銅フタロシアナ−トのチャイニ−ズ・ハムスタ−
培養細胞を用いる染色体異常試験

Chromosomal Aberration Test of Phthalocyanine Blue on Cultured Chinese Hamster Cells

要約

銅フタロシアナ−トはチャイニ−ズ・ハムスタ−細胞株CHLにおいて、その増殖を50%以上抑制する濃度まで作用させても、代謝活性化系の存否にかかわらず染色体の構造および数的異常を誘発しなかった。

緒言

当試験所、安全性生物試験研究センタ−で行われている既存化学物質毒性試験の一環として、銅フタロシアナ−トについてチャイニ−ズ・ハムスタ−培養細胞を用いる染色体異常試験を行った。

方法

[被験物質]

テクニカル・グレードの銅フタロシアナ−ト(Phthalo-cyanine Blue)を使用した。

[細胞および試験方法]

チャイニ−ズ・ハムスタ−肺由来の線維芽細胞株(CHL)を用い、直接法および代謝活性化法による染色体異常試験を常法に従って行った1, 2)。直接法においては、細胞2×10^4個を6cmのプラスチックシャ−レに播き、3日目に検体を加え、24時間および48時間後に染色体標本を作製した。検体濃度は予備試験によって、細胞増殖が約50%抑制される濃度を求め、それを指標として公比2で3濃度を設定した。

代謝活性化法においては、細胞播種後3日目に被験物質をS9 mixと共に6時間処理し、さらに18時間培養した後、染色体標本を作製した。S9は、フェノバルビタ−ル(PB)および5, 6-ベンゾフラボン(BF)処理したSDラットの肝から調製した。

染色体異常の観察は、各濃度当り100個の分裂中期像について行い、染色分体型あるいは染色体型の構造異常(ギャップ、切断、交換など)をもつ細胞の出現頻度を記録した。さらに、倍数体(染色体数が倍化した細胞)についても併せて記録した。結果の判定は、未処理及び溶媒処理の対照群では通常4%以上の異常はみられないため、5%未満を陰性(−)、5%以上10%未満を疑陽性(±)、10%以上を陽性(+)とした。

結果および考察

チャイニーズ・ハムスター培養細胞による染色体異常試験の結果をTable 1、Table 2に示す。銅フタロシアナ−トは、用量設定予備試験の結果3.0 mg/mlの濃度で細胞の増殖を約50%阻害する細胞毒性効果が認められ、しかもそれ以上の濃度では溶媒であるDMSOに溶解しないため、3.0 mg/mlを最高濃度とした。直接法においては、銅フタロシアナ−トは代謝活性化の有無に係わらず、今回検討したいずれの実験条件下においても染色体の構造異常を誘発しなかった。

いずれの実験条件下においても、銅フタロシアナ−トは倍数体を誘発しなかった。

銅フタロシアナ−トについては、ラット肝初代培養細胞を用いるUDS(不定期DNA合成)試験,マウスリンパ腫細胞を用いる遺伝子突然変異試験、マウスC3H/10T1/2細胞を用いるcell transformation assayで陰性3)と報告されている。

文献

1)M. Ishidate, Jr. and S. Odashima, Mutat. Res., 48, 337 (1977).
2)祖父尼俊雄, 松岡厚子, 環境変異原研究, 5, 4 (1984).
3)M. Manandhar, P. Bahr, L. Dulak, J.C.Eastman and M.J. Iatropoulos, Envrion.Mutagen., 4, 393 (1982).

連絡先:
試験責任者祖父尼俊雄
国立衛生試験所安全性生物試験研究センタ−
変異遺伝部
〒158東京都世田谷区上用賀1-18-1
Tel 03-3700-1141Fax 03-3700-2348

Correspondence:
Sofuni, Toshio
Division of Genetics & Mutagenesis,
Biological Safety Research Center,
National Institute of Health Sciences, Japan
1-18-1 Kamiyoga, Setagaya-ku, Tokyo, 158, Japan
Tel 81-3-3700-1141Fax 81-3-3700-2348