分娩後に,被験物質各投与群で自発運動減少,眼瞼下垂,立毛,削痩など全身状態の不良が少数例に認められ,300 mg/kg投与群では1例が哺育4日に瀕死状態に至り,また,1000 mg/kg投与群では3例が哺育4,14あるいは16日に死亡した.これらのうち,1000 mg/kg投与群については,腎臓の病理組織学検査において,腎盂の拡張および腎盂移行上皮の過形成,管腔および間質における好中球の顕著な浸潤が認められ,腎盂腎炎と類似した病変が観察されたことから,被験物質投与による影響が疑われた.これに対し,300 mg/kg投与群の瀕死例に認められた所見は,腎臓の近位尿細管の変性,壊死および空胞変性であり,1000 mg/kg投与群にみられた所見とは異なるものであったことから,被験物質投与による影響である可能性は乏しいものと判断された.これらの動物を含めてその他の動物については,一般状態に異常は認められず,体重増加および摂餌量には被験物質投与の影響は認められなかった.また,下垂体,甲状腺,卵巣,子宮,頸部,腟および腎臓の病理組織学所見にも被験物質投与の影響は認められなかった.
投与検体は,各濃度毎に秤量した被験物質に,媒体としたコーン油(ナカライテスク(株),製造番号:V8N6540およびV9F1299)を加えて攪拌することにより懸濁して調製し,冷蔵保管して使用した.投与検体中に含まれる被験物質の含量および均一性は,秦野研究所において確認した.
動物は,基準温湿度各24 ± 1 ℃,および50-65 %,換気回数約15回/時間,照明12時間(7-19時点灯)に制御された飼育室で,金属製金網床ケージに個別に収容して飼育し,固型飼料(CE-2,日本クレア(株)および飲料水(水道水,秦野市水道局給水)を自由に摂取させた.妊娠14日(腟栓あるいは精子発見日=妊娠0日)以後の母動物は,プラスチック製ラット用繁殖ケージに収容し,床敷として紙パルプ製チップ(ALPHA-dri,加商(株)を適宜供給した.
各用量の投与検体は,各群の動物に対して剖検の前日まで毎日1回,調製検体をマグネティックスターラーで攪拌しながらラット用胃管を用いて経口投与した.すなわち,雄に対しては交配前10週間から最長3週間の交配期間を経て剖検前日に至るまでの連続98日間,また,雌に対しては交配前2週間,交尾までの交配期間,妊娠期間,哺育20日(分娩日=哺育0日)まで投与した.毎日の投与は,一定時刻の間(9-13時)に行い,各動物の投与液量(5 mL/kg)は,雄および交配前,交配期間中の雌では週1回測定される体重を基準とし,交尾後の雌では妊娠0,7,14,20日の体重を,分娩後の雌では哺育0,4,7,14日の体重を基準にそれぞれ算出した.
雌は全例について,交尾を確認するまでは週1回(投与1,8,15,22日),交尾確認後は,妊娠0,7,14,20日に,分娩後は哺育0,4,7,14,21日に測定した.これらのうち,投与22日については,交尾が確認されていない動物についてのみ測定したので評価の対象から除外した.
雌は全例について,交配前期間は投与2-3および9-10日,交尾確認後は,妊娠0-7,7-14,14-20日に,分娩後は哺育0-4,4-7,7-14,14-21日に測定した.
交配結果から,各群について交尾率[(交尾動物数/同居動物数)×100],受胎率[(受胎動物数/交尾動物数)×100],同居開始日から交尾確認日までの日数およびその間に回帰した発情期の回数を求めた.なお,交配前期間中の死亡および瀕死剖検により,交配開始時に対照群および1000 mg/kg投与群の,それぞれ,1および5例の雄動物が不足したため,これらの動物との交配を予定していた雌動物については,交配開始日を投与17日に延期して,同群内の既に交尾が確認されている雄動物と交配させた.
分娩の確認は,妊娠20日から妊娠25日までの9-11時に行い,腟からの出血あるいは受胎産物の娩出といった分娩徴候の有無を観察した.分娩の直接観察が可能な例については分娩状態を観察した.直接観察ができなかった例については,分娩完了後の一般状態から分娩困難の有無を判断して記録した.
分娩完了を確認した日を分娩日とし,それを哺育0日と規定して,分娩を確認した全例について,妊娠期間(妊娠0日-分娩日の日数)を算定し,出産率[(生児出産雌数/妊娠動物数)×100]を各群について求めた.また,哺育1日から毎日,哺育状態を観察した.
投与98日まで生存した動物は,その翌日に全例をペントバルビタールナトリウム麻酔下で放血・致死させて剖検した(定期解剖).剖検では,胸腹部主要器官の異常の有無を肉眼的に確認し,異常が観察された組織は,0.1 Mリン酸緩衝10 vol%ホルマリン溶液で固定して保存した.また,下垂体,甲状腺,精巣,精巣上体,凝固腺,精嚢および前立腺,ならびに,雄の剖検日以前に瀕死屠殺した雌において異常の認められた腎臓,胃,脾臓,胸腺および副腎を摘出し,異常の有無を肉眼的に確認した後,精巣および精巣上体はブアン液で固定し(長期保存は0.1 Mリン酸緩衝10 vol%ホルマリン溶液),その他は0.1 Mリン酸緩衝10 vol%ホルマリン溶液で固定して保存した.これらのうち,異常の認められた組織については常法に従ってパラフィン切片とし,ヘマトキシリン-エオジン染色を行って病理組織標本を作製し,検査した.また,全例について下垂体,甲状腺,精巣,精巣上体,精嚢,前立腺腹葉および凝固腺の病理組織標本を作製し,対照群および高用量群の全例,ならびに中および低用量群において交尾した雌が妊娠しなかった例について検査した.また,剖検において高用量群の動物に腫大が認められた腎臓についても病理組織標本を作製し,対照群および高用量群の全例について検査した.
生存例のうち,分娩した例は哺育21日に,交尾したが分娩しなかった例は妊娠25日相当日に,致死量のペントバルビタールナトリウム麻酔下で,放血により致死させ,剖検し,胸腹部主要器官の異常の有無を肉眼的に確認した.その際,異常が観察された組織は0.1 Mリン酸緩衝10 vol%ホルマリン溶液で固定して保存した.また,子宮を摘出し,着床痕数を肉眼的に数えた後,0.1 Mリン酸緩衝10 vol%ホルマリン溶液で固定して保存した.これらの他,下垂体,甲状腺,卵巣,頸部および腟,ならびに死亡および瀕死動物の剖検時に異常の認められた腎臓,心臓,胃,脾臓,胸腺および副腎についても摘出し,異常の有無を肉眼的に確認した後,卵巣はブアン液で固定し(長期保存は0.1 Mリン酸緩衝10 vol%ホルマリン溶液),その他の器官・組織は0.1 Mリン酸緩衝10 vol%ホルマリン溶液で固定して保存した.異常が観察された組織は常法に従ってパラフィン切片とし,ヘマトキシリン-エオジン染色を行って病理組織標本を作製し検査した.また,下垂体,甲状腺,卵巣,子宮,頸部および腟は対照群および高用量群の全例,ならびにその他の投与群において不妊であった例について病理組織標本を作製して検査した.さらに,腎臓については,中用量群の瀕死屠殺例の剖検においても異常が観察されたので,全例について病理組織標本を作製して検査した.
同腹生児数の調整により生じた余剰児は,エーテルを吸入させて致死させた後,剖検し,10 vol%ホルマリン溶液に固定して保存した.
生存児は,全例を生後21日にエーテル吸入により致死させて剖検した.その際,異常が認められた器官は0.1 Mリン酸緩衝10 vol%ホルマリン溶液に固定して保存した.
雌では,分娩するまでは,被験物質の用量とは無関係に脱毛あるいは痂皮形成が対照群を含む各群に散見されたのみであった.しかし,分娩後に一般状態の異常を示す動物が100 mg/kgに2例,300 mg/kgに1例,1000 mg/kgに3例認められた.これらのうち,100 mg/kgの1例は,哺育1日から翌日に全出生児が死亡するまでの間,外陰部/下腹部の被毛汚染および立毛が観察された.他の1例は,哺育3日に半眼状態が観察された.また,この日から,自発運動の減少,耳介の蒼白および削痩が観察され,翌日には顔面の被毛汚染および体表温低下も認められた.これらのうち,削痩は,全出生児が死亡した日の前日である哺育7日まで観察された.300 mg/kgの1例は哺育1日から3日に至るまで赤色尿の排泄および立毛が観察され,哺育2日には,全出生児が死亡した.さらに,哺育4日には,削痩,自発運動の減少,外陰部/下腹部の被毛汚染および体表温低下が認められたため,瀕死状態と判断して剖検した.1000 mg/kg投与群では,哺育9日までは脱毛以外に一般状態の変化は観察されなかった1例が,哺育10日から削痩して哺育14日に死亡した.また,1例は,哺育3日に立毛が認められ,翌日死亡した.別の1例には,哺育4日に削痩および自発運動の減少が観察された.本例の自発運動減少は翌日には一旦回復したが,削痩は,哺育16日に死亡するまで,継続して認められた.この間,哺育12日からは自発運動減少が再び観察され,哺育15日には,全出生児が死亡した.これらの他に,対照群の1例の哺育1日に全出生児死亡が認められた.
雌においても交配前,妊娠期および哺育期のいずれの時期についても,体重増加および摂餌量に被験物質投与の影響は認められなかった.
生存例の定期解剖では,精巣および精巣上体の小型化が対照群および1000 mg/kg投与群に各1例,精巣の小型化が1000 mg/kg投与群に1例観察された.生殖器官以外では,対照群の3例に脱毛が認められ,100 mg/kg投与群の1例に痂皮が観察された.100 mg/kg投与群では,腎盂の拡張が1例に認められ,100 mg/kgおよび300 mg/kg投与群では肺の黒色点が1例ずつ認められた.また,1000 mg/kg投与群では腎臓の腫大,淡色化,表面の粗造化および腎盂の拡張が1例に,腫大あるいは淡色化が1例に認められた.
(下垂体)
いずれの動物にも異常は観察されなかった.
(精巣および精巣上体)
妊孕性が確認されなかった例については,対照群および300 mg/kg投与群に異常は認められなかった.100 mg/kg投与群では2例中1例の片側に精細管の萎縮が認められたが,他の例に異常は認められなかった.1000 mg/kg投与群の例では,両側精巣にライディッヒ細胞の瀰漫性過形成を伴う精細管の萎縮が認められた.本例の精巣上体の管腔には精子がほとんど観察されず,細胞残屑が認められた.
妊孕性が確認された例については,対照群および1000 mg/kg投与群の各1例の精巣に精母細胞の変性が観察された.精巣上体については,1000 mg/kg投与群の1例の管腔内に細胞残屑が認められた.これらの異常の程度および頻度については対照群と1000 mg/kg投与群との間で有意差は認められなかった.
(精嚢)
いずれの例にも異常は観察されなかった.
(前立腺腹葉)
妊孕性が確認されなかった例については,300 mg/kg投与群に異常は認められなかった.対照群の例,100 mg/kg投与群の2例中1例および1000 mg/kg投与群の例の間質にはリンパ球浸潤が観察された.同様の所見は,対照群および1000 mg/kg投与群の授胎能が確認された例についても認められた.また,これらの投与群には,上皮あるいは管腔内に好中球の浸潤も観察されたが,いずれの所見についても,対照群と1000 mg/kg投与群との間で有意差は認められなかった.
(凝固腺)
いずれの例にも異常は観察されなかった.
(甲状腺)
妊孕性が確認されなかった対照群の例および300 mg/kg投与群の3例中1例に異所性の胸腺組織が観察された他に異常は認められなかった.
(腎臓)
対照群および1000 mg/kg投与群のいずれにも,eosinophilic body,鉱質沈着および皮質における好塩基性尿細管が認められたが,両群間に有意差は認められなかった.また,1000 mg/kg投与群の2例には腎盂の拡張が観察され,それらのうち,剖検時に表面の粗造化を伴う腫大が認められた例には,遠位尿細管の拡張が認められ,皮質の好塩基性尿細管が他の例と比較して多く観察された.
(剖検時異常器官)
異常が観察された100 mg/kgおよび300 mg/kg投与群の各1例の肺については,100 mg/kg投与群の例に限局性の出血,リンパ球および好中球の浸潤,ならびに泡沫細胞の集簇が観察されたが,300 mg/kg投与群の例に異常は認められなかった.また,脱毛が観察された対照群の皮膚のうち,2例に限局性の毛胞の減少が認められたが,他の1例に異常は観察されなかった.痂皮の観察された100 mg/kg投与群の皮膚には痂皮が認められ,真皮および皮下織にリンパ球およびマクロファージの著しい浸潤が観察された.
生存例では,対照群において1例の肺の右葉に水腫が認められた.100 mg/kg投与群では,2例の肝臓に横隔膜結節が認められた.300 mg/kg投与群の腎臓には,1例には右側の欠損を伴う左側の腫大が,別の1例には淡色化が認められた.1000 mg/kg投与群では,1例の右側腎臓の皮質に嚢胞が認められた.不妊例については,対照群の例に子宮角および頸部に水様性の内容物の貯留を伴う腫大が観察された他に異常は認められなかった.
生存例の各器官および組織に認められた所見を以下に示す.
(下垂体)
いずれの動物にも異常は観察されなかった.
(甲状腺)
いずれの動物にも異常は観察されなかった.
(卵巣)
いずれの動物にも異常は観察されなかった.
(子宮角および頸部)
いずれの動物にも異常は観察されなかった.
(腟)
いずれの動物にも異常は観察されなかった.
(腎臓)
皮質の好塩基性尿細管ならびに皮質および髄質の鉱質沈着が各群に認められた他,腎盂の拡張が100 mg/kg投与群を除く各群に認められた.また,100 mg/kg投与群では,皮質遠位尿細管の限局性の拡張が1例に認められた.これらの他に,間質のリンパ球浸潤が100 mg/kg投与群に1例および1000 mg/kg投与群に4例認められ,1000 mg/kg投与群では対照群との間に有意差(p<0.05)が認められた.これらのうち1000 mg/kg投与群の1例では,乳頭部の集合管が限局性に嚢胞状に拡張し,腎盂には泡沫細胞が,皮質および髄質には明らかな嚢胞が認められ,皮質には限局性の線維化も認められており,間質のリンパ球浸潤はこれらの病変に随伴した変化であった.一方,その他の例については,リンパ球浸潤を随伴する病変は認められず,また,変化の程度も100 mg/kg投与群と同等の軽度なものであった.
(剖検時異常器官)
剖検時に水腫が観察された対照群の肺には,泡沫細胞の集簇と異物巨細胞が認められた.また,横隔膜結節の観察された100 mg/kg投与群の2例の肝臓には,被膜に限局性の線維化が認められた.
生存性については,出生日に発見された死亡児は,対照群では4例全例が死産であったのに対し,100 mg/kg投与群では17例中12例,300 mg/kg投与群では15例中13例,1000 mg/kg投与群では6例中3例が死産と判定された.これら死産児の頻度には対照群と被験物質各投与群との間で有意差は認められなかった.また,上記のように対照群を含む各群に全出生児死亡が認められたが,産児数,分娩率,出生日ならびに生後4および21日における生存児数,生児出産率,出生率,新生児の4日の生存率には,被験物質各投与群と対照群との間で有意差は認められなかったが,離乳率については,100 mg/kg投与群においてのみ有意(p<0.05)な低下が認められた.各時期の性比については被験物質各投与群と対照群との間で有意差は認められなかった.
死亡児,同腹生児数調整における余剰児,ならびに生後21日の剖検では,対照群を含む各群の1-4腹の出生児に変異および奇形を含む形態変化が認められた.これらのうち,外表奇形については,対照群の1腹の1例(生後4日余剰児)に曲尾が認められた.100 mg/kg投与群では,生存産児の形態観察において外表奇形が多発していた1腹の1例(死亡児)に短躯,内反足および短尾が,同腹の生後4日余剰児に曲尾および痕跡尾が各1例ならびに短曲尾が2例,生後21日剖検児に短曲尾が1例認められた.また,別の1腹の生後4日余剰児に曲尾が1例認められた.300 mg/kg投与群に外表奇形は認められなかった.1000 mg/kg投与群では,生存産児の形態観察において外表奇形の認められた1腹の生後4日余剰児に肛門小孔および無尾が1例,曲尾が1例認められ,別の1腹の生後4日余剰児に曲尾が2例観察された.内臓奇形については,100 mg/kg投与群で短躯などの外表奇形が認められた死亡児に左右腎臓の部分癒合および心尖の二分が,別の1腹において生後21日剖検児に水腎が1例観察された.これらの他に,内臓変異のひとつである腎盂の拡張が,対照群を含む各群に観察された.形態変化を認めた出生児の総数を求め,その割合を対照群と被験物質各投与群との間で比較すると,これらの変化を認めた出生児の割合は,外表に関しては100 mg/kg投与群が有意(p<0.05)に増加したが,内臓に関しては有意差は認められなかった.
本被験物質の安全性に関しては,ラットに対するLD50値は,経口投与では6400 mg/kgであり1),腹腔内投与では440 mg/kgであること9)が報告されている.1,1'-アゾビスホルムアミドの粉砕に携わる労働者に喘息発作の発生が認められているが,ラットに対して13週間吸入曝露しても毒性は認められていない10).また,通常添加量の10倍の1,1'-アゾビスホルムアミドを含む小麦粉で製造したパンをラットに2年間,3世代に亘って混餌投与しても,毒性変化は認められていない11).パンの製造過程で小麦粉に水が加えられる,あるいは吸入曝露により生体に取り込まれると,1,1'-アゾビスホルムアミドは直ちに分解されてビウレアになること12)から,ビウレアについても,パンにおける通常の残留量の1000倍量を用いて同様の実験が行われたが,ラットでは毒性は認められていない11).また,これにより高濃度(10 vol%)にビウレアを含む餌を1年に亘ってイヌ,あるいはラットに与えても,イヌには腎病変が誘発されるが,ラットではそうした変化は認められていない11).一方,1,1'-アゾビスホルムアミドの化学構造は,抗甲状腺作用を有するアミノトリアゾールに類似していることから,これと類似した作用のあることが疑われた.しかし,1,1'-アゾビスホルムアミドを10 vol%含む餌でラットを4週間曝露して初めてヨード取り込み量がやや上昇する程度のきわめて弱い抗甲状腺活性しか示されていない13).今回,本試験では,雄に対して98日間にわたり毎日1,1'-アゾビスホルムアミドを経口投与したが,一般状態,体重増加,摂餌量,病理検査のいずれの項目にも用量に依存した変化は認められなかった.また,生殖能力に関しても投与の影響は認められなかった.
雌では,分娩するまでは,一般状態,体重増加,摂餌量に被験物質の投与による影響は認められなかった.性周期,交配成績および分娩状態にも投与の影響は認められず,分娩後の体重増加および摂餌量にも投与の影響は認められなかった.しかし,各用量の投与群において分娩後に全身状態の悪化を示す動物が認められ,300 mg/kgおよび1000 mg/kgの投与群では瀕死あるいは死亡例が認められた.これらの例では,腎臓に重篤な病変が認められたことから,腎不全により死亡したものと判断されたが,腎病変の組織像は両投与群の間で異なっていた.すなわち,300 mg/kg投与群では,近位尿細管上皮の変性および壊死を基調とする病変であったが,1000 mg/kg投与群では,腎盂の拡張および腎盂移行上皮の過形成,管腔および間質における好中球の顕著な浸潤が認められ,腎盂腎炎と類似した病変が観察された.これらのことから,腎病変の原因は両投与群間で異なる可能性があるものと考えられた.
1,1'-アゾビスホルムアミドの生体内分解産物であるビウレアを10 vol%含有する餌をイヌに1年間に亘って与えると,難溶性のビウレアが沈着して腎結石および膀胱結石を生じさせ,それによって腎盂腎炎を発症することが報告されている11).同実験では,ラットに対してビウレアを2500 ppm含有する餌を,妊娠および哺育期間を含む多世代に亘って与えた成績も報告しているが,腎病変は発生していない.しかし,本試験では,分娩および泌乳という腎機能に大きな負荷の生じる時期に,高濃度の1,1'-アゾビスホルムアミドを投与したこと,ならびに,1000 mg/kg投与群における死亡例の一部には結石を伴う腎盂の拡張も肉眼的に観察されたことから,1000 mg/kg投与群の雌動物における死亡は1,1'-アゾビスホルムアミドの投与による影響である可能性が考えられる.一方,300 mg/kg投与群における腎病変は近位尿細管を主体とするものであり,類似した病態は本例以外に全く認められず,用量に依存した変化ではなかった.従って,1,1'-アゾビスホルムアミドの影響である可能性は低いと考えられる.
体重kg当たり10 mLのコーン油を,繁殖用飼料で飼育している雌ラットに,妊娠前から妊娠期および周産期に至るまで経口投与すると,300 mg/kg投与群の瀕死例にみられたものと類似した腎病変が分娩後のラットに認められることが報告されている14).本試験では,体重kg当たり10 mLのコーン油を投与しても腎病変の認められなかった飼料を使用し,体重kg当たり5 mLのコーン油を投与した.しかし,妊娠中期以降の体重増加は著しく,投与液量も急激に増加した.こうした妊娠期の急激な投与液量の増加も,300 mg/kg投与群にみられた腎病変の発生に関与している可能性が考えられる.
1000 mg/kg投与群において雌の腎臓に間質のリンパ球浸潤が認められた.本所見が観察された例のうち,1例は,皮質および髄質の明らかな嚢胞形成,ならびに皮質の限局性線維化に付随した変化であった.これは1例のみに観察された病変であり,同系統のラットに自然発生するものであることから,投与による影響ではないと考えられる.その他の例については,いずれも100 mg/kg投与群にみられた変化と同様の軽度な変化であり,それに付随する病変も認められなかったことから,被験物質投与との関連性は乏しいものと考えられる.
変異および奇形を含む出生児の形態変化は,対照群を含む各群に観察された.観察された変化の出現頻度,およびこうした形態変化を有する出生児の頻度について,用量に依存した変化は認められなかったことから,1,1'-アゾビスホルムアミド投与は出生児の形態に影響を及ぼさないものと考えられる.
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14) | M. Sato, K. Wada, H. Marumo, T. Nagao, K. Imai, H. Ono, Toxicol. Sci., 56, 156(2000). |
連絡先 | |||
試験責任者: | 代田眞理子 | ||
試験担当者: | 関 誠,佐藤昌子,田子和美 | ||
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