N-エチルアニリンのラットを用いる単回経口投与毒性試験

Single Dose Oral Toxicity Test of N-Ethylaniline in Rats

要約

 染料等の原料として用いられている既存化学物質N-エチルアニリンの単回経口投与毒性試験を,5週齢のSD系[Crj:CD(SD)]ラットを雌雄各1群5匹を用い,0,240,300,375,469,586および732 mg/kg(公比1.25)用量の単回経口投与により実施した.LD50値(95%信頼限界)は雄で382(321〜452)mg/kg,雌で553(459〜727)mg/kgであった.中毒症状としては,自発運動の低下,眼瞼下垂,深大呼吸,チアノーゼ,褐色尿の排泄および眼球,可視粘膜,末端部体表の退色などが認められた.体重は,対照群に比べ投与後3日目まで用量に依存して増加抑制がみられた.死亡の多くはこの間に発現し,体重減少を伴って死亡した.生存動物の症状は,5〜7日以降回復した.剖検においては,死亡例で全身諸器官および体腔壁の褐色化ならびに胃粘膜の黒色斑が認められた.

方法

1.被験物質

 N-エチルアニリンは,分子量121.20,蒸気圧0.4 mmHgの淡黄色〜淡褐色の液体で,水に溶けにくく,エタノール,エーテルなどの有機溶媒および植物油に溶けやすい.試験には,(株)三星化学研究所製造のもの(ロット番号A-J,純度99.6%)を入手し,これを投与直前に局方ゴマ油(宮澤薬品)に溶解させて投与液とした.

2.使用動物および飼育条件

 日本チャールス・リバー(株)より購入した5週齢のSD系[Crj:CD(SD)]雌雄ラットを雌雄各35匹(雄141〜162g,雌118〜135g)用いた.1群の供試動物数は雌雄各5匹とし,各用量群への割り付けは,投与直前の体重に基づき層別化無作為抽出法により行った.

 ラットは,温度22±3℃,湿度55±10%,換気回数10回以上/時,照明12時間(6時〜18時)に設定された飼育室で,金網ケージに2〜3匹ずつ雌雄別に収容し,固型飼料[日本農産工業(株)製,ラボMRストック]と水は自由摂取させた.

3.投与量および投与方法

 投与量設定試験において,雌雄とも260,364,510,714,1000および1400 mg/kg用量を単回経口投与した結果,死亡率(死亡動物数/供試動物数)は,各々雄が0/3,2/3,2/3,3/3,3/3および3/3,雌が0/3,0/3,2/3,3/3,3/3および3/3であった.そこで,本試験の用量は,雌雄とも同一用量の0(対照群),240,300,375,469,586および732 mg/kg(公比1.25)に設定した.

 投与方法は,投与液量を体重1 kg当たり10 mlとし,胃ゾンデを装着した注射筒を用いて強制的に動物の胃内に単回経口投与(10時30分〜11時05分)した.対照群には媒体を同様に投与した.動物は投与前日の午後5時から投与後3時間まで除餌し,水のみを与えた.

4.観察事項

 観察期間は投与後14日間とし,その間に一般状態の観察と生死の確認を投与日は頻回に,その後は,少なくとも1日1回行った.体重は,投与直前(投与0日),投与後1,3,7および14日に,また死亡動物については発見日にも測定した.剖検は,死亡動物は発見後速やかに,生存動物は観察期間終了後エーテル麻酔死させて行った.

 LD50値は,14日間の観察期間終了後における死亡率を基に,プロビット法を用いて算出した.

結果および考察

1.死亡率およびLD50値(Table 1)

 死亡は,雄で300 mg/kg以上,雌で375 mg/kg以上の用量群で認められ,LD50値(95%信頼限界)は,雄で382(321〜452)mg/kg,雌で553(459〜727)mg/kgと算出された.

2.中毒症状および体重

 本被験物質は芳香族アミノ化合物に属し,この系統の化合物の多くに共通した毒性としてメトヘモグロビン血症が知られている1).中毒症状には,メトヘモグロビン血症およびそれに伴う貧血をうかがわせる変化が認められた.すなわち,雌雄とも投与後15〜60分よりチアノーゼがみられ,その他に自発運動の低下,眼瞼下垂,呼吸の深大化が,また1〜3時間以降にはヘモグロビン尿と思われる褐色尿の排泄が,何れも用量に依存して認められた.投与翌日(1日)には,これらの症状は回復傾向を示したが,眼球,可視粘膜および末端部体表は貧血様に退色した.体重は,対照群に比べ投与後1および3日に用量に依存して増加抑制がみられ,死亡動物の多くは体重が著明に減少していた.生存動物では,上記症状は雌雄とも投与後5〜7日以降回復し,体重も順調に増加した.

3.剖検

 死亡動物において,全身諸器官および体腔壁漿膜面の褐色化がみられ,特に脾臓の変化は顕著であった.また,胃の前胃部粘膜に出血を伴う粘膜障害と考えられる黒色斑が多くの例に認められた.生存動物では,障害後の瘢痕と思われる白色斑が雌の少数例の前胃部粘膜にみられた.

文献

1)竹内康浩, "毒性試験講座18, 産業化学物質, 環境化学物質, 芳香族ニトロ・アミノ化合物," 和田功編, 地人書館, 東京, 1991, pp. 129-151.

連絡先
試験責任者:山本譲
試験担当者:杉本忠美,阿部素子,潘陳真真
(財)畜産生物科学安全研究所
〒229 神奈川県相模原市橋本台3-7-11
Tel 0427-62-2775Fax 0427-62-7979

Correspondence
Authors :Yuzuru Yamamoto (Study director)
Tadami Sugimoto, Motoko Abe,
Shinshin Hanchin
Research Institute for Animal Science in Biochemistry and Toxicology
3-7-11 Hashimotodai, Sagamihara-shi, Kanagawa, 229, Japan
Tel +81-427-62-2775Fax +81-427-62-7979