試験期間を通じて死亡はみられなかったが,一般状態で250 mg/kg群の雌雄で自発運動の減少,振戦,眼球混濁並びに流涎などがみられた.
体重では,250 mg/kg群の雌雄で体重増加抑制が認められ,これらの群では摂餌量の低値も観察された.
血液学検査では,250 mg/kg群の雌雄で赤血球数,ヘモグロビン量及びヘマトクリット値の増加,雄でプロトロンビン時間及び活性化部分トロンボプラスチン時間の延長,雌で平均赤血球容積,平均赤血球血色素量及び網赤血球率の減少がみられた.
250 mg/kg群の雌雄で総コレステロール,リン脂質及びカルシウムの増加,雄で尿素窒素及びカリウムの増加,雌でGPT活性,トリグリセライド及び総たん白質の増加と,クレアチニン及び塩素の減少がみられた.なお,カルシウムの増加は60 mg/kg群の雌にもみられた.
尿検査では,60 mg/kg群の雌と250 mg/kg群の雌雄で尿pHの低下と摂水量の減少がみられた.更に,250 mg/kg群の雄では,尿量の減少と尿浸透圧の増加がみられた.
病理学的検査では,橋(脳幹),脊髄,坐骨神経,肺,胃,甲状腺,胸腺,脾臓,骨及び骨髄(大腿骨)並びに眼球に変化がみられた.250 mg/kg群の雌雄で坐骨神経及び脊髄における神経線維の変性がみられ,橋(脳幹)及び脊髄の神経細胞では中心性色質融解も認められた.肺ではII型肺胞上皮の肥大が60 mg/kg群の雄と250 mg/kg群の雌雄に,肺胞/血管周囲の炎症細胞浸潤及び泡沫細胞の集簇が250 mg/kg群の雌雄に,肺胞上皮の過形成が250 mg/kg群の雌にみられた.胃では肉眼的な境界縁あるいは前胃の肥厚が60 mg/kg群の雌と250 mg/kg群の雌雄にみられ,病理組織学的には前胃/境界縁の過形成が60及び250 mg/kg群の雌雄に,前胃粘膜下の水腫が60及び250 mg/kg群の雌に,また,前胃/境界縁のびらんが15 mg/kg以上の群の雌にみられた.甲状腺では250 mg/kg群の雌雄で瀘胞上皮の肥大がみられた.胸腺では60 mg/kg群の雌と250 mg/kg群の雌雄で重量の減少が,病理組織学的には萎縮が250 mg/kg群の雄にみられた.脾臓では髄外造血の低下が250 mg/kg群の雄に,大腿骨骨髄では造血の低下が250 mg/kg群の雌にみられた.骨では大腿骨において骨端板の閉鎖が250 mg/kg群の雌雄にみられた.眼球では肉眼的な混濁が250 mg/kg群の雌雄にみられ,病理組織学的には白内障が認められた.
回復群では,上記の変化のうち,坐骨神経及び脊髄における神経線維の変性,一般状態における振戦,体重及び摂餌量の低値,摂水量及び尿量の減少,赤血球数の増加,クレアチニンの減少,大腿骨における骨端板の閉鎖及び骨髄での造血低下並びに眼球の肉眼的混濁及び白内障がみられ,休薬による明らかな回復は認められなかった.その他の変化については消失または軽減され,回復性が認められた.
以上の結果から,本試験条件下におけるトリメチル亜リン酸の無影響量は雄では15 mg/kg/day,雌では15 mg/kg/dayを下回ると考えられた.
容量が5 mL/kg体重となるよう,オリーブ油に溶解して3,12及び50 mg/mL液を調製した.3〜200 mg/mL液は,冷蔵(約4℃)8日後室温6時間,暗所(褐色ガラス瓶)・気密保存で安定であったことから,被験液は最大1週間分を一括して調製し,1日分ずつポリ製遮光瓶に分注して冷蔵庫(約4℃)に保存した.また,投与開始前及び投与終了週の2回,投与に使用する各濃度液について当施設で測定した結果,いずれも濃度は適正であった.
動物は,群分け当日の体重に基づいて層別化し,各群平均体重がほぼ均等となるよう,コンピュータを用いて各群に割り付けた.
動物は,温度23±3℃,相対湿度50±20 %,換気回数1時間当たり10〜15回,照明1日12時間の飼育室で,金属製網ケージに1匹ずつ収容し,固型飼料(放射線滅菌CRF-1,オリエンタル酵母工業(株))及び飲料水(水道水)を自由に摂取させ飼育した.
被験液の投与容量は5 mL/kg体重とし,金属製胃ゾンデを用いて1日1回28日間強制経口投与した.対照群には溶媒(オリーブ油)を同様に投与した.投与容量は最新の体重を基準に算出した.回復期間は14日間とした.
脳,胸腺,心臓,肺(気管支を含む),肝臓,脾臓,腎臓,副腎,精巣,精巣上体,卵巣,子宮
脳,脊髄,坐骨神経,心臓,気管,肺(気管支を含む),胃,十二指腸,空腸,回腸,盲腸,結腸,直腸,肝臓,甲状腺(上皮小体を含む),副腎,胸腺,脾臓,腸間膜リンパ節,顎下リンパ節,腎臓,膀胱,精巣,精巣上体,前立腺,卵巣,子宮,眼球,骨及び骨髄(胸骨・大腿骨),大腿部骨格筋,肉眼的異常部位
雄では,60 mg/kg以下の群では異常はみられなかった.250 mg/kg群では,投与第3週から自発運動の減少及び投与直後の流涎がみられはじめた.その後は,自発運動の減少はほぼ連日少数例に,流涎は投与回数とともに例数が増えて投与終了時ではほとんどの例で観察された.また,投与期間終了時には,自発運動の減少を呈した2例では振戦もみられ,うち1例では眼球混濁(両側性)も観察された.
雌では,60 mg/kg以下の群では異常はみられなかった.250 mg/kg群では,投与第3週から自発運動の減少及び投与直後の流涎がみられはじめた.その後は,いずれの症状も投与回数とともに例数が増え,投与期間終了時では自発運動の減少は半数例に,流涎はほぼ全例に観察された.また,投与第4週には,自発運動の減少を呈した個体では振戦もみられ,一部の動物では粗毛,削痩あるいは眼球混濁(両側性)も観察された.
雌では,250 mg/kg群の6例中3例に自発運動の減少,粗毛,振戦並びに眼球混濁(両側性)がみられ,うち2例では削痩も観察された.このうち,自発運動の減少,粗毛及び削痩は回復7日から14日の間に消失したが,振戦及び眼球混濁は回復期間を通じて観察された.
雌では,60 mg/kg以下の群の体重は,対照群と同様に推移した.250 mg/kg群の体重は,投与18日以降対照群を有意に下回って推移し,投与期間を通じた体重増加量も対照群に比べて有意に低かった.
雌では,250 mg/kg群で赤血球数,ヘモグロビン量及びヘマトクリット値の有意な増加と平均赤血球容積,平均赤血球血色素量及び網赤血球率の有意な減少がみられた.
雌では,250 mg/kg群で赤血球数の増加傾向と平均赤血球容積及び平均赤血球血色素量の有意な減少がみられた.
雌では,15 mg/kg以上の群でカルシウムの有意な増加がみられた.250 mg/kg群ではこれに加えてGPT活性,総コレステロール,トリグリセライド,リン脂質及び総たん白質の有意な増加とAlP活性,クレアチニン及び塩素の有意な減少がみられた.なお,塩素の有意な減少は15 mg/kg群にもみられたが,用量に応じた変化ではなかった.
雌では,250 mg/kg群でAlP活性とクレアチニンの有意な減少がみられた.
雌では,定性的項目において,尿pHの有意な低下が250 mg/kg群にみられ,定量的項目では,摂水量の有意な減少が60及び250 mg/kg群にみられた.
雌では,定性的項目において,尿pHの有意な上昇が60 mg/kg群にみられたが,用量に応じた変化ではなかった.定量的項目では,250 mg/kg群で摂水量の減少傾向及び尿量の有意な減少がみられた.
雌では,胸腺の絶対及び相対重量の有意な減少が60 mg/kg群に,相対重量の有意な減少が250 mg/kg群にみられ,肝臓の相対重量の有意な増加が250 mg/kg群にみられた.更に,卵巣の相対重量の有意な減少が15 mg/kg以上の群に,絶対重量の有意な減少が250 mg/kg群にみられた.
他に,15 mg/kg群の雄で脾臓の絶対重量の有意な減少が,雌で卵巣の絶対重量の有意な減少がみられたが,いずれも用量に関連した変化ではなかった.また,250 mg/kg群において雌雄の脳,心臓,肺,脾臓及び腎臓並びに精巣及び精巣上体で絶対重量の減少と相対重量の増加のいずれかあるいは両方がみられたが,いずれも剖検時の体重の低値に起因する変化と考えられた.
雌では,被験物質投与による変化はみられなかった.
他に,60及び250 mg/kg群の雌の肺,脾臓及び副腎,250 mg/kg群の雌雄の脳及び腎臓,雄の肺,脾臓,精巣及び精巣上体並びに雌の胸腺,心臓,肝臓及び卵巣において絶対重量の減少と相対重量の増加のいずれかあるいは両方がみられたが,いずれも剖検時の体重の低値に起因する変化と考えられた.
雌では,胃の境界縁の肥厚が250 mg/kg群の6例中5例に,前胃の肥厚が60 mg/kg群の6例中2例と250 mg/kg群の全例にみられた.また,250 mg/kg群の1例で粗毛,削痩及び眼球混濁(両側性)が,他の1例で眼球深部暗赤色(片側性)がみられた.
雌では,眼球混濁(両側性)が250 mg/kg群の6例中3例にみられた.また,腺胃の暗赤色点が対照群及び60 mg/kg群の各1例にみられた.
[橋(脳幹)]
ごく軽度または軽度の中心性色質融解が250 mg/kg群の雄4例と雌6例全例にみられた.
[脊髄]
ごく軽度または軽度の中心性色質融解が250 mg/kg群の雄4例と雌5例に,ごく軽度から中等度の神経線維の変性が250 mg/kg群の雌雄全例にみられた.
[坐骨神経]
ごく軽度の神経線維の変性が250 mg/kg群の雌雄全例にみられた.
[肺]
ごく軽度または軽度のII型肺胞上皮細胞の肥大が60 mg/kg群の雄2例と250 mg/kg群の雌雄全例に,ごく軽度の肺胞/血管周囲の炎症細胞浸潤が250 mg/kg群の雄2例と雌1例にみられた.また,ごく軽度または軽度の泡沫細胞の集簇が15 mg/kg群の雄1例及び250 mg/kg群の雄全例と雌3例に,軽度の肺胞上皮の過形成が250 mg/kg群の雌1例にみられた.
[胃]
ごく軽度から中等度の前胃/境界縁の過形成が60 mg/kg群の雄3例と雌5例,250 mg/kg群の雌雄全例に,軽度の前胃粘膜下の水腫が60及び250 mg/kg群の雌各2例にみられた.また,ごく軽度あるいは軽度の前胃/境界縁のびらんが15 mg/kg群の雌1例と60及び250 mg/kg群の雌各2例にみられた.
[甲状腺]
ごく軽度の瀘胞上皮細胞の肥大が250 mg/kg群の雄全例と雌2例にみられた.
[胸腺]
ごく軽度の萎縮が250 mg/kg群の雄1例にみられた.
[脾臓]
雄では,髄外造血が対照群,15及び250 mg/kg群では軽度がそれぞれ4または5例でその他はごく軽度であったのに対し,250 mg/kg群では全例がごく軽度であり髄外造血の低下がみられ,統計学的にも有意な差であった.雌では,対照群と各投与群の間で髄外造血に差はみられなかった.
[眼球]
ごく軽度から中等度の白内障が250 mg/kg群の雄2例と雌5例にみられた.なお,軽度の硝子体の出血が,肉眼的に眼球深部の暗赤色が認められた250 mg/kg群の雌1例にみられたが,病理学的性状から偶発所見と判断した.
[大腿骨(骨髄を含む)]
軽度あるいは中等度の骨端板の閉鎖が250 mg/kg群の雌雄全例にみられた.また,ごく軽度の造血の低下が250 mg/kg群の雌4例にみられた.なお,ごく軽度の造血の低下は15 mg/kg群の雄1例にも認められたが,用量に応じた変化ではなかった.
上記以外の所見は出現状況とその病理学的性状からいずれも偶発所見と判断した.
[橋(脳幹)]
ごく軽度の中心性色質融解が250 mg/kg群の雌1例にみられた.
[脊髄]
ごく軽度から中等度の神経線維の変性が250 mg/kg群の雄雌全例にみられた.
[坐骨神経]
ごく軽度あるいは軽度の神経線維の変性が250 mg/kg群の雄4例と雌全例にみられた.
[肺]
ごく軽度のII型肺胞上皮細胞の肥大が250 mg/kg群の雌雄各3例に,ごく軽度の肺胞/血管周囲の炎症細胞浸潤が250 mg/kg群の雄2例に,また,ごく軽度の泡沫細胞の集簇が250 mg/kg群の雄3例と雌5例に,ごく軽度の肺胞上皮の過形成が250 mg/kg群の雌1例にみられた.
[胃]
ごく軽度の前胃/境界縁の過形成が60 mg/kg群の雌1例及び250 mg/kg群の雄3例と雌2例にみられた.
[甲状腺]
ごく軽度の瀘胞上皮細胞の肥大が250 mg/kg群の雄2例と雌1例にみられた.
[眼球]
軽度あるいは中等度の白内障が250 mg/kg群の雄2例と雌全例にみられた.
[大腿骨(骨髄を含む)]
軽度あるいは中等度の骨端板の閉鎖が250 mg/kg群の雌雄全例にみられた.また,ごく軽度の造血の低下が250 mg/kg群の雌4例にみられた.
上記以外の所見は出現状況とその病理学的性状からいずれも偶発所見と判断した.
体重では,250 mg/kg群の雌雄で投与期間の後半に比較的強い増加抑制が認められ,摂餌量も低値を示した.
血液学検査では,250 mg/kg群の雌雄で赤血球数,ヘモグロビン量及びヘマトクリット値の増加,雌では更に平均赤血球容積及び平均赤血球血色素量の減少がみられたが,その機序は明らかでなかった.なお,250 mg/kg群の雌では網赤血球率が減少したが,赤血球数の増加に対する適応性の変化と考えられた.また,250 mg/kg群の雄ではプロトロンビン時間及び活性化部分トロンボプラスチン時間の延長がみられ,被験物質の凝固系に対する影響が示唆された.
血液生化学検査では,250 mg/kg群の雌雄で総コレステロール及びリン脂質の増加,雌ではこれに加えてトリグリセライド及びGPT活性の増加がみられ,被験物質が脂質代謝に影響する可能性が示唆された.250 mg/kg群の雄と各投与群の雌ではカルシウムの増加がみられ,250 mg/kg群の雌雄では大腿骨にも変化がみられていることから被験物質投与の影響が示唆された.しかし,15 mg/kg群の雌については変化の程度がわずかであり,他の項目においても毒性を示唆する変化がみられず,被験物質投与による影響とは考え難かった.その他に,250 mg/kg群の雄で尿素窒素及びカリウムの増加,雌で総たん白質の増加と,AlP活性,クレアチニン及び塩素の減少がみられたが,AlP活性の変化を除けばいずれも被験物質投与の影響を示唆するものと考えられた.
尿検査では,60 mg/kg群の雄と250 mg/kg群の雌雄でpHの低下がみられたがその機序は明らかではなかった.なお,60及び250 mg/kg群の雄では尿沈渣中のリン酸塩結晶の減少がみられたが,pHの低下に伴う変化であり,毒性を示唆するものではなかった.また,60 mg/kg群の雌と250 mg/kg群の雌雄で摂水量の減少,雄では更に尿量の減少と尿浸透圧の増加がみられたが,これらは摂餌量の減少に伴って摂水量が減少したための変化と考えられた.
病理学検査では,橋(脳幹),脊髄,坐骨神経,肺,胃,甲状腺,胸腺,脾臓,骨及び骨髄(大腿骨)並びに眼球に変化がみられた.坐骨神経及び脊髄では神経線維の変性が250 mg/kg群の雌雄にみられ,橋及び脊髄の神経細胞では中心性色質融解も認められた.神経線維の変化は,本被験物質の類似物であるリン酸トリメチルのラットを用いた反復投与毒性・生殖発生毒性併合試験2)においてもみられており,神経系が本被験物質の標的器官と考えられた.なお,橋(脳幹),脊髄及び坐骨神経についてボディアン染色及びクリューバー・バレラ染色標本で確認した結果,橋(脳幹)における中心性色質融解の好発部位は顔面神経と推定された.
肺ではII型肺胞上皮細胞の肥大が60 mg/kg群の雄と250 mg/kg群の雌雄に,肺胞/血管周囲の炎症細胞浸潤及び泡沫細胞の集簇が250 mg/kg群の雌雄に,肺胞上皮の過形成が250 mg/kg群の雌にみられた.なお,泡沫細胞の集簇が15 mg/kg群の雄にもみられたが1例のみであり,本変化は自然発生的にしばしば認められることから被験物質投与との関連性はないと判断した.
胃では肉眼的な境界縁あるいは前胃の肥厚が60 mg/kg群の雌と250 mg/kg群の雌雄にみられ,病理組織学的には前胃/境界縁の過形成が60及び250 mg/kg群の雌雄に,前胃粘膜下の水腫が60及び250 mg/kg群の雌に,また,前胃/境界縁のびらんが雌の各投与群にみられた.これらの変化は,いずれも本被験物質が有する粘膜に対する刺激性によるものと考えられた.
甲状腺では,肉眼的な異常は認められなかったものの250 mg/kg群の雌雄で瀘胞上皮の肥大がみられ,被験物質投与の影響が認められた.甲状腺ホルモンは,血中コレステロールを低下させることが知られている3).本試験では250 mg/kg群の雌雄で血中コレステロールが増加しているが,甲状腺ホルモンの低下を示唆する瀘胞上皮の肥大が認められていることから,血中コレステロールの増加は甲状腺ホルモンの低下による可能性が示唆された.
胸腺では60 mg/kg群の雌と250 mg/kg群の雌雄で重量の減少が,病理組織学的には萎縮が250 mg/kg群の雄にみられ,被験物質投与によりもたらされた低栄養状態を反映した変化と考えられた.
造血組織では,脾臓における髄外造血の低下が250 mg/kg群の雄に,大腿骨骨髄における造血の低下が250 mg/kg群の雌にみられた.なお,これらの変化は血液学検査における赤血球の変化と相反するものであるが,その機序は不明であった.
骨では大腿骨において骨端板の閉鎖が250 mg/kg群の雌雄にみられた.一方,胸骨には変化がみられないことから,本被験物質は長管骨の成長に何らかの影響を及ぼしていると考えられた.
眼球では肉眼的な混濁が250 mg/kg群の雌雄にみられ,病理組織学的には白内障が認められた.
その他として,肝臓の重量増加が250 mg/kg群の雌にみられたが組織学的には何ら変化が認められず,偶発的な変化と考えられた.また,卵巣重量の減少が各投与群にみられたが,各投与群の卵巣重量は回復終了時の対照群及び背景データと比較すると大差はなく,組織学的にも変化が認められないことから,被験物質投与との関連性はないと考えられた.
休薬により,上記の変化のうち,坐骨神経及び脊髄における神経線維の変性,一般状態における振戦,体重及び摂餌量の低値,尿検査における摂水量及び尿量の減少,赤血球数の増加,クレアチニンの減少,大腿骨における骨端板の閉鎖及び造血の低下並びに眼球の肉眼的混濁及び白内障については明らかな回復は認められなかった.その他の変化については消失または軽減され,回復性が認められた.なお,尿検査,血液学検査,血液生化学検査及び器官重量において回復期間に新たに変化を生じた項目がみられたが,いずれも毒性学的意義を有さない変化と考えられた.
以上の如く,トリメチル亜リン酸をラットに28日間反復投与した結果,主な変化が15 mg/kg以上の群の雌並びに60及び250 mg/kg群の雄の胃,60及び250 mg/kg群の雄の肺,さらには250 mg/kg群における雌雄の橋(脳幹),脊髄,坐骨神経,骨(大腿骨)及び眼球と雌の肺及び骨髄(大腿骨)にみられた.一方15 mg/kg群の雄では変化は認められなかった.
これらの結果から,本試験におけるトリメチル亜リン酸の無影響量は雄では15 mg/kg/day,雌では15 mg/kg/dayを下回ると推定された.
1) | S. C. Gad and C. S. Weil, "Principles and Methods of Toxicology," 2, ed. by A. Wallace Hayes, Raven Press Ltd., New York, 1989, pp. 435-483. |
2) | 厚生省生活衛生局企画課生活化学安全対策室監修,"化学物質毒性試験報告,"Vol. 3,化学物質点検推進連絡協議会,東京,1994, p. 289. |
3) | 松田幸次郎ら,"医科生理学展望,"原書15版,丸善,東京,1992, pp. 307-332. |
連絡先 | |||
試験責任者: | 榎並倫宣 | ||
試験担当者: | 高須正生,畠山和久,田村一利,茂呂光男,勝亦倶慶 | ||
(株)ボゾリサーチセンター 御殿場研究所 | |||
〒412-0039 静岡県御殿場市かまど1284 | |||
Tel 0550-82-2000 | Fax 0550-82-2379 |
Correspondence | ||||
Authors: | Tomonori Enami(Study director) Masao Takasu, Kazuhisa Hatayama, Kazutoshi Tamura, Mitsuo Moro, Toyohisa Katsumata | |||
Gotemba Laboratory, Bozo Research Center Inc. | ||||
1284 Kamado, Gotemba-shi, Shizuoka, 412-0039, Japan | ||||
Tel +81-550-82-2000 | Fax +81-550-82-2379 |