窒化ケイ素のラットを用いる単回経口投与毒性試験

Single Dose Oral Toxicity Test of Silicone nitride in Rats

要約

窒化ケイ素を雌雄ラットに1回経口投与し，その毒性について検討した．投与量は，2000 mg/kgを最高用量とし，以下1000，500および250 mg/kgとした．対照として媒体(0.5 %カルボキシメチルセルロースナトリウム水溶液)投与群を設けた．各群の使用動物数は雌雄各5例とした．

死亡例は，いずれの群の雌雄にも認められなかった．一般状態において，いずれの群の雌雄にも異常はみられなかった．体重推移では，各投与群の雌雄とも異常はみられなかった．剖検において，いずれの群の雌雄にも異常はみられなかった．

以上の結果から，窒化ケイ素のLD50値は，雌雄とも2000 mg/kgを上回ると推定される．

方法

1.　被験物質および媒体

被験物質の窒化ケイ素は，水，アセトン，DMSOに不溶の灰白色系の粉末である[Lot No. 00205，純度:約97 %，ただし，不純物としてFeを520 ppm，Alを820 ppm，Caを110 ppm，Oを1.7 %含む，電気化学工業(株)(東京都)]．入手後は，室温・防湿条件下で保管した．

窒化ケイ素は，0.5 %カルボキシメチルセルロースナトリウム水溶液で懸濁して調製した．なお，被験物質の調製に際して，純度による換算を実施した．

2〜200 mg/mLの調製液は，室温・遮光条件下で6時間保存しても安定性に問題のないことが確認されている．投与に使用した各投与検体中の被験物質濃度を測定した結果，被験物質濃度に問題はなかった．

2.　使用動物および飼育条件

4週齢のSprague-Dawley系雌雄ラット[Crj:CD(SD)IGS，SPF]を日本チャールス・リバー(株)から購入した．入手した動物は，5日間の検疫期間およびその後4日間の馴化期間を設け，一般状態および体重推移に異常の認められなかった動物を群分けした．群分けは，コンピュータを用いて体重を層別に分けた後に，無作為抽出法により各群の平均体重および分散がほぼ等しくなるように投与日に行った．

動物は，室温20〜26 ℃，湿度40〜70 %，明暗各12時間(照明:午前6時〜午後6時)，換気回数12回/時に維持されている飼育室で飼育した．検疫・馴化期間中および群分け前の絶食時間中は，ステンレス製ケージを用いて1ケージ当たり5匹までの群飼育とし，群分け後はステンレス製ケージを用いて個別飼育した．飼料は，固型飼料(CRF-1，オリエンタル酵母工業(株))を自由に摂取させた．ただし，投与前日の夕刻から投与までの約18時間30分と投与後約6時間まで絶食した．飲料水は，水道水を自由に摂取させた．ただし，群分け時から投与後約6時間までは絶水した．

3.　投与経路，投与方法および投与量

投与経路は経口投与を選択した．投与に際しては，金属製経口胃ゾンデを取り付けたポリプロピレン製ディスポーザブル注射筒を用いて，強制経口投与した．投与液量は，投与直前に測定した体重を基準として10 mL/kgで算出した．投与回数は1回とした．投与日の週齢は5週齢であり，体重範囲は雄が114〜130 g，雌が99〜112 gであった．

投与量は，2000 mg/kgを最高用量とし，以下公比2により1000，500および250 mg/kgとした．また，対照として媒体(0.5 %カルボキシメチルセルロースナトリウム水溶液)のみを同容量投与する群を設けた．

4.　観察および検査項目

1)　観察期間

投与後14日間とした．

2)　一般状態

投与日は投与前および投与後6時間(投与直後〜投与後30分，投与後2，4および6時間)まで，投与翌日からの観察期間中は1日1回，一般状態および死亡の有無を観察した．

3)　体重測定

投与日および投与後1，3，7，10ならびに14日に測定した．

4)　剖検

動物は，観察期間終了時にエーテル麻酔下で腹大動脈から放血致死させた後に剖検した．

5.　統計解析

死亡例はいずれの群の雌雄にも認められなかったため，LD50値は推定した．

体重は，Bartlett法による等分散性の検定を行い，等分散の場合にはDunnett法により，等分散と認められなかった場合には順位を利用したDunnett型の検定法により行った．

結果および考察

1.　死亡状況および一般状態

死亡例は，いずれの群の雌雄にも認められなかった．窒化ケイ素のLD50値は，雌雄とも2000 mg/kgを上回ると推定される．

一般状態の観察において，いずれの群の雌雄とも異常はみられなかった．

2.　体重

各投与群の雌雄とも，対照群と比べて体重に有意差はみられなかった．

3.　剖検

いずれの群の雌雄とも，異常はみられなかった．

以上のように，窒化ケイ素を雌雄ラットへ2000 mg/kg単回経口投与しても毒性徴候は発現しないことが確認され，窒化ケイ素のLD50値は雌雄とも2000 mg/kgを上回ると推定される．

連絡先
試験責任者：古橋忠和
試験担当者：長瀬孝彦，内藤一嘉，吉島賢一
(株)日本バイオリサーチセンター羽島研究所
〒501-6251　岐阜県羽島市福寿町間島6-104
Tel 058-392-6222Fax 058-392-1284

Correspondence
Authors:Tadakazu Furuhashi(Study director)
Takahiko Nagase, Kazuyoshi Naito, Ken-ichi Yoshijima
Nihon Bioresearch Inc.
6-104, Majima, Fukuju-cho, Hashima, Gifu, 501-6251, Japan
Tel +81-58-392-6222