リン酸ジブチルのラットを用いる単回経口投与毒性試験

Single Dose Oral Toxicity Test of Dibutylphosphate in Rats

要約

高生産量既存化学物質リン酸ジブチルの単回経口投与毒性試験を,5週齢のSD系[Crj:CD(SD)]ラットを雌雄各5匹用い,2000mg/kg用量を投与して実施した.その結果,投与後14日の観察期間中死亡はみられず,最小致死量は,雌雄とも2000mg/kg以上と推定された.投与後,自発運動低下,深大呼吸,眼瞼下垂,下腹部被毛の尿による汚染,体重の増加抑制などが認められたが,いずれの動物も4日以降回復した.また,観察期間終了後の剖検では,器官に異常は認められなった.

方法

1.被験物質

被験物質リン酸ジブチルは分子量210.24,比重1.076の水に難溶な淡黄色液体である.試験には大八化学工業株式会社(愛知県)より提供されたロット番号K40101,純度62.6%(不純物:モノエステル体18.3%,トリエステル体・その他19.1%)のものを用い,これを投与直前に局方ゴマ油(宮澤薬品)に懸濁して投与液とした.被験物質原液の安定性および投与液中の被験物質の均一性については,分析し確認した.

2.使用動物および飼育条件

日本チャールス・リバー株式会社より購入した5週齢のSD系[Crj:CD(SD)]ラットを雌雄各5匹(雄137〜153g,雌118〜129g)用いた.ラットは,室温22±3℃,湿度55±10%,換気回数10回以上/時,照明12時間(6時〜18時)に設定した飼育室で金網ケージに2〜3匹ずつ雌雄別に収容し,固型飼料[ラボMRストック,日本農産工業(株)]と水は自由に摂取させた.

3.投与量および投与方法

投与量設定試験の結果,リン酸ジブチルは急性毒性の弱い物質と考えられたので,雌雄とも2000mg/kgの1用量群を設定した.投与方法は,投与液量を体重1kg当たり10mlとし,胃ゾンデを装着した注射筒を用いて強制的に動物の胃内に単回経口投与した.動物は投与前日の午後5時より投与後3時間まで除餌し,水のみを与えた.

4.観察事項

観察期間は投与後14日間とし,その間に一般状態の観察と生死を確認した.体重は,投与直前,投与後1,3,7および14日に測定した.剖検は,観察期間終了後にエーテル麻酔死させて行った.

結果および考察

観察期間中死亡はみられず,最小致死量は雌雄とも2000mg/kg以上と推定された.

中毒症状として,投与直後より,雌雄とも全例に自発運動の低下,深大呼吸および眼瞼下垂などが発現し,6時間から下腹部被毛の尿による汚染が多くの例でみられた.また,一部に流涎や赤色尿を呈する例があった.体重は投与翌日に雌の1例が減少し,その他の動物は軽度に増加が抑制される傾向にあった.これらの症状および体重の変化は投与後1〜3日の間に回復し,4日以降には異常は認められなかった.また,観察期間終了後の剖検においても被験物質投与によると思われる器官の肉眼的な異常は認められなかった.

以上の結果から,リン酸ジブチルは,ラットへの単回経口投与における最小致死量が2000mg/kg以上であり,急性毒性の弱い物質と考えられた.

連絡先
試験責任者:山本譲
試験担当者:阿部素子,潘陳眞眞
(財)畜産生物科学安全研究所
〒 229 神奈川県相模原市橋本台 3-7-11
Tel 0427-62-2775Fax 0427-62-7979

Correspondence
Authors:Yamamoto, Yuzuru( Study director )
Motoko Abe, Shinshin Hanchin
Research Institute for Animal Science in Biochemistry and Toxicology, Japan
3-7-11 Hashimotodai, Sagamihara-shi, Kanagawa, 229, Japan
Tel 81-427-62-2775Fax 81-427-62-7979