染色体異常試験に用いる用量を決定するため,18.75〜1200 μg/mL(10 mM相当)の範囲で細胞増殖抑制試験を行った結果,短時間処理法では,50 %を上回る細胞増殖抑制は認められなかった.連続処理法では,1200 μg/mLで50 %を上回る細胞増殖抑制が認められた.したがって,染色体異常試験における用量は,150,300,600 および 1200 μg/mLとした.
試験の結果,短時間処理法S9 mix 非存在および存在下並びに連続処理法のいずれの場合においても,染色体異常を有する細胞の増加は認められなかった.
以上の成績から,4−エチルモルホリンのCHL/IU細胞に対する染色体異常誘発性は陰性と判定した.
短時間処理法では,培養開始3日後に被験物質を加えS9 mix非存在および存在下で6時間処理し,処理終了後,新鮮培養液でさらに18時間培養した.連続処理法では,培養開始3日後に被験物質を加え24時間処理した.
実験終了後,残余被験物質を分析した結果,安定性に問題はなかった.
その結果(Fig. 1),短時間処理法の場合は,50 %を上回る細胞増殖抑制は認められず,50 %細胞増殖抑制用量は,1200 μg/mL 以上と判断した.連続処理法の場合は,1200 μg/mLで50 %を上回る細胞増殖抑制が認められ,50 %細胞増殖抑制用量は600〜1200 μg/mLの用量域にあるものと判断した.
陽性対照として,短時間処理法S9 mix存在下では3,4-benzo[a]pyrene(B[a]P,Sigma Chemical)を 10 μg/mL,短時間処理法S9 mix非存在下および連続処理法では1-methyl-3-nitro-1-nitrosoguanidine(MNNG,Aldrich Chemical)を2.5 μg/mLの用量で用いた.陽性対照物質の溶媒には,いずれもDMSOを使用した.
染色体異常試験では,1用量あたり4枚のディッシュを用いた.このうち2枚で染色体標本を作製し,残りの2枚について単層培養細胞密度計により細胞増殖率を測定した.陽性対照群については細胞増殖率の測定は行わなかった.
染色体構造異常細胞および倍数性細胞の出現頻度について,多試料χ2検定を行い有意差(有意水準5 %以下)が認められた場合は,フィッシャーの直接確率法を用いて溶媒対照群と各用量群との間の有意差検定(有意水準は多重性を考慮して,5 %または1 %を処理群の数で割ったものを用いた)を行った.
その結果,溶媒対照群と比較して,被験物質による染色体異常細胞の出現頻度が2用量以上で有意に増加し,かつ用量依存性あるいは再現性が認められた場合,陽性と判定した.
連続処理法による結果をTable 2に示す.被験物質を加えて24時間処理したいずれの用量群においても,染色体の構造異常および培数性細胞の誘発作用は認められなかった.
したがって,4-エチルモルホリンの CHL/IU 細胞に対する染色体異常誘発性は陰性と判定した.本試験結果は,CHL/IU 細胞において,染色体異常を有する細胞の出現頻度が5 %未満を陰性とする石館らの判定基準2)からみても,明らかに陰性と判断されるものであった.
4-エチルモルホリンの変異原性については,Salmonella typhimuriumを用いた復帰突然変異試験で陽性3)と報告されている.また,L5178Y細胞を用いたマウスリンフォーマアッセイおよびBALB/3T3細胞を用いたトランスフォーメーションアッセイでいずれも陰性4)と報告されている.
4-エチルモルホリンの類縁化合物の変異原性について,モルホリンは,L5178Y細胞を用いたマウスリンフォーマアッセイおよびBALB/3T3細胞を用いたトランスフォーメーションアッセイでいずれも陽性4),また,N-メチルモルホリンオキシドは,同様の試験でいずれも陰性4)と報告されている.N-ニトロソモルホリンは,E. coli PQ37 strainを用いたSOS chromotest で陽性5),S. typhimuriumを用いた宿主経由試験および体細胞突然変異試験でいずれも陽性6),ショウジョウバエを用いた伴性劣性致死試験で陽性6),V79細胞およびシリアンハムスター由来の培養細胞を用いた体細胞突然変異試験でいずれも陽性6),ラット肝細胞を用いた不定期DNA試験で陽性6),シリアンハムスター由来の培養細胞を用いた細胞形質転換試験で陽性6),ラットリンパ球を用いた染色体異常試験で陽性6),マウスを用いた優性致死試験で陰性6)と報告されている.
1) | 日本環境変異原学会・哺乳動物試験分科会(編):「化学物質による染色体異常アトラス」朝倉書店,東京(1988)pp.16-37. |
2) | 石館 基(監修):「改定増補 染色体異常試験データ集」エル・アイ・シー,東京(1987)p.19. |
3) | Zeiger E, Anderson B, Howorth S, Lawlor T, Mortelmans K, Speck W:Salmonella Mutagenicity Tests, . Results from the testing of 255 chemicals. Environmental and Molecular Mutagenesis, 19:1-110(1987). |
4) | Conaway CC, Myhr BC,Rundell JO, Brusick DJ: Evaluation of morpholine, piperazine and analogues in the L5178Y mouse lymphoma assay and BALB/3T3 transformation assay. Environmental Mutagenesis, 4:390(1982). |
5) | Quillardet P, Bellecombe C, Hofnung M:The SOS chromotest, a colorimetic bacterial assay for genotoxins, validation study with 83 compounds. Mutation Research, 147:79-95(1985). |
6) | 賀田恒夫,石館 基(監修):「環境変異原データ集1」サイエンティスト,東京(1980)p.317. |
連絡先 | |||
試験責任者: | 野田 篤 | ||
試験担当者: | 野田 篤,昆 尚美 | ||
(財)畜産生物科学安全研究所 | |||
〒229-1132 神奈川県相模原市橋本台3-7-11 | |||
Tel 042-762-2775 | Fax 042-762-7979 |
Correspondence | ||||
Authors: | Atsushi Noda(Study director) Naomi Kon | |||
Research Institute for Animal Science in Biochemistry and Toxicology | ||||
3-7-11 Hashimotodai, Sagamihara-shi, kanagawa, 229-1132 Japan | ||||
Tel +81-42-762-2775 | Fax +81-42-762-7979 |