ペンタエリスリトールのラットを用いる単回経口投与毒性試験
Single Dose Oral Toxicity Test of Pentaerythritol in Rats
要約
ペンタエリスリトールの500, 1000および2000 mg/kgを5週齢のCrj:CD (SD) 系雌雄ラットに経口単回投与し,その毒性を試験した.
死亡は雌雄のいずれの群においても認められず,LD50値は2000 mg/kg以上と推定された.一般状態では下痢便や軟便が1000 mg/kg以上の群の雌雄で投与日あるいは投与後1日に認められた.体重推移,剖検および病理組織学的検査では,雌雄ともにペンタエリスリトール投与による影響は認められなかった.
材料および方法
1. 被験物質
ペンタエリスリトールは,一般に合成樹脂,塗料あるいは釉薬に用いられる物質であり,水溶性(水溶解度7.23 g/100 g)の白色顆粒である.本試験では三菱ガス化学 (株)より提供されたロット番号50825(純度92.7%)のものを使用した.被験物質は7カ月間安定であり,本ロットは試験期間中安定であることを確認した.投与には,被験物質を0.5% カルボキシメチルセルロースナトリウム溶液(日本薬局方CMC-Na,丸石製薬 (株);日本薬局方精製水,ヤクハン製薬 (株))で用時に懸濁調製したものを使用した.
2. 試験動物および飼育条件
生後4週齢のCrj:CD (SD)系のSPFラット雌雄を日本チャールス・リバー (株)より受け入れ,9日間の馴化飼育を行い,順調な発育を示した動物を試験に用いた.動物は,温度23±3℃,湿度55±10%,換気回数10〜15回/時および照明12時間/日に設定されたバリアシステムの飼育室において,ブラケット式金属製金網床ケージに群分け前は5匹以内,群分け後は3匹以内収容した.飼料は固型飼料(CRF-1,オリエンタル酵母工業 (株)), 飲料水は水道水(札幌市水道水)を自由に摂取させた.飼料の混入物質および飲料水の水質を検査し,異常がないことを確認した.
3. 試験群の設定
本試験の投与量設定のために実施した試験では,500, 1000および2000 mg/kg群,0.5% CMC-Na溶液投与群(対照群)の計4群を設定し,1群当たり雌雄各5匹のラットに投与した.投与後5日間の観察において1000および2000 mg/kg群で投与日あるいは投与後1日に下痢便あるいは軟便が認められたのみで,死亡は認められなかったため,観察期間を投与後14日まで延長し,本試験の成績とした.群分けは投与前日に体重別層化無作為抽出法により行った.
4. 投与方法
投与は,動物を約17〜18時間絶食させた後,胃ゾンデを用いて強制経口投与した.投与容量は,体重1 kg当り10 mlとして投与日に測定した体重に基づいて算出した.投与時の週齢は雌雄ともに5週齢で,その平均体重(体重範囲)は雄で132.5 g (125〜138 g),雌で114.0 g (108〜123 g) であった.
5. 観察,測定および検査項目
全例について,一般状態を投与日は投与後6時間までは頻繁に,投与後1日以降は1日1回以上の頻度で投与後14日まで観察した.また,体重を投与日,投与後1, 3, 5, 7, 10および14日に測定した.全例について投与後14日に体外表を観察した後,エーテル麻酔下で放血致死させ,剖検した.このうち,対照群およびペンタエリスリトール投与各群の雌雄各2例の肝臓,腎臓,脾臓,心臓,肺,脳(大脳・小脳),胃(前胃・腺胃),十二指腸,空腸,回腸,盲腸,結腸および直腸を10%中性緩衝ホルマリン液で固定し,常法に従いパラフィン切片を作製し,ヘマトキシリン・エオジン染色あるいは特殊染色(PAS染色)標本を作製し,病理組織学的検査を行った.
体重についてBartlettの等分散検定の後,一元配置分散分析法あるいはKruskal-Wallis法により解析し,有意な場合,Dunnettの検定法あるいはMann-WhitneyのU-検定法により対照群とペンタエリスリトール投与各群との比較を行った.なお,対照群との検定については,危険率5%以下を統計学的に有意とした.
成績
1. 死亡状況およびLD50値 (Table 1)
雌雄ともに,いずれの群においても死亡は認められず,LD50値は2000mg/kg以上と推定された.
2. 一般状態
投与日に,下痢便が1000 mg/kg群の雌,2000 mg/kg群の雌雄の全受皿上で確認された.なお,同症状は投与後約2時間以降に認められ,1000 mg/kg群よりも2000 mg/kg群で頻回認められた.投与後1日に下痢便および軟便が1000 mg/kg群の雌雄の約半数の受皿上で,2000 mg/kg群の雌雄の全受皿上で確認された.投与後2日以降に前述の症状を含め異常は認められなかった.
3. 体重
ペンタエリスリトール投与のいずれかの群においても対照群とほぼ同じ推移を示した.
4. 剖検および病理組織学的検査
ペンタエリスリトール投与による異常は認められなかった.
考察
死亡は雌雄のいずれの群においても認められず,LD50値は2000 mg/kg以上と推定された.下痢便や軟便が1000 mg/kg以上の群の雌雄で投与日あるいは投与後1日に認められた.しかし,これらの症状は投与後2日以降は認められず,体重など全身に悪影響を及ぼすものではなかった.
連絡先 |
| 試験責任者: | 八幡 昭子 |
| 試験担当者: | 山田 高士,小林 裕幸, |
| 運営管理者: | 井本 精一 |
| (株)化合物安全性研究所 |
| 〒004 北海道札幌市豊平区真栄363番24号 |
| Tel 011-885-5031 | Fax 011-885-5313 | |
Correspondence |
| Authors: | Akiko Yahata (Study director)
Takashi Yamada, Hiroyuki Kobayashi, Seiichi Imoto (Management) |
| Safety Research Institute for Chemical Compounds Co., Ltd. |
| 363-24 Shin-ei, Toyohira-ku, Sapporo, Hokkaido, 004, Japan |
| Tel +81-11-885-5031 | Fax +81-11-885-5313 | |