細胞増殖抑制試験の結果をもとに,短時間処理法のS9 mix存在下においては16 μg/mL,非存在下においては4 μg/mLを最高濃度として,それぞれ公比2で5濃度を設定した.
短時間処理法のS9 mix存在下の16 μg/mLにおいて,染色体構造異常細胞の出現頻度は9.5 %であった.
この結果から,再現性を確認するために,S9 mix存在下について8,10,12,14,16 μg/mLを設定して確認試験を実施した.
確認試験の結果,染色体構造異常細胞の出現頻度は,10,12,14,16 μg/mLにおいて,それぞれ5.5,9.5,16.0,18.5 %となり,染色体異常誘発の再現性が確認された.
しかしこの結果より,代謝活性化系非存在下でも,細胞増殖率が50 %以下となる用量で染色体異常誘発が認められる可能性が考えられた.このため,引き続きS9 mix非存在下についても3,4,5,6 μg/mLを設定して確認試験を実施した.また併せて,連続処理法24時間処理についても0.5,1,2,3,4 μg/mLを設定して染色体異常試験を実施した.
その結果,S9 mix非存在下の3,4,5,6 μg/mLにおいて,染色体構造異常細胞の出現頻度はそれぞれ12.0,14.5,6.5,12.0 %であった.また連続処理法24時間処理の2,3,4 μg/mLにおいて,染色体構造異常細胞の出現頻度はそれぞれ10.0,11.0,16.0 %であった.
いずれの処理群においても,倍数性細胞の出現頻度は5 %未満であった.
以上の結果より,本試験条件下ではN-フェニル-N'-イソプロピル-p-フェニレンジアミンは,染色体異常を誘発する(陽性)と結論した.
短時間処理法では,細胞播種3日目にS9 mix存在下および非存在下で6時間処理し,処理終了後新鮮な培養液でさらに18時間培養した.また連続処理法では,細胞播種3日目に被験物質を加え,24時間処理した.
被験物質原体は,通常の取扱いにおいては安定である.長期間,光にさらすと変色する.
その結果,N-フェニル-N'-イソプロピル-p-フェニレンジアミンの約50 %の増殖抑制を示す濃度を,生存曲線において細胞増殖率が50 %前後を示す2点を結ぶ直線式より算出したところ,短時間処理法のS9 mix存在下で7 μg/mL,S9 mix非存在下で2 μg/mL,連続処理法24時間処理で2 μg/mLであった(Fig. 1)
さらに,S9 mix存在下においては8,10,12,14,16 μg/mL,S9 mix非存在下においては3,4,5,6 μg/mLを設定して確認試験を実施した.
陽性対照として,短時間処理法のS9 mix存在下では,ベンゾ[a]ピレン(東京化成工業(株),ロット番号:GG01)の濃度を20 μg/mL,S9 mix非存在下では,マイトマイシンC(協和発酵工業(株),ロット番号:328AJF,337AJG)の濃度を0.1 μg/mL,連続処理法では,マイトマイシンCの濃度を0.03 μg/mLに設定した.
各濃度4枚のディッシュに処理し,2枚を染色体標本作製,2枚を細胞増殖率測定に使用した.
S9 mix非存在下については,確認試験において,3,4,5,6 μg/mLにおける染色体構造異常細胞の出現頻度がそれぞれ12.0,14.5,6.5,12.0 %であった.
連続処理法による染色体分析の結果をTable 3に示した.N-フェニル-N'-イソプロピル-p-フェニレンジアミンを加えて24時間処理した結果,2,3,4 μg/mLにおいて,染色体構造異常細胞の出現頻度はそれぞれ10.0,11.0,16.0 %であった.
いずれの処理群においても,倍数性細胞の出現頻度は5 %未満であった.
以上の結果から,N-フェニル-N'-イソプロピル-p-フェニレンジアミンは本試験条件下において,染色体異常を誘発すると結論した.
なお,類似化合物であるN-N'-ジフェニル-p-フェニレンジアミン2)は,連続処理法24時間処理および48時間処理で陽性の結果が報告されている.また,N-N'-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン2)は,短時間処理法S9 mix存在下および非存在下で疑陽性,連続処理法24時間処理および48時間処理で陽性の結果が報告されている.
1) | 日本製薬工業協会・医薬品評価委員会・基礎研究部会・第3分科会・遺伝毒性ワーキンググループ編,"医薬品のための遺伝毒性試験Q&A,"サイエンティスト社,東京,2000. |
2) | 祖父尼俊雄監修,"染色体異常試験データ集〈改訂1998年版〉,"エル・アイ・シー,東京,1999. |
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試験責任者: | 中川宗洋 | ||
試験担当者: | 太田絵律奈,成見香瑞範,石毛裕子,堀 一成,武田 浩 | ||
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