染色体異常試験に用いる濃度を決定するため,細胞増殖抑制試験を行った結果,連続処理法の場合は,24時間および48時間処理でそれぞれ400および250 μg/mL以上,短時間処理法の場合は,S9 mix非存在および存在下でそれぞれ 600および1000 μg/mL以上の濃度で,50%を上回る細胞増殖抑制が認められた.したがって,染色体異常試験における濃度は,連続処理法の場合100,200,250, 300, 400および500 μg/mL,短時間処理法の場合100, 200, 400, 600, 800および1000 μg/mLとした.
試験の結果,連続処理法においては,染色体異常を有する細胞の増加は認められなかった.48時間処理の400および500 μg/mL濃度では,細胞に対する毒性のため観察可能な分裂中期像は認められなかった.一方,短時間処理法においては,S9 mix非存在下で細胞に対する毒性のため観察可能な分裂中期像が認められなかった高濃度を除く100〜600 μg/mLのうち600 μg/mL濃度でのみ染色体構造異常細胞の有意な増加(出現頻度10.0%)が認められた.S9 mix存在下では,800および1000 μg/mL濃度で染色体構造異常細胞の有意な増加(出現頻度13.5および31.0%)が認められ,600〜1000 μg/mL間では濃度依存性傾向も認められた.
以上の成績から,本実験条件下において,ジシクロヘキシルアミンは,CHL細胞に対し染色体異常を誘発する(陽性)と結論した.
連続処理法では,培養開始3日後に被験物質供試液を加え,24時間および48時間処理した.また,短時間処理法では,培養開始3日後にS9 mix非存在および存在下で6時間処理し,処理終了後,新鮮培養液でさらに18時間培養した.
実験終了後,被験物質提供元において残余被験物質を分析した結果,安定性に問題はなかった.
その結果(Appendix 1, 2),連続処理法の場合は,24時間処理で400 μg/mL以上,48時間処理では250 μg/mL以上の濃度で,50%を上回る細胞増殖抑制が認められ,50%細胞増殖抑制濃度は,それぞれ300〜400 μg/mL間および200〜250 μg/mL間にあるものと判断された.
短時間処理法の場合は,S9 mix非存在および存在下でそれぞれ600および1000 μg/mL以上の濃度で50%を上回る細胞増殖抑制が認められ,50%細胞増殖抑制濃度は,それぞれ400〜600 μg/mL間および 800〜1000 μg/mL間にあるものと判断された.
Appendix 1
Cell growth inhibition test of CHL cells continuously treated with dicyclohexylamine without S9 mix
Concentration (μg/mL) | Average cell growth rate (%) | |
24-hour treatment | 48-hour treatment | |
0(Solvent) | 100 | 100 |
100 | 99.5 | 86.5 |
150 | - | 73.5 |
200 | 77.0 | 60.5 |
250 | - | 43.5 |
300 | 65.0 | 36.0 |
350 | - | 18.5 |
400 | 44.0 | - |
500 | 42.0 | - |
600 | 34.0 | - |
Appendix 2
Cell growth inhibition test of CHL cells treated with dicycrohexylamine with and without S9 mix
Concentration (μg/mL) | Average cell growth rate (%) | |
without S9 mix | with S9 mix | |
0(Solvent) | 100 | 100 |
400 | 79.5 | 90.0 |
600 | 34.0 | 79.0 |
800 | 11.0 | 60.0 |
1000 | 3.5 | 35.0 |
1200 | 3.0 | 8.5 |
1400 | 4.0 | 7.0 |
陽性対照として,連続処理法ではN-methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(MNNG, Sigma Chemical Co.)を2.5 μg/mL,短時間処理法では3,4-benzo[a]pyrene(B[a]P, Sigma Chemical Co.)を10 μg/mLの濃度で用いた.陽性対照物質の溶媒には,いずれもDMSO(和光純薬工業)を使用した.
ギャップを含めた染色体構造異常細胞および倍数性細胞の出現頻度について,多試料χ^2検定を行い有意差(有意水準5%以下)が認められた場合は,フィッシャーの直接確率法を用いて溶媒対照群と各濃度群との間の有意差検定(有意水準は多重性を考慮して,5%または1%を処理群の数で割ったものを用いた)を行った.
その結果,溶媒対照群と比較して,被験物質による染色体異常細胞の出現頻度が2濃度以上で有意に増加し,かつ濃度依存性あるいは再現性が認められた場合,陽性と判定した.
短時間処理法による結果をTable 2に示した.S9 mix非存在下では,600 μg/mL濃度で染色体構造異常細胞の有意な増加(出現頻度10.0%)が認められた.S9 mix存在下においては,800および1000 μg/mL濃度で染色体構造異常細胞の有意な増加(出現頻度13.5および31.0%)が認められ,600〜1000 μg/mL間では濃度依存性傾向も認められた.S9 mix非存在および存在下ともに,倍数性細胞の誘発作用は認められなかった.
なお,連続処理法48時間処理の400 μg/mL以上および短時間処理法S9 mix非存在下の800 μg/mL以上の濃度では,被験物質の細胞に対する毒性のため,観察可能な分裂中期像が認められなかった.
以上の成績から,本実験条件下では,ジジクロヘキシルアミンのCHL細胞に対する染色体異常誘発性は陽性と判定した.本試験結果は,CHL細胞において,染色体異常を有する細胞の出現頻度が10%以上を陽性とする生物学的判定基準2)からみても明らかに陽性を示すものであった.陽性結果が得られたため,D20値3)(分裂中期像の20%に異常を誘発させるために必要な被験物質の濃度)を算出したところ,本被験物質のD20値は,短時間処理法において0.96 mg/mLであった.
ジシクロヘキシルアミンの変異原性については,すでにヒトリンパ球を用いた染色体異常試験においても陽性4)と報告されており,一方,Salmonella typhimurium TA100, TA1535, TA98, TA1537を用いた復帰突然変異試験5)およびシリアンハムスター由来のBHK21cl13細胞を用いたトランスフォーメーション試験6)では陰性と報告されている.
1) | 日本環境変異原学会・哺乳動物試験分科会編,"化学物質による染色体異常アトラス,"朝倉書店,東京,1988,pp. 16-37. |
2) | 石館 基 監修,"改定増補 染色体異常試験 データ集," エル・アイ・シー,東京,1987,p. 19. |
3) | 厚生省生活衛生局企画課生活化学安全対策室 監修,"化審法毒性試験法の解説 改訂版,"化学工業日報 社,東京,1992,pp. 51-52. |
4) | International Agency for Research on Cancer (IARC), "IARC Monographs on Evaluation of the Carcinogenic Risk of Chemicals to Humans," suppl. 6, World Health Organization, Lyon, 1987, pp. 240-241. |
5) | K. Mortelmans, S. Haworth, T. Lawlor, W. Speck, B. Tainer, E. Zeiger, Environ. Mutagen., 8(suppl.7), 1(1986). |
6) | 賀田恒夫,石館 基 監修,"環境変異原データ集1," サイエンティスト社,東京,1980,p. 141. |
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試験担当者: | 野田 篤,昆 尚美 | ||
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