4-ヒドロキシ安息香酸のラットを用いる
反復経口投与毒性・生殖発生毒性併合試験

Combined Repeat Dose and Reproductive/Developmental Toxicity Screening Test
of 4-Hydroxybenzoic acid by Oral Administration in Rats

要約

4-ヒドロキシ安息香酸は,ベンゼン核の1位に水酸基を,4位にカルボキシル基を有するフェノールカルボン酸であり,染色液,抗菌剤,殺虫剤等の中間代謝物として生成され,刺激性を有する化学物質である1-3).本化合物の毒性については,ラットでのLD50値が経口投与では 6000 mg/kg ,腹腔内投与では340 mg/kg であることが知られている4,5).また,フェノール酸をラットに短期間投与すると,前胃に乳頭腫または癌を誘発することが報告されているが,4-ヒドロキシ安息香酸を4% 含有する餌をラットに9日間与えた結果では,前胃粘膜の変化は観察されていない6).4-ヒドロキシ安息香酸の異性体で非ステロイド系抗炎症薬であるサリチル酸およびその誘導体であるアスピリンは,ラット,マウスに対して強い催奇形作用を示すが,4-ヒドロキシ安息香酸をラットの妊娠9日に皮下投与しても,マウスの妊娠9日あるいは妊娠12日に筋肉内投与しても,催奇形作用は確認されていない7,8).しかし,4-ヒドロキシ安息香酸の長期に亘る反復投与毒性および生殖発生毒性については明らかにされていない.そこで今回,OECDによる既存化学物質の安全性点検に係わる毒性調査研究事業の一環として,4-ヒドロキシ安息香酸の0(溶媒対照),40,200 および 1000 mg/kgを Sprague-Dawley系(Crj:CD)ラットの雌雄(各13匹/群)に交配前2週間および交配期間2週間経口投与し,さらに雄では交配期間終了後2週間,雌では妊娠期間を通して分娩後の哺育3日まで投与を継続して,親動物に対する反復投与毒性および生殖能力ならびに次世代児の発生・発育に及ぼす影響について検討した.

その結果,死亡動物は,対照群を含むいずれの投与群においても認められなかった.200 mg/kg 以上の投与量により,雌雄ともに,異常呼吸音または投与後一過性の流涎が,断続的に投与期間を通して観察された.また,雄では,1000 mg/kg の投与量により,体重の増加抑制が認められた.雄で実施した血液学検査および血液生化学検査の結果から,200 mg/kg 以上の投与量によりリンパ球比およびブドウ糖の減少,1000 mg/kg の投与量により総蛋白の減少およびA/G比の増加,GPTおよびGOTの上昇が認められた.雌の体重,雌雄の摂餌量,器官重量,剖検および病理組織所見には,影響は認められなかった.

一方,生殖発生毒性に関しては,雌雄の交尾率,受胎率,妊娠維持,分娩および哺育に関して,影響は認められなかった.

産児の生存性,性比,体重および形態に影響は認められなかった.

これらのことから,本試験条件下では,4-ヒドロキシ安息香酸の反復投与毒性に関する無影響量は,雌雄ともに 40 mg/kg/day ,生殖発生毒性に関する無影響量は,親動物に対しては雌雄ともに1000 mg/kg/day,新生児に対しても 1000 mg/kg/day であると結論される.

方法

1.被験物質

4-ヒドロキシ安息香酸〔CAS No.:99-96-7,ロット番号:GI0681(上野製薬(株)),純度:99.7 wt%(不純物:サリチル酸 0.02 wt%,4-ヒドロキシイソフタル酸0.03 wt%)分子式:C7H6O3,分子量:138.13,融点:214-217℃〕は白色結晶性粉末のフェノールカルボン酸であり,使用時まで室温で保管した.

被験物質は,0.5% CMC Na水溶液〔カルボキシメチルセルロースナトリウム:丸石製薬(株),製造番号1527,日本薬局方注射用水:光製薬(株),製造番号9510AH〕に懸濁し,いずれの用量においても1回の投与液量が5 ml/kg 体重になるように濃度を調整し,投与液とした.投与液は,室温,遮光条件下で保管し,調製後8日以内に投与した.なお,投与液中の被験物質は,室温,遮光条件下で少なくとも8日間安定であることが確認されており,試験期間中に調製した投与液には,所定量の4-ヒドロキシ安息香酸が均一に含有されていたことを確認した.

2.使用動物および飼育条件

試験には,雌雄とも7週齢にて購入した日本チャールス・リバー(株)日野飼育センター生産の Sprague-Dawley 系ラット(Crj:CD,SPF)を使用した.動物は,入荷後1週間,馴化と検疫を兼ねて予備飼育し,一般状態に異常が認められなかったものを試験に供した(群分け時体重範囲:雄 305.3〜348.0 g ,雌 206.6〜233.9 g).

各動物は,基準温湿度24±1℃および50〜65%,換気回数約15回/時,照明12時間(午前7時〜午後7時)に制御された飼育室で,金属製金網床ケージ(22 × 27 × 19 cm,日本ケージ(株))に個別に収容して飼育し,固型飼料(CE-2,日本クレア(株))および飲料水を自由に摂取させた.妊娠14日(精子観察日=妊娠0日)以後の雌動物は,ラット用繁殖ケージ(35 × 40 × 18 cm,日本クレア(株))に収容し,床敷として紙パルプ製チップ(ALPHA-dri,加商(株))を適宜供給した.供給した飼料,水および床敷には試験に支障を来す可能性のある混入物は認められなかった.

3.群分け法

雌雄とも初回投与日の体重をもとに体重別層化無作為抽出法により群分けし,各群とも雌雄各13匹を配した.

4.投与量、群構成、投与期間および投与方法

先に実施した14日間反復経口投与による予備試験において,250 mg/kg 以上の投与により,雌雄動物に,流涎,異常呼吸音あるいは鼻汁が観察され,雄動物では1000 mg/kg,雌動物では250 mg/kg 以上の投与により体重の増加抑制傾向が認められた.さらに,雌動物では 1000 mg/kg の投与量により,摂餌量の軽度な減少が認められた.しかし,摂餌量,尿検査,血液学検査,血液生化学検査,器官重量および剖検においては,投与による著しい変化が認められなかったことから,1000 mg/kg は最大耐量を下回る量であると判断し,併合試験における最高用量に設定した.以下,公比5で減じて中間用量には 200 mg/kg を,最低用量には40 mg/kg を設定した.対照群のラットには,0.5% CMC Na 水溶液を投与群と同一条件で投与した.

各用量の投与検体は,雄に対しては交配前2週間と交配期間(2週間)および交配期間終了後2週間(剖検日前日までの連続42日間),また,雌に対しては交配前2週間と最長2週間の交配期間中(交尾成立まで)ならびに交尾成立雌では妊娠期間を通して分娩後の哺育3日(分娩日=哺育0日)まで毎日1回,ラット用胃管を用いて経口投与した.毎日の投与は,午前9時から午後3時の間に行い,各動物の投与液量(5ml/kg 体重)は,雄ならびに交配前および交配期間中の雌については週1回測定した体重をもとに,また,交尾成立後の雌については妊娠0日(交尾確認日)の体重をもとにそれぞれ算出した.

5.観察方法

1) 親動物

A.一般状態

雌雄とも全例について,飼育期間中毎日観察した.

B.体重

雄は全例について,投与1,8,15,22,29,36,42日および解剖日に,雌は全例について,投与1,8,15日に測定し,投与22日まで交尾しなかった雌は,投与22日にも体重を測定した.また,交尾成立雌では,妊娠0,7,14,20日に,分娩した雌では哺育0および4日(解剖日)に体重を測定した.

C.摂餌量

雌雄とも全例について,体重測定日と同日に餌重量を測定し,測定日から次の測定日までの間の摂餌量を算出した.2週間の交配期間中の餌重量は測定しなかった.交尾成立雌では,妊娠0〜7、 7〜14、 14〜20日に,分娩した雌では,哺育0〜4日の摂餌量を測定した.

D.交配

交配は,投与15日(投与開始日=投与1日)の夕方から最長2週間,同群内の雌雄を1対1で同居させて行った.交尾の確認は,毎朝,腟栓および腟垢中の精子の存在を調べることにより行い,交尾が確認された雌は,その日を妊娠0日と起算して雄から分離し,個別に飼育した.交配の結果から,交尾率〔(交尾確認動物数/交配動物数)× 100〕,受胎率〔(妊娠動物数/交尾確認動物数)× 100〕,同居開始日から交尾確認日までの日数およびその間に回帰した発情回数を求めた.

E.分娩・哺育状態

各群とも交尾した雌は,全例を自然分娩させた.分娩状態は,直接観察が可能なものについてのみ行い,それ以外の動物については分娩後の徴候から分娩困難や遅延などの分娩障害の有無を判断した.分娩後は,哺育状態を観察した.

F.分娩日の算定

分娩の確認は,午前9時〜11時に限定し,この時間帯に分娩が終了していることを確認した動物について,その日を分娩日と規定した.午前11時を過ぎてから分娩を終了した動物については,翌日を分娩日とした.分娩を確認した全例について,妊娠期間(妊娠0日から分娩日までの日数)を算定し,出産率[(生児出産雌数/妊娠動物数)× 100]を各群について求めた.

G.最終検査

a) 雄動物

イ.剖検,器官重量測定および病理組織検査

最終投与日の投与終了後から絶食を開始し,翌日にペントバルビタール麻酔下で放血・致死させて剖検した.その際,全例について肝臓,腎臓,肺,胸腺,精巣および精巣上体の重量を測定した.精巣および精巣上体はブアン液に固定して保存し,その他の器官および脳,心臓,脾臓,副腎,膀胱ならびに剖検において異常を認めた器官は,10% ホルマリン液に固定して保存した.これらの器官は高用量群および対照群について常法に従ってパラフィン切片とし,ヘマトキシリン-エオジン染色を行って病理組織検査を行った.

ロ.血液検査

全例について,剖検に先立ち,ペントバルビタール麻酔下で腹部後大静脈より抗凝固剤としてEDTA処理した注射筒を用いて採血し,赤血球数(RBC),白血球数(WBC),血色素量(Hb),平均赤血球容積(MCV),ヘマトクリット値(Ht),平均赤血球血色素量(MCH),平均赤血球血色素濃度(MCHC),血小板数を多項目血液自動測定機(Coulter Counter Model S-PLUS IV)により測定し,白血球分類は Wright-Giemsa 染色を行い,光学顕微鏡下で観察し算出した.

ハ.血液生化学検査

全例について,血液学検査のための採血に引き続き,抗凝固剤としてヘパリン処理した注射筒を用いて採血し,血漿を分離して遠心方式生化学自動分析装置 COBAS- FARA および全自動電解質分析装置 EA05(A&T)を用い,総蛋白質(ビウレット法),アルブミン(BCG法),総コレステロール(COD・DAOS法),ブドウ糖(グルコキナーゼG6PDH 法),尿素窒素(BUN)(ウレアーゼGr.DH 法),クレアチニン(Jaff法),アルカリフォスファターゼ(パラニトロフェニルリン酸基質法),GOT(SSCC法),GPT(SSCC法),総ビリルビン(ビリルビン「ロシュ」キット S シリーズ),カルシウム(OCPC法),無機リン(モリブデン酸直接法),γ -GTP(γ -グルタミル-3-カルボキシ-4-ニトロアニリド基質法),ナトリウム(イオン電極法),カリウム(イオン電極法),塩素(イオン電極法),A/G比(計算)について分析した.

b) 雌動物

分娩した動物は哺育4日に,交尾しなかった雌は交配期間終了日に,交尾は確認されたが分娩しなかった雌は妊娠25日相当日に,それぞれ,致死量のペントバルビタール投与後に放血・致死させ,剖検した.その際,卵巣および子宮を摘出し,卵巣は実体顕微鏡下で妊娠黄体数を数えた後,ブアン液に保存した.子宮は Salewski 法9)を応用して着床痕を染色して着床数を確認し,着床率〔(着床数/妊娠黄体数)× 100)〕 を算出した.また,肝臓,腎臓,肺および胸腺の重量を測定し,これらの器官および脳,心臓,脾臓,副腎,子宮,膀胱ならびに剖検時に異常が認められた器官は,10% ホルマリン液に固定して保存した.これらの器官(卵巣および子宮を除く)は高用量群および対照群について常法に従ってパラフィン切片とし,ヘマトキシリン-エオジン染色を行って病理組織学検査を行った.なお,不妊例,交尾しなかった例および早期全胚吸収例の卵巣についても,同様に病理組織学検査を実施した.

2) 産児

A.産児数の算定

哺育0日に産児数(生存児+死亡児)を調べ,分娩率〔(産児数/着床痕数)× 100]および生児出産率〔(出産生児数/着床痕数)× 100]を求めた.産児については,外表奇形の有無および性別を調べ,生存児の性比〔(雄の生児数/出産生児数)× 100]を算出した.

B.死亡児数の算定

死亡児数を毎日調べ,出生率〔(出産生児数/産児数)×100]および新生児生存率〔(哺育4日の生児数/哺育0日の生児数)×100]を求めた.死亡児は剖検し,胸腔および腹腔内の器官を除去した後,エタノールに固定して保存した.

C.体重測定

哺育0日および4日に一腹単位で雌雄別に体重(litter 重量)を測定し,〔litter重量/測定児数]を各腹について求めた.

D.剖検

哺育4日に全例を致死させ,剖検した.胸腔および腹腔内の器官は,一括して摘出し,一腹ごとに10% ホルマリンに固定して保存した.カーカスは,一腹ごとにエタノールに固定して保存した.

6.統計解析

交尾率,受胎率および産児の形態異常発現頻度については Yates の補正を含むX^2 検定を行った.病理組織所見については,グレード分けしたデータは Mann-Whitney のU検定10,11)により,陽性グレードの合計値は Fisher 直接確率の片側検定11)により,対照群と各投与群との間に有意差検定を行った.その他のすべてのデータは,個体ごとに得られた値あるいは一腹ごとの平均値を1標本として,先ずBartlett法12)により各群の分散の一様性について検定した.その結果,分散が一様とされた場合には,一元配置型の分散分析を行い,群間に有意性が認められた場合で,各群の匹数が同一であれば Dunnett法13),同一でない場合はScheff法14)を用いて対照群と各投与群との平均値の差の検定を行った.分散が一様でなかった場合,または分散が0となる群が存在した場合は,Kruskal-Wallis 順位検定15)を行い,群間に有意性が認められた場合に,対照群と各投与群との差についてDunnett 法あるいはScheff法の検定を行った.有意水準は,5% および1% とした.

結果

機ト辛投与毒性(親動物所見)

1) 一般状態

死亡あるいは瀕死動物は,雌雄とも,いずれの投与群においても認められなかった.一般状態の変化として,雌雄とも,200 mg/kg 以上の投与群において,異常呼吸音あるいは投与後一過性の流涎,鼻汁が観察された.雄では,流涎が,200 mg/kg 投与群の1例に1回,1000 mg/kg 投与群の全例に3〜34回観察され,鼻汁が,1000 mg/kg 投与群の2例に1〜2回観察された.また,異常呼吸音が,200 mg/kg 投与群の2例に1〜4回,1000 mg/kg 投与群の5例に1回観察された.雌では,流涎が,1000 mg/kg 投与群の全例に2〜23回,鼻汁が,同群の1例に1回観察され,異常呼吸音が,200 mg/kg 投与群の3例に1〜2回,1000 mg/kg 投与群の9例に1〜10回観察された.異常呼吸音は,雌雄とも,投与前後に関係なく観察された.また,1000 mg/kg 投与群において認められた一般状態の変化は,断続的ではあるが,投与期間を通して観察された.

2) 体重(Tables 1,2)

雄では,1000 mg/kg 投与群において,体重の増加抑制傾向が認められ,投与1〜15日,投与1〜22日および投与1〜36日の増加量が対照群と比較して統計学的に有意(p<0.05,0.01)に減少した.200 mg/kg 以下の投与群の体重には,対照群との間に有意差は認められなかった.

雌では,交配前,妊娠期間中および分娩後のいずれの時期の体重にも,対照群と各投与群との間に有意差は認められなかった.

3) 摂餌量(Tables 3,4)

雄では,投与期間中の摂餌量には,対照群と各投与群との間に有意差は認められなかった.雌では,交配前,妊娠期間中および分娩後のいずれの時期の摂餌量にも,対照群と各投与群との間に有意差は認められなかった.

4) 解剖時検査所見

A.雄

(1) 血液検査所見(Table 5)

白血球数が,40 および 1000 mg/kg 投与群において対照群と比較して統計学的に有意(p<0.05,0.01)な低値を示した.百分比ではリンパ球比が200 mg/kg 以上の投与群において有意(p<0.05)に減少し,これに伴い,分葉核好中球比が1000 mg/kg 投与群において有意(p<0.05)に増加した.また,血小板数が200 mg/kg 以上の投与群において,有意(p<0.01)に減少し,好酸球比が40 mg/kg 投与群において有意(p<0.01)に増加したが,血小板数および好酸球比の変動の程度は,生理的変動の範囲内であった.

(2) 血液生化学検査所見(Table 6)

1000 mg/kg 投与群において,総蛋白質が対照群と比較して有意(p<0.01)に減少し,A/G比が有意(p<0.05)に増加した.さらに,GPTおよびGOTが有意(p<0.01)に上昇した.また,ブドウ糖が40 mg/kg 以上の投与群において対照群と比較して有意(p<0.05,0.01)に減少した.無機リンが 200 mg/kg 以上の投与群において,カルシウムが 200 mg/kg 投与群において,それぞれ有意(p<0.01)に増加したが,無機リンおよびカルシウムの変動の程度は生理的変動の範囲内であった.

(3) 剖検所見

胸腺では,40 および1000 mg/kg 投与群の各1例に小型化が,40 mg/kg 投与群の2例および200 mg/kg 投与群の1例に暗色点(領域)がみられた.

肺では赤色点が,対照群に1例,200 mg/kg 投与群に2例,1000 mg/kg 投与群に3例みられた.

肝臓では,対照群の2例,40 mg/kg 投与群の4例,200 mg/kg 投与群の4例,1000 mg/kg 投与群の3例に小葉像の明瞭化が,対照群,40 および1000 mg/kg 投与群の各1例に黄色化が,対照群の1例,40 mg/kg 投与群の2例,200 mg/kg 投与群の2例,1000 mg/kg 投与群の1例に黄白色斑が,対照群の1例に暗色域がみられた.

腎臓では,40 mg/kg 投与群の2例,200 mg/kg 投与群の1例に皮質の淡色が,200 mg/kg 投与群の1例に陷凹部が,40 mg/kg 投与群の1例に腎盂拡張がみられた.

脾臓では,40 mg/kg 投与群の1例に嚢胞の形成がみられた.

副腎では,1000 mg/kg 投与群に小型化が1例,また,左側の副腎が腫大し,右側が確認できなかったものが1例みられた.

その他,胃では,40 mg/kg 投与群の1例にヘマチン付着が,1000 mg/kg 投与群の1例では腺胃粘膜が軽度に肥厚し,その部位にポリープ様突起が認められた.

また,精巣および精巣上体の小型化が対照群の2例および200 mg/kg 投与群の1例,前立腺および精嚢の腫大が40 mg/kg 投与群の1例,前立腺のみの腫大が200 mg/kg 投与群に2例,精巣上体の黄白色の結節が40 および1000 mg/kg 投与群に各1例観察された.しかし,いずれの器官にも投与に起因したと思われる変化は認められなかった.

(4) 器官重量(Table 7)

肝臓,腎臓,肺,胸腺,精巣および精巣上体の重量および比体重値には,対照群と各投与群との間で統計学的有意差は認められなかった.

(5) 病理組織所見(Table 8)

対照群および 1000 mg/kg 投与群において実施した各器官の病理組織検査の結果を以下に示す.

(肺)

1000 mg/kg の1例に骨化生がみられた.

(肝臓)

対照群および1000 mg/kg 投与群の両群各13例全例に門脈周囲性の肝細胞脂肪化および小肉芽腫が観察されたが,両群間に程度の差はなかった.

(腎臓)

対照群の6例および1000 mg/kg 投与群の8例に,好塩基性の尿細管が皮質に認められたが,両群間に発現頻度および程度の差はなかった.対照群の6例および1000 mg/kg 投与群の1例に eosinophilic body がみられたが,両群間に程度の差はなく,1000 mg/kg 投与群における発現頻度は有意(p<0.05)に減少した.その他,硝子円柱およびリンパ球浸潤が対照群に各1例みられた.

(脾臓)

対照群および1000 mg/kg 投与群の両群各13例全例に褐色色素の沈着が,対照群の12例および1000 mg/kg 投与群の13例に髄外造血がみられたが,両群間に発現頻度および程度の差はみられなかった.

(その他)

心臓では対照群および1000 mg/kg 投与群の各3例に心筋変性・線維化が,膀胱では対照群および1000 mg/kg 投与群の各1例にリンパ球の浸潤が,精巣では対照群の7例および1000 mg/kg 投与群の3例に限局性の精子形成低下が,精巣上体では対照群および1000 mg/kg 投与群の各1例に精子肉芽腫がみられたが,いずれの所見も両群間に発現頻度および程度の差はみられなかった.また,精巣では対照群のみに4例,多核巨細胞が認められたため,1000 mg/kg 投与群における発現頻度に有意差(p<0.05)がみられた.胸腺,副腎,脳には異常は認められなかった.

B.雌

(1) 剖検所見

胸腺では,対照群の2例,40 mg/kg 投与群の5例,200 mg/kg 投与群の2例,1000 mg/kg 投与群の3例に小型化が,40および1000 mg/kg 投与群の各1例に全体的な淡赤色化がみられた.

肺では,40 mg/kg 投与群の1例に暗赤色領域が認められた.

肝臓では,対照群の1例の間膜(肝冠状間膜)に茶褐色の結節が,200 mg/kg 投与群の2例および1000 mg/kg 投与群の1例に小葉像明瞭が,200 mg/kg 投与群の1例に黄色化が,1000 mg/kg 投与群の1例に淡色化が,3例に暗色化がみられた.

腎臓では,1000 mg/kg 投与群の1例に退色が,200 および1000 mg/kg 投与群の各1例に腎盂の拡張がみられた.

その他,対照群に脾臓の小型化あるいは副腎の暗色化が各1例,40 mg/kg 投与群の1例では下垂体前葉が腫大し,その部位は透明様を呈していた.

しかし,いずれの器官にも投与に起因したと思われる変化は認められなかった.

(2) 器官重量(Table 7)

肝臓,腎臓,肺および胸腺の各器官の重量および比体重値には,対照群と各投与群との間で統計学的有意差は認められなかった.

(3) 病理組織所見(Table 8)

対照群および 1000 mg/kg 投与群において実施した各器官の病理組織学検査の結果を以下に示す.いずれの所見も両群間に頻度および程度の差はみられなかった.

(胸腺)

対照群の6例および1000 mg/kg 投与群の7例に萎縮がみられた.

(肺)

対照群の1例および1000 mg/kg 投与群の4例に炎症巣がみられた.

(肝臓)

対照群および1000 mg/kg 投与群の各1例に門脈周囲性の肝細胞脂肪化が,対照群の4例および1000 mg/kg 投与群の1例に小肉芽腫がみられた.その他,対照群の2例に壊死巣が,1例に肉芽組織が認められた.

(腎臓)

対照群の4例および1000 mg/kg 投与群の6例に,好塩基性の尿細管が皮質に認められた.その他,1000 mg/kg 投与群の1例に腎盂の拡張が見られた.

(脾臓)

対照群および1000 mg/kg 投与群の両群各13例全例に褐色色素の沈着が,対照群の13例および1000 mg/kg 投与群の12例に髄外造血がみられた.

(その他)

脳,心臓,副腎,膀胱には異常は認められなかった.また,不妊,未交尾および早期全胚吸収例の雌の卵巣にも,異常は認められなかった.

供ダ舷H生毒性

1.生殖学検査所見

1) 交配成績(Table 9)

交尾率,受胎率,同居開始から交尾までに要した日数およびその間の発情期の回数には,対照群と各投与群との間に有意差は認められなかった.

2) 分娩および哺育状態

いずれの出産動物においても,分娩状態の異常は観察されなった.1000 mg/kg 投与群の1例では,哺育0日の生存児が1匹であり,翌日にこの産児は死亡したが,哺育状態の異常は観察されなかった.

3) 出産率および妊娠期間(Table 10)

対照群の1例に早期全胚死亡動物が認められたが,それ以外の動物はいずれも出産した.出産率および妊娠期間には対照群と各投与群との間に有意差は認められなかった.

4) 妊娠黄体数,着床数および着床率(Table 10)

妊娠動物の黄体数,着床数および着床率に,対照群と各投与群との間で有意差は認められなかった.

2.産児所見

1) 一般状態および生存性(Table 10)

いずれの群の産児にも一般状態の異常は観察されなかった.

分娩率,生児出産率,出生率,哺育4日の生存率および性比には,対照群と各投与群との間に有意差は認められなかった.

2) 体重(Table 10)

雌雄ともに哺育0および4日の体重には,対照群と各投与群との間に有意差は認められなかった.

3) 形態

出生日の生存産児に,外表奇形は観察されなかった.哺育4日の産児の剖検でも,対照群を含むいずれの投与群にも異常は観察されなかった.死亡児の剖検においても異常は観察されなかった.

考察

雌雄ともに,200 mg/kg 以上の投与により,異常呼吸音あるいは一過性の流涎が観察された.剖検では呼吸器系に異常はなく,肺の病理組織学検査にも形態学的な変化は認められなかったが,流涎および異常呼吸音は予備試験の 250 mg/kg 以上の投与量においても認められた.4-ヒドロキシ安息香酸はモルモットに対して弱い抗原性を示し,人に対しても軽度ではあるがアレルギー機序による発疹,蕁麻疹または気管支の痙縮を引き起こす事が報告されている16)ことから,本試験および予備試験で認められた一般状態の変化は,4-ヒドロキシ安息香酸の影響と考えられた.

雄動物では,摂餌量に投与の影響は認められなかったが,1000 mg/kg の投与量により,体重の増加抑制が認められた.同群では,血液生化学検査において,総蛋白質が減少し,A/G比が高値を示したことから,グロブリンの減少が示唆された.また,血液学検査の結果から,200 mg/kg 以上の投与量により,末梢血液中のリンパ球数の減少傾向が認められた.リンパ球およびグロブリンは,免疫応答を担う重要な細胞であるが,剖検および病理組織学検査では,免疫系に関与する器官である胸腺,脾臓等に異常は認められなかった.しかし,4-ヒドロキシ安息香酸がモルモットに対して抗原性を有し,人においても臨床報告があること16),投与前後に関係なく観察された異常呼吸音を考慮すると,本試験で認められたグロブリン量およびリンパ球数の減少は,4-ヒドロキシ安息香酸の影響と考えられた.また,1000 mg/kg の投与量により,GOTおよびGPTの上昇が認められ,肝機能障害の可能性が示唆された.剖検および病理組織学検査の結果では,肝臓に形態異常は認められなかった.しかし,ラット肝ホモジネートを試料とした実験17)では,メバロン酸の代謝に関与する酵素の活性を抑制させ,コレステロールの合成を阻害することが報告されていることから,4-ヒドロキシ安息香酸は肝機能障害を惹起させる可能性が示唆され,本試験で認められた酵素活性の上昇は,4-ヒドロキシ安息香酸の影響と考えられた.40 mg/kg 以上の投与群で,ブトウ糖の減少が認められたが,40 mg/kg 投与群における変化は僅かであり,他の血液生化学検査項目に影響は認められていないことから,毒性学的に意義のない変化と判断した.しかし,200 mg/kg 以上の投与量により認められたブトウ糖の減少については,一般状態の変化,体重の増加抑制等が認められていることから,投与による変化と考えられた.また,200 mg/kg 以上の投与により無機リンが,200 mg/kg の投与量によりカルシウムが増加したが,いずれの変動も生理的変動の範囲内であり,さらに,カルシウムの増加に明らかな無機リンの増加およびアルカリフォスファターゼ活性の上昇を伴っていないことから,本試験で認められた無機リンおよびカルシウムの変化は,4-ヒドロキシ安息香酸の影響ではないと判断した.器官重量については,いずれの測定器官においても変化は認められなかった.

雌動物では,体重,摂餌量,器官重量,剖検および病理組織所見に,影響は認められなかった.

生殖発生毒性学検査では,200 mg/kg 投与群に交尾しなかった動物が,40および200 mg/kg 投与群に交尾はしたが妊娠しなかった動物が少数例認められた.交尾しなかった雄動物では,前立腺が腫大しており,交尾相手雌が不妊であった雄動物4例中1例に精巣および精巣上体の萎縮が,他の1例に前立腺の腫大が認められた.しかし,1000 mg/kg 投与群では雄動物の全例が交尾し,交尾率および妊娠率ならびに生殖器に影響は認められなかったことから,上記の変化は4-ヒドロキシ安息香酸の影響ではないと考えられる.

さらに,母動物の妊娠維持,分娩ならびに哺育,産児の生存性,発育および形態にも影響は認められなかった.

これらのことから本試験条件下では,4-ヒドロキシ安息香酸の反復投与毒性に関する無影響量は,雌雄ともに,40 mg/kg/day,生殖発生毒性に関する無影響量は,親動物に対しては雌雄ともに1000 mg/kg/day,新生児に対しても 1000 mg/kg/day と結論される.

文献

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連絡先:
試験責任者 長尾哲二
試験担当者 桑形麻樹子,加藤博康,宮原 敬
(財)食品薬品安全センター秦野研究所
〒257 神奈川県秦野市落合 729-5
Tel 0463-82-4751 Fax 0463-82-9627

Correspondence:
Authors: Tetsuji Nagao(Study Derector)
Makiko Kuwagata,Hiroyasu Katoh,Takashi Miyahara
Hatano Research Institute, Food and Drug Safety Center
729-5 Ochiai,Hadano,Kanagawa,257,Japan
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