N,N-ジエチル-m-トルアミドのラットを用いる単回経口投与毒性試験
Single Dose Oral Toxicity Test of N,N-Diethyl-m-toluamide in Rats
要約
N,N-ジエチル-m-トルアミドは蚊,ブヨ,サシバエ,南京虫などの刺咬を防止することを目的にヒトの皮膚や着衣に噴霧する忌避剤として用いられる.N,N-ジエチル-m-トルアミドの単回経口投与毒性試験をCD(SD) IGS系(SPF)ラットを1群雌雄各5匹用いて実施した.
N,N-ジエチル-m-トルアミドはコーンオイルに溶解し,雌雄ともに1000,1300,1700および2000 mg/kgに相当する量を単回強制経口投与した.また,媒体対照としてコーンオイルのみを投与した群も設定した.観察期間は14日間とし,一般状態の観察,死亡動物の確認,体重測定および病理学検査を実施した.
死亡は,1300および1700 mg/kg群の雄で各1例,2000 mg/kg群の雌で1例に認められた.なお,死亡例はいずれも投与後1日に認められた.
一般状態の異常所見は投与後1日に集中しており,自発運動低下が1000 mg/kg以上の群の雌雄で認められた.死亡動物では歩行困難,間代性痙攣,腹臥位,側臥位および体温低下が認められた.生存動物では歩行異常,間代性痙攣,腹臥位および側臥位認められたが投与後3日には回復した.なお,2000 mg/kg群の雄の2例は側臥位の状態で,雌の1例は腹臥位の状態でいずれも体温が低下し,切迫状態に陥ったもののその後は回復した.生存動物の体重は各投与群の雌雄とも差がなかった.
病理学検査において死亡動物および観察期間終了時の生存動物に異常は認められなかった.
したがって,N,N-ジエチル-m-トルアミドのLD50値は雌雄とも2000 mg/kg以上であると推定された.
方法
1.被験物質および投与液の調製
N,N-ジエチル-m-トルアミド[日本精化(兵庫),純度99.4 %,Lot No. TNB-085]は無色粘性液体であり,使用時まで気密容器で室温の被験物質保管庫に保管した.試験終了後,残余被験物質を提供元で再分析し,被験物質が試験期間中安定であることを確認した.
投与液の調製においては,被験物質をコーンオイル(Lot No. V7B5849,ナカライテスク)に溶解して200,260,340および400 mg/mLの各投与液を調製した.調製は投与直前に行った.投与液中の被験物質濃度を調製後速やかに測定した結果,適切に調製されていたことが確認された.
2.供試動物および飼育方法
5週齢のCrj:CD(SD)IGS系ラット(SPF)雌雄各31匹を日本チャールス・リバーから購入した.動物は検収後,試験環境への馴化のために1週間予備飼育し,6週齢に達した時点で投与した.動物は,温度23.6〜24.3℃,湿度59〜81 %,照明時間12時間(午前7時点灯,午後7時消灯)に制御された飼育室で,ステンレス製網目飼育ケージに5匹ずつ収容して飼育した.動物には,オリエンタル酵母工業製造の固型飼料MF(Lot No. 020513,020701)および水道水を自由に摂取させた.
3.投与量の設定および投与方法
予備試験において500,1000および2000 mg/kgを投与した結果,2000 mg/kg群の雄で3例中2例が,雌では3例中1例が死亡した.よって,本試験の用量は雌雄ともに1000 mg/kgを低用量として公比約1.3により1300,1700および2000 mg/kgを設定した.さらに雌雄それぞれに媒体対照群を設置した.投与容量は体重100 g当たり0.5 mLとし,個体別に測定した体重に基づいて投与液量を算出した.投与回数は1回とし,投与前約16時間絶食させた動物に胃ゾンデを用いて強制経口投与した.なお,対照群にはコーンオイルのみを投与した.給餌は,被験物質投与後約3時間に行った.
4.群構成
動物はあらかじめ体重を基に層別化し,無作為抽出法により雌雄ともに各群5匹ずつを振り分けた.投与時の体重は,雄が178〜195 g,雌が127〜149 gであった.
5.観察および検査
中毒症状および生死の観察は,投与6時間までは1時間毎に,投与翌日からは1日1回,投与日を観察第1日として14日間にわたって実施した.体重は投与直前,投与後7および14日に測定した.観察期間中の死亡例は発見時に,生存動物は観察期間終了時にエーテル麻酔後放血死させ解剖した.
6.統計解析
半数致死量(LD50)をProbit法により算出するためには条件が整わなかったため,用量(mg/kg)の範囲を示した.
結果
1.死亡率およびLD50値(Table 1)
雄では1300および1700 mg/kg群で各1例,雌では2000 mg/kg群で1例が死亡した.死亡例はいずれも投与後1日に認められた.LD50値は雌雄とも2000 mg/kg以上と推定された.
2.一般状態
投与後1日には自発運動低下が1000,1300,1700および2000 mg/kg群の雄で1,3,4および4例に,雌で1,3,2および4例に認められた.さらに,死亡動物では歩行困難,腹臥位,側臥位および体温低下が1300 mg/kg群の雄の1例に,間代性痙攣および側臥位が1700 mg/kg群の雄の1例に認められた.側臥位および体温低下が2000 mg/kg群の雌の1例に認められた.生存動物では,歩行異常が1300,1700および2000 mg/kg群の雄で1,3および3例に,雌で3,2および2例に認められた.間代性痙攣が1300 mg/kg群の雄の1例に認められた.腹臥位が1300 mg/kg群の雄の1例に,2000 mg/kg群の雄で3例,雌で1例に認められた.側臥位は2000 mg/kg群の雄の2例に認められた.なお,体温が低下した2000 mg/kg群の雄の2例および雌の1例は回復して生存した.その他,流涙が2000 mg/kgの雄の1例で認められた.
投与後2日には自発運動低下が2000 mg/kg群の雌雄の各1例に,歩行異常が2000 mg/kg群の雄の1例に認められた.
3.体重
投与後7および14日の測定の結果,対照群に比較して各投与群の雌雄とも差がなかった.
4.病理所見
投与後1日の死亡動物および観察期間終了時の生存動物において異常所見は認められなかった.
考察
N,N-ジエチル-m-トルアミドの1000,1300,1700および2000 mg/kgに相当する量を6週齢のCD(SD)IGS系ラットの雌雄に単回経口投与し,投与後14日間観察した.死亡は1300および1700 mg/kg群の雄,2000 mg/kg群の雌の各1例に認められ,いずれも投与後1日であった.したがって,N,N-ジエチル-m-トルアミドのLD50値は雌雄とも2000 mg/kg以上であると推定された.
一般状態の主な異常所見は投与後1日に集中しており,自発運動低下が1000 mg/kg以上の群の雌雄で認められた.死亡動物では歩行困難,間代性痙攣,腹臥位,側臥位および体温低下が認められた.生存動物では歩行異常,間代性痙攣,腹臥位および側臥位が認められたが,投与後3日には回復した.なお,2000 mg/kg群の雄の2例は側臥位の状態で,雌の1例は腹臥位の状態でいずれも体温が低下し,切迫状態に陥ったもののその後は回復した.生存動物の体重は各群の雌雄とも差がなかった.
肉眼所見では死亡動物および観察期間終了時の生存動物に異常は認められなかった.
連絡先 |
| 試験責任者: | 渡 修明 |
| 試験担当者: | 保母真由美 |
| (財)食品農医薬品安全性評価センター |
| 〒437-1213 静岡県磐田郡福田町塩新田字荒浜582-2 |
| Tel 0538-58-1266 | Fax 0538-58-1393 | |
Correspondence |
| Authors: | Nobuaki Watari(Study director) Mayumi Hobo |
| Biosafety Research Center, Foods, Drugs and Pesticides(An-Pyo Center) |
| 582-2 Shioshinden Arahama, Fukude-cho, Iwata-gun, Shizuoka, 437-1213, Japan |
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