テトラヒドロチオフェン-1,1-ジオキシドのラットを用いる
経口投与簡易生殖毒性試験

Preliminary Reproduction Toxicity Screening Test of
Tetrahydrothiophene-1,1-dioxide by Oral Administration in Rats

要約

テトラヒドロチオフェン-1,1-ジオキシドのラットを用いる経口投与簡易生殖毒性試験を行い,雌雄親動物の生殖能力および次世代児の発生・発育に及ぼす影響について検討した.投与量は,700 mg/kgを最高用量とし,以下200および60 mg/kgとした.対照として媒体(注射用水)投与群を設けた.

1. 反復投与毒性

雄においては,死亡例が700 mg/kg群で1/12例認められた.一般状態では,700 mg/kg群で被毛の汚れ,下痢および軟便がみられた.体重は,700 mg/kg群で増加抑制がみられた.摂餌量は,700 mg/kg群で低値がみられた.剖検,器官重量および病理組織学検査では,投与による変化はみられなかった.

雌においては,死亡例が700 mg/kg群で1/12例認められた.一般状態では,700 mg/kg群で被毛の汚れがみられた.体重は,700 mg/kg群で交配前に増加抑制がみられた.摂餌量は,700 mg/kg群で交配前および哺育期に低値がみられた.器官重量では,700 mg/kg群で卵巣の相対重量の高値がみられた.剖検および病理組織学検査では,投与による変化はみられなかった.

2. 生殖発生毒性

700 mg/kg群では,発情回数の低値がみられた.交尾率,交尾所要日数,受胎率,妊娠期間,分娩状態,哺育状態では,投与による変化はみられなかった.黄体数,着床痕数および着床率では,投与による変化はみられなかった.哺育期に新生児が全例死亡した母動物が700 mg/kg群で4例認められた.700 mg/kg群では,児の産出率,出生率,哺育4日の新生児数,生存率,哺育0および4日に雌雄別体重の低値,哺育0日の新生児数の低値傾向,死産児数の高値がみられた.200 mg/kg群では,児の産出率の低値,哺育0および4日の新生児数の低値傾向がみられた.新生児の外表,一般状態および剖検では,投与による変化はみられなかった.

以上のように,テトラヒドロチオフェン-1,1-ジオキシドの一般毒性学的無影響量は,雌雄とも700 mg/kg投与により死亡例の発現,体重の増加抑制および摂餌量の低値が認められたことから200 mg/kg/dayと考えられる.また,生殖発生毒性学的な無影響量は,雄では700 mg/kg投与しても交尾率および受胎率に影響は認められなかったことから700 mg/kg/day,雌では700 mg/kg投与により新生児が全例死亡した母動物が認められたことから200 mg/kg/day,児動物では200 mg/kg投与により児の産出率の低値,哺育0および4日の新生児数の低値傾向が認められたことから60 mg/kg/dayと考えられる.

方法

1. 被験物質および媒体

被験物質のテトラヒドロチオフェン-1,1-ジオキシドは,常温において無色透明の液体である[Lot No. 20802,純度:97.3 %,住友精化(株),大阪].入手後は,室温条件下で保管した.

被験物質は,注射用水で希釈して調製した.被験物質は純度換算を行い,投与量は原体重量で表示した.なお,調製液は,調製後室温・遮光条件下で7日間保存しても安定性に問題のないことが確認されていたため,室温・遮光条件下で保管し,調製後7日以内に使用した.また,投与開始日および雄の投与期間終了日に使用した各濃度の投与液中の被験物質濃度を確認した結果,被験物質濃度に問題はなかった.

2. 使用動物および飼育条件

8週齢のSprague-Dawley系雌雄ラット[Crj:CD(SD)IGS, (SPF)]を日本チャールス・リバー(株)から購入した.入手した動物は,5日間の検疫期間およびその後7日間の馴化期間を設け,一般状態および体重推移に異常がみられず,また性周期観察で異常が認められなかった動物を群分けした.群分けは,コンピュータを用いて体重を層別に分けた後に,無作為抽出法により各群の平均体重および分散がほぼ等しくなるように投与開始日に行った.1群の動物数は,雌雄各12匹とした.

動物は,室温20〜26℃,湿度40〜70 %,明暗各12時間(照明:午前6時〜午後6時),換気回数12回/時に維持されている飼育室で飼育した.検疫・馴化期間中はステンレス製ケージを用いて1ケージ当たり5匹までの群飼育とし,群分け後はステンレス製ケージを用いて個別飼育した.母動物は,妊娠18日にオートクレーブ処理した床敷(サンフレーク,日本チャールス・リバー(株))を入れたプラスチック製ケージに個別に移し,自然分娩および哺育をさせた.飼料は固型飼料(CRF-1,オリエンタル酵母工業(株))を,飲料水は水道水をいずれも自由に摂取させた.

3. 投与経路,投与方法,群構成および投与量

投与経路は,経口投与を選択した.投与に際しては,金属製経口胃ゾンデを取り付けたポリプロピレン製ディスポーザブル注射筒を用いて,強制経口投与した.投与液量は,雄では投与日あるいは投与日に最も近い測定日の体重を基準とし,5 mL/kgで算出した.雌では,交配前および交配期間中は投与日あるいは投与日に最も近い測定日の体重を,妊娠期間中は妊娠0,7,14および21日の体重を,授乳期間中は哺育0日の体重を基準とし,5 mL/kgで算出した.投与回数は1日1回とした.

投与開始日の週齢は雌雄とも10週齢であり,体重範囲は雄が355〜379 g,雌が209〜228 gであった.

投与量は,ラットを用いる28日間反復経口投与毒性試験1) (投与段階:0,60,200および700 mg/kg)において,700 mg/kg群で自発運動の低下,体重および摂餌量の減少が認められた.そこで,当試験の投与量は,一般状態,体重および摂餌量に影響の認められることが予想される700 mg/kgを高用量とし,以下公比約3.5で除して200および60 mg/kgとした.また,対照として被験物質投与群の投与液と同一容量の媒体(注射用水)のみを投与する群を設けた.

投与期間は,雄では交配前14日間とその後35日間の合計49日間とし,雌では交配前14日間,交配期間中(最長14日間),妊娠期間中および哺育3日までの合計41〜50日間とした.なお,投与開始日を投与1日とした.

4. 観察および検査項目

1) 雄

(1) 一般状態

一般状態および死亡の有無は,投与前・後の1日2回観察した.

死亡例は,発見後速やかに剖検した.

(2) 体重測定

体重は,1週間に2回測定した.

(3) 摂餌量測定

摂餌量は,交配開始前14日間および交配期間終了後から1週間に2回測定した.

(4) 剖検

生存例は,最終投与の翌日にエーテル麻酔下で腹大動脈から放血致死させた後に剖検し,精巣および精巣上体の重量を測定した.なお,各器官重量を最終体重で除して相対重量も算出した.精巣および精巣上体は,ブアン液に固定した.

(5) 病理組織学検査

精巣および精巣上体は,常法に従ってパラフィン包埋標本を作製した.

対照群および700 mg/kg群の精巣および精巣上体についてH-E染色組織標本を作製し,病理組織学検査を実施した.

2) 雌

(1) 一般状態

一般状態および死亡の有無は,投与前・後の1日2回観察した.

死亡例は,発見後速やかに剖検した.

(2) 性周期

性周期は,投与開始日から交尾確認日まで1日1回観察した.なお,発情期が連続2日間にわたって観察された場合は1回と計数した.

(3) 体重測定

体重は,交配開始前14日間および交配期間中には1週間に2回,妊娠期間中には妊娠0,7,14および21日に,哺育期間中には哺育0および4日にそれぞれ測定した.

(4) 摂餌量測定

摂餌量は,交配開始前14日間までは1週間に2回測定した.また,妊娠期間中は妊娠2,9,16および21日に,哺育期間中は哺育4日に測定した.

(5) 交尾不成立雌の剖検

交尾不成立雌は,交配期間終了後にエーテル麻酔下で腹大動脈から放血致死させた後に剖検した.

(6) 分娩状態の観察

交尾雌は自然分娩させ,分娩状態の異常の有無,分娩終了の確認を妊娠21日から妊娠25日まで1日1回行った.午前10時に分娩が終了していた場合,その日を哺育0日とした.

(7) 妊娠25日までに分娩しなかった動物

妊娠25日までに分娩しなかった雌は,エーテル麻酔下で腹大動脈から放血致死させた後に剖検した.

(8) 哺育状態の観察および剖検

母動物は,哺育状態を哺育4日まで1日1回観察し,新生児が全例死亡した日あるいは哺育4日にエーテル麻酔下で腹大動脈から放血致死させた後に剖検し,着床痕数および黄体数を数えた.卵巣は重量を測定し,20 %中性緩衝ホルマリンに固定した.なお,卵巣重量を最終体重で除して相対重量も算出した.

(9) 病理組織学検査

卵巣は,常法に従ってパラフィン包埋標本を作製した.

対照群および700 mg/kg群の卵巣についてH-E染色組織標本を作製し,病理組織学検査を実施した.

3) 親動物の生殖発生に及ぼす影響

14日間投与した雌雄を同一群内で1対1に組み合わせて同居交配した.交配期間は14日を限度として,交尾を確認するまでの連続同居交配とした.ただし,交配相手が死亡したため交配組み合わせができなかった700 mg/kg群の雌は,交配開始後5日に同一群内の交尾経験のある雄と組み合わせて同居交配した.交尾確認は毎朝ほぼ一定時刻に行い,腟垢内に精子または腟栓を確認した雌を交尾成立動物として,その日を妊娠0日として起算した.

4) 新生児

(1) 出産時の観察

出産時に総出産児数と性,死産児数,新生児数および外表異常の有無を観察した.

(2) 新生児の観察

新生児は,一般状態および死亡の有無を1日1回観察した.

(3) 体重

体重は,哺育0日(出生日)および4日に測定した.

(4) 剖検

生存児は,哺育4日にエーテル麻酔下で腹大動脈から放血致死させた後に剖検した.

5. 統計学的方法

統計解析は,Bartlett法による等分散性の検定を行い,等分散の場合には一元配置法による分散分析を行い,有意ならばDunnett法により行った.一方,等分散と認められなかった場合は,順位を利用した一元配置法による分析(Kruskal-Wallisの検定)を行い,有意ならば順位を利用したDunnett型の検定法により行った.

交尾率,受胎率および出産率は,χ^2検定により行った.

結果

1. 反復投与毒性

1) 雄に及ぼす影響

(1) 一般状態

死亡および瀕死例は,対照群,60および200 mg/kg群では認められなかった.700 mg/kg群では,投与5日に1例が死亡した.死亡例では,死亡前日まで一般状態に異常はみられなかった.

生存例の一般状態観察において,対照群,60および200 mg/kg群ではいずれの動物にも異常はみられなかった.700 mg/kg群では,被毛の汚れ,流涎,下痢,軟便がみられた.

(2) 体重(Fig. 1)

60 mg/kg群では,対照群と比べていずれの測定日の体重にも有意差はみられなかった.200 mg/kg群では,対照群と比べて投与4日に体重の有意な低値がみられたが,その後は順調に推移し,対照群との間に有意差が認められないことから,毒性学的影響とはみなさなかった.700 mg/kg群では,対照群と比べて投与4〜49日に体重の有意な低値がみられた.

(3) 摂餌量(Fig. 2)

60 mg/kg群では,対照群と比べて投与48日に摂餌量の有意な高値がみられたが,投与量に依存した変化ではなかった.200 mg/kg群では,対照群と比べて投与3日に摂餌量の有意な低値がみられたが,その後は順調に推移し,対照群との間に有意差が認められないことから,毒性学的影響とはみなさなかった.700 mg/kg群では,対照群と比べて投与3および6日に摂餌量の有意な低値がみられた.

(4) 剖検

700 mg/kg群の死亡例においては異常はみられなかった.

生存例においては,対照群では,両側精巣,両側精巣上体,精嚢および前立腺の萎縮が1例みられた.60 mg/kg群では,いずれの動物にも異常はみられなかった.200および700 mg/kg群では,両側精巣の萎縮および両側精巣上体の萎縮がそれぞれ各1例みられた.しかし,これらの変化は,いずれも偶発的所見と考えられた.

(5) 器官重量(Table 1)

60および200 mg/kg群では,対照群と比べて剖検日の体重に有意差はみられなかった.

700 mg/kg群では,対照群と比べて剖検日の体重の有意な低値がみられた.

各投与群とも,対照群と比べていずれの器官の絶対および相対重量にも有意差はみられなかった.

(6) 病理組織学検査(Table 2)

精巣において精細管の萎縮および間細胞の増生が,精巣上体において精子の減少,精巣上体管の空胞化および精子肉芽腫がみられたが,いずれも少数例であることから,偶発的変化と判断された.  

2) 雌に及ぼす影響

(1) 一般状態

死亡および瀕死例は,対照群,60および200 mg/kg群では認められなかった.700 mg/kg群では,哺育2日に1例が死亡した.死亡例では,流涎の他には異常はみられなかった.

生存例の一般状態観察において,対照群,60および200 mg/kg群ではいずれの動物にも異常はみられなかった.700 mg/kg群では,被毛の汚れ,流涎がみられた.

(2) 体重(Fig. 3)

交配開始前において,60および200 mg/kg群では対照群と比べていずれの測定日の体重にも有意差はみられなかった.700 mg/kg群では,対照群と比べて投与4〜11日に体重の有意な低値がみられた.

妊娠期間中において,各投与群とも対照群と比べていずれの測定日の体重にも有意差はみられなかった.

哺育期間中において,各投与群とも対照群と比べていずれの測定日の体重にも有意差はみられなかった.

(3) 摂餌量(Fig. 4)

交配開始前において,60および200 mg/kg群では対照群と比べていずれの測定日の摂餌量にも有意差はみられなかった.700 mg/kg群では,対照群と比べて投与3および6日に摂餌量の有意な低値がみられた.

妊娠期間中において,各投与群とも対照群と比べていずれの測定日の摂餌量にも有意差はみられなかった.

哺育期間中において,60および200 mg/kg群では対照群と比べて摂餌量に有意差はみられなかった.700 mg/kg群では,対照群と比べて哺育4日に摂餌量の有意な低値がみられた.

(4) 剖検

700 mg/kg群の死亡例においては異常はみられなかった.

生存例においては,いずれの群とも異常はみられなかった.

(5) 器官重量(Table 3)

60および200 mg/kg群では,対照群と比べて剖検日の体重,卵巣の絶対および相対重量に有意差はみられなかった.700 mg/kg群では,対照群と比べて卵巣の相対重量の有意な高値および剖検日の体重の有意な低値がみられた.

(6) 病理組織学検査

対照群および700 mg/kg群とも,卵巣に異常はみられなかった.

2. 生殖発生毒性

1) 親動物の生殖発生に及ぼす影響

(1) 発情回数,交尾率および受胎率(Table 4)

交配前投与期間(14日間)の発情回数は,60および200 mg/kg群では対照群との間に有意差はみられなかった.700 mg/kg群では,発情周期の乱れている雌が4例認められ,対照群と比べて発情回数の有意な低値がみられた.

700 mg/kg群の1組を除いた全例で交尾が確認された.交尾所要日数は,各投与群とも対照群との間に有意差はみられなかった.また,交尾率にも,各投与群と対照群との間に有意差はみられなかった.

不受胎雌は,対照群および700 mg/kg群で各1例,200 mg/kg群で2例みられたが,受胎率には各投与群と対照群との間に有意差はみられなかった.

(2) 妊娠期間,分娩状態,黄体数,着床率および出産率(Table 5)

妊娠期間は,各投与群とも対照群と比べて有意差はみられなかった.分娩状態の異常は,いずれの群にもみられなかった.

各投与群とも,対照群と比べて黄体数,着床痕数および着床率に有意差はみられなかった.

対照群,60,200および700 mg/kg群とも出産率は100 %であった.700 mg/kg群では,全出生児が死亡した母動物が4例みられた.

2) 新生児に及ぼす影響

(1) 分娩率および出生率(Table 5)

60 mg/kg群では,対照群と比べて総出産児数,分娩率,児の産出率,哺育0日の新生児数,死産児数,出生率および性比に有意差はみられなかった.200 mg/kg群では,対照群と比べて児の産出率の有意な低値,有意な差ではないが哺育0日の新生児数の低値傾向がみられた.また,200 mg/kg群では,対照群と比べて分娩率の有意な低値がみられたが,700 mg/kg群で有意差は認められず,投与によるものではないと判断される.700 mg/kg群では,対照群と比べて死産児数の有意な高値,児の産出率および出生率の有意な低値,有意差は認められないものの,哺育0日の新生児数の低値傾向がみられた.

(2) 新生児の生存率および一般状態(Table 5)

60 mg/kg群では,対照群と比べて哺育4日の生存児数および生存率に有意差はみられなかった.200 mg/kg群では,対照群と比べて有意な差ではないが哺育4日の生存児数の低値傾向がみられた.700 mg/kg群では,対照群と比べて哺育4日の生存児数および生存率の有意な低値がみられた.

新生児の外表観察では,対照群で無尾が1例にみられたのみであった.

新生児の一般状態では,各群とも異常はみられなかった.

(3) 新生児の体重(Table 5)

60 mg/kg群では,対照群と比べて哺育0日に雄体重の有意な低値がみられたが,200 mg/kg群では哺育0日の雌雄別体重に有意差が認められないことから,投与によるものではないと判断される.700 mg/kg群では,対照群と比べて哺育0および4日に雌雄別体重の有意な低値がみられた.

(4) 新生児の剖検

各群とも,異常はみられなかった.

考察

テトラヒドロチオフェン-1,1-ジオキシドのラットを用いる経口投与による簡易生殖毒性試験を行い,雌雄親動物の生殖能力および次世代児の発生・発育に及ぼす影響について検討した.

雄に関しては,死亡例が700 mg/kg群で1例認められた.死亡例では,一般状態および剖検所見に特記すべき異常は認められなかったものの,体重減少がみられていることから,被験物質投与に基づくものと判断した.一般状態観察では,700 mg/kg群で被毛の汚れ,下痢および軟便がみられた.また,700 mg/kg群で流涎が認められたが,被験物質の刺激性に基づく変化と判断され,毒性症状とはみなさなかった.体重および摂餌量において,700 mg/kg群では投与期間を通して体重増加の抑制,投与期間の初期に摂餌量の低値がみられた.しかし,剖検および器官重量では,投与による変化はみられなかった.精巣および精巣上体の病理組織学検査において,投与による変化はみられなかった.なお,ラットを用いる28日間反復経口投与毒性試験1)においても,700 mg/kg投与で死亡例および流涎は認められないものの,自発運動の低下,体重および摂餌量の減少がみられている.

雌に関しては,死亡例が700 mg/kg群で1例認められた.一般状態観察では,700 mg/kg群で被毛の汚れがみられた.700 mg/kg群で流涎が認められたが,雄と同様に毒性症状とはみなさなかった.体重において,700 mg/kg群では交配前に増加抑制がみられた.摂餌量において,700 mg/kg群で交配前および哺育期に低値がみられた.また,700 mg/kg群で卵巣の相対重量の有意な高値がみられたが,病理組織学検査では変化はみられなかった.

したがって,当試験条件下におけるテトラヒドロチオフェン-1,1-ジオキシドの一般毒性学的無影響量は,雌雄とも200 mg/kg/dayと考えられる.

親動物の生殖発生に対しては,前述したように精巣,精巣上体および卵巣の病理組織学検査において投与に起因すると思われる変化はみられなかった.また,いずれの群とも交尾率および受胎率に影響は認められなかった.

交尾所要日数,受胎雌数,妊娠期間,黄体数,着床痕数,分娩状態および哺育状態では,投与による変化はみられなかった.しかし,700 mg/kg群では,発情周期の乱れている雌が認められ,発情回数の低値がみられた.また,同群では,哺育期に新生児が全例死亡した母動物が4例認められた.

新生児に対しては,200 mg/kg群では児の産出率の低値,哺育0および4日の新生児数の低値傾向がみられた.700 mg/kg群では,死産児数の高値および哺育0日の新生児数の低値傾向,児の産出率,出生率,哺育4日の新生児数および生存率の低値がみられた.また,700 mg/kg群では,哺育0および4日に雌雄別体重の低値がみられた.外表観察では,各投与群とも投与による影響はみられなかった.一般状態では,各投与群とも投与による異常症状はみられなかった.剖検においても,変化はみられなかった.

以上のように,テトラヒドロチオフェン-1,1-ジオキシドの一般毒性学的無影響量は,雌雄とも700 mg/kg投与により死亡例の発現,体重の増加抑制および摂餌量の低値が認められたことから200 mg/kg/dayと考えられる.また,生殖発生毒性学的な無影響量は,雄では700 mg/kg投与しても交尾率および受胎率に影響は認められなかったことから700 mg/kg/day,雌では700 mg/kg投与により新生児が全例死亡した母動物が認められたことから200 mg/kg/day,児動物では200 mg/kg投与により児の産出率の低値,哺育0および4日の新生児数の低値傾向が認められたことから60 mg/kg/dayと考えられる.

文献

1)厚生省生活衛生局企画課生活化学安全対策室監修,"化学物質毒性試験報告,"Vol. 4,化学物質点検推進連絡協議会,東京,1996, p. 437.

連絡先
試験責任者:古橋忠和
試験担当者:長瀬孝彦,藤村高志,内藤一嘉,今枝知子,吉島賢一,牧野浩平
(株)日本バイオリサーチセンター 羽島研究所
〒501-6251 岐阜県羽島市福寿町間島6-104
Tel 058-392-6222Fax 058-392-1284

Correspondence
Authors:Tadakazu Furuhashi(Study director)
Takahiko Nagase, Takashi Fujimura, Kazuyoshi Naitou, Tomoko Imaeda, Ken-ichi Yoshijima and Kohei Makino
Nihon Bioresearch Inc. Hashima Laboratory
6-104 Majima, Fukuju-cho, Hashima, Gifu, 501-6251, Japan.
Tel +81-58-392-6222Fax +81-58-392-1284