雌雄いずれにも死亡は認められなかった.一般状態では,250 mg/kg群の雌雄で流涎がみられた.
体重では250 mg/kg群の雄で増加抑制が認められた.
摂餌量では,雌雄いずれの群にも被験物質投与の影響は認められなかった.
血液学検査では,250 mg/kg群の雌で赤血球数,ヘモグロビン量,ヘマトクリット値およびリンパ球分画比率の減少と網赤血球率および分節核好中球比率の増加がみられた.
血液生化学検査では,50 mg/kg群の雄および250 mg/kg群の雌雄で総たん白質の増加がみられた.250 mg/kg群では,これに加えてASAT,ALATならびにγ-GTP活性,アルブミン,総コレステロール,リン脂質,総ビリルビン,塩素およびカルシウムの増加が雌雄に,LDH活性,A/G比およびトリグリセライドの増加とカリウムの減少が雌にみられた.
尿検査では,50および250 mg/kg群の雄で尿たん白質の増加,250 mg/kg群の雌で尿量の増加と尿浸透圧の減少がみられた.また,250 mg/kg群の雌では摂水量の増加も認められた.
病理学検査では,肝臓,腎臓ならびに胸腺に変化がみられた.肝臓では肉眼的大型化が250 mg/kg群の雄,重量増加が50 mg/kg群の雌と250 mg/kg群の雌雄にみられ,組織学的には小葉中心性の肝細胞肥大が50および250 mg/kg群の雌雄に,小葉辺縁部肝細胞における空胞減少が50 mg/kg群の雌および250 mg/kg群の雌雄に認められた.また,250 mg/kg群の雌で腎臓重量の増加および胸腺重量の減少がみられた.
回復群では,上記の変化の多くは消失あるいは軽減し,回復性が認められた.ただし,250 mg/kg群の雄で投与期間中に生じた対照群との体重差は回復期間になっても軽減しなかった.また,投与終了時に250 mg/kg群の雌でみられた貧血は休薬により回復したが,雄では回復終了時になってから貧血が明らかとなり,雄では被験物質の赤血球に対する作用が遅延性に発現することが示唆された.以上の結果から,本試験条件下における1,3-ジブロモプロパンの無影響量は,雌雄ともに10 mg/kg/dayと考えられた.
被験物質は,投与容量が10 mL/kg体重となるようトウモロコシ油で希釈して2,10および50 mg/mL溶液を調製した.調製は週1回以上の頻度で行い,ポリ製遮光瓶に入れて使用時まで冷蔵庫(1〜7 ℃)に気密保存した.なお,上記条件下で被験液が安定性であることを確認した.また,投与開始前および投与終了週の2回,投与に使用する各濃度液について測定した結果,いずれも適正濃度であった.
動物は,群分け当日の体重に基づいて層別化し,各群平均体重がほぼ均等となるよう,コンピュータを用いて各群に割り付けた.
動物は,温度23 ± 3 ℃,相対湿度50 ± 20 %,換気回数1時間当たり10〜15回,照明1日12時間の飼育室で,金属製網ケージに1匹ずつ収容し,固型飼料(放射線滅菌CRF-1,オリエンタル酵母工業(株))および飲料水(水道水)を自由に摂取させ飼育した.
被験液の投与容量は10 mL/kg体重とし,胃ゾンデを用いて1日1回28日間強制経口投与した.対照群には溶媒(トウモロコシ油)を同様に投与した.投与液量は最新の体重を基準に算出した.回復期間は14日間とした.
250 mg/kg群では雌雄とも投与12日以降に流涎が雄で5〜10例,雌で5〜8例に連日観察された.
雌では,各投与群の体重は対照群と同様に推移した.
雌では,各投与群の体重は対照群と同様に推移した.
雌では,各投与群の摂餌量は対照群と同様に推移した.
雌では,赤血球数の減少傾向,ヘモグロビン量,ヘマトクリット値およびリンパ球分画比率の有意な減少と網赤血球率および分節核好中球分画比率の有意な増加が250 mg/kg群にみられた.
雌では,ヘモグロビン量の有意な減少とフィブリノーゲンの有意な増加が250 mg/kg群にみられた.
雌では,γ-GTP活性,総たん白質,アルブミン,A/G比,総コレステロール,トリグリセライド,リン脂質,総ビリルビン,塩素およびカルシウムの有意な増加と尿素窒素,クレアチニンおよびカリウムの有意な減少ならびにASATおよびALAT活性の増加傾向が250 mg/kg群にみられた.
雌では,総コレステロールの有意な増加が250 mg/kg群にみられた.
雌では,250 mg/kg群で尿量および摂水量の有意な増加と尿浸透圧の有意な減少がみられた.
雌では,尿pHの有意な高値が250 mg/kg群にみられた.
雌では,50 mg/kg群で肝臓の相対重量の有意な増加,250 mg/kg群で肝臓の絶対および相対重量の有意な増加,胸腺の絶対重量の有意な減少ならびに心臓および腎臓の相対重量の有意な増加がみられた.
他に,250 mg/kg群の雄で脳,下垂体および精嚢の絶対重量の減少ならびに心臓,腎臓,甲状腺および肺の相対重量の有意な増加がみられたが,いずれも剖検時の体重の低値に起因する変化と考えられた.また雌では,子宮の絶対および相対重量の有意な増加が10 mg/kg群にみられたが,用量に関連した変化ではなかった.
雌では,250 mg/kg群で甲状腺および胸腺の絶対および相対重量の有意な増加ならびに心臓および肝臓の相対重量の有意な増加がみられた.
他に,50 mg/kg群の雄で胸腺の相対重量の有意な減少と肝臓の絶対および相対重量の有意な増加がみられたが,用量に関連した変化ではなかった.また,精巣の相対重量の有意な増加が250 mg/kg群にみられたが,同群の剖検時体重の低値および対照群の1例で精巣の小型化がみられたために対照群平均値が低くなったことによる変化と考えられた.
雌では,250 mg/kg群で腺胃の暗赤色巣が2例にみられた.
肝臓:軽微あるいは軽度の小葉中心性肝細胞肥大が50 mg/kg群の雄4例と雌3例および250 mg/kg群の雌雄全例にみられた.小葉辺縁部肝細胞における空胞化が対照群を含む雌雄各群の全例に軽微あるいは軽度にみられたが,軽度な例は対照群で雄6例と雌5例,10 mg/kg群で雌雄各5例,50 mg/kg群で雄4例と雌2例,250 mg/kg群で雌雄各1例であり,50 mg/kg群の雌および250 mg/kg群の雌雄では空胞が減少する傾向がみられ,250 mg/kg群の雌雄では有意差も認められた.なお,微小肉芽腫が対照群を含む雌雄各群の3〜6例にみられたが,その出現状況から偶発所見と判断した.
上記以外の所見は,生理的変化である脾臓の髄外造血および褐色色素の沈着を除きその出現状況および病理学的性状から偶発所見と判断した.
脾臓:軽微あるいは軽度の髄外造血および褐色色素の沈着が,対照群,50および250 mg/kg群の雌雄全例にみられたが,髄外造血の軽度の例は50 mg/kg群で雄3例,250 mg/kg群で雄6例と雌2例であり,50 mg/kg群の雄と250 mg/kg群の雌雄では髄外造血が亢進する傾向がみられ,250 mg/kg群の雄では有意差も認められた.また,褐色色素の沈着の軽度な例は,対照群の雌で2例,50 mg/kg群の雌で1例,250 mg/kg群で雌雄各5例であり,250 mg/kg群の雌雄で変化が増強される傾向がみられ,雄では有意差も認められた.
上記以外の所見は,出現状況および病理学的性状から偶発所見と判断した.
体重では,250 mg/kg群の雄で体重増加抑制が認められた.回復期間では,250 mg/kgの雄の体重は依然として対照群に比べ低値を示したが,回復期間中の体重増加量に差はなかった.
摂餌量では,雌雄いずれの投与群においても被験物質投与の影響は認められなかった.
血液学検査では,250 mg/kg群の雌で赤血球数,ヘモグロビン量およびヘマトクリット値の減少ならびに網赤血球率の増加がみられ,被験物質投与による軽度の貧血が認められた.また,同群ではリンパ球分画比率の減少と分節核好中球分画比率の増加がみられたが,変化としてはわずかであり被験物質投与の影響は軽度なものと考えられた.回復終了時の検査ではこれらの変化は消失あるいは軽減し,回復性が認められた.なお,フィブリノーゲンの増加が250 mg/kg群の雌にみられたが,回復終了時のみにみられた軽度な変化であり毒性学的意義はないと判断した.一方,雄の250 mg/kg群では投与終了時にはみられなかった貧血性変化,すなわち赤血球数,ヘモグロビン量,ヘマトクリット値および平均赤血球血色素濃度の減少がみられた.これは時期は遅れているものの投与終了時に雌でみられた貧血と同質のものと考えられ,網赤血球率の増加および後述の脾臓における髄外造血の亢進がみられていることから,休薬期間を延長すれば回復する可能性は高いと考えられた.
血液生化学検査では,ASAT,ALATおよびγ-GTP活性の増加が250 mg/kg群の雌雄に,LDH活性の増加が同群の雄にみられ,被験物質による肝機能障害が示唆された.また,総たん白質の増加が50 mg/kg群の雄と250 mg/kg群の雌雄に,250 mg/kg群ではこれに加えアルブミン,総コレステロール,リン脂質および総ビリルビンの増加が雌雄に,A/G比およびトリグリセライドの増加が雌にみられ,これらも被験物質の肝臓への影響を示唆するものと考えられた.同用量群では他に塩素の増加が雌雄に,カリウムの減少が雌にみられたが機序は不明であった.なお,尿素窒素とクレアチニンの減少が250 mg/kg群の雌雄にみられたが,増加ではないことから毒性学的意義はないと判断した.また,カルシウムの増加が250 mg/kg群の雌雄にみられたが,アルブミンが増加したことによる「みかけ上のカルシウム高値」2)と考えられ,毒性学的意義は乏しいと考えられた.回復終了時ではこれらの変化は消失あるいは軽減し,回復性が認められた.なお,250 mg/kg群の雄においてトリグリセライドの減少がみられたが,投与終了時にみられた肝機能に関連する変化は消失あるいは軽減化していることから偶発性の変化と判断した.
尿検査では,50および250 mg/kg群の雄で尿たん白質の増加がみられ,被験物質の腎臓への影響が示唆された.雌では摂水量および尿量の増加と尿浸透圧の減少がみられた.しかし,尿浸透圧の減少の程度は尿量の増加に見合ったものであり,被験物質の影響は生体の水分バランスを乱すような重篤なものではなかった.回復期間では,これらの変化は消失し回復性が認められた.なお,雌の250 mg/kg群で尿pHの高値がみられたが,当施設の背景資料では同様の週齢の雌における値は8.0〜9.0の範囲にあり,今回みられた差は対照群で極端に低値(6.5あるいは7.0)を示す例がみられたことによる偶発性の変化とみられた.
病理学検査では,肝臓,腎臓および胸腺に変化がみられた.肝臓では,肉眼的な大型化が250 mg/kg群の雄,器官重量の増加が50 mg/kg群の雌と250 mg/kg群の雌雄にみられた.組織学的には小葉中心性の肝細胞肥大が50および250 mg/kg群の雌雄にみられ,これが上記の肉眼所見および器官重量増加の原因と考えられた.また,小葉辺縁部肝細胞における空胞減少が50 mg/kg群の雌および250 mg/kg群の雌雄にみられ,血液生化学検査における脂質の変化に関連したものと推定された.腎臓では重量増加が250 mg/kg群の雌にみられ,尿検査の結果とともに被験物質の腎臓への影響が示唆された.胸腺では絶対重量のみの軽度な減少が250 mg/kg群の雌にみられた.しかし,腎臓および胸腺では組織学的な変化は認められず,両器官への影響は軽度なものと考えられた.回復終了時にはこれらの変化は消失あるいは軽減し,回復性が認められた.なお,回復終了時に50 mg/kg群の雄と250 mg/kg群の雌雄で脾臓における髄外造血の亢進,更に250 mg/kg群では脾臓における褐色色素の沈着が雌雄に,器官重量の増加が雄にみられたが,重量増加および髄外造血亢進は貧血からの回復像であり,褐色色素の沈着は貧血に関連した変化と考えられた.また,250 mg/kg群の雌で胸腺および甲状腺の重量が増加したが,胸腺の変化は投与終了時にみられた重量減少の反動と考えられること,甲状腺の変化は回復終了時のみにみられた組織学的変化を伴わないものであることから,毒性学的意義はないと判断した.他に,250 mg/kg群の雄で心臓の相対重量の増加が投与終了時および回復終了時にみられたが,絶対重量の変化を伴わない軽度なものであり,投与終了時の組織学検査においても変化はみられなかったことから,これも毒性学的意義はないと判断した.
以上の如く,1,3-ジブロモプロパンをラットに28日間反復経口投与した結果,主な変化として250 mg/kg群の雌雄で流涎,貧血(ただし,雄では遅延性に発現),血中のたん白質および脂質の増加,肝重量の増加ならびに肝臓における小葉中心性の肝細胞肥大と小葉辺縁部の空胞の減少がみられた.50 mg/kg群ではこれらの変化のうち,小葉中心性の肝細胞肥大が雌雄に,肝臓重量の増加,小葉辺縁部の空胞の減少および血中たん白質の増加が雌にみられた.一方,10 mg/kg群では被験物質投与に起因する変化は認められなかった.
これらの結果から,本試験における1,3-ジブロモプロパンの無影響量は雌雄ともに10 mg/kg/dayと推定された.
1) | 榎並倫宣,化学物質毒性試験報告,10, 159(2003). |
2) | 藤田拓男,日本臨床,532, 456(1985). |
連絡先 | |||
試験責任者: | 榎並倫宣 | ||
試験担当者: | 大石 巧,畠山和久,楠岡 修,津田敏治,勝亦倶慶 | ||
(株)ボゾリサーチセンター御殿場研究所 | |||
〒412-0039 静岡県御殿場市かまど1284 | |||
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Correspondence | ||||
Authors: | Tomonori Enami(Study director) Takumi Ohishi, Kazuhisa Hatayama, Osamu Kusuoka, Toshiharu Tsuda, Toyohisa Katsumata | |||
Gotemba Laboratory, Bozo Research Center Inc. | ||||
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