連続処理(24時間)および短時間処理(6時間)における50 %細胞増殖抑制濃度は,連続処理では0.15 mg/mL,S9 mix非存在下およびS9 mix存在下における短時間処理ではそれぞれ0.41 mg/mLおよび0.15 mg/mLであった.従って,各系列での処理濃度は,50 %細胞増殖抑制濃度の約2倍濃度を最高処理濃度とし,公比2で5濃度設定した.連続処理では,24時間処理後,短時間処理ではS9 mix非存在下および存在下で6時間処理し,新鮮培地で更に18時間培養後,標本を作製し,検鏡することにより染色体異常誘発性を検討した.染色体分析が可能な最高濃度は,24時間連続処理では0.075 mg/mL,S9 mix非存在下および存在下での短時間処理では0.20 mg/mLおよび0.075 mg/mLであったことから,これらの濃度を高濃度群として3濃度群を観察対象とした.
CHL/IU細胞を24時間連続処理した群では,中濃度群(0.038 mg/mL)および高濃度群(0.075 mg/mL)において染色体の構造異常が誘発され,その頻度はそれぞれ6.5 %および21.0 %(gapを除く)であった.S9 mix非存在下の短時間処理では,いずれの処理群においても,染色体の構造異常および倍数性細胞の誘発作用は認められなかった.S9 mix存在下での短時間処理では,高濃度群(0.075 mg/mL)において染色体の構造異常が誘発され,その頻度は11.0 %(gapを除く)であった.倍数性細胞の誘発作用については,傾向性検定で有意差(p<0.01)が認められたが,その誘発頻度が低いことから,陰性と判定した.
以上の結果より,本試験条件下で4-エチルフェノールは,染色体異常を誘発する(陽性)と結論した.
その結果,連続処理における50 %細胞増殖抑制濃度は0.15 mg/mL,S9 mix非存在下および存在下における短時間処理では,それぞれ0.41 mg/mLおよび0.15 mg/mLであった(Fig. 1).
染色体異常試験においては1濃度あたり4枚のディッシュを用い,そのうちの2枚は染色体標本を作製し,別の2枚については単層培養細胞密度計により細胞増殖率を測定した.
作製したスライド標本のうち,1つのディッシュから得られた異なるスライドを,4名の観察者がそれぞれ処理条件が分からないようにコード化した状態で分析した.染色体の分析は,日本環境変異原学会・哺乳動物試験研究会(MMS) 1)による分類法に基づいて行い,染色体型あるいは染色分体型のギャップ,切断,交換などの構造異常の有無と倍数性細胞(polyploid)の有無について観察した.また構造異常については1群200個,倍数性細胞については1群800個の分裂中期細胞を分析した.
染色体異常を有する細胞の出現頻度について,溶媒対照群と被験物質処理群および陽性対照群間でフィッシャーの直接確率法2)により,有意差検定を実施した (p<0.01).また,用量依存性に関してコクラン・アーミテッジの傾向性検定3) (p<0.01)を行った.これらの検定結果を参考とし,生物学的な観点からの判断を加味して染色体異常誘発性の評価を行った.
短時間処理による染色体分析の結果をTable 2に示した.4-エチルフェノールを加え,S9 mix非存在下で6時間処理したいずれの処理群においても,染色体の構造異常および倍数性細胞の誘発作用は認められなかった.S9 mix存在下で6時間処理した場合は,高濃度群(0.075 mg/mL)で有意な染色体異常の増加が認められ,その頻度は11.0 %(gapを除く)であった.また,中および高濃度群(0.038 mg/mLおよび0.075 mg/mL)において,倍数性細胞の出現頻度に有意差が認められ,傾向性検定(p<0.01)でも有意差が認められたが,その誘発頻度が1.50〜1.63%と低いことから,陰性と判定した.
従って,4-エチルフェノールは,上記の試験条件下で,試験管内のCHL/IU細胞に染色体異常を誘発すると結論した.
フェノール類のうち,側鎖に炭化水素を有している化合物の一つである4-(1-メチルプロピル)フェノールについては,染色体異常を誘発しないことが報告されている4).一方,ρ-tert-ブチルフェノールは,染色体の構造異常を誘発することに加え,倍数性細胞の高頻度誘発 (最高出現頻度:93.18 %)が特徴的である5).また,本試験と平行して実施した,3-エチルフェノールの染色体異常試験結果についても陽性の結果が得られている6)が,本物質の結果とは異なり,代謝活性化の処理系列においてのみ構造異常の誘発が認められている.これらのことから,側鎖に炭化水素を有するフェノール類は,炭化水素の結合位置および種類が染色体異常の発現と関わっており,発現する異常のタイプ(構造異常および倍数性細胞)または細胞に対する作用様式を決定している可能性が示唆された.
1) | 日本環境変異原学会・哺乳動物試験分科会編,“化学物質による染色体異常アトラス,”朝倉書店,東京,1988, pp. 16-37. |
2) | 吉村功編,“毒性・薬効データの統計解析,事例研究によるアプローチ,”サイエンティスト社,東京,1987, pp. 76-78. |
3) | 吉村功,大橋靖夫編,“毒性試験講座14,毒性試験データの統計解析,”地人書館,東京,1992, pp. 218-223. |
4) | 田中憲穂,化学物質毒性試験報告,2, 347(1995). |
5) | 田中憲穂,化学物質毒性試験報告,4, 301(1996). |
6) | 日下部博一,化学物質毒性試験報告,8, 764(2001). |
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試験担当者: | 日下部博一,佐々木澄志,高橋俊孝,若栗 忍,橋本恵子 | ||
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