エチレングリコールエーテル類は,実験動物において血液毒性や生殖発生毒性を示す事が報告されており,エチレングリコールモノブチルエーテル等においては,一過性の溶血性貧血が起こり1, 2),その溶血作用の主体は酸化代謝物であることが知られている3-6).
一方,本被験物質の構造類似物であるエチレングリコールモノメチルエーテルやエチレングリコールモノエチルエーテルにおいては,精巣重量の低下やパキテン期精母細胞を中心とした精子形成障害の起こることが報告されている7).
今回,2-(1-メチルエトキシ)エタノールの2000 mg/kgを1群5匹からなる5週齢の雌雄ラットに単回経口投与した.
その結果,2000 mg/kg投与群では,投与後3あるいは4時間から投与翌日にかけて赤色尿の排泄が雌雄全例で観察され,投与翌日に排便量の減少が散見された.また,投与翌日に対照群に比較して有意な体重減少が2000 mg/kg投与群の雌で認められ,同群の雄では投与翌日から観察第15日までの体重が対照群に比較して低い傾向を示した.剖検所見では,雌雄全例で肉眼的異常は認められなかった.
以上のことから,本試験条件下における2-(1-メチルエトキシ)エタノールのLD50値は,雌雄ともに2000 mg/kgを上回ると判断された.
投与検体は,必要量の2-(1-メチルエトキシ)エタノールを秤量し,媒体である日局注射用水(製造番号:9912ST,光製薬(株))で40.0 w/v%溶液を調製した.調製した投与検体は翌日の投与時まで冷暗所に保存した.動物試験に先立ち,被験物質の0.05および40.0 w/v%溶液について,冷暗所下での調製後8日間の安定性を確認した.また,投与検体には,所定濃度の2-(1-メチルエトキシ)エタノールが含有されていることを確認した.
動物は,照明12時間(7時〜19時点灯),換気回数約15回/時,許容温度21.0〜25.0 ℃,許容湿度40.0〜75.0 %に制御された飼育室で,金属製金網床ケージに1匹ずつ収容し,固型飼料(CE-2,日本クレア(株))および水道水(秦野市水道局給水)を自由に摂取させて飼育した.
投与容量は体重1 kg当たり5 mLとし,動物を投与前約18時間絶食させた後,投与直前に測定した体重を基に投与液量を算出し,ラット用胃管を用いて強制的に単回経口投与した.給餌は投与約3時間後に開始した.
体重は全例について,投与直前,観察第2,4,8,11および15日に測定した.
剖検は,観察第15日に全例をペントバルビタール・ナトリウム麻酔下で放血屠殺して実施した.なお,剖検所見に特記すべき変化が認められなかったため,組織学検査は実施しなかった.
体重は,投与翌日に対照群に比較して有意な減少が2000 mg/kg投与群の雌で認められたが,その後,同群の体重は順調に増加した.また,2000 mg/kg投与群の雄においても,投与翌日から観察第15日までの体重が対照群に比較して低い傾向がみられた.
剖検では,雌雄全例の器官・組織に肉眼的異常は認められなかった.
以上の結果より,本試験条件下では被験物質投与との関連を示唆する変化として,一過性の赤色尿と軽度の体重増加抑制が認められた.2-(1-メチルエトキシ)エタノールのLD50値は,雌雄ともに2000 mg/kgを上回ると判断された.
1) | C. P. Carpenter, U. C. Pozzani, C. S. Weil, et al, Arch. Ind. Health, 14, 114(1956). |
2) | B. I. Ghanayem, S. M. Ward, P. C .Blair, et al, Toxicol. Appl. Pharmacol., 106, 341(1990). |
3) | F. G. Bartnik, A. K. Reddy, G. Klecak, et al, Fundam. Appl. Toxicol., 8, 59(1987). |
4) | B. I. Ghanayem, Biochem. Pharmacol., 38, 1679(1989). |
5) | B. I. Ghanayem, L. T. Burka, H. B. Matthews, J. Pharmacol. Exp. Ther., 242, 222(1987). |
6) | B. I. Ghanayem, L. T. Burka, H. B. Matthews, Chem-Biol. Interact., 70, 339(1989). |
7) | P. M. D. Foster, D. M. Creasy, J. R. Foster, et al, Toxicol. Appl. Pharmacol., 69, 385(1983). |
8) | J. H. E. Arts, P. G. J. Reuzel, R. A. Woutersen, et al, Inhal. Toxicol., 4, 43(1992). |
9) | J. E. Doe, Environ. Health Perspect., 57, 199(1984). |
10) | H. W. Werner, C. Z. Nawrocki, J. L. Mitchell, et al, J. Ind. Hyg. Toxicol., 25, 374(1943). |
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試験担当者: | 立花滋博,佐藤昌子,丸茂秀樹,堀内伸二,稲田浩子,三枝克彦,安生孝子 | ||
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