ケイ酸四ナトリウム塩 水和物のラットを用いる単回経口投与毒性試験

Single Dose Oral Toxicity Test of Tetrasodium monosilicate hydrate in Rats

要約

 ケイ酸四ナトリウム塩 水和物の300および2000 mg/kgを1群3匹のCrj:CD(SD)IGS雌ラットに単回経口投与した時の毒性の概要を検討し,以下の成績を得た.

 300 mg/kgを投与した2群(6匹)では,投与後1から4日に下痢や被毛汚れ等,投与後1および3日に体重減少がみられたが,投与後5日以降には回復傾向がみられ,死亡例もなかった.投与後14日の剖検では,前胃,腺胃あるいは境界縁の肥厚がみられ,胃と周囲器官・組織(肝臓,膵臓,脾臓等)との癒着も認められた.

 2000 mg/kgを投与した1群(3匹)では,投与後0.5時間までに自発運動の低下および異常発声やライシング等がみられ,投与後4時間までに全例が死亡した.剖検所見では,前胃粘膜の水腫状,腺胃粘膜の暗赤色化,十二指腸,空腸および回腸の暗赤色ゼリー状内容物,肝臓の暗赤色化等が認められた.

 以上のことから,本試験条件下においてケイ酸四ナトリウム塩 水和物は,GHS(Globally Harmonized Classifi-cation System)のCategory 4(>300-2000 mg/kg)に属すると結論された.

方法

1. 被験物質および投与液の調製

 ケイ酸四ナトリウム塩 水和物〔ロット番号:30922,純度:Na2O+SiO2として90.4 %(Na2O 59.7 %,SiO2 30.7 %,M.R 0.53 %),提供者:日本化学工業(大阪)〕は,pHが13前後(2 %溶液,20℃),密度が約1.0 g/mL(見かけ比重)等の白色無臭の固体である.被験物質は引火性,可燃性,酸化性,自己反応性,爆発性等はないことから冷暗所に保存した.媒体には精製水を選択した.

 被験物質の媒体中における均一性および安定性を分析し,均一かつ室温保存24時間および冷蔵保存8日間安定であることを確認した.投与液は,被験物質を乳鉢で細砕後,精秤し,所定の濃度となるように媒体を用いて溶解させ,遮光気密容器に入れ投与に用いた.投与液の調製は,用時に3回行った.投与液の各濃度を,HPLC法で分析し,規定の濃度であることを確認した.

2. 試験動物および飼育条件

試験には,日本チャールス・リバー厚木飼育センター生産のSPF Crj:CD(SD)IGS雌ラットを用いた.6および7週齢の雌ラット各8匹を購入し,馴化飼育後,投与前日の体重に基づいて投与日毎に選抜し,9週齢で試験に供した.

 動物は温度22 ± 3℃,湿度50 ± 20 %,換気回数10〜15回/時間,照明時間8時〜20時に設定された飼育室で,ブラケット式金属製金網床ケージに,群分け前は3匹,群分け後は1匹収容した.飼料はg線照射固型飼料CRF-1(オリエンタル酵母工業)を金属製給餌器により,飲料水は札幌市水道水を自動給水装置により,それぞれ自由摂取させた.

3. 投与量および投与方法

 既存の有害性情報ではラットにおけるLD50値(経口)は1280あるいは1600 mg/kgであることから,300 mg/ kgを第1群の投与用量とした.第1および2群において死亡例がみられなかったことから,第3群には2000 mg/kgを設定した.第3群で全例が死亡したことから,第4群の投与は行わなかった.

 一晩の絶食後,9時〜10時の間に胃ゾンデを用いて強制的に胃内に5 mL/kgの投与容量で経口投与し,投与後約4時間を経過した時点で給餌を再開した.

4. 検査項目

1) 一般状態観察

 全例について動物の生死,外観,行動等を,投与日(0日)の投与直後から投与後1時間までは連続して観察し,以降は投与後2および4時間に観察した.投与後1日から投与後13日までは,午前・午後の1日2回,投与後14日は午前中に1回観察した.

2) 体重測定

 全例について,0(投与日の投与前),投与後1,3,5,7,10および14日(剖検日)に,死亡例については死亡発見時に,電子式上皿天秤を用いて測定した.

3) 剖検 

 死亡例は発見後速やかに,生存例は投与後14日に,体外表を観察後,生存例はエーテル麻酔下で腹部大動脈から放血して安楽死させ,全例について全身の器官・組織を肉眼的に観察した.

5. 統計解析

 体重の成績について平均値および標準偏差を算出した.

結果

1. 死亡状況(Table 1)

 300 mg/kgの2群(6例)では,投与後14日間に死亡例は認められなかった.

 2000 mg/kgの1群(3例)では,投与後4時間までに全例が死亡した.

2. 一般状態

 300 mg/kgの2群では,投与日には全例で異常は認められなかった.しかし,投与後1日に1例でラッセル音,下痢および外尿道口周囲の被毛汚れがみられ,ラッセル音は投与後3日まで,下痢は投与後2日まで,被毛汚れは投与後4日まで継続し,投与後4日には眼球の乾燥も認められた.投与後4日に,他の1例でも口周囲の被毛汚れがみられたが,投与後5日以降には全例で異常は認められなかった.

 2000 mg/kg群では,投与後0.5時間までに自発運動の低下が2例,異常発声およびライシング(身悶え)が1例,呼吸緩徐および腹臥が1例でみられ,投与後1時間以降もさらに体温低下や血尿,横臥等の毒性徴候が継続し,投与後2時間に1例,また投与後4時間に他の2例も死亡した.

3. 体重

 300 mg/kgの2群では,投与後1および3日に体重減少あるいは体重増加抑制がみられたが,投与後5日以降には体重増加が認められた.

4. 剖検

 死亡例:2000 mg/kg群の3例では,全例で前胃粘膜の水腫状,腺胃粘膜の暗赤色化,十二指腸,空腸および回腸の暗赤色ゼリー状内容物,肝臓の暗赤色化がみられ,1例では腺胃の穿孔および腺胃漿膜面に血餅の付着,また2例で肝臓の黄白色化も認められた.

 生存例:300 mg/kgの6例では,前胃粘膜の肥厚が5例で,腺胃粘膜の肥厚が3例で,境界縁の肥厚が全例でそれぞれみられ,また胃と周囲器官・組織(肝臓,膵臓,脾臓等)との癒着も4例で認められた.

考察

 一般状態では,300 mg/kgの投与後1から4日に下痢や被毛汚れ等の一般状態の変化がみられ,また,投与後の数日間に体重減少が認められた.2000 mg/kgでは,投与後に自発運動の低下および異常発声やライシング等が認められた.さらに,2000 mg/kgの死亡例の剖検所見において,前胃粘膜の水腫状あるいは腺胃粘膜の暗赤色化等が認められ,これらの変化は,本被験物質が強いアルカリ性を示すため,目,皮膚,飲み込んだ場合には強い刺激性があり,皮膚や粘膜あるいは眼の粘膜を刺激したり腐食したりする場合があること,また,被験物質の2 %水溶液のpHは13前後で強塩基性であることなどから,本試験の投与に用いた60および400 mg/mL(6および40 %)水溶液のpHも同程度の強塩基性であると考えられ,被験物質投与による直接的な刺激性あるいは腐蝕性に起因した消化管障害や全身状態の悪化を招いたものと考えられた.

 一方,生存例の剖検所見で認められた前胃粘膜や腺胃粘膜の肥厚あるいは胃の周囲器官・組織との癒着についても,被験物質投与に関連して発現した障害の修復像と考えられた.
以上のように,被験物質投与に関連した変化として,300 mg/kgでは投与後1から4日まで下痢や被毛汚れがみられ,体重の減少も認められた.2000 mg/kgでは投与後0.5時間までに自発運動の低下および異常発声やライシング等がみられ,投与後4時間までに全例が死亡した.死亡例および生存例のいずれの剖検所見においても消化管に粘膜の暗赤色化や肥厚が認められた.

 したがって,ケイ酸四ナトリウム塩 水和物はGHS (Globally Harmonized Classification System)のCategory 4(>300-2000 mg/kg)であると結論された.

連絡先
試験責任者: 須永昌男
試験担当者: 木口雅夫,咲間正志,平田輝仁,
笠原みゆき,牧野宏美,平田真理子,
玉置朱羽子,古川正敏
(株)化合物安全性研究所
〒004-0839 札幌市清田区真栄363番24
Tel 011-885-5031 Fax 011-885-5313

Correspondence
Authors: Masao Sunaga (Study director)
Masao Kiguchi, Masashi Sakuma,
Teruhito Hirata, Miyuki Kasahara,
Hiromi Makino, Mariko Hirata,
Shuko Tamaki, Masatoshi Furukawa
Safety Research Institute for Chemical Compounds Co., Ltd.
363-24 Shin-ei, Kiyota-ku, Sapporo, Hokkaido, 004-0839, Japan
Tel +81-11-885-5031 Fax +81-11-885-5313