連続処理(24時間)および短時間処理(6時間)において,2ディッシュともに 0.5% 以上の分裂指数を示した最も高い濃度(MI max)は,連続処理(24時間)では 0.025 mg/ml,短時間処理(6時間)の S9 mix 非存在下および S9 mix 存在下ではそれぞれ 0.044 mg/ml および 0.18 mg/ml であった.各系列での処理濃度は,MI max の2倍濃度を最高処理濃度とし,公比2で5濃度設定した.なお,48時間連続処理の濃度は,24時間連続処理と同じ濃度に設定した.連続処理では,S9 mix 非存在下で24時間および48時間連続処理後,短時間処理では S9 mix 存在下および非存在下で6時間処理(18時間の回復時間)後,標本を作製し,検鏡することにより染色体異常誘発性を検討した.染色体分析が可能な最高濃度は,24時間および48時間連続処理では 0.025 mg/ml,短時間処理の S9 mix 非存在下および S9 mix 存在下ではそれぞれ 0.044 mg/ml および 0.18 mg/ml の濃度であったことから,これらの濃度を高濃度群として3濃度群を観察対象とした.
CHL/IU 細胞を24時間連続処理した中濃度群(0.013 mg/ml)および高濃度群(0.025 mg/ml)で染色体の構造異常(gap を含む)が誘発され,その頻度はそれぞれ 3.5% および 89.5% であった.また,低濃度群(0.0063 mg/ml)では,細胞毒性のため,規定の細胞数が観察できなかったが,中濃度群(0.013 mg/ml)において倍数性細胞の誘発が認められた(1.38%).しかしながら,傾向性検定の結果,有意差は認められなかった.48時間連続処理した高濃度群(0.025 mg/ml)で染色体の構造異常(gap を含む)が誘発された(48.5%).また,溶媒対照群および中濃度群(0.013 mg/ml),高濃度群(0.025 mg/ml)において倍数性細胞観察のための中期細胞が規定の数に満たなかったが,高濃度群(0.025 mg/ml)で倍数性細胞が誘発された(9.40%).短時間処理では,S9 mix 非存在下において,高濃度(0.044 mg/ml)で,染色体の構造異常(gap を含む)および倍数性細胞が有意に誘発され,その頻度は 28.5% および 0.88% であった.S9 mix 存在下では,高濃度(0.18 mg/ml)において,染色体の構造異常(gap を含む)が有意に誘発された(9.5%).また,中濃度(0.088 mg/ml)において,倍数性細胞が有意に誘発(0.88%)されたが,傾向性検定の結果,濃度依存性は認められなかった.
以上の結果より,本試験条件下でメタクリル酸 2,3-エポキシプロピルエステルは,染色体異常を誘発する(陽性)と結論した.
被験物質原体は,安定であるが,熱,光によりラジカル重合反応を起こす可能性があり,含活性水素化合物とは室温でエポキシ基が徐々に開環反応を起こす.
その結果,連続処理における MI max は,0.025 mg/ml,短時間処理の S9 mix 非存在下および S9 mix 存在下では,それぞれ 0.044 mg/ml および 0.18 mg/ml であった(Fig.1,2).
染色体異常試験においては1濃度あたり2枚ディッシュを用い,染色体標本を作製と同時に分裂指数を測定した.
作製したスライド標本のうち,1つのディッシュから得られた異なるスライドを,4名の観察者がそれぞれ処理条件が分からないようにコード化した状態で分析した.染色体の分析は,日本環境変異原学会,哺乳動物試験(MMS)研究会1)による分類法に基づいて行い,染色体型あるいは染色分体型のギャップ,切断,交換などの構造異常の有無と倍数性細胞(polyploid)の有無について観察した.また構造異常については1群200個,倍数性細胞については1群800個の分裂中期細胞を分析した.
染色体異常を有する細胞の出現頻度について,溶媒の背景データと被験物質処理群間でフィッシャーの直接確率法2)(多重性を考慮して familywise の有意水準を 5% とした)により,有意差検定を実施した.また,フィッシャーの直接確率法で有意差が認められた場合には,用量依存性に関してコクラン・アーミテッジの傾向性検定3) (p<0.05)を行った.最終的な判定は,統計学的および生物学的な評価に基づいて行った.
短時間処理による染色体分析の結果を Table 2 に示した.メタクリル酸 2,3-エポキシプロピルエステルを加えて S9 mix 非存在下における短時間処理では,高濃度群(0.044 mg/ml)において染色体の構造異常(gap を含む)および倍数性細胞が有意に誘発され,その発生頻度は 28.5% および 0.88% であった.S9 mix 存在下では,高濃度群(0.18 mg/ml)において染色体の構造異常(gap を含む)が有意に誘発され,その発生頻度は 9.5% であった.中濃度群(0.088 mg/ml)において倍数性細胞の誘発が認められ,その誘発頻度は 0.88% であったが,傾向性検定の結果,濃度依存性は認められなかったため,疑陽性と判定した.
従って,メタクリル酸2,3-エポキシプロピルエステルは,上記の試験条件下で,試験管内の CHL/IU 細胞に染色体異常を誘発すると結論した.
1) | 日本環境変異原学会・哺乳動物試験分科会編,"化学物質による染色体異常アトラス," 朝倉書店,東京,1988. |
2) | 吉村 功編,"毒性・薬効データの統計解析,事例研究によるアプローチ," サイエンティスト社,東京,1987. |
3) | 吉村 功,大橋靖夫編,"毒性試験講座14,毒性試験データの統計解析," 地人書館,東京,1992,pp.218-223. |
連絡先 | |||
試験責任者: | 田中憲穂 | ||
試験担当者: | 山影康次,佐々木澄志,若栗 忍, 日下部博一,中川ゆづき, 古畑紀久子,出石由紀,橋本恵子 | ||
(財)食品薬品安全センター秦野研究所 | |||
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Authors: | Noriho Tanaka(Study director) Kohji Yamakage, Kiyoshi Sasaki, Shinobu Wakuri, Hirokazu Kusakabe, Yuzuki Nakagawa, Kikuko Furuhata, Yuki Izushi,Keiko Hashimoto | ||
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