(トリフルオロメチル)ベンゼンのラットを用いる
反復経口投与毒性・生殖発生毒性併合試験

Combined Repeat Dose and Reproductive/Developmental Toxicity Screening
Test of Trifluoromethylbenzene by Oral Administration in Rats

要 約

(トリフルオロメチル)ベンゼンは,化学産業の分野で染料あるいは高重合体の原料として使用されている化学物質である.本被験物質の経口投与によるLD50値は,マウスで10000 mg/kg,ラットで15000 mg/kgであることが報告されているが1),反復投与毒性あるいは生殖発生毒性についての報告は見当たらない.今回,OECD既存化学物質安全性点検に係わる毒性試験の一環として,(トリフルオロメチル)ベンゼンの,20,100および500 mg/kgをCrj:CD(SD系)ラットの雌雄(各12匹/群)に交配前14日間,雄ではその後交配期間を含む35日間,雌では交配期間,妊娠期間および分娩後3日まで経口投与し,親動物に対する反復投与毒性および生殖能力ならびに次世代児の発生・発育に及ぼす影響について検討した.

1.反復投与毒性

一般状態,体重推移,摂餌量および血液学検査では,被験物質投与の影響はみられなかった.血液生化学検査では, 500 mg/kg群に総蛋白質,アルブミン,総コレステロール,トリグリセライドおよびリン脂質の増加ならびにグルコースの減少が認められた.剖検では,500 mg/kg群の雄で腎臓の肥大および退色がみられ,器官重量では雄で100 mg/kg以上の群に肝臓および腎臓重量の増加,雌では500 mg/kg群に肝臓重量の増加が認められた.病理組織学検査では,100 mg/kg以上の群の雌雄で小葉中心性の肝細胞の肥大がみられ,雄で近位尿細管上皮の硝子滴の出現,壊死および好塩基性変化ならびに近位尿細管の拡張が認められた.

2.生殖発生毒性

親動物の生殖に関しては,性周期,雌雄の交尾率,授 (受)胎率,黄体数,着床数,妊娠期間,出産率および分娩状態に被験物質投与の影響は認められなかった.死産率,出生児数,出生率および出生児の性比に被験物質投与の影響はみられず,外表異常の発生もなかった.出生児体重の増加抑制が20 mg/kg以上の投与群でみられたが,剖検では被験物質投与の影響は認められなかった.

以上のことから,本試験条件下における反復投与毒性に関する無影響量は雌雄とも 20 mg/kg,生殖発生毒性に関する無影響量は親動物では500 mg/kg,出生児では20 mg/kg未満と推察された.

方 法

1.被験物質および投与液の調製

(トリフルオロメチル)ベンゼン(純度99.7%,Lot No.KCM2054,和光純薬工業(株)提供)は,エタノールおよびエーテルに易溶,水に不溶の無色透明の液体である.入手後の被験物質は室温で保管し,投与期間終了後に供給源にて分析を行って試験期間中安定であったことを確認した.媒体にはコーンオイル(キシダ化学(株),Lot L51257F)を使用し,これに被験物質を0.4,2および10 w/v%濃度になるように懸濁して投与液を調製した.調製した投与液は冷蔵保存した.なお,投与開始週に,投与液の濃度を測定し,設定値の±10%以内にあることを確認した.また,投与開始前に,本調製法による0.1,1および10 w/v%懸濁液が低温遮光下で調製後8日間安定であることを確認した.

2.使用動物および飼育条件

9週齢のSprague-Dawley系ラット(Crj:CD,日本チャールス・リバー(株))を雌雄各55匹購入し,7日間の検疫馴化を行ったのち,雌雄各48匹を選んで10週齢で試験に使用した.投与開始時の体重は雄で319.7〜391.2 g,雌で224.7〜265.0 gであった.動物は温度24±2℃,湿度55±10%,照明12時間(午前7時〜午後7時)および換気回数13回/時に設定したバリアーシステム飼育室でステンレススチール製ハンガーケージに,投与期間中は1匹(雌雄別),交配期間中は2匹(雌雄各1匹),妊娠および哺育期間中は床敷(ホワイトフレーク,日本チャールス・リバー(株))を入れたポリカーボネイト製ケージに1匹ずつ(哺育期間中は哺育児を含む)収容し,飼育した.飼料は,固型飼料(MF,オリエンタル酵母工業(株))を,飲水は次亜塩素酸ナトリウムを添加(約2 ppm)した水をそれぞれ自由に摂取させた.

3.投与量,投与方法,試験群構成および群分け

投与量は,予備試験の結果より設定した.すなわち,本被験物質の 0,100,500および1000 mg/kgを2週間反復投与した結果,500 mg/kg以上の群でGPT,総コレステロールおよびリン脂質の増加または増加傾向ならびに肝臓重量の増加がみられ,100 mg/kg群にもその傾向が窺われた.したがって,本試験では高用量を500 mg/kgとし,以下100および 20 mg/kgを設定した.

投与経路は経口とし,雄では交配前 14日間およびその後交配期間を含む35日間の合計49日間,雌では交配前14日間,交配期間(最長14日間),妊娠期間および哺育3日までの期間,1日1回,胃管を用いて投与した.投与容量は5 ml/kgとし,雄ならびに交配前および交配期間中の雌については最新の体重を基に,交尾成立後の雌については妊娠0日の体重を基にそれぞれ算出した.

試験群は,上記 3用量にコーンオイルのみを投与する対照を加え計4群とした.1群当たりの動物数は雌雄各12匹とし,群分けは,投与開始前日の体重を基に層別連続無作為化法で行った。

4.反復投与毒性に関する観察・検査

1)一般状態

雌雄とも,全例について一般状態の観察および死亡の有無を毎日観察した.

2)体重および摂餌量

体重については,雄は投与期間を通じて週 2回測定した.雌は,交配前の投与期間および交配期間中は週2回,妊娠期間中は妊娠0,4,7,10,14,17および21日,哺育期間中は哺育0(分娩日)および4日に測定した.摂餌量については,交配期間を除き体重測定日に測定したが,妊娠および哺育0日は測定せず,翌日測定した.

3)血液学検査

雄全例について,投与期間終了後に, 18時間以上絶食させたのち,ペントバルビタール・ナトリウム麻酔下に開腹し,腹部大静脈から採血を行った.採取した血液は EDTA-2K処理(EDTA-2K加血液)して多項目自動血球計数装置(Sysmex CC-780,東亜医用電子(株))を用いて,白血球数(電気抵抗検出方式),赤血球数(電気抵抗検出方式),ヘモグロビン量(オキシヘモグロビン法),ヘマトクリット値(血球パルス波高値検出方式)および血小板数(電気抵抗検出方式)を測定し,これらを基に平均赤血球容積(MCV),平均赤血球血色素量(MCH)および平均赤血球血色素濃度(MCHC)を算出した.

4)血液生化学検査

血液学検査に引き続き採取した血液を室温で約 60分間放置後,3000回転/分で10分間遠心分離し,得られた血清を用いて自動分析装置(736-10,(株)日立製作所)により,総蛋白質(ビウレット法),アルブミン(BCG法),A/G比(総蛋白質およびアルブミンより算出),総ビリルビン(アルカリアゾビリルビン法),GOT(Karmen法),GPT(Wrblewski-La Due法),γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(L-γ-グルタミル-DBHA基質法),アルカリ性フォスファターゼ(p-ニトロフェニルリン酸基質法),総コレステロール(COD-DAOS法),トリグリセライド(GPO-DAOS法・グリセリン消去法),リン脂質(酵素法・DAOS発色法),グルコース(グルコキナーゼ・G-6-PDH法),尿素窒素(ウレアーゼ-GlDH法),クレアチニン(Jaff法),無機リン(モリブデン酸直接法)およびカルシウム(OCPC法)を測定した.また,電解質分析装置(PVA-αIII,(株)アナリティカル・インスツルメンツ)によりナトリウム(電極法),カリウム(電極法)およびクロール(電量滴定法)を測定した.

5)病理学検査

雄では投与期間終了後の採血を行ったのちに,雌では哺育 4日にエーテル麻酔下で外側腸骨動脈を切断して放血死させ,解剖して諸器官および組織の肉眼的観察を行い,雌について黄体数および着床痕数を調べた.剖検後,脳,心臓,肺(気管支を含む),胸腺,肝臓,脾臓,腎臓,副腎,精巣,精巣上体および卵巣を摘出して器官重量(絶対重量)を測定するとともに,剖検日の体重を基に体重比器官重量(相対重量)を算出した.重量測定器官に加え,肉眼的異常部位を採取して10%中性緩衝ホルマリン溶液(精巣および精巣上体はブアン液で前固定)で固定した.対照群および500 mg/kg群の脳,心臓,肺(気管支を含む),胸腺,肝臓,脾臓,腎臓,副腎,精巣,精巣上体および卵巣については,常法に従ってパラフィン切片を作製し,ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を施し,光学顕微鏡下で観察した.さらに,肝臓,胸腺および腎臓については,被験物質投与に関連したと考えられる変化がみられたため,100 mg/kg以下の投与群のこれらの器官についても同様の検査を行った.また,一部の動物で肝臓および腎臓の脂肪染色を実施した.なお,肉眼的異常部位,交尾が確認されなかった雄の精巣,精巣上体および雌の卵巣については,すべて病理組織学検査を行った.

5.生殖発生毒性に関する観察・検査

1)生殖機能

雌について交配開始日の 2週間前(投与開始日)から交尾確認日まで,毎日午前の一定時間に膣垢を採取し,性周期検査を行った.

交配は雌雄 (12週齢)1対1で一晩同居させる方法で行い,翌朝膣垢中の精子または膣栓が確認されたものを交尾成立とし,その日を妊娠0日とした.また,交配は同一群内で行い,交配期間は最長2週間とした.なお,交配相手が死亡した雌については,同群内の交尾が確認された雄と同居させた.交配期間終了後,交尾所要日数,交尾率[(交尾動物数/同居動物数)×100]および授(受)胎率[(受胎動物数/交尾動物数)×100]を算出した.

2)分娩および哺育状態ならびに新生児の観察

交尾が確認された雌は全例を自然分娩させ,分娩徴候を含め分娩状態および授乳,営巣などの哺育状態を観察するとともに,妊娠期間,出産率[ (生児出産雌数/妊娠雌数)×100]を算出した.午後12時の時点で分娩が終了している動物を当該日分娩とし,その日を哺育0日とした。出産児については,分娩時に出産児数,出生児数,死産児数,出生児の性別および外表異常を検査した.出生児については,出生日および哺育4日に体重を個体ごとに測定するとともに出生率[(出生児数/着床痕数)×100]および4日生存率[(生後4日の生児数/出生児数)×100]を算出した.生後4日に出生児の全例をエーテル麻酔下で放血致死させ,器官・組織の肉眼的観察を行った.

6.統計処理

体重,摂餌量,血液学検査,血液生化学検査,交尾所要日数,性周期検査値 (発情回数,発情周期),器官重量,妊娠期間,黄体数,着床痕数,総出産児数および出生児数については各群ごとに平均値と標準偏差を求め,Bartlett法により分散の均一性を検定した.分散が均一な場合は一元配置型の分散分析を行い,ここで群間に有意差が認められ,かつ,各群の例数が同じ場合はDunnett法により,異なる場合はScheff法により対照群と各群の一対比較検定を行った.分散が均一でない場合はKruskal-Wallisによって順位検定を行い,群間に有意差が認められ,かつ,各群の例数が同一の場合はDunnett型の,異なる場合はScheff型の一対比較検定を行った.上記分散分析あるいはKruskal-Wallis法で群間に有意差を認めない場合は各群の多重比較は行わなかった.また交尾率,受(授)胎率,出産率および出生児の性比についてはχ^2検定により,死産率,出生率および4日生存率についてはWilcoxonの順位和検定により対照群と各投与群間の比較を行った.いずれの場合も有意水準を5%とした.なお,出生児に関する測定値については一腹単位で処理した.

結 果

1.反復投与毒性

1)一般状態

各投与群の雌雄とも投与期間を通して被験物質投与による一般状態の変化は認められなかった.なお,投与過誤により 500 mg/kg群の雌雄各1例が死亡した.

2)体重(Fig.1)および摂餌量

各投与群の雌雄とも投与期間を通して体重および摂餌量に対照群との間の差は認められなかった.

3)血液学検査(Table 1)

500 mg/kg群でMCHにごく軽度の減少がみられたが,他の赤血球系パラメータに変動はみられず,毒性学的意義はないものと考えられた.

4)血液生化学検査(Table 2)

GOTの低下が100および500 mg/kg群で認められた.さらに,500 mg/kg群で総蛋白質,アルブミン,総コレステロール,トリグリセライド,リン脂質およびカルシウムの増加ならびにグルコースの減少が認められた.

5)器官重量(Table 3)

雄では, 500 mg/kg群で肝臓および腎臓の絶対および相対重量の増加がみられ,100 mg/kg群においても肝臓の絶対重量の増加傾向および相対重量の増加,腎臓の絶対および相対重量の増加傾向が認められた.

雌では, 500 mg/kg群で肝臓の絶対および相対重量の増加が認められた.

6)剖検所見

投与期間終了後の雄の剖検では, 500 mg/kg群で腎臓の肥大が2例,退色が3例,小陥凹が1例に認められた.そのほか,対照群の1例に肺の灰白色化がみられた.

哺育 4日の雌の剖検では,脾臓と周囲脂肪組織との癒着が対照群の1例,肝臓の横隔膜面結節が20 mg/kg群の1例に認められた.

7)病理組織学検査(Table 4)

雄では,小葉中心性の肝細胞の肥大が 500 mg/kg群の11例,100 mg/kg群の10例に認められた.また,腎臓の近位尿細管上皮の硝子滴の出現および上皮の壊死が500 mg/kg群の11例,100 mg/kg群の12例,近位尿細管の拡張が500 mg/kg群の9例,100 mg/kg群の1例,近位尿細管上皮の好塩基性変化が500 mg/kg群の6例,100 mg/kg群の2例,腎臓の瘢痕が500 mg/kg群の1例に認められた.そのほか,偶発的変化として対照群では雄の1例に肺のマクロファージによる肺胞中隔あるいはリンパ球による血管周囲への細胞浸潤および動脈中膜の肥厚がみられた.

雌では,小葉中心性の肝細胞の肥大が 500 mg/kg群の10例,100 mg/kg群の3例,胸腺皮質の萎縮が500 mg/kg群の2例に認められた.そのほか,偶発的変化として対照群および500 mg/kg群の各1例に脾臓の髄外造血の亢進,対照群の1例に脾臓と周囲脂肪組織との癒着が認められた.また,対照群の1例に肺のマクロファージによる肺胞中隔あるいはリンパ球による血管周囲への細胞浸潤および動脈中膜の肥厚がみられた.

500 mg/kg群の雌の死亡例では,生存例と同様の小葉中心性の肝細胞の肥大がみられたほか,腎臓の間質の毛細血管,小静脈および動脈ならびに糸球体毛細血管の血栓がみられ,さらに胸腺皮質のリンパ球の壊死および前胃の潰瘍が認められた.

100 mg/kg群の全児死亡例では,肝小葉辺縁部から中間帯にかけての脂肪化,近位尿細管上皮の脂肪化および壊死が認められた.

2.生殖発生毒性

1)生殖機能(Table 5)

性周期検査では各投与群とも発情回数および発情周期に対照群との間の差は認められなかった.

生殖能力検査では 100 mg/kg群の1組を除いてすべてに交尾がみられ,交尾確認例の全例に妊娠が認められた.したがって,交尾率は,対照群,20,100および500 mg/kg群でそれぞれ100,100,91.67および100%,受胎率はいずれも100%の成績を示し,交尾所要日数においても対照群と各投与群間の差は認められなかった.なお,100 mg/kg群の未交尾例では,雌雄とも生殖器の剖検および病理組織学検査に変化はみられず,授(受)胎能の欠如を示唆する所見は認められなかった.

2)分娩および哺育ならびに新生児の観察(Table 6)

分娩時の検査では, 500 mg/kg群で1母動物が妊娠23日の分娩後に死亡した.本例では,出産児(死産児4匹,生存児12匹)の発育には特に変化はみられなかったが,血液による下腹部の汚れが顕著にみられ,出産児の羊膜除去,胎盤処理ならびに児の回集などは不充分であった.剖検では,胸水貯留,肺の暗赤色化,気管に泡沫状水様液貯留および前胃粘膜の白色点点在が認められた.

20 mg/kg群の黄体数および100 mg/kg群の着床痕数にそれぞれ増加が認められたが,500 mg/kg群の黄体数および着床痕数に変化は認められなかった.

各投与群とも妊娠期間,総出産児数,出産率,死産率,出生児数,出生率および出生児の性比に対照群との間に差は認められなかった.また,外表異常児は,各投与群とも 1例も認められなかった.

出生児の体重では,各投与群とも出生日および生後 4日ともに減少が認められた.

哺育期の検査では,児の回集,授乳などの哺育行動の低下が 100 mg/kg群の1母動物にみられ,分娩後2日までに出生児の全例が死亡した.

4日生存率では,500 mg/kg群に減少が認められた.なお,100 mg/kg群にも減少傾向が認められたが,この変化は当該群の1母動物に全児死亡がみられたことによるものであった.

出生児の剖検では,肝臓内側左葉の黄白色化が 100 mg/kg群の1例に認められたのみであった.

考 察

1.反復投与毒性

肝臓および腎臓で被験物質投与に起因した変化が認められた.肝臓では,重量の増加が雄の 100 mg/kg以上の投与群および雌の500 mg/kg群に認められ,小葉中心性の肝細胞の肥大が雌雄の100 mg/kg以上の投与群でみられた.また,腎臓では,重量の増加と近位尿細管上皮における硝子滴の出現,壊死,好塩基性変化および近位尿細管の拡張が雄の100 mg/kg以上の投与群に認められた.本被験物質とはハロゲン基が異なるトリクロロトルエンでも肝臓および腎臓に対する影響が報告されており2),これらの類似化合物では肝臓および腎臓が標的器官になる可能性が示唆された.雄の血液生化学検査では,500 mg/kg群で総蛋白質,アルブミン,総コレステロール,トリグリセライドおよびリン脂質の増加ならびにグルコースの減少が認められたが,これらも本被験物質の肝臓に対する影響に関連した変化のように考えられた.また,当該群ではカルシウムの増加も認められたが,これはアルブミンの増加に伴った変化と思われた.しかし,被験物質投与に起因した症状の発現や,体重および摂餌量に対する影響はいずれの投与群にも認められず,全身状態の悪化を来すような毒性には至らなかったと考えられた.なお,腎臓では雄の500 mg/kg群の1例に肉眼的に小陥凹がみられ,組織学的には瘢痕が認められたが,本変化は正常ラットでも時折みられる変化であり,発生例数も少ないことから被験物質投与に起因したものとは考え難かった.また,胸腺では雌の500 mg/kg群の2例に組織学的に萎縮がみられたが,変化の程度は軽微で発生例数も少ないことおよび雄では胸腺をはじめリンパ系への作用を示唆する変化は認められなかったことから,被験物質の直接的な影響よりは分娩に伴ったストレス性の変化である可能性が高いと思われた.

以上のことから,本試験条件下における反復投与毒性に関する無影響量は雌雄とも 20 mg/kgと推定された.

2.生殖発生毒性

親動物の生殖機能に関しては,性周期,雌雄の交尾率および授 (受)胎率に被験物質投与の影響は認められなかった.

分娩時の観察では, 500 mg/kg群の1母動物が妊娠23日の分娩の終了後に死亡した.本例では妊娠期間中の一般状態ならびに出産児の発育には特に変化はみられなかったが,分娩時に顕著な出血がみられ,出産児の羊膜除去,胎盤処理ならびに児の回集などの母性行動が正常に行われた形跡は認められなかったことから,その死因については分娩に伴う消耗性の変化と考えられた.しかしながら,この様な分娩異常は当該群のほかの母動物には観察されず,出現例数も少ないことから被験物質投与との直接的な関連性はないように思われた.当該群では妊娠期間,総出産児数,出産率,死産率,出生児数,出生率および出生児の性比に被験物質投与の影響は認められなかった.一方,20 mg/kg以上の群で出生日に体重減少が認められ,本被験物質の胎生期の発育に対する影響が示唆されたが,胚致死作用を窺わせる出生児数の減少はみられておらず,外表異常も観察されなかった.

哺育期の観察においても,出生児の継続した体重の増加抑制がみられ, 500 mg/kg群に4日生存率の低下がごく軽度に認められた.体重の増加抑制は,胎生期の発育抑制を反映しているものと考えられ,その内,特に低い体重を示した児が生存できなかったものと考えられた.そのほか,哺育不良による全児死亡が100 mg/kg群の1母動物に認められたが,500 mg/kg群に全児死亡は観察されなかったことから特に問題視する変化とは考え難かった.

以上のことから,本試験条件下における生殖発生毒性に関する無影響量は雄および雌の生殖に対しては 500 mg/kg,児の発生に対しては20 mg/kg未満と推察された.

文 献

1)D. V. Sweet, "Registry of Toxic Effects of Chemical Substances", Vol. 5, U.S. Government printing office, Washington, D C, 1987, pp.1985-1986.
2)I. Chu, et al., J. Environ. Sci. Health, B19, 183 (1984).

連絡先
試験責任者:渕上勝野
試験担当者:大塚辰雄,和泉宏幸,永井憲児,木村栄介
(株)パナファーム・ラボラトリーズ 安全性研究所
〒869-04 熊本県宇土市栗崎町1285
Tel 0964-23-5111Fax 0964-23-2282

Correspondence
Authors:Katsuya Fuchigami(Study director),
Tatsuo Otsuka, Hiroyuki Izumi,
Kenji Nagai, Eisuke Kimura
Safety Assessment Laboratory, Panapharm Laboratories Co., Ltd.
1285 Kurisaki-machi, Uto-shi, Kumamoto, 869-04, Japan
Tel +81-964-23-5111Fax +81-964-23-2282