1,3-ジフェニルグアニジンのラットを用いる単回経口投与毒性試験

Single Dose Oral Toxicity Test of 1,3-Diphenylguanidine in Rats

要約

既存化学物質の安全性を評価するため,1,3-ジフェニルグアニジンを雌雄のSD系[Crj:CD(SD)IGS]ラットに単回経口投与し,急性毒性を検討した.

投与量は雌雄ともに0,50,65,85,110および143 mg/kgの6用量とした.

死亡率は雄がそれぞれ0,0,0,40,60および60 %,雌がそれぞれ0,0,20,40,60および60 %であった.一般状態の観察では雌雄ともに投与直後から歩行異常,自発運動低下および側臥位が認められ,一部の生存動物では振戦,流涙,眼瞼閉鎖を示す動物も確認された.体重は生存動物の雌雄ともにいずれの測定においても順調な増加を示した.剖検では,途中死亡ならびに観察期間終了時における病理解剖でいずれの動物にも異常は認められなかった.

以上の結果から,1,3-ジフェニルグアニジンの雌雄ラットにおけるLD50値(95 %信頼限界)は雄が111(86-161) mg/kg,雌が107(78-177) mg/kgと推定された.

方法

1. 被験物質

1,3-ジフェニルグアニジン(Lot No. 809001,純度99.9 %,大内新興化学工業(株),東京)は,水に極めて溶けにくく,アセトンに溶けやすく,トルエンにやや溶けにくい白色粉状の物質である.入手後の被験物質は冷暗所で保管し,投与終了後,提供元で分析を行い試験期間中安定であったことを確認した.

2. 供試動物

5週齢のSpragne-Dawley系ラット[Crj:CD(SD)IGS, SPF]雌雄各42匹を日本チャールス・リバー(株)から購入した.動物は検収後,試験環境に7日間馴化し,6週齢で投与した.

3. 飼育

動物は,温度23.5〜24.4 ℃,湿度55〜74 %,照明時間12時間(午前7時点灯,午後7時消灯)に設定された飼育室で,ステンレス製網目飼育ケージに5匹ずつ収容して飼育した.動物には,オリエンタル酵母工業(株)製造の固型飼料MFおよび水道水を自由に摂取させた.

4. 用量設定理由

本試験に先立って実施した予備試験において10,50,100,250および500 mg/kgの被験物質を投与した結果,雄では100 mg/kg以上で3例全例が死亡し,雌では100および500 mg/kgで3例中2例,250 mg/kgで3例全例が死亡した.

従って本試験の用量は雌雄ともに50から143 mg/kgの5用量(公比1.3)とし,さらに雌雄それぞれに媒体対照群を設置した.

5. 群分け

動物はあらかじめ体重によって層別化し,無作為抽出法により雌雄ともに各群5匹ずつ振り分けた.投与時の体重は,雄が169〜187 g,雌が128〜144 gであった.

6. 投与液の調製および投与方法

被験物質は10,13,17,22および28.6 mg/mLの各濃度となるようにコーンオイル(ナカライテスク(株),京都,Lot No. V8F4331)に溶解した.投与液の調製は用時に行った.投与液の濃度分析を実施した結果,投与液中の被験物質濃度は設定値の102.9〜107.5 %であり,いずれも規定範囲内であることが確認された.

投与容量は体重100 gあたり0.5 mLとし,個体別に測定した体重に基づいて投与量を算出した.

投与回数は1回とし,投与前16時間絶食させた動物に胃ゾンデを用いて強制経口投与した.給餌は被験物質投与後3時間に行った.

7. 一般状態の観察

中毒症状および生死の観察は,投与6時間までは1時間毎に,以後1日2回,14日間にわたって実施した.

8. 体重

体重は投与直前,投与後7および14日に測定し,死亡動物については死亡発見時にも測定した.

9. 病理学検査

観察期間中の死亡例は死亡発見時に,生存個体は観察期間終了時にエーテル麻酔下で放血安楽死させ,肉眼的に異常の有無を観察した.

結果

1. 死亡率およびLD50値(Table 1)

死亡動物は,雄では85 mg/kg以上,雌は65 mg/kg以上の用量群で認められ,投与後1から3時間の間にほとんどの死亡が確認された.死亡率は0,50,65,85,110および143 mg/kgの各群で雄が0,0,0,40,60および60 %,雌が0,0,20,40,60および60 %であり,LD50値(95 %信頼限界)は雄が111(86-161)mg/kg,雌が107(78-177)mg/kgであった.

2. 一般状態

雌雄ともにすべての被験物質投与群で投与直後から自発運動低下および側臥位または歩行異常が認められた.また多くの死亡動物が投与後1から3時間の間に前述の症状を示した後に認められたが,死を免れた低用量群の一部の動物では投与後4時間ごろに振戦がみられた.また,その他の所見として雌の110 mg/kg群の生存動物で流涙および眼瞼閉鎖が各1例に認められた.これらの症状は投与後2日までにはすべて消失した.

なお,媒体対照群においては雌雄ともに異常は認められなかった.

3. 体重

雌雄とも投与後7および14日の測定で,前回の測定値に比較して増加した.

4. 病理所見

途中死亡ならびに観察期間終了時における病理解剖でいずれの動物にも異常は認められなかった.

考察

1,3-ジフェニルグアニジンについてラットを用いる単回経口毒性試験を実施した.

その結果,死亡動物は雄が85 mg/kg以上,雌が65 mg/kg以上の投与群で認められ,ほとんどの動物が投与後1から3時間の間に死亡した.中毒症状として,雌雄ともに歩行異常,自発運動低下,側臥位がみられ,一部の生存動物では振戦,流涙,眼瞼閉鎖も認められた.剖検では死亡動物,生存動物ともに異常は認められなかった.

以上の結果から,1,3-ジフェニルグアニジンの雌雄ラットにおけるLD50値(95 %信頼限界)は雄が111(86-161) mg/kg,雌が107(78-177)mg/kgと推定された.

連絡先
試験責任者:藤島 敦
試験担当者:大庭耕輔
(財)食品農医薬品安全性評価センター
〒437-1213 静岡県磐田郡福田町塩新田字荒浜582-2
Tel 0538-58-1266Fax 0538-58-1393

Correspondence
Authors:Atsushi Fujishima(Study director)
Kousuke Ohba
Biosafety Research Center, Foods, Drugs and Pesticides(An-Pyo Center)
582-2 Arahama, Shioshinden, Fukude-cho, Iwata-gun, Shizuoka, 437-1213, Japan
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