は、5日間の検疫期間およびその後6日間の馴化期間を設け、一般状態および体重推移に異常がみられず、また性周期観察で異常の認められない動物を群分けして試験に用いた。

群分けは、コンピュータを用いて体重を層別に分けた後に無作為抽出法により各群の平均体重および分散がほぼ等しくなるように、投与開始日の前日に行った。

動物は、検疫・馴化期間中は動物入手日に油性インクおよび色素による染毛法を用いて、群分け後は色素による染毛法および耳パンチ法を併用して識別した。

(3)動物飼育環境条件および飼育管理

動物は、室温20〜24℃、湿度40〜70%、明暗各12時間、換気回数12回/時に設定した飼育室で飼育した。

検疫・馴化期間中はステンレス製懸垂式ケージ(W:240×D:380×H:200 mm)を用いて1ケージあたり4匹までの群飼育とし、群分け後はステンレス製五連ケージ(W:755×D:210×H:170 mm)を用いて個別飼育した。ただし、交配はステンレス製懸垂式ケージ内で行った。また、母動物は妊娠18日にオートクレーブ処理した床敷(サンフレーク、日本チャールス・リバー株式会社)を入れたプラスチック製ケージ(W:310×D:360×H:175 mm)に個別に移し、自然分娩および哺育させた。ケージの受け皿、給水瓶およびプラスチック製ケージの交換は1週間に2回以上行い、ステンレス製懸垂式ケージ・五連ケージおよび給餌器の交換は2週間に1回以上行った。

床敷の微量金属および汚染物質の分析の結果、分析成績は試験施設で定めた基準値の範囲内であった。

(4)飼料および飲料水

飼料は固型飼料(CRF-1、オリエンタル酵母工業株式会社)を給餌器に入れ、自由に摂取させた。飲料水は、水道水を給水瓶を用いて自由に摂取させた。

飼料中の微量金属および汚染物質の分析ならびに飲料水の水質検査の結果、いずれも検査結果は試験施設で定めた基準値の範囲内であった。

4.投与経路、投与方法、群構成および投与量

(1)投与経路および投与方法

4−エトキシベンゼナミンは、継続して経口的に人に摂取される可能性が考えられたため、投与経路として経口投与を選択した。

投与に際しては、金属製胃ゾンデを取り付けたプラスチック製ディスポーザブル注射筒を用いて強制経口投与した。投与液量は、雄では投与日に最も近い測定時の体重を基準とし、5 ml/kg体重で算出した。雌では、交配前および交配期間中は投与日に最も近い測定時の体重を、妊娠期間中は妊娠0、7、14および21日の体重を、哺育期間中は哺育1日の体重を基準とし、5 ml/kg体重で算出した。投与回数は1日1回とした。

(2)群構成および投与量

群構成は、以下の如くとした。一群の動物数は、雌雄各12匹とした。

投与量設定の理由:雄ラットを用いた投与量設定のための2週間投与による予備試験(投与段階:0、6、20、60、200および600 mg/kg)の結果、600 mg/kg群では全例が投与後4日までに死亡した。また、200 mg/kg群では有意差は認められなかったものの体重増加抑制傾向がうかがわれ、一般状態の観察では自発運動の減少、チアノーゼなどが、剖検では脾臓の大型化など、一般毒性学的な影響がみられた。20 mg/kg以下の投与群では、異常はみられなかった。なお、28日間反復投与毒性試験(投与段階:0、10、40、160mg/kg)では40 mg/kg以上でメトヘモグロビン血症がみられている1)。

そこで、当試験では2週間投与試験で一般状態観察、体重推移および剖検に異常が認められ、かつ28日間反復投与毒性試験から一般毒性学的な影響がみられると思われた200 mg/kgを最高用量とし、以下公比約4により50、12および3 mg/kg群を設定した。対照として、媒体のコーンオイルを投与する群を設けた。

(3)投与期間

投与期間は、OECD GUIDELINE FOR TESTING OF CHEMICALS, Preliminary Reproduction Toxicity Screening Testに従って、雄では交配前14日間およびその後35日間(合計49日間)、雌では交配前14日間、交配期間中(最長6日間)、妊娠期間中および哺育4日の剖検(41〜47日間)前日まで、1日1回で連日とした。

5.観察および検査項目

(1)雄(P)

1) 一般状態観察:投与期間中は毎日投与前・後の2回(ただし、剖検日は剖検前1回)観察した。

2) 体重測定:1週間に2回および剖検日に測定した。

3) 摂餌量測定:交配前14日間および交配終了後に、連続2日間量を測定して1日量を算出し、1週間に2回測定した。

4) 剖検:投与期間(49日間)終了の翌日に、エーテル麻酔下で腹大動脈から放血致死させた後に剖検した。剖検では、精巣および精巣上体を摘出して重量を測定し、ブアン液に固定し保存した。その他に肝臓、腎臓、脾臓、胃、骨髄(大腿骨、胸骨)を摘出し、10%中性緩衝ホルマリン液に固定し保存した。

5) 病理組織学的検査:精巣および精巣上体は、全例について常法に従ってパラフィン包埋標本を作製した。その後、対照群および200 mg/kg群についてはHematoxylin-Eosin染色組織標本を作製し、病理組織学的検査を行った。

(2)雌(P)

1) 一般状態および死亡の有無の観察:投与期間中は毎日投与前・後の2回(ただし、剖検日は剖検前1回)観察した。死亡例は発見後速やかに剖検し、異常の認められた器官・組織[(親動物の)肝臓、腎臓、脾臓、胃、骨髄(大腿骨、胸骨)を含む]、胎児および出産児(F1)は10%中性緩衝ホルマリン液に固定し保存した。

2) 性周期観察:投与開始日から交尾確認日まで毎日1回観察した。なお、発情期が連続2日間にわたって観察される場合は1回と計数した。

3) 体重測定:交配開始前14日間および交配期間中は毎週2回、妊娠期間中には妊娠0、7、14および21日に、哺育期間には哺育1および4日にそれぞれ測定した。

4) 摂餌量測定:交配前14日間までは連続2日間量を測定して1日量を算出し、1週間に2回測定した。また、妊娠期間中は妊娠0、7、14および19日からの連続2日間量を、哺育期間中は哺育1〜4日の累積量を測定し、それぞれ1日量に換算した。

5) 分娩状態の観察:自然分娩させ、分娩状態の異常の有無、分娩終了の確認を妊娠21日から妊娠25日の午前9時まで毎日行った。午前9時までに分娩が終了していた場合、その日を哺育1日とした。

6) 妊娠25日の午前9時までに分娩しない母動物の処置:エーテル麻酔下で腹大動脈から放血致死させた後に剖検し、妊娠の有無を確認した。妊娠が確認された母動物は、妊娠黄体数および着床痕数の算定および着床位置を観察した。子宮、卵巣、胎児および剖検で異常の認められた器官・組織[(親動物の)肝臓、腎臓、脾臓、胃、骨髄(大腿骨、胸骨)を含む]を摘出し、10%中性緩衝ホルマリン液に固定し保存した。

なお、交尾が確認されたものの、剖検で着床痕がみられない雌は不妊動物(No.160および257)とした。剖検で異常の認められた器官・組織[子宮、卵巣、肝臓、腎臓、脾臓、胃、骨髄(大腿骨、胸骨)を含む]を摘出し、10%中性緩衝ホルマリン液に固定し保存した。

7) 哺育状態の観察および剖検:哺育4日まで毎日観察し、哺育4日にエーテル麻酔下で腹大動脈から放血致死させた後に剖検し、着床痕数を算定した。子宮、卵巣、肝臓、腎臓、脾臓、胃、骨髄(大腿骨、胸骨)を摘出し、10%中性緩衝ホルマリン液に固定し保存した。

8) 病理組織学的検査:卵巣は、全例について常法に従ってパラフィン包埋標本を作製した。その後、対照群および200 mg/kg群についてはHematoxylin-Eosin染色組織標本を作製し、病理組織学的検査を行った。

(3)親動物(P)の生殖発生に及ぼす影響

14日間にわたって検体を投与し、12週齢に達した同一群内の雌雄1対1の組み合わせで、同居交配した。交配期間は14日を限度として交尾を確認するまで同居したままの連続交配としたが、同居開始後6日までに全例の交尾が確認された。

なお、交尾確認は毎朝ほぼ一定時刻に行い、腟垢内に精子または腟栓を確認した雌を交尾動物として、その日を妊娠0日として起算した。

(4)新生児(F1)

1) 出産時の観察:総出産児数と性、死産児数、新生児数および外表異常の有無を観察した。死産児は、10%中性緩衝ホルマリン液に固定し保存した。

2) 新生児の観察:一般状態および死亡の有無を生存期間中毎日観察した。死亡児および母動物が死亡した場合の全新生児は、剖検後10%中性緩衝ホルマリン液に固定し保存した。

3) 体重測定:哺育1(出生日)および4日に測定した。

4) 剖検:哺育4日にエーテル麻酔下で腹大動脈から放血致死させた後、剖検した。

6.統計学的方法

測定値の統計学的方法は下記の検定法を用い、有意差検定は対照群と4−エトキシベンゼナミンの各投与群との間で行った。いずれの検定の場合も危険率5%未満を有意とし、5%未満(p<0.05)と1%未満(p<0.01)とに分けて表示した。なお、不妊動物の交尾後の体重および摂餌量は集計から除外した。また、新生児は一腹の平均を一単位とした。

(1)多重比較検定

Bartlett法による等分散の検定を行い、等分散の場合には一元配置法による分散分析を行い、有意ならば対照群との群間比較はDunnett法(例数が等しい場合)またはScheff法(例数が等しくない場合)により行った。一方、等分散と認められなかった場合は、順位を利用した一元配置法による分析(Kruskal-Wallisの検定)を行い、有意ならば対照群との群間比較は順位を利用したDunnett法またはScheff法を用いて行った。

体重(親動物、新生児)、摂餌量、発情回数、同居日数、妊娠期間[分娩日(哺育1日)−交尾確認日]、着床痕数、出産児数、死産児数、分娩率[(出産児数/着床痕数)×100]、児の産出率[(哺育1日の新生児数/着床痕数)×100]、哺育4日の生存率[(哺育4日の新生児数/哺育1日の新生児数)×100]、新生児数、出生率[(哺育1日の新生児数/出産児数)×100]、性比(雄/雌)、外表異常の出現率[(外表異常児数/新生児数)×100]、器官重量(相対重量を含む)。

(2)χ^2検定

新生児出産雌数、交尾率[(交尾成立動物数/同居動物数)×100]、受胎率[(妊娠動物数/交尾成立動物数)×100]、出産率[(新生児出産雌数/妊娠雌数)×100]。

結果

I.反復投与毒性

1.雄(P)に及ぼす影響

(1)一般状態

対照群および12 mg/kg以下の投与群では、異常症状は観察されなかった。

50 mg/kg群では、投与6〜10日には当日の投与後約40分から流涎(透明)が少数例〜約半数例にみられたが、翌日の投与前には消失していた。

200 mg/kg群では、初回投与後約20〜35分からチアノーゼ、よろめき歩行、自発運動の減少、うずくまりおよび呼吸緩徐が全例にみられたが、いずれも翌日の投与前には消失していた。投与後2日以降から最終投与日までは、投与後約35分からチアノーゼが全例にみられたが、翌日の投与前には消失していた。また、投与後6日以降から最終投与日までは、投与後約30分から流涎(透明)が少数例〜全例にみられたが、翌日の投与前には消失していた。その他には、異常症状は観察されなかった。

(2)体重(Fig.1)

12 mg/kg以下の投与群は対照群とほぼ同様の推移を示し、いずれの測定日も有意差は認められなかった。50 mg/kg群では投与11日頃まではごく軽度の増加抑制傾向がうかがえたが、有意差は認められなかった。一方、200 mg/kg群では対照群に比して体重増加抑制がみられ、投与11〜32日には有意差が認められた。

(3)摂餌量(Fig.2)

対照群に比して、50 mg/kg以上の投与群では投与13日まで低値であり、50および200 mg/kg群の投与3、6日および200 mg/kg群の投与10日に有意差が認められた。なお、投与38および41日には対照群の摂餌量が他の測定日の値に比してやや低値であったため、3 mg/kg群の投与38日ならびに200 mg/kg群の投与38および41日の値は有意な高値を示した。

(4)剖検所見

50 mg/kg以上の群の全例で脾臓が大型化であった。また、12および50 mg/kg群の各2例で精巣上体(右側)に黄白色結節がみられた。その他には、著変はみられなかった。

(5)器官重量(Table 1)

各投与群の精巣および精巣上体の絶対重量ならびに相対重量ともに対照群とほぼ同程度であり、有意差は認められなかった。また、個別的にも異常と思われる値はみられなかった。

(6)病理組織学的検査

精巣:いずれの例とも著変はみられなかった。

精巣上体:対照群および200 mg/kg群の各1例(剖検時にはいずれも著変なし)で、軽度の精子肉芽腫がみられた。なお、対照群の1例ではごく軽度の褐色色素沈着を伴っていた。

2.雌(P)に及ぼす影響

(1)一般状態

交配開始前および交配期間中:対照群および50 mg/kg以下の投与群では、異常症状は観察されなかった。

200 mg/kg群では、初回投与後約20〜35分からチアノーゼ、よろめき歩行、自発運動の減少、うずくまりおよび呼吸緩徐が全例にみられたが、いずれも翌日の投与前には消失していた。投与2日以降から交配最終日までは、 投与後約30分からチアノーゼが全例にみられたが、翌日の投与前には消失していた。また、投与6日には少数例に、投与11〜17日までは少数例〜過半数例に、投与後約30分から流涎(透明)がみられたが、翌日の投与前には消失していた。その他には、異常症状は観察されなかった。

妊娠期間中:対照群および50 mg/kg以下の投与群では、異常症状は観察されなかった。

200 mg/kg群(12例)では、投与後約30分からチアノーゼおよび流涎(透明)が少数例〜全例にみられたが、ほとんどの場合は翌日の投与前には消失していた。なお、妊娠23日には4例、24日には3例(No.455は妊娠22日に新生児3例出産、No.459は妊娠23日に死産児1例出産)、25日には2例(No.454は妊娠24〜25日にかけて死産児10例出産)が死亡した。これらの例では、死亡前日の投与前あるいは投与後から自発運動の減少、流涎、チアノーゼ、表皮温下降、うずくまり、分娩の遅延などの症状がみられた。当群では新生児を出産(妊娠23日)し、哺育を終了した母動物は1例のみであった。その他に、妊娠25日までに分娩のみられない母動物が2例あった。その内の1例は、妊娠24〜25日に下腹部の被毛汚染もみられた。

哺育期間中:対照群および50 mg/kg以下の投与群では、異常症状は観察されなかった。

200 mg/kg群では、分娩・哺育がみられた1母動物は投与後には哺育1日に流涎(透明)を、哺育1〜3日にチアノーゼを示した。

(2)体重(Fig.3)

交配開始前および妊娠期間中の各投与群、ならびに哺育期間中の50 mg/kg以下の投与群の体重は対照群とほぼ同程度であり、有意差は認められなかった。200 mg/kg群の1例の哺育期間中の体重も、対照群とほぼ同程度であった。

(3)摂餌量(Fig.4)

交配開始前では、200 mg/kg群の投与6および10日の摂餌量は対照群に比して有意な低値を示した。その他には、妊娠期間中の各投与群、ならびに哺育期間中の50 mg/kg以下の投与群の摂餌量は対照群とほぼ同程度であり、有意差は認められなかった。200 mg/kg群の1母動物の哺育期間中の摂餌量も、対照群とほぼ同程度であった。

(4)剖検所見

生存例:50 mg/kg群および200 mg/kg群の各1例で、脾臓が大型であった。その他には、著変はみられなかった。

未分娩例および不妊例:未分娩例である200 mg/kg群(2例)の1例で脾臓の大型化、他の1例で胸腺の小型化がみられた。また、不妊例の3および12 mg/kg群の各1例では著変はみられなかった。

死亡例:200 mg/kg群(9例)で、胸腺の小型化、肺の暗赤色化、脾臓および副腎の大型化、腺胃粘膜に暗赤色点などがみられた。

(5)病理組織学的検査

卵巣:対照群および200 mg/kg群のいずれの例とも著変はみられなかった。

II.生殖発生毒性

1.親動物(P)の生殖発生に及ぼす影響(Table 2、3)

(1)発情回数

検疫・馴化期間中の7日間および交尾確認までの投与期間の発情回数は、各投与群とも対照群とほぼ同程度であり、有意差は認められなかった。

(2)交尾率、妊娠動物数、受胎率および新生児出産動物数

対照群を含む各群の動物とも、同居開始後6日までに全例で交尾が確認された。交尾率は、対照群および各投与群とも100%であった。また、交尾成立までの日数は各投与群とも対照群とほぼ同程度であり、有意差は認められなかった。

妊娠動物数は、対照群、50および200 mg/kg群では12例中12例ずつ、3および12 mg/kg群では12例中11例ずつであった。したがって、受胎率は対照群、50および200 mg/kg群が100%、3および12 mg/kg群が91.7%であった。これらの母動物の内で、対照群および50 mg/kg以下の各投与群では全母動物に新生児がみられた。一方、200 mg/kg群では新生児がみられたのは2母動物のみであった。なお、その内の1母動物(No.455)は妊娠22日に新生児を出産した後、妊娠24日に死亡した。当該例では新生児出産後にも触診により胎児が確認され、さらに後述のように剖検で死亡胎児がみられたことから、分娩が終了していない状態であった。

(3)妊娠期間および分娩状態

50 mg/kg以下の投与群の妊娠期間はそれぞれ22.00〜22.33日で対照群の22.17日とほぼ同程度であり、有意差は認められなかった。また、200 mg/kg群の分娩・哺育が終了した1母動物(No.460)の妊娠期間は23日であった。これらの母動物では、分娩状態に異常はみられなかった。

なお、200 mg/kg群では前述の如く交尾率および受胎率はいずれも100%であった。しかしながら、分娩が認められたのは4母動物(No.454、459、455および460)であり、2母動物(No.453、461)では妊娠25日までに分娩はみられなかった。その他の6母動物は、分娩することなく妊娠23〜25日に死亡した。それらの内容を、以下に示した。すなわち、分娩が認められた4母動物の内で2母動物(No.454、459)は妊娠23〜25日に死産児のみをそれぞれ10および1例分娩したが、妊娠24〜25日に母動物が死亡した。また、1母動物(No.455)は妊娠22日に新生児3例を分娩したが、妊娠24日に母動物が死亡した。これらの3母動物(No.454、459、455)では、剖検時にそれぞれ死亡胎児2、14、13例と胎盤2、1、3個が確認された。分娩・哺育が完了したのは、1母動物(No.460)のみであった。妊娠25日までに分娩がみられなかった2母動物では、剖検により1母動物(No.453)では死亡胎児1例を、他の1母動物(No.461)では死亡胎児13例を確認した。その他の6母動物(No.451、452、456、457、458、462)では、剖検により死亡胎児13〜18例(早期吸収胚および後期吸収胚を含む)がみられた。

(4)着床痕数および妊娠黄体数

50 mg/kg以下の投与群の着床痕数はそれぞれ13.9〜15.1で対照群の14.6とほぼ同程度であり、有意差は認められなかった。200 mg/kg群でも、着床痕数は14.1で対照群とほぼ同程度であった。また、分娩・哺育が終了した1例(No.460)は15であり、対照群とほぼ同程度であった。さらに、出産児がみられた他の3母動物の着床痕数は14〜16であった。未分娩の生存母動物の着床痕数および妊娠黄体数は1例(No.453)は1および14、他の1例(No.461)では13および15であった。なお、200 mg/kg群のその他の死亡した母動物では、妊娠黄体数は14〜19であった。

(5)出産率

50 mg/kg以下の投与群の出産率は100%であり、対照群と同様であった。一方、200 mg/kg群では12例中2母動物に新生児が得られたのみで、出産率は16.7%で有意な低値を示した。なお、前述のようにこれら2母動物の内の1母動物(No.455)は分娩終了前に死亡した(新生児は、母動物剖検時に剖検した)。

2.新生児(F1)に及ぼす影響(Table 3)

(1)総出産児数、性、死産児数、新生児数および外表異常の観察

50 mg/kg以下の投与群の総出産児数は13.4〜14.5で対照群の13.6とほぼ同程度であった。一方、200 mg/kg群では4母動物に出産児がみられたがその内の2母動物は死産児のみの出産であり、総出産児数も対照群の約半数であった。

分娩率は、50 mg/kg以下の投与群では94.7〜96.1%で対照群の93.3%とほぼ同程度であった。一方、200 mg/kg群では4母動物で49.2%であった。総死産児数は、対照群、3、12および50 mg/kg群でそれぞれ1、1、4および3例であった。また、200 mg/kg群では12例であった。出生率は、50 mg/kg以下の投与群では97.5〜99.3%で対照群の99.3%とほぼ同程度であった。一方、200 mg/kg群では4母動物で48.2%と低値であった。

着床痕数に対する哺育1日の新生児数を示す児の産出率は、50 mg/kg以下の投与群では92.9〜95.4%で対照群の92.7%と同程度であった。一方、200 mg/kg群では4母動物で28.0%と低値であった。

新生児数は、50 mg/kg以下の投与群では13.3〜14.1例で対照群の13.5例と同程度であり有意差は認められなかった。一方、200 mg/kg群では4母動物で4.3例と低値であった。

性比は、50 mg/kg以下の投与群では0.96〜1.40で対照群の1.10とほぼ同程度であり、有意差は認められなかった。また、200 mg/kg群では2母動物で0.63(ただし、分娩・哺育がみられた1母動物のみでは0.75)であった。

哺育4日の生存児数は、50 mg/kg以下の投与群で13.3〜13.8例で対照群の13.4例と同程度であった。また、200 mg/kg群の1母動物では14例であった。

新生児の外表観察では、いずれも異常はみられなかった。

(2)新生児の一般状態、哺育4日の生存率および剖検所見

新生児の一般状態観察では、各群とも異常はみられなかった。

哺育4日までに、対照群の雌1例、12 mg/kg群の雄1例と雌2例、50 mg/kg群の雌2例が死亡した。その結果、哺育4日の生存率は50 mg/kg以下の投与群で98.3〜100.0%であり、対照群の99.4%と同程度であった。また、200 mg/kg群は1母動物で100.0%であった。

哺育4日の剖検では、いずれの新生児にも異常所見はなかった。

(3)新生児の体重(Fig.5)

50 mg/kg以下の投与群の体重は、哺育1日および4日ともに50 mg/kg群では雌雄とも対照群に比してやや高値傾向であったが、各投与群とも有意差は認められなかった。200 mg/kg群の1母動物の新生児の体重は、哺育1日および4日ともに雌雄とも対照群に比してやや低値であった。

(4)未分娩胎児および死産児

前述の如く、200 mg/kg群の死亡した2母動物では死亡前に死産児がみられ、またそれらの2母動物を含む11母動物では剖検により未分娩胎児(死亡胎児)がみられた。死亡胎児のほとんどは胎児の形態であったが、2母動物では早期吸収胚各1例が、1母動物では後期吸収胚1例が認められた。なお、死亡胎児および死産児には、外表異常は観察されなかった。

その他に、死産児は対照群で1例(雄)、3 mg/kg群で1例(雌)、12 mg/kg群で4例(雌雄各2例)、50 mg/kg群で3例(雌)にみられたが、外表異常は観察されなかった。

考察

4−エトキシベンゼナミンのラットを用いた簡易生殖毒性試験を実施した。投与段階は、200 mg/kgを最高用量とし、以下50、12および3 mg/kgとした。

雄(P)に対しては、50 mg/kg群では投与6〜10日の当日の投与後に流涎がみられたが、翌日の投与前には消失していた。また、200 mg/kg群では初回投与後にチアノーゼ、よろめき歩行、自発運動の減少、うずくまりおよび呼吸緩徐が、投与2日以降には投与後にチアノーゼ、流涎などがみられたが、いずれも翌日の投与前には消失しており、一過性の症状であった。体重は、200 mg/kg群で投与期間の初期から中期にかけて有意な増加抑制がみられ、前記症状に起因した投与期間初期の摂餌量の低値に因る影響と思われた。なお、50 mg/kg群でも投与初期に摂餌量の有意な低値が認められたが、体重には影響がみられない程度の変動であった。剖検では、50 mg/kg以上の群で脾臓が大型であり、その他には12および50 mg/kg群で精子肉芽腫と思われる精巣上体の黄白色結節がみられた以外には、各投与群とも著変はみられなかった。精巣および精巣上体重量は各投与群とも対照群と同程度であった。また、対照群と200 mg/kg群の精巣および精巣上体の病理組織学的検査では、両群の各1例で偶発所見と思われる精巣上体の精子肉芽腫がみられた以外には、著変はみられなかった。

雌(P)に対しては、200 mg/kg群の交配開始前および交配期間中ならびに妊娠21日頃までの一般状態は雄の同量投与群の場合とほぼ同様で、初回投与後に自発運動の減少、よろめき歩行、チアノーゼ、うずくまりおよび呼吸緩徐が、投与2日以降には投与後にチアノーゼおよび流涎がみられたが、いずれも翌日の投与前には消失していた。しかしながら、妊娠23日以降にはチアノーゼ、流涎に加えて分娩の遅れ、表皮温下降、うずくまりなどの症状がみられ、妊娠25日までに12例中9母動物が死亡した。分娩がみられた母動物は4例であり、その内の3母動物が死亡した。新生児分娩例は2母動物であり、分娩が終了して哺育がみられたのは1母動物のみであった。その他の生存した2母動物では剖検で1および13例の死亡胎児を認めたが、生存胎児はみられなかった。母動物の死亡時期は妊娠23〜25日であり、死亡した母動物の剖検では早期吸収胚および後期吸収胚は少なく、ほとんどが死亡胎児の形態であったことから、200 mg/kgの投与により主として周産期(分娩)の母動物に対して影響を及ぼしたと考えられた。体重は、各投与群とも対照群とほぼ同程度であった。摂餌量は200 mg/kg群で交配開始前に低値が認められたが、体重には影響を及ぼさない程度の変動であった。生存した母動物の剖検では、50および200 mg/kg群の各1例で脾臓が大型であり、雄の場合と同様の所見が得られた。対照群および200 mg/kg群の卵巣の病理組織学的検査では、いずれも著変はみられず、卵巣には器質的変化を及ぼさないと考えられた。

以上のように、一般毒性学的には50 mg/kg以上で雄(P)の一般状態(流涎)、摂餌量および雌雄(P)の脾臓(大型化)に、200 mg/kgで雌(P)の一般状態(流涎、チアノーゼ、分娩の遅延など)、摂餌量、雄(P)の一般状態(チアノーゼ、よろめき歩行、自発運動の減少、呼吸緩徐)、体重に異常所見がみられた。したがって、当試験条件下における4−エトキシベンゼナミンの一般毒性学的な無影響量は、雌雄ともに12 mg/kgと推測された。

親動物(P)の生殖発生に関しては、雄側の交尾率および授胎率、雌側の発情回数、交尾率、妊娠動物数、受胎率には、各投与群とも影響はみられなかった。また、50 mg/kg以下の投与群と新生児の分娩・哺育がみられた200 mg/kg群の1母動物では妊娠期間、分娩状態、着床痕数に影響は認められなかった。一方、200 mg/kg群では出産児がみられたのは4母動物であり、その内で新生児分娩がみられたのは2母動物であったことから、出産率の有意な低下が認められた。したがって、200 mg/kgでは周産期(分娩)の母動物に対して影響を及ぼした可能性が考えられた。

新生児に対しては、50 mg/kg以下の投与群と新生児の分娩・哺育がみられた200 mg/kg群の1母動物については、総出産児数、死産児数、性比、分娩率、出生率、新生児数、哺育4日の生存率には影響はなかった。一方、200 mg/kg群で哺育1および4日の体重は対照群に比して雌雄ともやや低値であり、新生児の発育に対して影響を及ぼしている可能性が考えられた。なお、外表異常はなく、剖検でも異常はみられなかった。

以上のように、生殖発生毒性学的には200 mg/kgで総出産児数、分娩率、死産児数、児の産出率、出生率、哺育1日の新生児数および哺育1日と4日の体重に影響がみられた。したがって、当試験条件下における生殖発生毒性学的な無影響量は雄の生殖に関しては200 mg/kg、雌の生殖および児動物の発生に関しては50 mg/kgと推測された。

文献

1)古川文夫ほか, 本書, p.227

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