2-(1-メチルエトキシ)エタノールのラットを用いる経口投与簡易生殖毒性試験

Preliminary Reproduction Toxicity Screening Test of 2-(1-Methylethoxy)ethanol
by Oral Administration in Rats

要約

2-(1-メチルエトキシ)エタノールは,グリコールエーテル類の1種で(別名エチレングリコールイソプロピルエーテル),水にも有機溶媒にも溶けやすい物性から,インクやペンキ,レジン等の媒体や工業用の洗剤あるいは乳化剤等として広く用いられている.

エチレングリコールエーテル類には,実験動物における生殖発生毒性や血液毒性が報告されている.本被験物質の構造類似物であるエチレングリコールモノメチルエーテルやエチレングリコールモノエチルエーテルにおいては,精巣重量の低下やパキーテン期精母細胞を中心とした精子形成障害の起こることが報告されており1),マウスではエチレングリコールモノブチルエーテルやエチレングリコールモノフェニルエーテルにおいて妊娠率の低下が報告されている2).また,エチレングリコールモノブチルエーテルでは1腹児数の低下が報告されている2)

今回,雌雄のSprague-Dawley系[Crj:CD(SD)IGS,SPF]ラットを用いて,2-(1-メチルエトキシ)エタノールの生殖毒性について検討した.ラットには交配前2週間および交配期間ならびに雄では交配終了後剖検前日まで,雌では妊娠期間を通して哺育3日まで,2-(1-メチルエトキシ)エタノールの0,8,30および125 mg/kgを強制経口投与した.試験結果は以下の様に要約される.

1. 反復投与毒性

雌雄ともいずれの投与群においても死亡動物はみられなかった.雄の125 mg/kg投与群および雌の30 mg/kg以上の投与群において,初回投与後に赤色尿が観察された.体重および摂餌量には2-(1-メチルエトキシ)エタノール投与の影響はみられなかった.剖検所見および病理組織学検査では,雌雄ともに125 mg/kg投与群の脾臓重量が増加した以外,被験物質の投与によると考えられる異常は認められなかった.

2. 生殖発生毒性

性周期,交尾および受胎能力,妊娠期間,分娩ならびに哺育状態等の項目に,2-(1-メチルエトキシ)エタノールの投与に起因したと考えられる変化は認められなかった.

出生児の生存および体重には,2-(1-メチルエトキシ)エタノール投与の影響は認められなかった.

3. 無作用量

以上の成績から,本試験条件下における2-(1-メチルエトキシ)エタノールの親動物に対する無作用量は,雄の125 mg/kg投与群および雌の30 mg/kg投与群において赤色尿が認められた事から雄に対しては30 mg/kg/day,雌に対しては8 mg/kg/day,親動物の生殖能力および出生児に対する無作用量は,ともに125 mg/kgまでの投与で何ら異常が認められなかった事から,いずれも125 mg/kg/dayと判断された.

方法

1. 被験物質

本試験には三井化学(株)(東京)より提供された,2-(1-メチルエトキシ)エタノール(ロット番号:30321,純度:99.5 %以上,不純物 水分0.1 %以下)を用いた.受領した被験物質は,入手後,室温で保管した.被験物質の安定性は,残余被験物質を提供元で再分析することにより確認した.

投与検体は,必要量の2-(1-メチルエトキシ)エタノールを秤量し,媒体である日局注射用水(製造番号:9912ST,光製薬(株))で溶解した後,段階希釈して調製した.調製した検体は冷蔵下で暗所に保存し,被験物質の0.05および40.0 w/v%の調製検体の冷蔵下での8日間の安定性が確認されていることから,調製後1週間以内に使用した.試験中に調製した各濃度の投与検体には,所定濃度の2-(1-メチルエトキシ)エタノールが含有されていることを確認した.

2. 使用動物および飼育方法

試験には,雌雄とも7週齢で購入した,日本チャールス・リバー(株)厚木飼育センター生産のSprague-Dawley系ラット[Crj:CD(SD)IGS,SPF]を使用した.購入した動物は,入荷後14日間,飼育環境への馴化と検疫を兼ねて予備飼育し,雄は投与開始前日の測定体重をもとに,雌は予備飼育期間中に2回以上,性周期が回帰している動物を選出し,さらに投与開始前日の測定体重を考慮して,それぞれ体重別層化無作為抽出法により1群13匹からなる4群にわけ各投与群とした.

動物は,照明12時間(7時〜19時点灯),換気回数約15回/時,許容温度21.0〜25.0 ℃,許容湿度40〜75 %に制御された飼育室で,金属製金網床ケージに1匹ずつ(交配時は2匹/ケージ)収容し,固型飼料(CE-2,日本クレア(株))および水道水(秦野市水道局給水)を自由に摂取させて飼育した.ただし,妊娠14日(交尾確認日=妊娠0日)以降は紙パルプ製チップ(ペパークリーン,日本エスエルシー(株))を入れたプラスチック製ラット用繁殖ケージに個別に収容した.

3. 投与量の設定および投与方法

本試験の投与量は,予備試験の結果をもとに設定した.予備試験では,雄に,2-(1-メチルエトキシ)エタノールの125,250あるいは500 mg/kgを11週齢時から14日間,雌では,62.5,125あるいは250 mg/kgを妊娠期間を通して周産期(哺育3日)まで投与した.その結果,雄の250 mg/kg以上の投与群の全例および125 mg/kg投与群の1例では赤色尿が認められ,雌においても125 mg/kg以上の投与群の全例および62.5 mg/kg投与群の1例に赤色尿が認められた.赤色尿は,2-(1-メチルエトキシ)エタノールの28日間反復経口投与毒性試験においても500 mg/kgの投与で観察され,第1回投与後に実施した尿検査において強い潜血反応がみられるとともに,投与期間終了時の血液学検査では赤血球数,ヘモグロビン濃度ならびにヘマトクリット値の低下がみられることから,被験物質により溶血が起きていると判断された.以上の結果から,本試験の投与量は最高用量を雄の1例および雌の全例に赤色尿が観察された125 mg/kgとし,以下公比約4で除して30および8 mg/kgを中用量および低用量に設定した.対照群には,2-(1-メチルエトキシ)エタノールの媒体に用いた注射用水を投与した.

各用量の投与は,雄に対しては交配前2週間,交配期間(最長2週間)を通して剖検前日まで(総投与回数48回),雌に対しては交配前2週間および交配期間(最長2週間),さらに交尾した雌では妊娠期間を通して哺育3日(分娩日=哺育0日)まで(投与回数41〜47回),交尾は認められたものの,分娩のみられなかった雌は妊娠25日相当日まで(投与回数43〜44回)とし,1日1回,9時から12時の間にラット用胃管を用いて強制的に経口投与した.投与容量は体重1 kg当たり5 mLとし,最新の測定日の体重を基に算出した.

4. 観察および検査

1) 親動物

A. 一般状態

雌雄とも全例について飼育期間中,毎日1回以上,投与期間中は投与前後の毎日2回以上観察した.

B. 体重測定

雄では全例について投与1(投与初日),8,15,22,29,36,43日および解剖日に,雌は全例について投与1,8,15日に測定し,交配までに期間を要した雌では投与22日にも体重を測定した.また,交尾を確認した雌では妊娠0,7,14および20日に,分娩した雌では,哺育0および4日に体重を測定した.さらに,交尾が認められなかった雌は投与36,43および50日ならびに解剖日に体重を測定した.

C. 摂餌量測定

投与期間中(交配期間を除く)週1回,体重測定日と同じ日に給餌量を測定し,その翌日に残餌量を測定し,1日の摂餌量を算出した.なお,投与15日は交配の開始日であるため前日からの摂餌量を算出した.交尾が確認された雌では妊娠0,7,14および20日,分娩した雌では哺育3日の翌日までの摂餌量を測定した.

D. 性周期

全例の雌について予備飼育期間中に引き続いて投与開始日以降も,毎日,交尾成立日まで継続して腟垢標本を作製した.膣垢像より性周期を観察し,平均発情日数を算出した.

E. 交配

交配は,投与15日の夕方から最長2週間,同群内の雌雄について1対1で同居させて行った.交尾の確認は,毎朝,腟垢標本中の精子の存在あるいは腟栓の確認により行い,交尾が確認された雌は,その日を妊娠0日と起算して雄から分離し,個別に飼育した.交配の結果から,各群について交尾率((交尾確認動物数/交配動物数)× 100),受胎率((受胎動物数/交尾確認動物数)× 100),同居開始日から交尾までに要した日数およびその間に回帰した発情期の回数を求めた.

F. 分娩・哺育状態の観察

交尾を確認した雌は,全例を自然分娩させた.分娩状態が直接観察できた動物についてはその状態を観察し,直接観察できなかった動物についても,分娩後の徴候から分娩困難や遅延などの分娩障害の有無を判断して記録した.分娩の確認は,午前9時から11時の間に行い,この時間帯に分娩が終了していることを確認した動物については,その日を分娩日と規定した.午前11時を過ぎてから分娩を終了した動物は翌日を分娩日とした.分娩を確認した全例について妊娠期間(妊娠0日から分娩日までの日数)を算出し,出産率((生児出産雌数/受胎動物数)× 100)を各群について求めた.分娩後は哺育状態を毎日観察した.

G. 剖検・病理組織学検査

雄動物は,投与48日の翌日に,致死量のペントバルビタールナトリウム麻酔下で放血・致死させて剖検し,器官,組織の肉眼的観察を行った.その際,脾臓,精巣および精巣上体の重量を測定した.また,脾臓,前立腺腹葉および凝固線を含む精嚢は0.1 Mリン酸緩衝10 %ホルマリン溶液に,精巣および精巣上体はブアン液に固定した.このうち,高用量群および対照群の精巣および精巣上体は,常法に従ってパラフィン切片とし,ヘマトキシリン-エオジン染色を行って,病理組織学検査を実施した.

雌動物のうち,分娩した雌は哺育4日に,交尾はしたが分娩しなかった雌は妊娠26日相当日にそれぞれ致死量のペントバルビタールナトリウム麻酔下で放血・致死させて剖検した.その際,脾臓,卵巣および子宮・膣を摘出し,脾臓については重量を測定した.また,卵巣については実体顕微鏡下で妊娠黄体数を,子宮については着床数を数え,着床率((着床数/妊娠黄体数)× 100)を算出した.また,脾臓,卵巣,子宮および腟は0.1 Mリン酸緩衝10 %ホルマリン溶液に固定し,卵巣については高用量群および対照群について病理組織学検査を実施した.また,雌雄とも,剖検時に異常の認められた器官についても0.1 Mリン酸緩衝10 %ホルマリン溶液に固定し,病理組織学検査を実施した.

2) 出生児

A. 産児数および死亡児

哺育0日に産児数(生児 + 死亡児)を調べて,分娩率((産児数/着床痕数)× 100)および生児出産率((出産生児数/着床痕数)× 100)を求めた.また,産児は外表奇形の有無を検査した.

哺育0日以降は死亡児数を毎日調べ,出生率((出産生児数/産児数)× 100)および新生児の4日の生存率((哺育4日の生児数/哺育0日の生児数)× 100)を求めた.観察可能な死亡児は剖検し,異常の有無および内部器官の肉眼的観察を行うとともに,0.1 Mリン酸緩衝10 %ホルマリン溶液に固定した.

B. 体重

哺育0および4日に個体別に体重を測定した.

C. 剖検

出生児は哺育4日に全例をエーテル吸入により致死させて剖検し,外表および内部器官の肉眼的観察を実施した.

5. 統計解析

性周期の変化した動物の頻度,交尾率,受胎率および出生児の形態異常出現頻度についてはFisherの直接確率検定を行った.病理組織学所見については,グレード分けしたデータはMann-WhitneyのU検定を用い,陽性グレードの合計値はFisherの直接確率の片側検定により対照群と被験物質投与群の間の有意差検定を行った.その他のデータは,個体ごとに得られた値あるいは各腹ごとの平均値を1標本として,群間の分散が一様である場合には一元配置型の分散分析およびDunnett法による多重比較を,いずれかの群で分散が0となる場合および分散が一様でない場合には,Kruskal-Wallisの順位検定およびデータを順位変換後,Dunnett法を用いて多重比較を行った.有意水準はいずれも5 %とした.

結果

1. 親動物

1) 一般状態

雌雄ともに死亡動物はみられなかった.

一般状態の変化として,初回投与日の投与後約4時間後から赤色尿が観察され,翌朝の投与前までに125 mg/kg投与群の雄の7例,雌の全例および30 mg/kg投与群の雌の1例に認められたが,投与2日以降に血尿は観察されなかった.この他に,8 mg/kg投与群の雌の1例に両前肢の脱毛が観察された.

2) 体重(Table 1, 2)

雌雄とも投与期間を通じて,被験物質各投与群と対照群との間に有意差は認められなかった.

3) 摂餌量(Table 3, 4)

125 mg/kg投与群の雄の投与1〜2日摂餌量が対照群と比較して有意(p<0.05)な低値を示したが,雌では差は認められなかった.雌雄ともに30 mg/kg以下の被験物質各投与群では,対照群との間に有意差は認められなかった.

4) 剖検所見

雄では脾臓の腫大が125 mg/kg投与群の2例に観察された.また,30 mg/kg投与群の4例に精巣の両側性の小型化が認められ,そのうちの2例では精巣上体に両側性の小型化が認められた.

雌では,30 mg/kg投与群において腺胃粘膜に限局的な肥厚あるいは右肺に黒色斑が各1例,8 mg/kg投与群の1例に局所的な脱毛が観察された.

5) 器官重量(Table 5)

精巣および精巣上体の重量には,対照群と被験物質各投与群との間に有意差は認められなかった.脾臓重量は実重量,比体重値とも,雌雄いずれも125 mg/kg投与群において対照群と比較して有意(p<0.01)に増加したが,30 mg/kg以下の投与群と対照群との間に差は認められなかった.

6) 病理組織所見(Table 6)

剖検時に脾臓の腫大が観察された125 mg/kg投与群の2例の脾臓では,髄外造血および褐色色素の沈着が認められたが,その程度は軽度あるいは中等度であった.また,剖検時に精巣の小型化が観察された30 mg/kg投与群の4例では,両側の精巣に限局性に萎縮した精細管が観察され,そのうち2例では萎縮した精細管の数が他の例に比較して多く,精細管内に多核巨細胞も認められた.さらに,精巣上体の小型化が認められた2例の精巣上体では管腔内に細胞残屑がみられ,相手雌が不妊だった1例では管腔内に精子がほとんど存在せず,細胞残屑のみが観察された.また,125 mg/kg投与群の3例および対照群の1例において,両側の精巣に限局性に萎縮した精細管が観察され,125 mg/kg投与群の2例では精細管内に多核巨細胞が認められた.萎縮した精細管が観察された例の精巣上体では,管腔内に細胞残屑がみられたほか,125 mg/kg投与群の1例の片側に精子肉芽腫が認められた.

雌では,125 mg/kg投与群および対照群の卵巣に異常は認められなかった.また,剖検時に病変が認められた胃および肺ならびに皮膚の脱毛部に組織学的な異常所見は認められなかった.

2. 生殖能力

1) 性周期および交配成績(Table 7)

性周期には被験物質投与の影響を示唆する変化はみられなかった.交配の結果,交尾率および受胎率には投与の影響は認められなかった.また,交尾までの日数およびその間の発情回数にも,対照群と被験物質各投与群との間に有意差は認められなかった.

2) 出産率および妊娠期間(Table 8)

妊娠期間は,125 mg/kg投与群が対照群と比較して有意(p<0.05)に延長したが,全ての動物が妊娠22または23日に分娩していることから偶発的なものと判断した.

出産率には被験物質投与の影響を示唆する変化はみられなかった.

3) 黄体数,着床数および着床率(Table 8)

黄体数,着床数および着床率に被験物質投与の影響を示唆する変化はみられなかった.

4) 分娩および哺育状態

対照群を含む全ての投与群において,分娩および哺育状態の異常は観察されなかった.

3. 出生児

1) 生存(Table 8)

出生率,産児数,分娩率,出産生児数,生児出産率,哺育4日の生児数,生後4日の生存率および性比には,対照群と被験物質各投与群との間に有意差は認められなかった.

2) 体重(Tables 9)

哺育0および4日における出生児の体重には,対照群と被験物質各投与群との間に有意差は認められなかった.

3) 出生児観察

哺育0日における生存児に外形異常は観察されなかった.

8および30 mg/kg投与群において矮小児が各1例認められたが,いずれも哺育4日まで生存し,剖検においても異常は認められなかった.

30 mg/kg投与群において死亡児が散見され,1例では短尾が観察されたが,125 mg/kg投与群の生存児の観察では同様の異常は認められないこと,また,予備試験において実施した250 mg/kgまでの被験物質投与において異常児は認められていないことから,自然発生的な異常と判断された.この他の死亡児についておこなった剖検では異常は認められなかった.

考察

2-(1-メチルエトキシ)エタノールの8,30および125 mg/kgをSprague-Dawley系ラットに雄には48日間,雌には交配前2週間および交配期間,妊娠期間を通して哺育3日まで経口投与し,生殖毒性について検討した.

その結果,雌雄ともに,一般状態の変化として雄の125 mg/kg投与群,雌の30 mg/kg以上の投与群において,初回投与後約4時間後から翌朝にかけて赤色尿が観察された.赤色尿は本試験における投与量を設定する目的で実施した予備試験の雄の125 mg/kg以上の投与群,雌の62.5 mg/kg以上の投与群でも観察され,本被験物質の28日間反復経口投与毒性試験3)の500 mg/kg投与群においても認められている.反復投与毒性試験の初回投与後に行われた尿検査では潜血反応がみられ,投与期間終了時の血液学検査では,赤血球数,ヘモグロビン濃度,ヘマトクリット値の低下がみられている.また,血尿は本被験物質のラットにおける吸入曝露による毒性試験においても認められており被験物質の投与による影響と考えられる4).反復投与毒性試験の血液学検査において投与期間終了時には,用量依存的に赤血球数,血色素濃度ならびに平均赤血球血色素濃度の低下等の貧血状態が認められ,網状赤血球比率の増加が認められている.さらに,投与期間終了時の解剖において脾臓ではヘモジデリンの沈着が認められ,肝臓や脾臓などでは髄外造血が起こっていた.5種のエチレングリコールのモノアルキルエーテルにおける溶血作用について検討したWernerらの報告によれば5),ブチルエーテルやノルマルプロピルエーテルとならんで,本試験の被験物質である2-(1-メチルエトキシ)エタノール(別名エチレングリコールイソプロピルエーテル)では,赤血球数ならびにヘモグロビン濃度の低下が最初の観察時期である投与1週間目には著明に認められており,その時期に合わせて網状赤血球の増加がみられる.さらに,エチレングリコールモノブチルエーテルにおいても溶血性貧血が認められており6, 7),この物質においてはその酸化代謝物であるエチレングリコールモノブチルエーテルに溶血作用の主体があることが,in vivoあるいはin vitro的手法によって明らかになっている8-11).Millerらによれば,本被験物質の主要な排泄は尿中に起こり,尿中代謝物は主にイソプロポキシアセテートならびにそのグリシン抱合体であることがあきらかになっていることから12),本試験の被験物質である2-(1-メチルエトキシ)エタノールが酸化による代謝をうけ,他のエチレングリコールモノアルキルエーテルと同様の機序で溶血性貧血を起こし,血色素尿を示した可能性が高い.

雌雄ともに125 mg/kgの2-(1-メチルエトキシ)エタノール投与により脾臓の重量が増加し,雄の剖検では脾臓の腫大も観察され,病理検査では髄外造血および褐色色素の沈着が認められた.溶血性疾患では脾臓重量の増加や髄外造血が認められることが知られている.本試験において観察された脾臓重量の増加や髄外造血も2-(1-メチルエトキシ)エタノールの投与による溶血が原因と考えられる.

本試験においては,雌の性周期,雌雄の交尾,受胎能および妊娠期間に被験物質投与の影響を示唆する変化は認められず,また,出生児の生存,体重ならびに形態観察においても,被験物質投与の影響を示唆する変化は認められなかった.

本被験物質の類似物質であるエチレングリコールモノメチルエーテル,エチレングルコールモノエチルエーテル,エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート,エチレングルコールモノエチルエーテルアセテート,ジエチレングリコールジメチルエーテルならびにジエチレングリコールモノエチルエーテルにおいては精巣毒性あるいは不妊といった生殖毒性が引き起こされることがすでに報告されており13),CD-1マウスで連続交配試験を実施した結果,エチレングリコールモノブチルエーテルやエチレングリコールモノフェニルエーテルにおいても妊娠率の低下がみられ,エチレングリコールモノブチルエーテルでは高用量群で1腹児数の低下が認められている14).一方,精巣重量の低下はエチレングリコールやプロピレングリコール,プロピレングリコールモノメチルエーテル,ジエチレングリコールモノエチルエーテルでは認められないことも知られている15, 16).長野らによるマウスでの検討によれば,エチレングリコールモノアルキルエーテルの精巣毒性はアルキル基の種類によって異なり,分子量が大きくなるほど弱くなった17).この精巣重量の低下は精子形成障害によるものであり,この精子形成障害はパキテン期精子細胞に最も強く起こることが明かになっている18).長野らによれば,この精子形成障害は細胞分裂に対する障害によるものと推定されているほか17),エチレングリコールモノメチルエーテルによる精巣毒性が,カルシウムブロッカーであるベラパミルによって軽減するとする報告や19),エチレングリコールモノメチルエーテルを投与された動物の精巣中の亜鉛量が減少するとした報告等がみられる20)

ラットにおいてピラゾールにより代謝阻害を起こさせた状況では,エチレングリコールモノメチルエーテルによる精巣毒性が減弱することが明らかになっており,精巣毒性はその主要尿中代謝物であるエチレングリコールモノメチルエーテルアセテートによるものであることが示唆されている21).エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート,エチレングリコールモノエチルエーテルアセテートならびにエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートを用いたin vitroの検討でも,これらの物質によるパキテン期細胞の直接の障害性ならびに分子量による毒性の差が再現されている22).前述の通り,本被験物質の主要な尿中代謝物はエチレングリコールイソプロピルエーテルアセテートならびにそのグリシン抱合体であることから12),本被験物質がエチレングリコールモノエチルエーテルの水素1個がメチル基に置換されたものであることを考えると,本被験物質が精巣毒性を示す可能性は充分あると考えられた.

本被験物質については,これらの情報から,予備試験において雄ラットに125,250および500 mg/kgを2週間にわたって投与し,精巣の病理組織学検査を実施したが,異常は認められていない.また,本試験においても125 mg/kgまでの投与量では,交配成績,生殖器ならびに副生殖器についての病理組織学検査を実施したが,いずれも異常を認めなかった.30 mg/kg投与群の4例に精巣の両側性の小型化が認められ,そのうちの2例では精巣上体に両側性の小型化が認められたが,125 mg/kg投与群においては変化がみられず,精巣ならびに精巣上体重量,交尾率および受胎率には変化が認められていない.以上の結果から,2-(1-メチルエトキシ)エタノールにおいては生殖毒性は認められないものと判断した.

一方,エチレングリコールモノメチルエーテルには,精巣毒性とともに胎児毒性があることが知られており,長野らはICR系マウスにおいて妊娠7日から14日に投与するとき23),生存胎児数の減少,外脳症ならびに四肢奇形,肋骨ならびに中軸骨格系の異常,化骨の遅延を報告している.また,エチレングリコールモノメチルエーテルやエチレングリコールジメチルエーテル,エチレングリコールモノエチルエーテルやその主な代謝物であるエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどにおいては,催奇形性が認められ13),さらに,胎齢9.5日からの全胚培養法を用い,エチレングリコールモノメチルエーテル,エチレングリコールモノエチルエーテル,エチレングリコールモノブチルエーテル,エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート,エチレングリコールモノエチルエーテルアセテートならびにエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートの6化合物について行なわれた検討では24),アセテート化合物の胎児毒性はエーテル化合物のそれよりも強く,また鎖が長くなるほど弱くなることが,明らかになっている.

本被験物質の予備試験において妊娠ラットに62.5,125あるいは250 mg/kgを妊娠期間を通して投与し,分娩ならびに児の観察を行なったが,異常は発見されていない.また,本試験において8,30ならびに125 mg/kgのいずれの投与群にも,発生毒性はみられていない.

以上の結果から,本試験条件下における2-(1-メチルエトキシ)エタノールの親動物に対する無作用量は,雄に対しては30 mg/kg/day,雌に対しては8 mg/kg/day,ただし親動物の生殖能力に対する無作用量は125 mg/kg/dayと考えられ,出生児に対する無作用量は125 mg/kg/dayと考えられた.

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連絡先
試験責任者:高島宏昌
試験担当者:渡辺千朗,立花滋博,丸茂秀樹,堀内伸二,稲田浩子,三枝克彦,安生孝子
(財)食品薬品安全センター秦野研究所
〒257-8523 神奈川県秦野市落合729-5
Tel 0463-82-4751Fax 0463-82-9627

Correspondence
Authors:Hiromasa Takashima(Study director)
Chiaki Watanabe, Shigehiro Tachibana, Hideki Marumo, Shinji Horiuchi, Hiroko Inada, Katsuhiko Saegusa, Takako Anjo
Hatano Research Institute, Food and Drug Safety Center
729-5 Ochiai, Hadano, Kanagawa, 257-8523, Japan
Tel +81-463-82-4751Fax +81-463-82-9627