硝酸カドミウム四水和物のラットを用いる単回経口投与毒性試験

Single Dose Oral Toxicity Test of Cadmium nitrate tetrahydrate in Rats

要約

硝酸カドミウム四水和物を雌雄ラットに1回経口投与し,その毒性について検討した.投与量は,500 mg/kgを最高用量とし,以下250,125および62.5 mg/kgとした(投与量は硝酸カドミウム無水和物で表示).対照として媒体(注射用水)投与群を設けた.各群の使用動物数は雌雄各5例とした.

死亡例は,250 mg/kg群で雄4例と雌5例,500 mg/kg群で雄4例と雌5例認められた.

一般状態において,125 mg/kg以上の群の雌雄で流涎,250 mg/kg以上の群の雌雄で自発運動の低下および流涙,250 mg/kg以上の群の雄および500 mg/kg群の雌で体温低下がみられた.

体重は,125 mg/kg以上の群の雄および62.5 mg/kg以上の群の雌において低値あるいは低値傾向がみられた.

剖検において,生存例では125 mg/kg以上の群の雄で精巣および精巣上体の萎縮がみられた.死亡例では,雌雄とも腺胃粘膜糜爛,白色化あるいは肥厚,雄で精巣赤色化あるいは暗赤色化がみられた.

病理組織学検査において,生存例では125 mg/kg以上の群の雄で精巣に精細管壊死,間質の細胞浸潤,ライディヒ細胞の空胞変性およびライディヒ細胞の限局性過形成,精巣上体に萎縮および精子減少がみられた.

以上の結果から,硝酸カドミウム四水和物のLD50値は,雄が243 mg/kg(95 %信頼限界:142〜454 mg/kg),雌が188 mg/kg(95 %信頼限界は算出不可能)であった.

方法

1. 被験物質および媒体

被験物質の硝酸カドミウム四水和物は,吸湿性・潮解性があり,水に易溶(溶解度75 %/20 ℃),エタノールに可溶の白色針状結晶の物質である[Lot No.0100204,純度:99.07 %,日本化学産業(株)(埼玉)].入手後は,室温・防湿条件下で保管した.

被験物質は,注射用水で溶解して調製した.なお,被験物質の調製に際して,水和物および純度による換算を実施した.1および100 mg/mLの調製液は,室温・遮光条件下で7日間保存しても安定性に問題のないことが確認されている.投与に使用した各投与検体中の被験物質濃度を測定した結果,被験物質濃度に問題はなかった.

2. 使用動物および飼育条件

4週齢のSprague-Dawley系雌雄ラット[Crj:CD(SD)IGS,SPF]を日本チャールス・リバー(株)から購入した.入手した動物は,5日間の検疫期間およびその後2日間の馴化期間を設け,一般状態および体重推移に異常の認められなかった動物を群分けした.群分けは,コンピュータを用いて体重を層別に分けた後に,無作為抽出法により各群の平均体重および分散がほぼ等しくなるように投与日に行った.

動物は,室温20〜26 ℃,湿度40〜70 %,明暗各12時間(照明:午前6時〜午後6時),換気回数12回/時に維持されている飼育室で飼育した.検疫・馴化期間中および群分け前の絶食時間中はステンレス製ケージを用いて1ケージ当たり5匹までの群飼育とし,群分け後はステンレス製ケージを用いて個別飼育した.飼料は,固型飼料(CRF-1,オリエンタル酵母工業(株))を給餌器に入れ,自由に摂取させた.ただし,投与前日の夕刻から投与までの約18時間と投与後約6時間まで絶食した.飲料水は,水道水を自由に摂取させた.ただし,群分け時から投与後約6時間までは絶水した.

3. 投与経路,投与方法および投与量

投与経路は経口投与を選択した.投与に際しては,金属製経口胃ゾンデを取り付けたポリプロピレン製ディスポーザブル注射筒を用いて,強制経口投与した.投与液量は,投与直前に測定した体重を基準として5 mL/kgで算出した.投与回数は1回とした.投与日の週齢は5週齢であり,体重範囲は雄が105〜114 g,雌が89〜98 gであった.

硝酸カドミウム四水和物のラット経口投与時のLD50値は300 mg/kgとされている1).そこで,当試験では,500 mg/kgを最高用量とし,以下公比2により250,125および62.5 mg/kg群を設定した(投与量は硝酸カドミウム無水和物で表示).また,対照として媒体(注射用水)のみを同容量投与する群を設けた.各群の使用動物数は雌雄各5例とした.

4. 観察および検査項目

1) 観察期間

投与後14日間とした.

2) 一般状態

投与日は投与前および投与後6時間(投与後30分,投与後2,4および6時間)まで,投与翌日からは1日1回,一般状態および死亡の有無を観察した.

3) 体重測定

投与日および投与後1,3,7,10ならびに14日に測定した.

4) 剖検

死亡動物は,速やかに剖検した.

生存動物は,観察期間終了時にエーテル麻酔下で腹大動脈から放血致死させた後に剖検した.

5) 病理組織学検査

生存例および死亡例の代表例の異常の認められた器官・組織については,HE染色組織標本を作製し,病理組織学検査を実施した.

5. 統計学的方法

LD50値は,probit法あるいはBehrns-Karber法で算出した.

体重は,Bartlett法による等分散性の検定を行い,等分散の場合には一元配置法による分散分析を行い,有意ならばDunnett法により行った.

結果

1. 死亡状況および一般状態(Table 1)

死亡例は,250 mg/kg群で雄4例と雌5例,500 mg/kg群で雄4例と雌5例認められた.硝酸カドミウム四水和物のLD50値は,雄が243 mg/kg(95 %信頼限界:142〜454 mg/kg),雌が188 mg/kg(95 %信頼限界は算出不可能)であった(LD50値は硝酸カドミウム無水和物で表示).

一般状態の観察において,対照群および62.5 mg/kg群では雌雄とも異常はみられなかった.

125 mg/kg群では,雌雄で流涎がみられた.

250 mg/kg群では,死亡例の雄において流涎,自発運動の低下,流涙および表皮温下降がみられた.死亡例の雌において,流涎,自発運動の低下,鼻口周囲の汚れおよび流涙がみられた.生存例の雄では,異常はみられなかった.

500 mg/kg群では,死亡例の雄において流涎,自発運動の低下,下痢,流涙および表皮温下降がみられた.死亡例の雌において,流涎,自発運動の低下,流涙および表皮温下降がみられた.生存例の雄では,流涎がみられた.

2. 体重

62.5 mg/kg群では,雄において対照群と比べて有意差はみられなかった.雌では,対照群と比べて投与後1〜14日に体重の有意な低値がみられた.

125 mg/kg群では,雄において対照群と比べて投与後1および3日に体重の有意な低値がみられた.雌では,対照群と比べて投与後1〜7日に体重の有意な低値がみられた.

250 mg/kg群では,雄において対照群と比べて投与後1日に体重の有意な低値がみられた.

3. 生存例の剖検

125および500 mg/kg群では,精巣萎縮および精巣上体萎縮が雄でみられた.

4. 死亡例の剖検

250 mg/kg群では,腺胃粘膜糜爛および腺胃粘膜肥厚が雌雄,精巣赤色化および精巣暗赤色化が雄でみられた.

500 mg/kg群では,腺胃粘膜糜爛,腺胃粘膜白色化および腺胃粘膜肥厚が雌雄,精巣赤色化および精巣暗赤色化が雄でみられた.

5. 生存例の病理組織学検査

125 mg/kg群では,精巣に精細管壊死,間質の細胞浸潤,ライディヒ細胞の空胞変性およびライディヒ細胞の限局性過形成,精巣上体に萎縮および精子減少がみられた.

500 mg/kg群では,精巣に精細管壊死,精細管萎縮,間質の細胞浸潤,ライディヒ細胞の空胞変性およびライディヒ細胞の限局性過形成,精巣上体に萎縮,精子減少および精巣上体管内の細胞残渣がみられた.

6. 死亡例の病理組織学検査

250 mg/kg群では,前胃粘膜に多発性潰瘍,腺胃粘膜糜爛および腺胃粘膜の炎症が雄,腺胃粘膜潰瘍が雌,腺胃粘膜出血が雌雄,精巣に変性あるいは壊死,精巣鬱血および精巣間質出血が雄でみられた.

考察

硝酸カドミウム四水和物の雌雄ラットへの1回経口投与により,雌雄とも250 mg/kg以上の投与で死亡例が認められ,一般状態では125 mg/kg以上の群の雌雄で流涎,250 mg/kg以上の群の雌雄で自発運動の低下および流涙,250 mg/kg以上の群の雄および500 mg/kg群の雌で体温低下がみられ,125 mg/kg以上の群の雄および62.5 mg/kg以上の群の雌で体重増加抑制,剖検および病理組織学検査で胃,精巣および精巣上体に変化が認められた.硝酸カドミウム四水和物のLD50値は,雄が243 mg/kg(95 %信頼限界:142〜454 mg/kg),雌が188 mg/kg(95 %信頼限界は算出不可能)であった(LD50値は硝酸カドミウム無水和物で表示).

文献

1)日本化学産業(株),未発表.

連絡先
試験責任者:古橋忠和
試験担当者:長瀬孝彦,内藤一嘉,岡田雅昭,木村 均,吉島賢一
(株)日本バイオリサーチセンター羽島研究所
〒501-6251 岐阜県羽島市福寿町間島6-104
Tel 058-392-6222Fax 058-392-1284

Correspondence
Authors:Tadakazu Furuhashi(Study director)
Takahiko Nagase, Kazuyoshi Naito, Masaaki Okada, Hitoshi Kimura, Ken-ichi Yoshijima
Nihon Bioresearch Inc.
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