1,2-ビス(2-クロロエトキシ)エタンのラットを用いる単回経口投与毒性試験
Single Dose Oral Toxicity Test of 1,2-Bis(2-chloroethoxy)ethane in Rats
要約
1,2-ビス(2-クロロエトキシ)エタンの単回経口投与毒性試験をCD(SD)IGS系(SPF)ラットを1群雌雄各5匹用いて実施した.
1,2-ビス(2-クロロエトキシ)エタンをコーンオイルに溶解し,雌雄ともに180,270,400および600 mg/kgに相当する量を単回強制経口投与した.また,媒体対照としてコーンオイルのみを投与した群も設定した.観察期間は14日間とし,一般状態の観察,死亡動物の確認,体重測定および病理学検査を実施した.
死亡は雄では180,270,400および600 mg/kg群で2,1,4および5例,雌では270,400および600 mg/kg群で2,2および5例に認められた.死亡例は雄の180 mg/kg群の1例の投与後3日を除いていずれも投与後1日に認められた.
投与後1日には自発運動低下および流涎が全ての被験物質投与群で観察された.さらに死亡動物では,下痢,流涙,腹臥位,側臥位および体温低下が認められた.生存動物でも下痢,流涙および腹臥位が認められたが,これらの所見は投与後2日には消失した.その他,投与後2日に死亡動物で自発運動低下,流涎および被毛の汚れが認められた.生存動物の体重は各群の雌雄ともに差がなかった.
病理学検査において,投与後1日の死亡動物の肺に赤色の区域/斑点がび漫性に認められ,標的器官は肺であることが示唆された.
したがって,1,2-ビス(2-クロロエトキシ)エタンのLD50値(95 %信頼限界)は雄で269(165〜388)mg/kgおよび雌で353(271〜471)mg/kgであった.
方法
1.被験物質および投与液の調製
1,2-ビス(2-クロロエトキシ)エタン[丸善ケミカル(東京),純度99.7 %,Lot No. BB16]は無色透明液体であり,使用時まで気密容器で室温の被験物質保管庫に保管した.試験終了後,残余被験物質を提供元で再分析し,被験物質が試験期間中安定であることを確認した.
投与液の調製においては,被験物質をコーンオイル(Lot No. V7B5849,ナカライテスク)に溶解して36,54,80および120 mg/mLの各投与液を調製した.調製は投与直前に行った.投与液中の被験物質濃度を調製後速やかに測定した結果,適切に調製されていたことが確認された.
2.供試動物および飼育方法
5週齢のCrj:CD(SD)IGS系ラット(SPF)雌雄各31匹を日本チャールス・リバーから購入した.動物は検収後,試験環境への馴化のために1週間予備飼育し,6週齢に達した時点で投与した.動物は,温度23.6〜24.4℃,湿度45〜64 %,照明時間12時間(午前7時点灯,午後7時消灯)に制御された飼育室で,ステンレス製網目飼育ケージに5匹ずつ収容して飼育した.動物には,オリエンタル酵母工業製造の固型飼料MF(Lot No. 020701,020904)および水道水を自由に摂取させた.
3.投与量の設定および投与方法
予備試験において50,100,200および400 mg/kgを投与した結果,400 mg/kg群の雌雄で3例中2例が死亡した.以上の結果からLD50値を求めるために本試験の用量は雌雄ともに600 mg/kgを最高用量として以下公比1.5で除して400,270および180 mg/kgを設定した.さらに雌雄それぞれに媒体対照群を設置した.投与容量は体重100 g当たり0.5 mLとし,個体別に測定した体重に基づいて投与液量を算出した.投与回数は1回とし,投与前約16時間絶食させた動物に胃ゾンデを用いて強制経口投与した.なお,対照群にはコーンオイルのみを投与した.給餌は,被験物質投与後約3時間に行った.
4.群構成
動物はあらかじめ体重を基に層別化し,無作為抽出法により雌雄ともに各群5匹ずつを振り分けた.投与時の体重は,雄が154〜168 g,雌が116〜131 gであった.
5.観察および検査
中毒症状および生死の観察は,投与6時間までは1時間毎に,投与翌日からは1日1回,投与日を観察第1日として14日間にわたって実施した.体重は投与直前,投与後7および14日に測定した.観察期間中の死亡例は発見時に解剖し,生存動物は観察期間終了時にエーテル麻酔後放血死させ解剖した.
6.統計解析
半数致死量(LD50)をProbit法により算出した.
結果
1.死亡率およびLD50値(Table 1)
雄では180,270,400および600 mg/kg群で2,1,4および5例,雌では270,400および600 mg/kg群で2,2および5例に認められた.死亡例は雄の180 mg/kg群の1例の投与後3日を除いていずれも投与後1日に認められた.LD50値(95 %信頼限界)は雄で269(165〜388)mg/kgおよび雌で353(271〜471)mg/kgであった.
2.一般状態
投与後1日には自発運動低下が180,270,400および600 mg/kg群の雌雄の全例に観察された.流涎が180,270,400および600 mg/kg群の雄で5,4,5および4例に,雌で4,5,4および5例に認められた.さらに死亡動物では,下痢が180,270,400および600 mg/kg群の雄で2,1,3および3例に,雌で0,1,1および0例に認められた.流涙が180,270,400および600 mg/kg群の雄で1,0,2および4例に,雌で0,2,2および5例に認められた.腹臥位が180,270,400および600 mg/kg群の雄で2,1,4および5例に,雌で0,2,2および5例に認められた.側臥位が400 mg/kg群の雌雄で各2例に認められた.体温低下が600 mg/kg群の雄で3例,雌で4例に認められた.生存動物では,下痢が180,270および400 mg/kg群の雄で2,1および0例に,雌で3,1および1例に認められた.流涙が180,270および400 mg/kg群の雄で0,1および1例に,雌で4,1および3例に認められた.腹臥位が270および400 mg/kg群の雄で0および1例に,雌で1および3例に認められた.生存動物のこれらの所見は投与後2日には消失した.その他,投与後3日に死亡した180 mg/kg群の雄の1例に自発運動低下,流涎および被毛の汚れが認められた.
3.体重
投与後7および14日の測定結果,各被験物質投与群の雌雄ともに差は認められなかった.
4.病理所見
投与後1日の死亡動物では肺に赤色の区域/斑点がび漫性に認められた.なお,投与後3日に死亡した雄の180 mg/kg群の1例では脾臓,胸腺および精嚢の萎縮と空腸の赤色化が認められた.
考察
1,2-ビス(2-クロロエトキシ)エタンの180,270,400および600 mg/kgに相当する量を6週齢のCD(SD)IGS系ラットの雌雄に単回経口投与し,投与後14日間観察した.死亡は雄では180,270,400および600 mg/kg群で2,1,4および5例,雌では270,400および600 mg/kg群で2,2および5例に認められた.死亡例は雄の180 mg/kg群の1例の投与後3日を除いていずれも投与後1日に認められた.1,2-ビス(2-クロロエトキシ)エタンのLD50値(95 %信頼限界)は雄で269(165〜388 )mg/kgおよび雌で353(271〜471)mg/kgであった.
一般状態では投与後1日に自発運動低下および流涎が全ての被験物質投与群で観察された.さらに死亡動物では下痢,流涙,腹臥位,側臥位および体温低下が認められた.生存動物でも下痢,流涙および腹臥位が認められたが,これらの所見は投与後2日には消失した.生存動物の体重は各群の雌雄とも差がなかった.
肉眼所見では投与後1日の死亡動物で肺に赤色の区域/斑点がび漫性に認められ,標的器官は肺であることが示唆された.なお,観察期間終了時の生存動物に異常所見は認められなかった.
連絡先 |
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| 試験担当者: | 保母真由美 |
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| Authors: | Nobuaki Watari(Study director) Mayumi Hobo |
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