トリメチル亜リン酸のラットを用いる単回経口投与毒性試験

Single Dose Oral Toxicity Test of Trimethoxyphosphine in Rats

要約

トリメチル亜リン酸をCrj:CD(SD)系雌雄ラットに単回経口投与し,その毒性を検討した.投与量は,雌雄ともに2000 mg/kgの1用量とし,対照群には媒体(オリーブ油)を投与した.

死亡例は雌雄いずれの群においても認められず,LD50値は2000 mg/kg以上であった.体重推移では増加抑制がみられたが,一般状態の観察及び剖検では,雌雄ともに被験物質投与による変化は認められなかった.

方法

1. 被験物質及び被験液の調製

被験物質トリメチル亜リン酸(呉羽化学工業(株),東京,ロット番号7X001,純度99.58 %)は,融点-78℃,沸点111℃の無色の液体の化合物である.なお,投与終了後の残余被験物質について分析を行った結果,使用期間中は安定であったことが確認された.

投与容量が10 mL/kg体重となるよう,オリーブ油に溶解して200 mg/mL液を調製した.3〜200 mg/mL液は,冷蔵(約4℃)8日後室温6時間,暗所(褐色ガラス瓶)・気密保存で安定であったことから,被験液は投与日の8日前に調製し,ポリ製遮光瓶に入れて使用時まで冷蔵・気密保存した.また,本投与に用いた被験液について当施設で測定した結果,濃度は適正であった.

2. 使用動物及び飼育条件

5週齢のCrj:CD(SD)系SPF雌雄ラットを日本チャールス・リバー(株)から購入し,当所で約1週間検疫・馴化飼育した後,健康な動物を選び,6週齡で試験に供した.投与日の体重範囲は,雄で188〜195 g(平均値:191 g),雌で132〜142 g(平均値:138 g)であった.

動物は,投与前日の体重により層別化し,無作為抽出法により各群の平均体重ができるだけ均等となるように割りつけた.

動物は,温度23±3℃,相対湿度50±20 %,換気回数1時間当たり10〜15回,照明1日12時間の飼育室で,金属製網ケージに2〜3匹ずつ収容し,固型飼料(放射線滅菌CRF-1,オリエンタル酵母工業(株))及び飲料水(水道水)を自由に摂取させて飼育した.

3. 投与量及び投与方法

500,1000,1500及び2000 mg/kgを1群雌雄各3匹のラットに投与した予備試験では,雌雄いずれの群でも死亡はみられなかった.したがって,本試験では雌雄ともに2000 mg/kgの1群を設定し,これに対照群を加えて計2群を使用した.

動物は,投与前に約16時間絶食させたのち,200 mg/mLの被験液を10 mL/kg体重の容量で,金属製胃ゾンデを用いて1回強制経口投与した.対照群には溶媒(オリーブ油)を同様に投与した.1群の動物数は雌雄とも5匹とした.なお,投与後の給餌は投与6時間後に実施し,給水は投与に関係なく継続して行った.

4. 検査項目

1) 一般状態及び生死の観察

投与後6時間までは頻繁に,その後は1日1回,14日間にわたって実施した.

2) 体重測定

投与直前に体重を測定し,これを投与液量の算出基準にした.さらに,投与後1,2,3,7,10及び14日に体重を測定した.

3) 病理学検査

14日間の観察期間終了後にエーテル深麻酔下で放血致死させ,体外表の観察を行った後,頭部,胸部,腹部を含む全身の器官・組織の異常の有無を肉眼的に観察した.

結果

1. 死亡状況及びLD50値

雌雄ともに死亡はみられず,LD50値は2000 mg/kgを上回ると推定された.

2. 一般状態

いずれの動物にも異常はみられなかった.

3. 体重

雄では,投与翌日以降,観察期間を通じて対照群を有意に下回って推移し,観察期間中の体重増加量も対照群に比べて有意に低かった.

雌では,投与翌日以降,ほとんどの測定時点で対照群を有意に下回り,観察期間中の体重増加量も対照群に比べて有意に低かった.

4. 剖検

いずれの動物にも異常は認められなかった.

考察

雌雄ともに,被験物質投与群では死亡はみられず,LD50値は2000 mg/kgを超えると推定された.また,一般状態及び剖検では被験物質投与による影響は認められなかった.一方,体重では雌雄ともに投与翌日以降,対照群を下回って推移し,被験物質投与の影響が示唆された.

連絡先
試験責任者:榎並倫宣
試験担当者:高須正生,茂呂光男
(株)ボゾリサーチセンター 御殿場研究所
〒412-0039 静岡県御殿場市かまど1284
Tel 0550-82-2000Fax 0550-82-2379

Correspondence
Authors:Tomonori Enami(Study director)
Masao Takasu, Mitsuo Moro
Gotemba Laboratory, Bozo Research Center Inc.
1284 Kamado, Gotemba-shi, Shizuoka, 412-0039, Japan
Tel +81-550-82-2000Fax +81-550-82-2379