2, 2−ジメチル−1, 3−プロパンジオ−ルのラットを用いた
反復投与毒性・生殖発生毒性併合試験

Combined Repeat Dose and Reproductive/Developmental Toxicity Screening Test of
2,2-Dimethyl-1,3-propanediol in Rats

要約

既存化学物質の毒性学的性質を評価するため、2, 2−ジメチル−1, 3−プロパンジオ−ル(ネオペンチルグリコ−ル)の0(溶媒対照群)、100、300および1,000 mg/kg/dayをSprague-Dawley系(Slc:SD)ラットに交配前2週間および交配期間2週間を通じて経口投与し、さらに雄では交配期間終了後17日間、雌では妊娠期間を通じて分娩後哺育3日まで連続投与し、親動物に対する反復投与毒性および生殖能ならびに児動物の発生・発育に及ぼす影響について検討した。

1. 反復投与毒性

一般状態には被験物質投与の影響は認められず、死亡例も観察されなかった。

体重および摂餌量は雌雄ともに群間で差はなく被験物質投与の影響は認められなかった。

雄の血液学的検査では、被験物質投与の影響と考えられる変化はなかった。また、血液化学的検査では、300および1,000 mg/kg群でアルブミンの増加に伴う総蛋白の増加と総ビリルビンの増加が認められ、さらに1,000 mg/kg群では血糖値の減少が認められた。

器官重量は雄の300および1,000 mg/kg群で肝臓重量が増加した。さらに1,000 mg/kg群では腎臓重量が増加し、300 mg/kg群でも統計学的有意差はないものの増加傾向が認められた。

雄の剖検所見では、1,000 mg/kg群の12例中2例に肝臓の肥大が観察された。病理組織学検査では、肝臓の肥大を裏付ける明確な形態的変化は認められなかった。腎臓の所見として、雄の1,000 mg/kg群で蛋白円柱や硝子滴変性が増加し、尿細管上皮の中程度好塩基性化が11例中4例に観察された。

2. 生殖発生毒性

交尾能、受胎能および性周期観察では、被験物質投与の影響は認められなかった。

分娩時観察では、対照群の1例を除き妊娠動物の全例が正常に分娩し哺育期間を通じ被験物質投与の影響は認められなかった。また、新生児の外表検査でも被験物質投与によると考えられる異常はなく、体重も哺育4日まで順調に増加した。死産児および哺育4日までの死亡児ならびに哺育4日の剖検では、被験物質投与によると考えられる異常所見は観察されなかった。

以上の結果から、2, 2−ジメチル−1, 3−プロパンジオールの反復投与毒性は、雄の300 mg/kg/day以上の投与で認められ、雌では1,000 mg/kg/day投与によっても認められなかった。したがって、最大無影響量は、雄では100 mg/kg/day、雌では1,000 mg/kg/dayと判断した。また、雌雄の生殖に及ぼす影響および児動物の発生・発育に及ぼす影響は1,000 mg/kg/day投与によっても認められず、最大無影響量はともに1,000 mg/kg/dayと判断した。

緒言

2, 2−ジメチル−1, 3−プロパンジオ−ル(2,2-Dimethyl-1,3-propanediol、別名:Neopentyl glycol)は、化学産業の分野においてポリエステル樹脂の主原料として使用されている化合物である。本化合物の毒性については、経口投与によるLD50値がラット6,400〜12,800 mg/kg、マウス3,200〜6,400mg/kgであることや1%混餌による36日間投与で体重の増加抑制および摂餌量の減少することが報告されているが、ヒトや実験動物の生殖・発生に及ぼす影響についてはほとんど知られていない。今回、OECDによる既存化学物質の安全性点検に係わる毒性調査事業の一環として、2, 2−ジメチル−1, 3−プロパンジオールの反復投与毒性・生殖発生毒性について検討した。

方法

1. 被験物質

2, 2−ジメチル−1, 3−プロパンジオ−ル[ロット番号1N01(三菱瓦斯化学)、Cas No. 126-30-7、別名Neopentyl glycol(NPG)]は、分子量104.15、融点127℃、沸点208℃(760mmHg)で水に可溶性の白色結晶状フレ−クであり、使用時まで室温条件下で密閉保管した。

本被験物質は局方注射用蒸留水[ロット番号9106AS, 9108CS, 9108VS(光製薬)]に溶解し、20(w/v)%溶液を調製した。これを原液とし、注射用蒸留水で順次希釈し各群の投与溶液を調製した。調製後は、使用時まで冷蔵庫に保存した。調製液中の被験物質は0.2, 20(w/v)%溶液の場合、冷暗条件下ですくなくとも7日間安定であることが確認されているため、調製は1週間に1回実施し、調製後7日以内に使用した。

投与液の濃度分析は、各群の調製液について調製開始時に調製したバッチから無作為にサンプルを抽出し実施した。その結果、97.0〜103%の範囲で適切に調製されており問題はなかった。

2. 使用動物および飼育条件

日本エスエルシー株式会社(静岡県浜松市)から購入した9週齢のSprague-Dawley(Slc:SD,SPF)系雌雄ラットを使用した。購入した動物は8日間検疫・馴化飼育した後、全例を10週齢で群分けして試験に用いた。群分け時の体重は、雄で294〜337 g、雌で199〜223 gであった。

動物は、温度22〜24℃、湿度50〜60%、換気回数20回/時間、照度150〜300lux、照明時間12時間(午前7時点灯、午後7時消灯)に設定された飼育室(W8×D8×H2.5 m、160m^3)で飼育した。株式会社東京技研サービス(東京都府中市)の自動水洗式飼育機(W486×D79×H160 cm)を使用し、アルミ製前面・床ステンレス網目飼育ケージ(W15.8×D23.8×H16.0 cm、飼育ケ−ジ・スペ−ス6,017 cm^3)に動物を1匹ずつ収容し飼育した。但し、交配期間中の雄は、アルミ製前面・床ステンレス網目飼育ケージ(W36.8×D25.0×H16.0 cm、飼育ケ−ジ・スペ−ス14,720 cm^3)に収容し飼育した。母動物は、妊娠18日以降哺育4日までアルミ製前面・床ステンレス網目飼育ケージ(W36.8×D25.0×H16.0 cm)に哺育トレーおよび巣作り材料(アルファードライ)を入れて飼育した。

飼料は、オリエンタル酵母工業株式会社(東京都中央区)製造のNMF固型飼料(放射線滅菌飼料)を使用した。飲水は、水道水を自由に摂取させた。

供給した飼料、水および巣作り材料には試験に支障を来す可能性の考えられる夾雑物の混在はなかった。

3. 群分け

動物はあらかじめ体重によって層別化し、無作為抽出法により各試験群を構成するように群分けし、1群当たり各12匹を用意した。

群分け後の動物の識別は個体別に耳に入れ墨をするとともにケージごとに動物標識番号(Animal ID-No.)をつけた。

4. 投与量、群構成、投与期間および投与方法

本試験の用量は先に実施したラットを用いた反復投与毒性/生殖発生毒性併合予備試験(試験番号1796)の結果を参考にして決定した。すなわち、0、10、100および1,000 mg/kgを雄および雌に2週間連続経口投与した結果、1,000 mg/kg群の雄で肝臓重量が増加した。

以上の結果から、本試験の最高用量は予備試験と同じ1,000 mg/kgを設定し、以下公比約3にて除し、300および100 mg/kgを設定した。

投与経路は、OECDガイドライン「反復投与毒性・生殖発生毒性併合試験」で指示されている投与経路に準じて強制経口投与を選択した。投与容量は、体重100 g当り0.5 mlとし、個体別に測定した最新体重に基づいて算出を行った。胃ゾンデを用いて毎日1回(7日/週)強制経口投与した。対照群には局方注射用蒸留水のみを投与した。

雄の投与期間は、交配前14日間と交配期間14日間および交配終了後の17日間の連続45日間とした。雌の投与期間は、交配前14日間と交配期間中(交尾成立まで最長14日間)ならびに交尾成立雌の妊娠期間を通じて分娩後の哺育3日まで(40〜46日間)とした。なお、交尾不成立の雌は交配期間終了後の解剖前日まで45日間投与した。

5. 観察および検査

1) 一般状態

雌雄とも、全例について試験期間中毎日観察した。

2) 体重

雄では、投与0(投与開始日)、7、14、21、28、35、42および46日(剖検日)に測定した。雌では、投与0(投与開始日)、7、14および21日に測定し、交尾不成立の雌はそれ以後は投与28、35、42および46日(剖検日)に測定した。交尾成立後の雌は、妊娠0、7、14、21日に、分娩した雌は哺育1および4日に測定した。

3) 摂餌量

雄では、投与0(投与開始日)、7および14日に餌重量を測定し、測定日から次の測定日までの間の摂餌量を求め平均1日摂餌量を算出した。雌では、投与0、7および14日に餌重量を測定した。また、交尾成立の雌は妊娠0、7、14および21日に、分娩した雌は哺育1および4日に餌重量を測定し、測定日から次の測定日までの間の摂餌量を求め平均1日摂餌量を算出した。なお、交配期間中および交配期間終了後の摂餌量は測定しなかった。

4) 交配

交配前14日間(交配開始日を含めて15日間)の性周期観察を行った雌と同群内の雄を1対1で最長2週間毎晩同居させた。翌朝、腟垢中の精子確認をもって交尾成立とし、その日を妊娠0日とした。

性周期観察は交尾成立日まで行い、発情期から次の発情期までの間の日数を性周期日数とし平均性周期を算出した。

交配結果から、各群について交尾率[(交尾動物数/同居動物数)×100]を算出した。

5) 自然分娩時および新生児の観察

交尾成立動物は、全例を自然分娩させた。分娩の確認は午前中(午前9時〜12時)に行い、この時間帯に分娩が完了していることを確認した個体について、その日を哺育1日、その前日を分娩日(哺育0日)と規定した。午前12時を過ぎて分娩した個体については、翌日を哺育1日とした。分娩を確認した全例について妊娠期間(哺育0日の年月日から妊娠0日の年月日を減じた日数)、受胎率[(受胎動物数/交尾成立動物数)×100)]、出産率[(生児出産雌数/妊娠雌数)×100]、着床率[(着床痕数/妊娠黄体数)×100]、分娩率[(総出産児数/着床痕数)×100]、出生率[(出産生児数/総出産児数)×100]を算出した。

新生児は哺育1日に出産児数(生存児+死亡児)を調べ、性別を判定するとともに、外形異常の有無を調べた。また、哺育1および4日に雌雄別の同腹児重量を測定し、雌雄別1匹当りの平均重量を算出した。

哺育4日に新生児全例を屠殺し、主要器官の肉眼観察を行った。哺育期間中の死亡児も同様に主要器官の肉眼観察を行った。また、新生児の4日生存率[(哺育4日生児数/出産生児数)×100]を算出した。

6) 臨床検査

各群の雄全例について剖検時に実施した。動物を約16時間絶食させた後、エーテルで麻酔後開腹し、腹部大動脈から採血した。

a) 血液学的検査

血液学検査には初血を用いた。THMS H6000(米国テクニコン社)を用いて下記の項目を測定した(EDTA-3K添加血液)。

白血球数(WBC)暗視野板法
赤血球数(RBC)暗視野板法
ヘモグロビン量(HGB)シアンメトヘモグロビン法
ヘマトクリット値(HCT)全赤血球の容積より補正
平均赤血球容積(MCV)RBC, HCTより算出
平均赤血球血色素量(MCH)HGB, RBCより算出
平均赤血球血色素濃度(MCHC)HGB, HCTより算出
血小板数(PLT)暗視野板法
白血球百分率 フローサイトケミストリー法

網状赤血球数(RC)についてはキャピロット(テルモ株式会社、東京都渋谷区)で染色後、血液塗抹標本を作製し鏡検した。

b) 血液化学的検査

クリーンシール(株式会社ヤトロン、東京都千代田区)に血液を採取し、30分間放置後3,000 r.p.m. 7分間遠心分離して得た血清を検査に用いた。生化学自動分析装置CentrifiChem ENCORE II(ベーカー社、米国)およびEKTACHEM 700N(コダック社、米国)を用いて下記の項目を測定した。
総蛋白(TP)ビューレット法
アルブミン(Alb)B.C.G.法
A/G計算値
血糖(Glu)ヘキソキナーゼ法
尿素窒素(BUN)ウレアーゼ改良法
クレアチニン(Crea)Jaffe 法
総ビリルビン(T-Bili)ジアゾ色素法
グルタミン酸オキザロ
酢酸トランスアミナーゼ(GOT)Karmen改良法
グルタミン酸ピルビン 
酸トランスアミナーゼ(GPT)Wroblewski and LaDue改良法
γーグルタミルトランス
ペプチダーゼ(γ-GTP)酵素法
カルシウム(Ca)アリザリン法
無機リン(IP)モリブデンブルー法
カリウム(K)電極法
塩素(Cl)電極法

7. 病理学検査

剖検および器官重量測定

a) 雄動物

45日間投与後、約16時間の絶食させ、エーテル麻酔下で放血安楽死させた。主要器官の肉眼的観察を行い、肝臓、腎臓、胸腺、精巣上体および精巣重量を測定し、器官重量・体重比を算出した。また、全動物の重量測定器官に加えて脳、心臓、脾臓、副腎、精嚢、前立腺、下垂体および肉眼所見で変化が認められた器官・組織として腹腔内の塊を10%中性緩衝ホルマリン液に固定した。なお、精巣および精巣上体はブアン氏液に固定した。

b) 自然分娩した雌

哺育4日にエーテル麻酔後放血安楽死させ、主要器官の肉眼的観察を行った後、肝臓、腎臓、胸腺および卵巣重量を測定し、器官重量・体重比を算出した。また、全動物の重量測定器官に加えて脳、心臓、脾臓、副腎、下垂体および肉眼所見で変化が認められた器官・組織として肺を10%中性緩衝ホルマリン液に固定した。また、剖検時に黄体数および着床痕数を調べた。

c) 交尾不成立の雌

45日間投与後、エーテル麻酔後放血安楽死させ、主要器官の肉眼的観察を行った後、皮膚、乳腺、リンパ節、唾液腺、胸骨、大腿骨(骨髄を含む)、胸腺、気管、肺および気管支、心臓、甲状腺および上皮小体、舌、食道、胃および十二指腸、小腸、大腸、肝臓、膵臓、脾臓、腎臓、副腎、膀胱、卵巣、子宮、腟、眼球、ハーダー腺、脳、下垂体および脊髄を10%中性緩衝ホルマリン液に固定した。

d) 自然分娩の認められない雌

妊娠25日にエーテル麻酔後放血安楽死させ、主要器官の肉眼的観察を行った後、皮膚、乳腺、リンパ節、唾液腺、胸骨、大腿骨(骨髄を含む)、胸腺、気管、肺および気管支、心臓、甲状腺および上皮小体、舌、食道、胃および十二指腸、小腸、大腸、肝臓、膵臓、脾臓、腎臓、副腎、膀胱、卵巣、子宮、腟、眼球、ハーダー腺、脳、下垂体および脊髄を10%中性緩衝ホルマリン液に固定した。着床痕が認められない動物は不妊と判定した。

8. 病理組織学検査

1) 交尾の成立した雄

対照群と高用量群全例の脳、胸腺、心臓、肝臓、腎臓、脾臓、副腎、精巣および病変部組織として腹腔内の塊について実施した。なお、1,000 mg/kg群で腎臓の蛋白円柱や硝子滴変性、尿細管上皮の好塩基性化の発生数の増加が認められたため、100および300 mg/kg群の腎臓についても行った。

2) 自然分娩した雌

対照群と高用量群全例の脳、胸腺、心臓、肝臓、腎臓、脾臓、副腎、卵巣および病変部組織として肺について実施した。

3) 交尾の成立しなかった雌雄

全例の脳、胸腺、心臓、肝臓、腎臓、脾臓、副腎、腟、子宮、卵巣、精巣、精巣上体、精嚢、前立腺および下垂体について実施した。

4) 妊娠を成立させなかった雄および妊娠不成立の雌

全例の脳、胸腺、心臓、肝臓、腎臓、脾臓、副腎、腟、子宮、卵巣、精巣、精巣上体、精嚢、前立腺および下垂体について実施した。

5) 自然分娩の認められない雌

皮膚、乳腺、リンパ節、唾液腺、胸骨、大腿骨(骨髄を含む)、胸腺、気管、肺および気管支、心臓、甲状腺および上皮小体、舌、食道、胃および十二指腸、小腸、大腸、肝臓、膵臓、脾臓、腎臓、副腎、膀胱、卵巣、子宮、腟、眼球、ハーダー腺、脳、下垂体および脊髄について実施した。

9. 統計処理

体重、摂餌量、黄体数、着床痕数、出産児数、死産児数、性比、平均性周期、妊娠期間、着床率、算出率、出生率、外形異常発現率、新生児の4日生存率、器官重量、器官重量・体重比、血液学的および血液化学的検査値については、まず、Bartlettの等分散検定を実施した。等分散の場合は一元配置分散分析を行った。分散が有意で各群の標本数が同数の場合はDunnettの多重比較検定、各群の標本数が異なる場合はScheffの多重比較検定で対照群と各投薬群間の有意差を検定した。Bartlettの等分散検定で不等分散の場合はKruskal-Wallisの順位検定を実施した。有意で各群の標本数が同数の場合はDunnettの順位検定、各群の標本数が異なる場合はScheffの順位検定で対照群と各投薬群間の有意差を検定した。出産率、交尾率、受胎率についてはχ^2検定を行った。病理組織学検査で群間に程度差が認められた場合は累積カイ二乗検定を行った。なお、哺育期間中の新生児に関する成績は1母体当りの平均を1標本とした。有意水準は*:P< 0.05および**:P< 0.01とした。

結果

1. 反復投与毒性

1) 死亡および一般状態

死亡例は、雌雄ともに投与期間を通じいずれの群にも観察されなかった。

一般状態の観察では、雌雄とも被験物質投与による変化は認められなかった。自然発生性の所見として雄の100 mg/kg群で腹腔内の腫瘤および泌尿生殖器の出血が投与7週に1例、眼分泌物が投与4週に、また切歯異常(上顎切歯折れ)が投与3週に同一個体の1例に観察された。雌では、眼分泌物が対照群で妊娠8日に1例および100 mg/kg群で妊娠13日から哺育1日にかけて1例に観察された。

2) 体重(Table 1〜2)

雌雄ともに各群の体重はほぼ同様な推移を示し、対照群と被験物質投与群との間に統計学的有意差は認められなかった。

3) 摂餌量

雌雄ともに各群の摂餌量はほぼ同程度で、対照群と被験物質投与群との間に統計学的有意差は認められなかった。

4) 雄の血液学的検査(Table 3)

対照群と被験物質投与群との間で差の認められた検査項目はなかった。

5) 雄の血液化学検査(Table 4)

300および1,000 mg/kgでは、対照群と比べ総ビリルビン、総蛋白およびアルブミン量が増加し、さらに1,000 mg/kg群で血糖値が減少した。その他、100および300 mg/kg群でGOTの減少、100 mg/kg群でγ-GPTの増加、100、300および1,000 mg/kg群でカルシウムの増加、300 mg/kg群で無機リンの増加、100 mg/kg群でカリウムの減少が認められたが、いずれも軽微な変化か、用量依存性のない変化であった。

6) 器官重量(Table 5〜6)

雄では、300および1,000 mg/kg群で対照群に比べ肝臓の実重量および相対重量がともに増加した。さらに、1,000 mg/kg群では、腎臓の実重量および相対重量がともに増加し、300 mg/kg群でも統計学的有意差はないものの増加傾向が認められた。雌では、実重量および相対重量とも対照群と被験物質投与群との間で統計学的有意差が認められた器官はなかった。

7) 剖検所見(Table 7〜8)

雄では、肝臓の肥大が1,000 mg/kg群で12例中2例に観察された。その他、自然発生性の病変と考えられる所見として、腹腔内の塊(脂肪壊死)が対照群に1例、腎臓の腫瘤および白色斑/区域が100 mg/kg群の同一個体1例に観察された。なお、これらの雄動物うち、交尾の成立はしなかった雄は100 mg/kg群に1例、妊娠を成立させなかった雄は100および1,000 mg/kg群に各1例認められたが、特に生殖器系器官の異常は認められなかった。

交尾の成立しなかった雌は100 mg/kg群に1例認められたが、異常所見は観察されなかった。妊娠の成立しなかった雌は100および1,000 mg/kg群の各1例に認められたが、被験物質投与の影響と考えられる異常所見は観察されなかった。

哺育4日の母動物の剖検では、被験物質投与による影響が示唆される所見は観察されなかった。自然発生性の病変と考えられる所見として、肺の有色斑/区域が対照群および100 mg/kg群にそれぞれ1例、肝臓の結節が100 mg/kg群に1例および卵巣の嚢胞が300 mg/kg群に1例観察された。

8) 病理組織学検査(Table 9〜10)

交尾成立した雄および自然分娩した雌は、対照群、100、300および1,000 mg/kg群でそれぞれ12、10、12、11例および11、10、12、11例であった。被験物質投与によると考えられる所見として、対照群に比べ1,000 mg/kg群の雄で腎臓の蛋白円柱が多い傾向を示したほか、同群の硝子滴変性は11例中4例と発生数の増加を示した。また、同群の腎尿細管上皮の中等度好塩基性化が11例中4例に認められた。腎臓については高用量で変化が認められたため、100および300 mg/kg群について鏡検した結果、対照群との間に差異は認められなかった。その他の所見は対照群との間に差異は認められなかったが、2例以上の発生を示したものは次の通りであった。腎臓の好酸性小体が雄の全例に、脾臓の色素沈着が雌雄の多数例に、副腎の空胞化が雄の多数例に、腎臓の石灰沈着が雌の多数例にそれぞれ観察された。また、心臓の細胞浸潤、肝臓の細胞変性・小肉芽巣、腎臓のリンパ球浸潤が雌雄で、肝臓のリンパ球浸潤、腎臓の石灰沈着が雄で、脾臓の造血亢進、胸腺の扁平上皮化生、肝臓の髄外造血が雌でいずれも軽度ながら少数例に認められた。なお、腫瘍性病変として、100 mg/kg群の雄の1例に腎芽腫が観察された。

交尾の成立しなかった動物は100 mg/kg群で雌雄各1例認められた。これらの動物では、脾臓の色素沈着、腎臓の尿細管上皮好塩基性化・石灰沈着が雌雄に、心臓の石灰沈着、肝臓の小肉芽巣、腎臓の好酸性小体・蛋白円柱、副腎の空胞化が雄に観察された。

妊娠を成立させなかった雄および妊娠の成立しなかった雌は、100および1,000 mg/kg群で雌雄各1例認められた。これらの動物では、脾臓の色素沈着、肝臓の小肉芽巣が雌雄に、心臓の細胞浸潤、胸腺の扁平上皮化生、腎臓の尿細管上皮好塩基性化・好酸性小体・リンパ球浸潤、副腎の空胞化が雄に、腎臓の石灰沈着が雌にそれぞれ認められた。

分娩が認められなかった雌は対照群の1例に認められた。この動物では、脾臓の色素沈着、腎臓の石灰沈着・リンパ球浸潤が観察された。

2. 生殖発生毒性

1) 交尾および受胎能(Table 11)

交尾は、100 mg/kg群を除き対照群を含むすべての群で全例成立した。100 mg/kg群では1組が交尾不成立で、交尾率は91.7%であった。受胎は、対照群および300 mg/kg群の交尾成立の雌全例で成立し、100 mg/kg群では11例中10例、1,000 mg/kg群では12例中11例で成立した。

性周期観察では、100 mg/kg群の1例に偽妊娠と考えられる性周期の停止(連続した発情休止期像)が11日間連続して認められたが交尾はその後成立した。その他、1,000 mg/kg群の平均性周期は対照群の4.0日に比べて4.3日と長く、統計学的有意差が認められた。

2) 分娩および哺育(Table 12)

分娩時観察では、いずれの指標においても対照群と被験物質投与群との間に統計学的に有意差は認められなかった。すなわち、各群の妊娠期間、黄体数、着床痕数、出産児数、出産生児数、性比、4日生存児数および死産児数はほぼ同様な値を示し、出産率、着床率、分娩率、出生率および4日生存率に群間差は認められなかった。その他、対照群の1例に分娩徴候が認められなかったため、妊娠25日に剖検した。その結果、死亡胎児1例の子宮内残留が認められた。

3) 新生児の形態、体重および剖検所見

新生児の外表検査では、外傷(耳介、後肢)が100 mg/kg群の2例に観察されたのみで、その他異常は観察されなかった。

哺育1および4日の体重は雌雄ともに群間差がなく統計学的有意差は認められなかった。

死産児および哺育4日までの死亡児の剖検では、主要器官の異常は認められなかった。哺育4日の剖検では、肝臓の奇形結節(過形成)が300 mg/kg群の1例に観察されたのみでその他異常は観察されなかった。

考察

1. 反復投与毒性

一般状態には被験物質投与の影響は認められず、死亡例も観察されなかった。

体重および摂餌量は雌雄ともに群間で差はなく被験物質投与の影響は認められなかった。

雄の血液学的検査では、いずれの検査項目においても被験物質投与の影響と考えられる変化はなかった。血液化学的検査では、300および1,000 mg/kg群でアルブミンの増加に伴う総蛋白の増加および総ビリルビンの増加が認められ、さらに1,000 mg/kg群で血糖値の減少が認められた。これら、1,000 mg/kg群で認められたアルブミン、総蛋白および総ビリルビンの増加は、肝臓に対する影響を示唆するものであり、被験物質投与の影響と考えられた。

器官重量は雌においては被験物質投与の影響が認められなかったが、雄では300および1,000 mg/kg群で肝臓の実重量および相対重量が増加し、さらに1,000 mg/kg群で腎臓の実重量および相対重量が増加した。また、300 mg/kg群では統計学的有意差は認められないものの腎臓の実重量および相対重量が増加傾向を示した。肝臓重量の増加に関連する剖検所見として、雄の1,000 mg/kg群で12例中2例に肝臓の肥大が観察され、被験物質投与の影響と考えられた。組織学検査では、肝臓の肥大を裏付ける明確な形態的変化は認められず、光顕所見には現われない程度の機能的増大による肥大と考えられる。その他、腎臓の蛋白円柱と硝子滴変性が病変の程度としては軽度ではあるが雄の1,000 mg/kg群で発生数の増加または増加傾向を示した。また、同群の腎尿細管上皮の中等度好塩基性化は11例中4例に観察された。これら腎臓の変化は、被験物質投与による特異的な変化ではなく、対照群にも観察されるような自然発生的な病変が雄では被験物質投与により増強されたものと考えられた。分娩不能動物、交尾不成立動物および妊娠不成立動物の組織学検査では、それぞれの原因に関連すると考えられる異常所見は認められなかった。

以上のことから、2, 2−ジメチル−1, 3−プロパンジオールは、300 mg/kg/day以上の投与で雄の場合、肝臓および腎臓重量の増加または増加傾向、また、1,000 mg/kg/day投与でアルブミンの増加に伴う総蛋白の増加および総ビリルビンの増加、血糖値の減少、腎臓の蛋白円柱、硝子滴変性数の増加または増加傾向、尿細管上皮の好塩基性化の程度の増強および肝臓の肥大を誘起した。雌では1,000 mg/kg/day投与によっても認められなかった。したがって、反復投与毒性の最大無影響量は、雄では100 mg/kg/day、雌では1,000mg/kg/dayと判断された。

2. 生殖発生毒性

交尾能および受胎能に被験物質投与の影響は認められなかった。性周期観察で、1,000 mg/kg群の平均性周期に統計学的有意差が認められたが、1例が平均5.3日と長く、その他の動物では対照群と同様な性周期を示していることから被験物質投与の影響はないと判断された。

分娩時観察では、対照群の1例を除き、妊娠動物の全例が正常に分娩し、哺育期間を通じ被験物質投与の影響は認められなかった。また、新生児の外表検査でも被験物質投与によると考えられる異常はなく、体重も哺育4日まで群間に差はなく順調に増加した。

死産児および哺育4日までの死亡児ならびに哺育4日の剖検では、被験物質投与によると考えられる異常所見は認められなかった。

以上のことから、2, 2−ジメチル−1, 3−プロパンジオールの雌雄の生殖に及ぼす影響および児動物の発生に及ぼす影響は、1,000 mg/kg/day投与によっても認められず、最大無影響量はともに1,000mg/kg/dayと判断された。

文献

1)Govt. Reports Announcements & Index, NTIS/PB 89-215776 (1982).
2)C. G. Shayne and S.W.Carrol, "Statics and Experimental Design For Toxicologists," Telford Press, 1986.
3)佐久間昭 "薬効評価 I−計画と解析−," 東京大学出版会, 1977.
4)石居進, "生物統計学入門," 培風館, 1975.

連絡先:
試験責任者萩田孝一
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