ジトリデシルフタラートのラットを用いる単回経口投与毒性試験

Single Dose Oral Toxicity Test of Ditridecyl phthalate in Rats

要約

ジトリデシルフタラートの2000 mg/kgをSprague-Dawley系(Crj:CD)雌雄ラットを用いて単回経口投与した.

雌雄いずれの群においても死亡例は認められず,その他,一般状態に変化は認められなかった.また,投与後の体重の推移および剖検所見のいずれにも,被験物質投与に起因すると考えられる変化は認められなかった.

方法

1. 被験物質

被験物質ジトリデシルフタラートは,分子量530.83,融点-21℃,沸点250℃(2 mmHg)の無色透明液体であり,本試験にはロット番号2700(協和油化),純度93.7-100.0 %(エステル価198-212より換算)のものを用いた.

受領した被験物質は,使用時まで被験物質受領保管室または検体調製室で室温にて保管した.

コーン油(ナカライテスク,ロット番号V6N3521)を用いて調製した被験物質の20 %(w/v)溶解液の冷蔵遮光での4日間の安定性は本試験に先立ち実施した予備試験で確認された.また,本試験で用いた投与検体の含量は,調製指示濃度の99.6 %であった.

2. 投与検体の調製

投与当日に,コーン油を用いて被験物質を20 %(w/v)の濃度になるように攪拌,溶解した.溶媒対照群にはコーン油を用いた.

3. 使用動物および飼育方法

4週齢のSprague-Dawley系(Crj:CD, SPF)雌雄ラットを,日本チャールス・リバーから購入し,飼育環境への馴化と検疫を兼ねて6日間予備飼育した.試験には,予備飼育中の一般状態に異常が認められなかった個体の中から雌雄各10匹を使用した.動物を検疫終了時の測定体重をもとに体重別層化無作為抽出法により雌雄ともに1群5匹からなる2群に分けた.全飼育期間を通じて,動物を,金属製金網床ケージに1匹ずつ収容し,温度24〜25.5℃,湿度51〜64 %,換気回数約15回/時,照明12時間(7時〜19時)に制御された飼育室で,固型飼料(CE-2,日本クレア)と水道水(秦野市水道局給水)を自由に摂取させて飼育した.

4. 投与量および投与方法

本試験における投与量は,先に秦野研究所において行った予備試験の結果をもとに決定した.予備試験では,被験物質20, 200および2000 mg/kg投与群の3群を設け,各群3匹の雄ラットを用いて体重1 kg当たり10 mLの投与液量で強制的に経口投与し,その影響を8日間観察した.その結果,死亡例および下痢便以外の一般状態の変化は認められなかった.

以上の結果より,本試験の投与量をOECD化学物質試験法ガイドライン〔401〕による限度量である2000 mg/kgとした.また,予備試験において認められた一過性の下痢便がコーン油に起因すると考えられるため,溶媒対照群を設けた.投与液量は,体重1 kg当たり10 mLとし,動物をあらかじめ約18時間絶食させた後,投与直前に測定した体重を基に投与液量を算出し,ラット用胃管を用いて強制的に経口投与した.投与は午前10時〜12時の間に行った.

5. 観察

投与日を観察第1日とし,投与後14日間にわたり,死亡例の有無を確認し,各動物の一般状態を観察した.観察は,投与日(観察第1日)においては投与直後から1時間まで連続して行い,以後1時間間隔で投与後6時間まで,観察第2日から15日までは,毎日1回行った.体重は全例について,投与直前,観察第2,4,8,11および15日に測定した.観察第15日には全例をペントバルビタール・ナトリウム麻酔下で放血屠殺して剖検し,脳,下垂体,胸腺,心臓,肺,肝臓,腎臓,脾臓,膵臓,生殖器,顎下腺,甲状腺,副腎,大動脈,気管,食道,消化管,膀胱,眼球(ハーダー腺を含む),皮膚,乳腺,頸部および腸間膜リンパ節,大腿骨骨髄,舌について観察した.また,剖検時の2000 mg/kg投与群の1例(雄 No.6)について心臓,肺,肝臓,腎臓,脾臓および胃をホルマリン固定保存したが,肉眼的所見で変化がみられなかったので,病理組織学検査は行わなかった.

6. 統計解析

体重の測定値について,平均値および標準偏差値を求めた.

結果

1. 一般状態

雌雄各群とも,死亡は認められなかった.

一般状態の変化としては,軟便または粘液性下痢便が2000 mg/kg投与群の雄で投与後2から6時間に3例,雌で投与後30分から2時間に2例認められた.しかし,軟便や粘液性下痢便は,コーン油を投与した溶媒対照群においても,投与後30分から6時間に雌雄各4例で認められた.その他には観察終了日まで雌雄いずれにおいても一般状態の変化は認められなかった.

2. 体重

雌雄各群とも体重は,観察終了日まで順調に増加した.

3. 剖検所見

観察第15日に屠殺剖検を行った結果,いずれの器官および組織にも変化は認められなかった.

考察

本被験物質の単回投与毒性試験では死亡の発生はなく,一般状態,体重および剖検においても被験物質投与に起因した変化は認められなかった.

以上の結果より,ジトリデシルフタレートのラットにおける単回経口投与によるLD50は,雌雄とも2000 mg/kgを上回ると推定された.

連絡先
試験責任者:大原直樹
試験担当者:関 剛幸,和田和義,桑形麻樹子,宮原 敬,永田伴子,畔上二郎,三枝克彦,稲田浩子,安生孝子
(財)食品薬品安全センター 秦野研究所
〒257-8523 秦野市落合 729-5
Tel 0463-82-4751Fax 0463-82-9627

Correspondence
Authors:Naoki Ohara(Study Director)
Takayuki Seki, Kazuyoshi Wada,
Makiko Kuwagata, Takashi Miyahara,
Tomoko, Nagata, Jiro Azegami,
Katsuhiko Saegusa, Inada Hiroko,
Takako Anjyo
Hatano Research Institute, Food and Drug Safety Center
729-5 Ochiai, Hadano-shi, Kanagawa, 257-8523, Japan
Tel +81-463-82-4751FAX +81-463-82-9627