3-アミノベンゼンスルホン酸のラットを用いる単回経口投与毒性試験
Single Dose Oral Toxicity Test of 3-Aminobenzenesulfonic acid in Rats
要約
3-アミノベンゼンスルホン酸(CAS No.121-47-1)の500,1000および2000mg/kgをラットに経口単回投与し,その毒性について試験を実施して,以下の知見を得た.
死亡例は雌雄ともに認められず,LD50値は2000mg/kg以上と推察された.一般状態では,500mg/kg以上の群の雌雄で,軟便あるいは下痢が投与日あるいは投与後1日に,黄色尿が投与日に認められたが,体重推移,剖検および病理組織学的検査では,雌雄ともに被験物質投与による影響は認められなかった.
方法
1.動物および飼育条件
生後4週齢のCrj:CD(SD)系のSPFラットを,日本チャールス・リバーより受け入れ,7日間の馴化飼育後,順調な発育を示した動物を試験に用いた.
動物は,温度23±3℃ ,湿度55±10%,換気回数10〜15回/時間および照明時間午前8時〜午後8時に設定された飼育室において,ブラケット式金属製金網床ケージに収容して飼育した.飼料は固型飼料(CRF-1、オリエンタル酵母工業)を,飲料水は水道水をそれぞれ自由摂取させた.飼料の混入物質および飲料水の水質について検査を実施し,異常のみられないことを確認した。
2.被験物質
3-アミノベンゼンスルホン酸(Lot No.:20060,純度:98.6%,製造者:三和化学工業)は,染料の製造過程の中間体で,水に溶けにくい無臭の白ないし薄い灰色の粉末である.被験物質は試験実施期間中の品質が保証されており,密閉容器にいれ,湿気,直射日光を避けて冷暗所に保管した.投与液は,被験物質濃度が5,10および20w/v%となるように0.5%カルボキシメチルセルロースナトリウム溶液(以下,0.5%CMC-Na溶液,日本薬局方 CMC-Na,丸石製薬;日本薬局方精製水,ヤクハン製薬)で懸濁して用時調製した.
3.試験群の設定
本試験の用量設定試験では,2000,1000および500mg/kg,0.5%CMC-Na 溶液(対照)をラットに投与し,投与後5日間の観察において雌雄ともに2000mg/kg投与により死亡が認められなかったため,用量設定試験の観察期間を投与後14日まで延長し,本試験の成績とした.なお,1群の動物数は雌雄各5匹とし,投与前日に各群の体重が均一になるように体重別層化無作為抽出法により群分けした.
4.投与方法
投与経路は経口とし,投与は動物を約17〜19時間絶食させた後,胃ゾンデを用いて強制的に胃内に1回行った.投与容量は,体重1kg当たり10mlとして投与日に測定した体重に基づいて算出した.投与時の週齢は雌雄ともに5週齢で,平均体重(体重範囲)は雄で122.7g(114〜126g),雌で101.3g(92〜109g)であった.
5.観察,測定および検査項目
(1) 一般状態観察および体重測定
一般状態は,投与日は投与後6時間までは頻繁に,投与後1日以降は1日1回以上の頻度で投与後14日まで観察した.体重は,投与日,投与後1,3,5,7,10および14日に測定した.
(2) 剖検および病理組織学的検査
全例について投与後14日にエーテル麻酔下で放血致死させ,剖検した.病理組織学的検査は,各群の雌雄各2例の肝臓,腎臓,脾臓,心臓,肺,脳(大脳・小脳),胃(前胃・腺胃),十二指腸,空腸,回腸,盲腸,結腸および直腸について,10%中性緩衝ホルマリン液で固定し,パラフィン包埋後薄切し,ヘマトキシリン・エオジン染色標本を作製して実施した.
6.統計処理
死亡率を算出した.体重についてBartlettの検定法によって分散を検定した.その結果,等分散(P>0.05)を示した場合は一元配置分散分析法によって解析し,有意な場合(P<0.10)には,Dunnettの検定法により対照群と被験物質投与群との比較を行った.不等分散(P<0.05)を示した場合はKruskal-Wallis法により解析し,有意な場合(P<0.10)には,Mann-WhitneyのU-検定法により対照群と被験物質投与群との比較を行った.なお,対照群との検定は危険率5%以下を統計学的に有意とした.
結果
1.死亡状況およびLD50値
雌雄ともに,いずれの群においても死亡は認められず,LD50値は2000mg/kg以上と推察された.
2.一般状態
投与日には500mg/kg以上の群の雌雄に黄色尿がみられ,さらに軟便,下痢便あるいは粘液便が500mg/kg以上の群の雌および2000mg/kg群の雄に認められ,また,これに付随して肛門周囲の被毛汚染が1000mg/kg以上の群の雌および2000mg/kg群の雄に認められた.投与後1日には,軟便が500mg/kg以上の群の雌雄に,下痢便が1000mg/kg以上の群の雌雄に認められたのみであり,投与後2日以降には症状は認められなかった.
3.体重(Table 1,2)
雌雄ともに,いずれの群においても対照群とほぼ同じ体重推移を示した.
4.剖検および病理組織学的検査
雌雄ともに,いずれの群においても異常は認められなかった.
考察
死亡例は雌雄ともにいずれの群においても認められず,LD50値は2000mg/kg以上と推察された.
軟便あるいは下痢が2000mg/kg群の雄および500mg/kg以上の群の雌で投与日あるいは投与後1日に認められた.本被験物質の14日間反復経口投与試験では,1000mg/kg 群において投与期間中(非絶食)に軟便・下痢は認められなかったが,剖検前絶食の翌日に雄の2例で軟便が認められたことから,本試験における軟便・下痢は絶食下での被験物質投与に起因するものと考えられた.なお,同症状は投与後2日以降は認められず,体重低下なども認められなかった.他に,正常尿を色濃くした程度の黄色尿が,投与日に500mg/kg以上の群の雌雄で認められた.しかし,剖検や腎臓の病理組織学的検査では形態的異常は認められず,また,同様の所見の認められた本被験物質の300および1000mg/kgの14日間反復投与においても,尿定性および尿量に変化は認められていないことから,黄色尿は被験物質の排泄に起因する可能性も考えられ,毒性学的には重要な変化とは考えられなかった.剖検および病理組織学的検査では,被験物質投与による影響は認められなかった.
連絡先 |
| 試験責任者: | 釜田 悟 |
| 試験責任者: | 八幡昭子,常見邦順,小林裕幸,岡澤平一 |
| (株)化合物安全性研究所 |
| 〒004 北海道札幌市豊平区真栄363番24号 |
| Tel 011-885-5031 | Fax 011-885-5313 |
Correspondence |
| Authors: | Satoru Kamada (Study director), Akiko Yahata, Kuninori Tsunemi, Hiroyuki Kobayashi, Heiichi Okazawa |
| Safety Research Institute for Chemical Compounds Co., Ltd. |
| 363-24 Shin-ei,Toyohira-ku,Sapporo,Hokkaido,004,Japan |
| Tel +81-11-885-5031 | Fax +81-11-885-5313 | |