検定菌として,Salmonella typhimurium TA100,TA1535,TA98,TA15371)およびEscherichia coli WP2 uvrA2)の5菌株を用い,S9 mix無添加および添加試験のいずれも,用量設定試験で生育阻害が認められたことから,本試験はS9 mix無添加試験では4.69〜150 μg/plate(TA1535は2.34〜150 μg/plate),S9 mix添加試験では18.8〜600 μg/plate(TA1535は9.38〜600 μg/plate)の範囲で実施した.
その結果,用いた5種の検定菌のいずれにおいても,用量依存性のある復帰変異コロニー数の増加は認められなかった.
以上の結果から2,6-ジクロロトルエンは,用いた試験系において変異原性を有しないもの(陰性)と判定した.
2,6-ジクロロトルエンは,ジメチルスルホキシド(DMSO,ロット番号:APJ3434,和光純薬工業(株))に溶解して最高用量または6 mg/mLの調製液を調製した後,同溶媒で所定の濃度に希釈して速やかに試験に用いた.
秦野研究所において,2,6-ジクロロトルエンのDMSO溶液中での安定性試験を実施した.その結果,2,6-ジクロロトルエンの23.4 μg/mLおよび20 mg/mL溶液は室温遮光条件下で調製後4時間安定であることが確認された.また,1回目の本試験に用いた調製検体について含量測定試験を行った結果,6 mg/mL溶液は当研究所の基準(平均含量が調製指示値の90〜110 %)の範囲内であった.23.4 μg/mL溶液の含量は113〜115 %で,この範囲よりやや高かったが,試験結果には影響しないものと判断した.
各検定菌ごとに用いた陽性対照物質は,当研究所で十分な蓄積データが得られている物質および用量とし,それぞれTable中に示した.
2-(2-フリル)-3-(5-ニトロ-2-フリル)アクリルアミド | (AF2,上野製薬(株)) |
アジ化ナトリウム | (SA,和光純薬工業(株)) |
9-アミノアクリジン | (9AA,Sigma Chem. Co.) |
2-アミノアントラセン | (2AA,和光純薬工業(株)) |
AF2,9AAおよび2AAはDMSOに,SAは超純水に溶解したものを-20 ℃で凍結保存し,解凍後,速やかに試験に用いた.
S. typhimuriumの4菌株は1975年10月31日にアメリカ合衆国,カリフォルニア大学のB. N. Ames博士から,E. coli WP2 uvrA株は1979年5月9日に国立遺伝学研究所の賀田恒夫博士から分与された.
検定菌は-80 ℃で凍結保存したものを用い,各菌株の特性確認は凍結保存菌の調製時に,アミノ酸要求性,UV感受性,膜変異(rfa)およびアンピシリン耐性因子pKM101(プラスミド)の有無について調べ,特性が維持されていることを確認した.
試験に際して,ニュートリエントブロスNo.2(Oxoid Ltd.)を入れたL字型試験管に解凍した種菌を一定量接種し,37 ℃で10時間往復振とう培養したものを検定菌液とした.
分光光度計により660 nmの吸光度を測定し,検定菌液の増殖を確認した.
硫酸マグネシウム・7水和物 | 0.2 g |
クエン酸・1水和物 | 2 g |
リン酸水素二カリウム | 10 g |
リン酸一アンモニウム | 1.92 g |
水酸化ナトリウム | 0.66 g |
グルコース | 20 g |
バクトアガー(Difco Lab.) | 15 g |
径90 mmのシャーレ1枚あたり30 mLを流して固めたものである.
(A) | バクトアガー(Difco Lab.) | 0.6 w/v% |
塩化ナトリウム | 0.5 w/v% | |
(B) | Salmonella typhimurium用 | |
L-ヒスチジン | 0.5 mmol/L | |
D-ビオチン | 0.5 mmol/L | |
(C) | Escherichia coli用 | |
L-トリプトファン | 0.5 mmol/L |
S9* | 0.1 mL |
塩化マグネシウム | 8 μmol |
塩化カリウム | 33 μmol |
グルコース-6-リン酸 | 5 μmol |
NADH | 4 μmol |
NADPH | 4 μmol |
ナトリウム-リン酸緩衝液(pH 7.4) | 100 μmol |
* | : | 7週齢のSprague-Dawley系雄ラットをフェノバルビタール(PB)および5,6-ベンゾフラボン(BF)の併用投与で酵素誘導して作製したS9(キッコーマン(株))を用いた. |
小試験管中に,被験物質調製液0.1 mL,リン酸緩衝液0.5 mL(S9 mix添加試験においてはS9 mix 0.5 mL),検定菌液0.1 mLを混合したのち,約45 ℃に保温したトップアガー2 mLを加えて混和し,合成培地平板上に流して固めた.また,対照群として被験物質調製液の代わりに使用溶媒,または数種の陽性対照物質溶液を用いた.同時に実施した他試験については,陰性および陽性対照群を共通とした.
培養は37 ℃で48時間行い,発生した復帰変異コロニー数をコロニーアナライザーまたは目視によって算定した.被験物質に由来する沈澱の有無は,肉眼により確認した.また,生育阻害の有無については,肉眼あるいは実体顕微鏡下で,寒天表面の菌叢の状態から判断した.用いた平板は用量設定試験においては,陰性および陽性対照群では3枚ずつ,各用量については1枚ずつとした.また,本試験においては,両対照群および各用量につき,3枚ずつを用い,それぞれの平均値と標準偏差を求めた.
用量設定試験は1回,本試験は同一用量について2回実施し,結果の再現性の確認をした.
したがって,S9 mix無添加試験では4.69〜150 μg/plate(TA1535のみ2.34〜150 μg/plate),S9 mix添加試験では18.8〜600 μg/plate(TA1535のみ9.38〜600 μg/plate)の範囲に公比2で6〜7用量を設定して2回の本試験を実施した(Table 1, 2).その結果,2回の試験とも用量依存性のある復帰変異コロニー数の増加は認められなかった.
以上の結果に基づき,2,6-ジクロロトルエンは,用いた試験系において変異原性を有しないもの(陰性)と判定した.
なお関連物質である2,4-ジクロロトルエンについては,細菌を用いる復帰突然変異試験3)およびチャイニーズ・ハムスター培養細胞を用いる染色体異常試験4)でも陰性の結果が得られている.
1) | D. M. Maron, B. N. Ames, Mutat. Res., 113, 173(1983). |
2) | M. H. L. Green, "Handbook of Mutagenicity Test Procedures," eds. by B. J. Kilbey, M. Legator, W. Nichols, C. Ramel, Elsevier, Amsterdam, New York, Oxford, 1984, pp.161-187. |
3) | 澁谷徹,化学物質毒性試験報告,1, 133(1994). |
4) | 田中憲穂,化学物質毒性試験報告,1, 137(1994). |
連絡先 | |||
試験責任者: | 澁谷 徹 | ||
試験担当者: | 加藤基恵,坂本京子,堀谷尚古,川上久美子,原 巧,松本容彦,飯田さやか,中込まどか | ||
(財)食品薬品安全センター秦野研究所 | |||
〒257-8523 秦野市落合729-5 | |||
Tel 0463-82-4751 | Fax 0463-82-9627 |
Correspondence | ||||
Authors: | Tohru Shibuya (Study Director) Motoe Katoh, Kyoko Sakamoto, Naoko Horiya, Kumiko Kawakami, Takumi Hara, Yasuhiko Matsuki, Sayaka Iida, Madoka Nakagomi | |||
Hatano Research Institute, Food and Drug Safety Center | ||||
729-5 Ochiai Hadano-shi, Kanagawa, 257-8523, Japan | ||||
Tel +81-463-82-4751 | Fax +81-463-82-9627 |