3,3'-チオビス(プロパン酸)のラットを用いる単回経口投与毒性試験
Single Dose Oral Toxicity Test of 3, 3'-Thiobispropanoic acid in Rats
要約
3,3'-チオビス(プロパン酸)は酸化防止剤として用いられている1).今回,3,3'-チオビス(プロパン酸)を雌雄のラットに0および2000 mg/kgの用量で1回経口投与し,毒性を検討した.1群の動物数は雌雄各5匹,観察期間は14日間とした.
その結果,死亡動物は認められなかった.一般状態観察,体重測定および剖検において,被験物質投与の影響は認められなかった.3,3'-チオビス(プロパン酸)の半数致死量(LD50値)は,雌雄ともに2000 mg/kgを上回ると結論した.
方法
1.被験物質
三菱レイヨン(東京)から提供された3,3'-チオビス(プロパン酸)(ロット番号 EJ-068,純度 99.50 %)を冷蔵,暗所条件下で保存し使用した.被験物質の安定性は被験物質提供者より安定性を保証する資料を入手し,確認した.被験物質を0.5 %CMC-Na水溶液(CMC-Na;和光純薬工業,注射用水;大塚製薬工場)に懸濁して投与液を調製した.投与液の調製は投与6日前に行い,投与に用いるまで冷蔵・遮光条件下で保存した.投与液中の被験物質の冷蔵・遮光条件下8日間の安定性を9および200 mg/mLで確認した.また,投与液を分析し,その平均値が設定濃度±10 %以内であることを確認した.また,均一性(C.V.値が10 %以内にあること)を確認した.
2.試験動物および動物飼育
日本チャールス・リバーからCrj:CD(SD)IGSラット(SPF)を入手し,5日間検疫・馴化し,その後2日間馴化を継続した.1群の動物数は雌雄各5匹とし,投与前日に,体重層別化無作為抽出法によって各群の体重がほぼ均一となるように群分けした.投与日の週齢は5週齢,体重範囲は雄が133〜150 g, 雌が111〜126 gであった.
検疫・馴化期間を含む全飼育期間を通して,温度22 ± 2℃,相対湿度55 ± 15 %,換気約12回/時,照明12時間/日(7:00 - 19:00)に自動調節した飼育室を使用した.動物は,実験動物用床敷(ベータチップ,日本チャールス・リバー)を敷いたポリカーボネート製ケージに,群分け前はケージあたり5匹以下(同性),群分け後はケージあたり5匹(同性)収容し,飼育した.動物には,実験動物用固型飼料(MF,オリエンタル酵母工業)と, 5 μmのフィルター濾過後,紫外線照射した水道水を自由に摂取させた.
3.投与量および投与方法
3,3'-チオビス(プロパン酸)をラットに経口投与したときのLD50値は,3000 mg/kgとの情報を得た.また,予備試験(用量; 0, 500, 2000 mg/kg,動物数;雌雄各3匹/用量,観察期間;投与後5日間)を実施した結果,一般状態観察,体重測定および剖検において,被験物質投与に起因する変化は認められなかった.これらの結果から,本試験はガイドラインの上限である2000 mg/kgの1用量とした.また,媒体のみを投与する対照群を設けた.
投与前日の夕方から約18時間絶食したラットに胃ゾンデを装着したシリンジを用いて1回投与した.投与後3時間は飼料を与えなかった.投与液量は,10 mL/kgとし,投与直前に測定した体重に基づいて算出した.
4.観察・測定項目
生死および外観・行動等の異常について,投与日には投与直前,投与後0.5,1,3および6時間,その後は1日1回,14日間観察した.体重は,投与直前(第1日;投与日),第2,4,8,10および15日に全例の体重を測定した.観察終了時(第15日)にチオペンタールナトリウム麻酔下で放血し,安楽死させた後剖検した.
5.統計解析
体重について,F検定を行い,等分散であればStudentのt検定,等分散でない場合はAspen-Welchのt検定を行った.有意水準は5 %とした.
結果
1.死亡状況およびLD50値
対照群,2000 mg/kg群の雌雄ともに死亡動物は認められなかった.LD50値は,雌雄ともに2000 mg/kgを上回った.
2.一般状態
対照群,2000 mg/kg群の雌雄ともに変化は認められなかった.
3.体重
2000 mg/kg群の体重は,雌雄ともに対照群と同様に推移した.なお,統計学的に有意ではなかったが,第8日に2000 mg/kg群の雄で低値が認められた.これは第7日から第8日に2000 mg/kg群の雄で給餌されていなかったためであり,被験物質投与の影響ではないと考えられる.
4.剖検所見
対照群,2000 mg/kg群の雌雄ともに変化は認められなかった.
考察
3,3'-チオビス(プロパン酸)を雌雄のラットに2000 mg/kgの用量を1回経口投与した結果,死亡動物は認められなかった.一般状態観察,体重測定および剖検において,被験物質投与の影響は認められなかった.本被験物質のLD50値は,雌雄ともに2000 mg/kgを上回ると結論した.
文献
1) | 「新化学インデックス」1994年度版,化学工業日報,東京(1993)p.388. |
連絡先 |
| 試験責任者: | 山下弘太郎 |
| 試験担当者: | 五十嵐佳代,木野本恵子 |
| (株)三菱化学安全科学研究所鹿島研究所 |
| 〒314-0255 茨城県鹿島郡波崎町砂山14 |
| Tel 0479-46-2871 | Fax 0479-46-2874 | |
Correspondence |
| Authors: | Kotaro Yamashita(Study director) Kayo Igarashi, Keiko Kinomoto |
| Kashima Laboratory, Mitsubishi Chemical Safety Institute Ltd. |
| 14 Sunayama, Hasaki-machi, Kashima-gun, Ibaraki, 314-0255, Japan. |
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