その結果,1000 mg/kg群の雌1例,2000 mg/kg群の雄3例,雌5例が死亡した.
一般状態観察では,1000 mg/kg以上の用量群で自発運動の低下,歩行失調あるいは歩行異常,側臥位あるいは腹臥位,うずくまり,流涙あるいは紅涙,鼻腔周囲あるいは下腹部の汚れ,2000 mg/kg群で貧血様症状,体温低下,振戦,易刺激性および流涎が認められた.
体重において,500,1000および2000 mg/kg群の雌雄で低値が観察期間初期から中期にかけて認められた.
剖検において,死亡動物で前胃のびらん/潰瘍および白色斑,腺胃の限局性出血および壁の肥厚,胃および小腸のタール様内容物,十二指腸潰瘍,肝臓の褪色,葉間の癒着および黒色斑,腎臓の褐色斑,膀胱の血尿の貯留が認められた.生存動物では,前胃の白色斑あるいは隆起巣が500 mg/kg以上の用量群,脾臓の腫大あるいは暗赤色化が1000 mg/kg以上の用量群,肝臓と十二指腸の癒着が1000 mg/kg群に認められた.代表例について病理組織学検査を行った結果,死亡動物では,腺胃のびらん,前胃の潰瘍および炎症性細胞浸潤,肝臓の肝細胞の水腫変性,腎臓の尿細管の出血および近位尿細管の壊死が認められた.生存動物では,前胃の潰瘍,びらんおよび炎症性細胞浸潤,前胃扁平上皮の増生,胃の肉芽組織,脾臓の赤血球系髄外造血の亢進が認められた.
本被験物質のLD50値は,雄は2000 mg/kg付近,雌は1293 mg/kgであった.
検疫・馴化期間を含む全飼育期間を通して,温度22 ± 2℃,相対湿度55 ± 15 %,換気約12回/時,照明12時間/日(7:00 - 19:00)に自動調節した飼育室を使用した.動物は,実験動物用床敷(ベータチップ,日本チャールス・リバー)を敷いたポリカーボネート製ケージに,群分け前はケージあたり5匹以下(同性),群分け後はケージあたり5匹(同性)収容し,飼育した.動物には,実験動物用固型飼料(MF,オリエンタル酵母工業)と, 5μmのフィルター濾過後,紫外線照射した水道水を自由に摂取させた.
投与前日の夕方から約18時間絶食したラットに胃ゾンデを装着したシリンジを用いて1回投与した.投与後3時間は飼料を与えなかった.投与液量は,10 mL/kgとし,投与直前に測定した体重に基づいて算出した.
1000 mg/kg群の雄では,自発運動の低下,歩行失調,紅涙および鼻腔周囲の汚れが第2日のみに認められた. 雌では,歩行失調が投与後6時間,自発運動の低下および歩行異常が第2,3日に,流涙,腹臥位あるいはうずくまりが第2日のみに認められた.
対照群,250および500 mg/kg群では,被験物質投与に起因した異常は認められなかった.
生存動物では,前胃の白色斑あるいは隆起巣が500 mg/kg以上の用量群,脾臓の腫大あるいは暗赤色化が1000 mg/kg以上の用量群,肝臓と十二指腸の癒着が1000 mg/kg群に認められた.
生存動物では,2000 mg/kg群の雄2例および1000 mg/kg群の雌1例の胃,2000 mg/kg群の雄2例の脾臓について検査した.その結果,前胃の炎症性細胞浸潤を伴ったびらんあるいは潰瘍,肉芽組織および扁平上皮の増生,ならびに脾臓の赤血球系髄外造血の亢進が認められた.
その結果,1000 mg/kg群の雌1例,2000 mg/kg群の雄3例,雌5例が死亡した.一般状態観察では,自発運動の低下,歩行失調を主徴とする運動障害性の変化が1000 mg/kg以上の用量群,貧血様症状,易刺激性および振戦が2000 mg/kg群で認められた.生存動物では,いずれの変化も観察期間中に消失した.本被験物質はメルカプタンの1つである.メルカプタンは,ラットに運動失調あるいは協調運動不能を起こすことが報告されている1).また,イソプロピルメルカプタンのラットへの4時間吸入により,活動亢進が起こることが報告されている1).
体重の低値が,500,1000および2000 mg/kg群で観察期間初期から中期にかけて認められたが,後期には回復性が認められた.
病理学検査において,死亡動物では前胃あるいは腺胃のびらんあるいは潰瘍,十二指腸の潰瘍等の胃腸管傷害,ならびにこれらの傷害性変化に伴うと考えられる胃および小腸のタール様内容物あるいは肝臓の葉間癒着が認められた.生存動物では,肉眼的に前胃の白色斑および隆起巣が500 mg/kg以上の用量群で認められ,病理組織学検査を実施した動物で前胃のびらんあるいは潰瘍,扁平上皮の増生および修復性変化と考えられる肉芽組織が認められた.本被験物質は,ウサギやモルモットに対し皮膚刺激性を有している.また,メルカプタンは眼や皮膚に刺激性を有し,t-アミルメルカプタンはラットへの単回経口投与により消化管への刺激性を有することが報告されている1).本試験で認められた胃腸管の変化は,被験物質の粘膜刺激性を示唆する変化と考えられる2).上記の胃腸管傷害の他に,死亡動物で肝臓の褪色および肝細胞の水腫変性,腎臓の褐色斑,近位尿細管壊死および尿細管への出血,ならびに腎臓の変化に伴うと考えられる膀胱の血尿貯留が認められた.生存動物では,出血に伴う生体反応と考えられる脾臓の腫大と赤血球系髄外造血の亢進が認められた.
本被験物質のLD50値は,雄は2000 mg/kg付近,雌は1293 mg/kgであった.
1) | Clayton G.D., Clayton F.E.(編),内藤裕史,横手規子(監訳):メルカプタン.In「化学物質毒性ハンドブックVI」丸善,東京(2000)pp. 3-18. |
2) | 日本毒性病理学会(編):消化管.In「毒性病理組織学」日本毒性病理学会,名古屋(2000)p.160. |
連絡先 | |||
試験責任者: | 山下弘太郎 | ||
試験担当者: | 五十嵐佳代,木野本恵子,菅野 剛 | ||
(株)三菱化学安全科学研究所鹿島研究所 | |||
〒314-0255 茨城県鹿島郡波崎町砂山14 | |||
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Correspondence | ||||
Authors: | Kotaro Yamashita(Study director) Kayo Igarashi, Keiko Kinomoto, Takeshi Kanno | |||
Kashima Laboratory, Mitsubishi Chemical Safety Institute Ltd. | ||||
14 Sunayama, Hasaki-machi, Kashima-gun, Ibaraki, 314-0255, Japan. | ||||
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