ドコサン酸のラットを用いる反復経口投与毒性・生殖発生毒性併合試験
Combined Repeat Dose and Reproductive/Developmental Toxicity Screening Test of
Docosanoic acid by Oral Administration in Rats
要約
ドコサン酸は,カラシ油,ナタネ油の構成脂肪酸中に2〜3%含まれている高級飽和脂肪酸の混合物である.工業的には主にナタネ油を原料として加水分解した後,蒸留精製されるが,最近化粧品の原料としても使用されるようになってきた.ドコサン酸の危険・有害性については,ほとんど報告されておらず,その評価は十分ではない.そこで今回,ドコサン酸の0(溶媒対照),100,300および1000 mg/kgをSprague-Dawley系(Crj:CD)ラットの雌雄(各13匹/群)に交配前2週間および交配期間2週間経口投与し,さらに雄では交配期間終了後2週間,雌では妊娠期を通して分娩後の哺育3日まで投与を継続して,親動物に対する反復投与毒性および生殖能力ならびに次世代児の発生・発育に及ぼす影響について検討した.
その結果,雄では,いずれのドコサン酸投与群においても,死亡例および一般状態の異常は観察されなかった.また,ドコサン酸投与の影響を示唆する体重および摂餌量の変化もなかった.42回反復投与後の剖検,病理組織学検査,血液学検査および血液生化学検査でも,ドコサン酸投与の影響を示唆する所見または異常値は認められなかった.
雌では,いずれのドコサン酸投与群においても,死亡例はなかった.また,一般状態,体重および摂餌量の変化も観察されなかった.分娩後4日の剖検および病理組織学検査においても,ドコサン酸投与の影響を示唆する所見は認められなかった.
一方,生殖発生毒性に関しては,1000 mg/kg までの投与量のドコサン酸は,交尾率および受胎率に影響を示さなかった.また,母動物の妊娠期間,出産率,分娩状態および哺育状態にドコサン酸投与の影響を示唆する変化は認められなかった.
出生児の性比,体重および生存率に,ドコサン酸投与の影響を示唆する変化は認められなかった.また,出生児の形態異常はいずれのドコサン酸投与群にも観察されなかった.これらのことから,本試験条件下では,ドコサン酸の反復投与毒性および生殖発生毒性に関する無影響量は,1000 mg/kg/day であると結論される.
方法
1. 被験物質
ドコサン酸は,分子量:340.59,比重:0.822(100℃),融点(凝固点):76.5℃,沸点:306℃/60 mmHg,水に不溶,アルコール,エーテル,クロロホルム,アセトンに易溶な白色粉末であり,日本油脂から入手し(ロット番号:60805X,純度:85.9 wt%,不純物:C14-C20の脂肪酸:10.9%,C24の脂肪酸:2.3%),使用時まで直射日光を避け,室温保管した.
被験物質は,コーン油(Lot No. V6H2050,ナカライテスク)に懸濁させて調製し,投与検体とした.投与検体は,1週間に1回以上の頻度で調製し,冷蔵,気密の条件下で,各濃度ごとに分注して保管した.調製液中の被験物質は,冷蔵,遮光で9日間安定であることが確認されており,また試験期間中に調製した投与検体について,所定量の被験物質が均一に含有されていたことを確認した.
2. 使用動物および飼育条件
試験には,雌雄とも7週齢にて購入した日本チャールス・リバーのSprague-Dawley系ラット(Crj:CD,SPF)を使用した.購入した動物は,入荷後7日間,検疫と馴化を兼ねて予備飼育し,一般状態に異常が認められなかった動物を試験に供した(群分け時体重範囲:雄312.1〜363.7 g,雌205.3〜230.8 g).
各動物は,基準温湿度各24±1℃,および50〜65 %,換気回数約15回/時間,照明12時間(午前7時〜午後7時)に条件設定された飼育室で,金属製金網床ケージ(日本ケージ)に個別に収容して飼育し,固型飼料(CE-2,日本クレア)および水道水を自由に摂取させた.妊娠14日以後の母動物は,ラット用繁殖ケージ(日本クレア)に収容し,床敷として紙パルプ製チップ(ALPHA-dri,加商)を適宜供給した.
3. 群分け法
雌雄とも投与開始日(8週齢)の体重をもとに,体重別層化無作為抽出法により群分けし,各群とも雌雄各13匹を配した.
4. 投与量,群構成,投与期間および投与方法
先に実施した14日間反復経口投与による予備試験の結果,OECD化学物質試験法ガイドラインで定められた限界用量の1000 mg/kgを投与した群においても,毒性兆候が認められなかったことから,本試験では1000 mg/kgを最高用量に設定し,以下公比約3で除して,中用量は300 mg/kg,低用量は100 mg/kgとした.対照群のラットには,ドコサン酸の媒体としたコーンオイルをドコサン酸投与群と同一条件にて投与した.
各用量の投与検体は,雄に対しては交配前2週間,交配期間および交配期間終了後から剖検前日までの連続42日間,また雌に対しては交配前2週間と最長2週間の交配期間(交尾まで)ならびに交尾雌では全妊娠期間および分娩後の哺育3日(分娩日=哺育0日)まで毎日1回,ラット用胃管を用いて経口投与した.毎日の投与は9時〜12時の間に行い,各動物の投与液量(5 mL/kg体重)は,雄ならびに交配前および交配期間中の雌については週1回測定した体重を基準に,また交尾後の雌については妊娠0日(交尾確認日)の体重を基準にそれぞれ算出した.
5. 観察方法
1) 親動物
A. 一般状態
全例について,飼育期間中毎日1回以上観察した.
B. 体重
雄は全例について,投与1(投与開始日),8,15,22,29,36,42日および剖検日,雌は全例について,投与1,8,15日に測定し,投与22日までに交尾が確認されなかった雌は投与22日にも体重を測定した.また,交尾雌は妊娠0,7,14,20日に,分娩した雌は哺育0および4日(剖検日)に,分娩しない雌は妊娠25日(剖検日)に体重を測定した.
C. 摂餌量
雌雄とも全例について,体重測定日と同日に餌重量を測定し,摂餌量を算出した.ただし,2週間の交配期間中の摂餌量は測定しなかった.交尾雌では妊娠0〜7,7〜14,14〜20日および分娩した雌では哺育0〜4日の摂餌量を測定した.なお,哺育途中で全児が死亡した母動物の哺育0〜4日の摂餌量は,評価の対象から除外した.
D. 交配
交配は,投与15日の夕方から最長2週間,同群内の雌雄を1対1で同居させて行った.交尾の確認は,毎朝,腟栓および腟スメア中の精子の存在を調べることにより行い,交尾が確認された雌は,その日を妊娠0日と起算して雄から分離し,個別に飼育した.交配結果からは,各群について交尾率〔(交尾動物数/交配動物数)× 100〕,受胎率〔(受胎動物数/交尾動物数)× 100〕,同居開始日から交尾確認日までの日数およびその間に回帰した発情期の回数を求めた.
E. 分娩・哺育状態
各群とも交尾雌は,全例を自然分娩させた.分娩状態の直接観察は観察が可能であったものについて行い,それ以外の動物については,分娩後の徴候から分娩困難や遅延などの分娩障害の有無を判断した.分娩後は,哺育状態を観察した.
F. 分娩日の規定
午前11時までに分娩の完了を確認した動物について,その日を分娩日(哺育0日)と規定し,午前11時を過ぎて分娩を終了した動物については,翌日を分娩日とした.分娩を確認した全例について妊娠期間(妊娠0日から分娩日までの日数)を算定し,各群について出産率〔(生児出産雌数/受胎動物数)×100〕を求めた.
G. 最終検査
a) 雄動物
イ. 剖検,器官重量および病理学検査
最終投与日の投与終了後から絶食を開始し,翌日(投与43日相当日)にペントバルビタールナトリウム深麻酔下で放血・致死させて剖検した.その際,全例について心臓,肝臓,腎臓,胸腺,精巣および精巣上体の重量を測定した.これらの器官のうち,精巣および精巣上体はブアン液に固定して保存し,その他の器官および脳,脾臓,副腎および膀胱は,10%ホルマリンに固定して保存した.これらの器官は高用量群および対照群について常法に従ってパラフィン切片とし,ヘマトキシリン−エオジン染色を行って病理組織学検査を行った.
ロ. 血液検査
全例について,剖検に先立ち,ペントバルビタールナトリウム麻酔下で腹部後大静脈より,EDTA-2K を抗凝固剤として採血し,赤血球数(RBC),白血球数(WBC),血色素量(Hb),平均赤血球容積(MCV)および血小板数を多項目血液自動測定機(Coulter Counter Model S-PLUS IV)により測定し,ヘマトクリット値(Ht),平均赤血球血色素量(MCH),平均赤血球血色素濃度(MCHC)を算出した.白血球百分比は,血液塗沫標本をWright-Giemsa 染色し,光学顕微鏡下で観察して算出した.
ハ. 血液生化学検査
全例について,血液検査のための採血に引き続き,ヘパリンを抗凝固剤として採血し,それぞれ血漿を分離してから総蛋白濃度(ビウレット法),アルブミン濃度(BCG 法),総コレステロール濃度(COD・DAOS法),ブドウ糖濃度(グルコキナーゼ G6PDH法),尿素窒素濃度(ウレアーゼGι.DH法),クレアチニン濃度(Jaff法),アルカリフォスファターゼ活性(パラニトロフェニルリン酸基質法),GOT活性(SSCC法),GPT活性(SSCC法),γ-GTP活性(γ-グルタミル-3-カルボキシ-4-ニトロアニリド基質法),トリグリセライド濃度(GPO・DAOS法),無機リン濃度(モリブデン酸直接法),総ビリルビン濃度(ビリルビン 「ロシュ」キットSシリーズ),カルシウム濃度(OCPC法)を遠心方式生化学自動分析装置 COBAS-FARA(ロシュ)により測定し,ナトリウム濃度(イオン電極法),カリウム濃度(イオン電極法),塩素濃度(イオン電極法)を全自動電解質分析装置 EA05(A&T)により測定した.なお,A/G比については,計算により値を求めた.
b) 雌動物
分娩した雌は哺育4日に,交尾をしたが分娩しない雌は妊娠25日相当日に,交尾をしなかった雌は交配期間終了日に,ペントバルビタールナトリウム麻酔下で放血・致死させ,剖検し,器官・組織の肉眼観察を行った.その際,心臓,肝臓,腎臓,胸腺については器官重量を測定し,併せて比体重値(相対重量)を算出した.妊・不妊のいずれの例においても卵巣および子宮を摘出し,卵巣は実体顕微鏡下で妊娠黄体数を数え,子宮については着床数を数え,着床率〔(着床数/妊娠黄体数)×100〕を算出した.脳,心臓,肝臓,脾臓,腎臓,膀胱,副腎,胸腺,子宮および病変部は10%ホルマリン液に,卵巣はブアン液(長期保存は10%ホルマリン液)にそれぞれ固定して保存し,高用量群および対照群の全例については,上記器官(卵巣,子宮および病変部を除く)の病理組織学検査を行った.ただし,交尾をしたが不妊であった雌および交尾をしなかった雌については,卵巣についても病理組織学検査を行った.
2) 出生児
A. 産児数の算定
哺育0日に産児数(生存児+死亡児)を調べ,分娩率〔(産児数/着床痕数)×100〕および生児出産率〔(出産生児数/着床痕数)×100〕を求めた.また,産児の外表奇形の有無および性別を調べ,生存児の性比〔(雄の生児数/出産生児数)×100〕を算出した.
B. 死亡児数の算定
死亡児数を毎日調べ,出生率〔(出産生児数/産児数)× 100〕および哺育4日の新生児生存率〔(哺育4日の生児数/哺育0日の生児数)×100〕を求めた.
C. 体重測定
哺育0日および4日に一腹単位で雌雄別に体重(litter重量)を測定し,一匹あたりの平均体重(litter重量/測定児数)を各腹について求めた.
D. 剖検
死亡児は発見時に,生存児は哺育4日に全例をエーテル吸入により致死させ,剖検した.
6. 統計解析
交尾率および受胎率についてはYatesの補正を含むc 2検定を行った.病理組織所見については,グレード分けしたデータはMann-Whitney U 検定1, 2)を,陽性グレードの合計値は Fisher 直接確率2)の片側検定を行った.その他のデータは,個体ごとに得られた値あるいはlitterごとの平均値を1標本として,先ずBartlett法3)により各群の分散の一様性について検定した.その結果,分散が一様とされた場合には,一元配置型の分散分析3)を行い,群間に有意性が認められた場合には,各群の匹数が同一であればDunnett法4)を用い,同一で無い場合はScheff法5)を用いて対照群とドコサン酸各投与群との平均値の差の検定を行った.分散が一様でなかった場合または分散が0となる群が存在した場合は,Kruskal-Wallisの順位検定6)を行い,群間に有意性が認められた場合に,対照群とドコサン酸各投与群との差についてDunnett法4)あるいはScheff法5)の検定を行った.有意水準は,5%および1%とした.
結果
.反復投与毒性(親動物所見)
1) 一般状態
雄では,いずれの投与群においても死亡例および一般状態の異常は観察されなかった.雌では,100 mg/kg 投与群の1匹に,投与42日(分娩日)から変化(投与42日:立毛,腟口から血様液排出;投与43〜44日:被毛汚染)がみられたが,投与45日には回復した.その他の雌では,死亡例および一般状態の異常は観察されなかった.
2) 体重(Tables 1, 2)
雄では,100 mg/kg投与群において,投与8〜15日の体重増加量が対照群と比較して有意(p<0.01)に増加し,投与開始日からの累積増加量についても投与15および29日以降の値が対照群よりも有意(p<0.05)に増加した.しかし,300 mg/kg以上の投与群においては,いずれの時期の体重および体重増加量についても,対照群との間に有意差は認められなかった.
雌では,交配前,妊娠期および哺育期を通して,体重および体重増加量に対照群とドコサン酸各投与群との間に有意差は認められなかった.
3) 摂餌量(Table 3, 4)
雄では,いずれの時期の摂餌量についても,対照群とドコサン酸各投与群の間に有意差は認められなかった.
雌では,交配前および妊娠期の摂餌量については,対照群とドコサン酸各投与群との間に有意差は認められなかった.哺育期には,100 mg/kg 投与群の哺育0〜4日の摂餌量が対照群と比較して有意(p<0.01)に減少したが,300 mg/kg 以上の投与群においては,対照群との間に有意差は認められなかった.
4) 解剖時検査所見
A. 雄
(1) 血液検査所見(Table 5)
300 mg/kg 以上の投与群において平均赤血球血色素濃度(MCHC)が対照群と比較して有意(p<0.01)に低下した.その他の検査項目については,対照群とドコサン酸各投与群との間に有意差は認められなかった.
(2) 血液生化学検査所見(Table 6)
アルカリフォスファターゼ活性がドコサン酸各投与群において,ブドウ糖濃度が1000 mg/kg投与群において,それぞれ対照群と比較して有意(p<0.05)に低下した.その他,300 mg/kg投与群において,総蛋白およびカルシウムの各濃度が対照群と比較して有意(p<0.05,p<0.01)に低下し,塩素濃度が有意(p<0.05)に増加したが,用量に依存した変化ではなかった.
(3) 剖検所見
ドコサン酸の投与に起因すると思われる明らかな変化はなかった.
(4) 器官重量(Table 7)
100 mg/kg投与群において,肝臓の実重量および比体重値が対照群と比較して有意(p<0.05)に増加したが,用量に依存した変化ではなかった.その他の器官については,対照群とドコサン酸各投与群との間に有意差は認められなかった.
(5) 病理組織検査所見(Table 8)
各器官における観察所見を以下に示す.なお,いずれの病理組織学所見についても対照群とドコサン酸各投与群との間に有意差は認められなかった.
(心臓)
対照群および1000 mg/kg投与群の各1匹に心筋変性がみられた.
(肝臓)
対照群および1000 mg/kg投与群に門脈周囲性の脂肪化がみられたが,両群間に頻度および程度の差はなかった.その他,巣状壊死が対照群の1匹にみられた.
(脾臓)
対照群および1000 mg/kg投与群に,褐色色素沈着および髄外造血がみられたが,両群間に頻度および程度の差はなかった.
(腎臓)
対照群および1000 mg/kg投与群に,皮質の好塩基性尿細管やeosinophilic bodyがみられたが,両群間に頻度および程度の差はなかった.その他,対照群の1匹に線維化がみられた.
(副腎)
1000 mg/kg投与群の1匹に線維化がみられたほかに異常はなかった.
(精巣)
精細管の萎縮が 1000 mg/kg 投与群の2匹にみられ,1匹は両側,他の1匹は片側であったが,両者とも限局性で,極めて軽度な変化であった.そのほかに異常はなかった.
(精巣上体)
対照群の1匹に精子肉芽腫がみられたほかに異常はなかった.
(脳,胸腺,および膀胱)
異常は認められなかった.
B. 雌
(1) 剖検所見
ドコサン酸の投与に起因すると思われる明らかな変化はなかった.
(2) 器官重量(Table 7)
100 mg/kg 投与群において,腎臓の実重量が対照群と比較して有意(p<0.05)に低下したが,用量に依存した変化ではなかった.その他の器官に,対照群とドコサン酸各投与群との間に有意差は認められなかった.
(3) 病理組織所見(Table 8)
(脳)
1000 mg/kg投与群の1匹の視床に鉱質沈着がみられたほかに異常はなかった.
(肝臓)
対照群および1000 mg/kg投与群の各1匹に巣状壊死がみられ,対照群の他の1匹に線維化がみられた.
(脾臓)
対照群および1000 mg/kg投与群に,褐色色素沈着および髄外造血がみられたが,両群間に頻度および程度の差はなかった.
(胸腺)
対照群および1000 mg/kg投与群に萎縮が認められ,出血がみられたが,両群間に頻度および程度の差はなかった.
(腎臓)
対照群および1000 mg/kg投与群に皮質の好塩基性尿細管および腎盂の拡張がみられたが,両群間に頻度および程度の差はなかった.
(副腎)
対照群の1匹の皮質に壊死がみられたほかに異常はなかった.
(心臓および膀胱)
異常は認められなかった.
(卵巣)
未交尾例および不妊例の卵巣に異常はなかった.
.生殖発生毒性
1. 生殖関連所見
1) 交配成績(Table 9)
交尾率,受胎率および同居開始から交尾までに要した日数ならびにその間に回帰した発情期の回数に,対照群とドコサン酸各投与群との間で有意差は認められなかった.
2) 分娩および哺育状態
分娩日から一般状態の異常がみられた100 mg/kg投与群の1匹に,分娩状態の異常(胎盤を処理しない)および哺育状態の異常(児を集めない,乳頭の突出不良,児の体表温低下)が観察され,哺育2日には全児が死亡したが,その他の母動物に異常は観察されなかった.
3) 出産率および妊娠期間(Table 10)
出産率はすべての投与群とも100%を示し,妊娠期間についても対照群とドコサン酸各投与群との間で有意差は認められなかった.
4) 妊娠黄体数,着床数および着床率(Table 10)
妊娠動物の黄体数,着床数および着床率には,対照群とドコサン酸各投与群との間で有意差は認められなかった.
2. 出生児所見
1) 生存性(Table 10)
産児数,分娩率,生児出産率,出生率および新生児の4日の生存率には,対照群とドコサン酸各投与群との間で有意差は認められなかった.また,性比についても,対照群とドコサン酸各投与群との間で有意差は認められなかった.
2) 体重(Table 10)
哺育0および4日の体重に対照群とドコサン酸各投与群との間で有意差は認められなかった.
3) 形態
出生日の外表観察,死亡児の剖検および哺育4日の剖検では,形態異常を示した出生児は観察されなかった.
考察
雌雄ラットにドコサン酸の100,300および1000 mg/kgを反復経口投与した結果,いずれの投与群においても死亡例は観察されず,一般状態,体重推移および摂餌量についてもドコサン酸投与の影響を示唆する変化は認められなかった.42回投与後の雄の血液検査では,平均赤血球血色素濃度が300 mg/kg以上の投与群で,アルカリファスファターゼ活性がドコサン酸各投与群で,ブドウ糖濃度が1000 mg/kg投与群でそれぞれ有意に低下した.しかし,いずれの変化も軽度であり,病理学検査を含む他の検査項目においても随伴する変化は認められなかったことから,これらは偶発的な変化で毒性学的意義はないと考えられる.病理組織学検査において,1000 mg/kg投与群の2匹にごく軽度な精細管の萎縮がみられたが,いずれも限局性の変化で自然発生的にみられる組織像であり,交尾率および受胎率にもドコサン酸 の影響はなかった.母動物の妊娠期間,出産率,分娩状態および哺育状態,さらには出生児の生存性,体重,性比および形態にドコサン酸投与の影響は認められなかった.
以上の成績から,本試験条件下では,ドコサン酸の反復投与毒性および生殖発生毒性に関する無影響量は,1000 mg/kg/dayであると考えられる.
文献
1) | 丹後俊郎,"医学への統計学,"古川俊之監修,朝倉書店,東京,1985. |
2) | 石居進,"生物統計学入門,"培風館,東京,1992. |
3) | 佐久間昭,"薬効評価-計画と解析,"東大出版会,東京,1977. |
4) | C.W. Dunnett, Biometrics 20, 482(1964). |
5) | H. Scheff*, Biometrika 40, 87(1953). |
6) | W.H. Kruskal, W.A. Wallis, J. Amer. Statist. Assoc. 47, 583(1952). |
連絡先 |
| 試験責任者: | 長尾哲二 |
| 試験担当者: | 太田 亮,渡辺千朗,関 誠,関野早苗 |
| (財)食品薬品安全センター秦野研究所 |
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