一般状態の観察では,投与期間中期から180 mg/kg群の雌雄で投与直後に流涎がみられ,単発的に180 mg/kg群の雌1例で投与後6時間に流涙もみられた.体重では,投与期間を通して180 mg/kg群の雄で増加抑制がみられた.摂餌量では,投与初期に180 mg/kg群の雌雄に減少または減少傾向がみられた.
尿検査では,180 mg/kg群の雌雄で尿量の増加,浸透圧および比重の減少,尿色調の淡明化ならびにpHの低下傾向がみられた.
血液学検査では,180 mg/kg群の雌雄で白血球数の増加または増加傾向,赤血球数の減少および網状赤血球率の増加ならびにMCVおよびMCHの増加がみられ,同群の雄で分葉核好中球比の増加およびリンパ球比の減少がみられた.
血液生化学検査では,180 mg/kg群の雌雄で総蛋白質,アルブミン,A/G比,GPT,総コレステロールおよびリン脂質の増加または増加傾向がみられ,同群の雄でトリグリセライドの減少,同群の雌でコリンエステラーゼおよびアセチルコリンエステラーゼの減少がみられた.
病理学的検査では,30 mg/kg群の雌で肝臓および腎臓の重量増加および180 mg/kg群の雌雄で肝臓,腎臓および副腎の重量の増加がみられ,組織学的に肝臓では小葉中心性の肝細胞肥大が30 mg/kg以上の群の雌雄に,腎臓では近位尿細管上皮の硝子滴の出現が30 mg/kg以上の群の雄に,副腎では束状帯の肥大が180 mg/kg群の雌雄に,脾臓では髄外造血および赤脾髄のヘモジデリン沈着が180 mg/kg群の雌雄に,精巣では精母細胞および精子細胞(round)の壊死,精子細胞(elongate)の減少ならびにセルトリ細胞の空胞化が180 mg/kg群にみられた.また,膀胱炎および腎盂の好中球細胞浸潤が180 mg/kg群の雌1例にみられた.
上記の変化は,14日間の回復試験により回復するかあるいはその傾向を示した.
以上の結果より,本試験条件下における無影響量は5 mg/kg/dayと考えられた.
投与経路は経口とし,胃管を用いた強制投与を1日1回,28日間反復して行った.投与容量は5 ml/kgとし,個体ごとに最新の体重を基に算出した.
試験群は,上記3用量に,注射用水を投与する対照を加え,計4群とした.1群当たりの動物数は,投与期間終了時の剖検例として各群とも雌雄各6匹,さらに,対照群および180 mg/kg群には14日間の回復期間終了時の剖検例として雌雄各6匹を設けた.群分けは,投与開始前日の体重を基に層別連続無作為化法で行った.
nwald-Giemsa染色を施して白血球百分比を算出するとともに,ニューメチレンブルー超生体染色を施して網状赤血球率を算出した.さらに,3.8%クエン酸ナトリウム加血液を3000回転/分で15分間遠心分離し,得られた血漿を用いて全自動血液凝固測定装置(Sysmex CA-5000,東亜医用電子(株))により,プロトロンビン時間(散乱光検出方式)および活性化部分トロンボプラスチン時間(散乱光検出方式)を測定した.
blewski-La Due法),γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(L-γ-グルタミル-DBHA基質法),アルカリ性フォスファターゼ(p-ニトロフェニルリン酸基質法),コリンエステラーゼ(ヨウ化ブチリルチオコリン基質法),アセチルコリンエステラーゼ(アセチルコリン基質法),総コレステロール(COD-DAOS法),トリグリセライド(GPO- DAOS法・グリセリン消去法),リン脂質(酵素法・DAOS発色法),グルコース(グルコキナーゼ・G-6-PDH法),尿素窒素(BUN,ウレアーゼ-GlDH法),クレアチニン(Jaff
法),無機リン(モリブデン酸直接法)およびカルシウム(OCPC法)を測定した.また,電解質分析装置(PVA-α�掘�(株)アナリティカル・インスツルメンツ)によりナトリウム(電極法),カリウム(電極法)およびクロール(電量滴定法)を測定した.
投与期間終了時の対照群および高用量群の唾液腺,心臓,肝臓,腎臓,脾臓,副腎,精巣,卵巣および膀胱ならびに肉眼的異常組織については,常法に従ってパラフィン切片を作製し,ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を施して光学顕微鏡で観察した.さらに,肝臓,脾臓,腎臓,膀胱,精巣および副腎に変化がみられたため,投与期間終了時の中間用量群についても検査し,肝臓および腎臓は低用量群まで検査した.また,これらの器官は回復期間終了時の対照群および高用量群についても同様に検査した.なお,一部の器官については,特殊染色を施して観察した.
180 mg/kg群では,流涎,流涙,脱毛ならびに後肢の腫脹および跛行がみられた.流涎は投与11日から雌雄の1ないし8例でみられた.流涎は投与直後からみられ,ほとんどの例では投与後5ないし10分に消失したが,一部の例では継続時間は投与期間とともに延長する傾向を示し,投与20日には投与後7時間までみられた.また,雄2例では投与20および22日の投与直前にも流涎がみられた.流涙は,投与22日に雌1例で投与後6時間にみられたが,投与後8時間には消失した.局所的な脱毛は,投与5日から雌雄各1例で,さらに投与12日および19日からは雄1例で,投与22日からは雌1例でみられたが,投与期間終了時までにほとんどの例で回復傾向がみられた.また,右または左後肢の腫脹および跛行は投与期間の後期から雄2例でみられた.回復期間では,投与期間にみられた脱毛が雄1例で再発し,180 mg/kg群の雄2例で後肢の腫脹および跛行が投与期間から継続してみられたが,1例では休薬12日に回復した.

回復2週目では,180 mg/kg群の雌雄で尿量の減少または減少傾向ならびに尿浸透圧および比重の増加または増加傾向がみられたが,いずれも生理的変動値内の変化で毒性学的に意義のない変化であった.

回復期間終了時の検査では,180 mg/kg群の雄雌でMCVおよびMCHの軽度の増加がみられ,同群の雄で赤血球の軽度の減少がみられた.また,180 mg/kg群の雌でプロトロンビン時間の延長がみられたが,生理的変動値内の軽微な変化であり,毒性学的に意義のない変化であった.

回復期間終了時には,180 mg/kg群の雄雌でクレアチニンの減少がみられ,同群の雄では総ビリルビンおよびアルカリ性フォスファターゼの減少ならびに無機リンの増加,同群の雌では総蛋白質の減少がみられたが,いずれも軽微な変化であり投与期間終了時の検査では同様の変化はみられなかったことから,これらの変化については,本被験物質投与との関連はないと考えられた.

回復期間終了時には,180 mg/kg群の雄で腎臓および副腎の相対重量の増加がみられた.また,180 mg/kg群の雄で心臓の相対重量の増加ならびに顎下腺および脾臓の絶対重量の減少がみられ,同群の雌で肺の絶対および相対重量の増加がみられたが,投与期間終了時の検査では同群の当該器官に重量変化はみられていないことから,本被験物質投与との関連はないものと考えられた.

回復期間終了時には,180 mg/kg群の雄1例で局所的な脱毛または後肢の腫脹がみられた.
回復期間終了時の剖検例においては,肝臓の小葉中心性の肝細胞肥大が180 mg/kg群の雄3例および雌4例にみられたが,発生例数および変化の程度は投与期間終了時に比べ軽減していた.精巣では精子細胞(elongate)の減少および精子細胞の残渣の貯留が180 mg/kg群の3例にみられ,そのうちの2例でセルトリ細胞の空胞化がみられたが,投与期間終了時にみられていた精母細胞および精子細胞(round)の壊死はみられなかった.さらに,投与期間終了時に変化がみられた腎臓,副腎および膀胱では変化はみられず,脾臓でも赤脾髄のヘモジデリン沈着が対照群および180 mg/kg群の雌雄各6例にみられたものの,変化の程度には対照群との間に差はみられなかった.そのほか,180 mg/kg群の雄1例で肉眼的にみられた右後肢の腫脹部位では,皮下にリンパ球による細胞浸潤がみられたのみであった.さらに,同群の雌1例で肝臓に肝細胞の巣状壊死がみられたが,投与期間終了時にはいずれの動物にもみられていないことから自然発生病変と考えられた.なお,180 mg/kg群の雄1例にみられた脱毛部位では組織学的変化はみられなかった.

尿検査では,投与4週目の検査で180 mg/kg群の雌雄で尿量の増加,浸透圧および比重の減少,尿色調の淡色化ならびにpHの低下傾向がみられた.いずれの変化とも,水分による尿の希釈に伴う変化とも思われたが,原因は明らかではなかった.回復2週目の検査では,これらの変化はいずれも回復した.
血液学検査では,投与期間終了時の検査で180 mg/kg群の雌雄に白血球数の増加または増加傾向および赤血球数の減少がみられ,赤血球数の減少に伴うMCV,MCHおよび網状赤血球率の増加がみられた.組織学的には,赤血球の破壊像として赤脾髄のヘモジデリン沈着が,赤血球数の減少に対応する変化として脾臓の髄外造血がそれぞれ180 mg/kg群の雌雄にみられた.これらのことから,赤血球数の減少は赤血球の破壊亢進によるものと考えられた.また,白血球数の増加については,先に実施した本被験物質の2週間反復投与毒性予備試験2)でも200 mg/kg以上の群の雄または雌でみられており,本被験物質投与によるものと考えられた.なお,白血球数の増加は,180 mg/kg群の雄では分葉核好中球の増加によるものであり,炎症性変化の存在を示唆すると考えられたが,本試験では明らかな炎症像は確認されておらず,発生機序は明らかではなかった.回復期間終了時の検査では,180 mg/kg群の雌雄でMCVおよびMCHの増加,同群の雄で赤血球数の減少がみられたが,投与終了時に比べるとその程度は軽度であり,回復の傾向があると考えられた.
血液生化学検査では,投与期間終了時の検査で180 mg/kg群の雌雄に総蛋白質,アルブミン,A/G比,GPT,総コレステロールおよびリン脂質の増加または増加傾向がみられ,同群の雄でトリグリセライドの減少が,同群の雌でコリンエステラーゼおよびアセチルコリンエステラーゼの減少がみられた.総蛋白質,A/G比,GPT,総コレステロール,リン脂質およびトリグリセライドの変化は,体重の増加抑制傾向に伴う全身的な影響に関連した変化であると考えられた.また,コリンエステラーゼおよびアセチルコリンエステラーゼは主に肝臓で合成されており,これらの減少の原因としては通常,肝臓での蛋白質合成機能の低下が考えられる.しかしながら,本試験では血清中の総蛋白質は増加しており,肝臓重量の増加がみられるものの組織学的には機能障害を示す変化はみられていない.一般に有機リン系の化合物は抗コリンエステラーゼ活性を有することが知られており,本被験物質は有機リン系の化合物ではないものの,投与により継続的な流涎がみられたことを考え併せると,コリンエステラーゼおよびアセチルコリンエステラーゼの減少の原因は,本被験物質投与に関連した酵素活性阻害による可能性が示唆された.
病理学的検査では,上述したように,赤血球数の減少に関連して脾臓に本被験物質による影響がみられた.それらに加えて,30 mg/kg群の雌で肝臓および腎臓の重量の増加および180 mg/kg群の雌雄で肝臓,腎臓および副腎の重量の増加がみられ,組織学的に肝臓では小葉中心性の肝細胞肥大が30 mg/kg以上の群の雌雄に,腎臓では近位尿細管上皮に硝子滴の出現が30 mg/kg以上の群の雄に,副腎では束状帯の肥大が180 mg/kg群の雌雄に,精巣では精母細胞および精子細胞(round)の壊死,精子細胞(elongate)の減少ならびにセルトリ細胞の空胞化が180 mg/kg群にみられた.肝臓での組織学的な変化は,薬物代謝酵素が誘導されている可能性を示唆しており,本被験物質の肝臓に対する影響が考えられた.腎臓での組織学的な変化は,SD系雄性ラットでは自然発生的にみられる変化ではあるものの,30および180 mg/kg群の雄での変化は,本被験物質投与により近位尿細管での蛋白質の再吸収が亢進したものと考えられた.また,180 mg/kg群の雌1例で膀胱に膀胱炎がみられ,本例では膀胱炎に伴い腎盂に好中球細胞浸潤がみられた.先に当研究所で実施した本被験物質の単回投与毒性試験1)において,1700 mg/kg群の雄1例で膀胱内に淡赤色尿がみられ,組織学的にも糜爛がみられた.SD系ラットでは膀胱炎の自然発生する例数は比較的少ないことを考えると,本試験での膀胱および腎盂の変化は1例についての変化ではあるものの,本被験物質投与による影響の可能性が示唆された.副腎では組織学的に束状帯の肥大がみられ,それを反映して重量の変化がみられた.精巣での一連の変化は,先に当研究所で実施した本被験物質の単回投与毒性試験1)および2週間反復投与毒性予備試験2)でも同様にみられており,本被験物質の精巣に対する影響が示唆された.回復期間終了時の検査では,180 mg/kg群の雄で腎臓および副腎の相対重量の増加がみられたが,組織学的には変化はみられなかった.また,投与期間終了時に変化がみられた肝臓,脾臓および膀胱では,変化は消失するかもしくは軽減していた.精巣でも精母細胞および精子細胞の壊死はみられず,回復性が認められた.
上記のように本試験における毒性は,14日間の休薬により消失または軽減しており,可逆的な変化であった.以上の結果から,30 mg/kg以上の群の雌雄で本被験物質による影響がみられたことから,本試験条件下での無影響量は雌雄ともに5 mg/kg/dayであると考えられた.
| 1) | 可徳小四郎ほか,3-シアノピリジンのラットにおける単回投与毒性試験,(株)パナファーム・ラボラトリーズ(1996). |
| 2) | 浜村政夫ほか,3-シアノピリジンのラットにおける単回投与毒性試験および28日間反復投与毒性試験のための予備試験,(株)パナファーム・ラボラトリーズ(1996). |
| 連絡先 | |||
| 試験責任者: | 一鬼 勉 | ||
| 試験担当者: | 緒方英博,古川浩美,幸 邦憲, 斉藤琢也,神谷光一,浜村政夫, | ||
| (株)パナファーム・ラボラトリーズ 安全性研究所 | |||
| 〒869-04 熊本県宇土市栗崎町1285 | |||
| Tel 0964-23-5111 | Fax 0964-23-2282 | ||
| Correspondence | ||||
| Authors: | Tsutomu Ichiki(Study director) Hidehiro Ogata, Hiromi Furukawa, Kuninori Yuki, Takuya Saito, Kouichi Kamiya,Masao Hamamura | |||
| Safety Assessment Laboratory,Panapharm Laboratories Co.,Ltd. | ||||
| 1285 Kurisaki-machi, Uto-shi, Kumamoto, 869-04, Japan | ||||
| Tel +81-964-23-5111 | Fax +81-964-23-2282 | |||