2-イミダゾリジンチオンのラットを用いる28日間反復経口投与毒性試験

Twenty-eight-day Repeated Dose Oral Toxicity Test of 2-Imidazolidinethione in Rats

要約

 2-イミダゾリジンチオンを0,1,6および30 mg/kgの用量で雌雄のCrj:CD(SD)IGSラットに28日間反復経口投与し,その毒性について検討した.0 mg/kg(対照群)および30 mg/kg群については14日間回復群を設けた.

 被験物質投与に起因すると思われる変化が一般状態,体重,摂餌量,血液生化学的検査,器官重量,病理解剖検査,病理組織学検査に認められた.

 一般状態では,全身性の被毛の異常(光沢の消失)が30 mg/kg群の雌雄で認められた.回復期間中には,一部の動物で被毛の異常が認められたが,その程度は軽減していた.

 体重および摂餌量では,30 mg/kg群の雌雄で低値が認められた.回復期間中には,30 mg/kg群の雄で低値が認められたが,回復期間最終週には回復した.

 血液生化学検査では,総コレステロールの高値,ALPおよび無機リンの低値が30 mg/kg群の雄,クロールの高値が30 mg/kg群の雌雄で認められた.回復期間終了時には,これらの変化は回復した.

 器官重量測定では,肝臓相対重量の高値が30 mg/kg群の雌,甲状腺絶対重量および相対重量の高値が30 mg/kg群の雌雄,胸腺絶対重量および相対重量の低値が6および30 mg/kg群の雌で認められた.回復期間終了時には,これらの変化は回復あるいは軽減した.

 病理解剖検査では,甲状腺の腫大が6 mg/kg群の雄および30 mg/kg群の雌雄で認められた.これらの変化は,回復期間終了時には回復あるいは軽減した.

 病理組織学検査では,肝臓の小葉中心性肝細胞肥大,下垂体の塩基好性細胞の肥大および皮脂腺の萎縮が30 mg/kg群の雌雄で認められた.また,甲状腺のコロイドの減少およびびまん性の濾胞上皮細胞の肥大が6 mg/kg群の雄および30 mg/kg群の雌雄に認められた.回復期間終了時には,下垂体の塩基好性細胞の肥大が30 mg/kg群の雄で認められたが,その程度は軽減していた.また,その他の変化は回復した.

 行動検査,血液学検査および尿検査では被験物質投与に起因すると考えられる変化は認められなかった.

 以上,被験物質投与に起因すると考えられる変化が,雌雄とも6 mg/kg以上の群で認められたことから,本試験条件下における2-イミダゾリジンチオンの無影響量(NOEL)は,雌雄とも1 mg/kg/dayと判断した.

方法

1. 被験物質

 2-イミダゾリジンチオン(川口化学工業,ロット番号: 167,純度:99.89 %)を使用した.被験物質は白色粉体である.被験物質原体は冷蔵,暗所,密封条件下で保存し,試験に供した.試験に使用したロットは赤外吸収スペクトルを比較して試験期間中安定であることを確認した.

 投与液の調製および分析は以下のように実施した.被験物質を0.5 %CMC-Na水溶液(和光純薬工業)に懸濁し, 0.1,0.6および3.0 mg/mLの投与液を調製した.調製頻度は週1回とし,投与に供するまで7日間を限度に冷蔵・暗所条件下で保存した.投与液中の被験物質の均一性および冷蔵・遮光保存条件下での8日間の安定性を0.4および100 mg/mLの濃度でHPLC法により確認した.また,同条件下での10日間の安定性を0.1 mg/mLの濃度で確認した.初回調製時に30, 6および1 mg/kg群の投与液をHPLC法により濃度分析を行い,設定濃度の範囲内であることを確認した.

2. 試験動物および飼育条件

 日本チャールス・リバー厚木生産所からCrj:CD(SD) IGSラット(SPF)雌雄各33匹を入手し,そのうち雌雄各30匹を使用した.

 動物入荷後,雌雄とも5日間の検疫・馴化期間後,投与開始日まで馴化した.投与開始前々日に体重層別無作為抽出法によって群分けした.投与開始時の週齢は5週齢,体重範囲は雄が140〜157 g,雌が117〜137 gであった.

 検疫・馴化期間を含む全飼育期間を通じて,温度19.0〜25.0℃(許容範囲),相対湿度35.0〜75.0 %(許容範囲),換気6〜20回/時(オールフレッシュエアー供給),照明

 12時間/日(7:00-19:00)に自動調節した飼育室を使用した.

 動物を滅菌済のステンレス製つり下げ型金網ケージ(トキワ科学器械)に群分け前は1ケージあたり2匹以下(同性),群分け後は個別に収容し飼育した.

 動物には,放射線滅菌した実験動物用固型飼料(CR-LPF,オリエンタル酵母工業)と,5 μmのフィルター濾過後,紫外線照射した水道水をそれぞれ自由に摂取させた.

3. 投与量および投与方法

 投与経路は,化審法ガイドラインに準じて経口投与とした.投与期間は28日間とし,ディスポーザブルシリンジに装着したテフロン製胃ゾンデを用いて1日1回,午前中に強制経口投与した.7日間反復投与予備試験(用量:0,100,500および1000 mg/kg,動物数:各群雌雄5匹)の結果,以下の変化が認められた.

 1000 mg/kg群の雄で第3日に1例,第4日に3例が死亡し,第4日に1例を瀕死期殺した.また,同群雌では第3日に1例,第4日に4例が死亡した.

 500 mg/kg群では第4日に雌雄各1例が死亡し,雌雄各4例を瀕死期殺した.

 100 mg/kg群の雌雄で,全身の被毛状態の異常,顔面部,胸部および腹部の被毛の汚れ,流涎,歩行異常,体重および摂餌量の低値,網赤血球数,白血球数および白血球百分率好酸球比の低値,尿素窒素,総蛋白,アルブミンおよびクロールの高値,トリグリセライドの低値,胸腺,肝臓,脾臓および腎臓絶対重量の低値,脳および副腎相対重量の高値,脾臓の小型化,胸腺の小型化,胃の腺胃部の出血,空腸および回腸の異常内容物が認められた.また,100 mg/kg群の雄では,口周囲の汚れ,平均赤血球容積および白血球百分率大型非染色球比の低値,平均赤血球血色素濃度の高値,g-GTの高値,無機リンの低値,精巣相対重量の高値,下顎腺の腫大および肝臓の小型化が認められた.100 mg/kg群の雌では,自発運動の低下,体温低下および流涙,ALPの低値,卵巣絶対重量,胸腺および脾臓相対重量の低値,腎臓相対重量の高値,胃の水腫,卵巣の小型化が認められた.

 以上のように雌雄とも100,500および1000 mg/kgで被験物質に起因する変化が認められた.そのため,再度7日間反復投与予備試験(用量:0,4,15,50 mg/kg,動物数:各群雌雄5匹)を行った.

 その結果,50 mg/kg群の雌雄で,全身性の被毛状態の異常(疎毛),トリグリセライドの低値,肝臓相対重量の高値,甲状腺の腫大が認められた.雄では体重および摂餌量の低値,ヘモグロビン濃度,ヘマトクリットおよび網赤血球数の低値,尿素窒素,総コレステロール,総蛋白,アルブミンおよびクロールの高値,ALPの低値,脾臓絶対および相対重量の低値,脳および精巣相対重量の高値が認められた.雌では,無機リンの低値,胸腺および脾臓の小型化が認められた.

 15 mg/kg群では雄で肝臓相対重量の高値,甲状腺の腫大が認められた.

 4 mg/kg群では異常は認められなかった.

 以上のことから,本試験における最高用量を30 mg/kgとし,以下公比約5で6および1 mg/kgの3用量群を設定した.また,媒体(0.5 %CMC-Na水溶液)のみを投与する対照群を設けた.投与液量は10 mL/kgとし,至近日に測定した体重に基づいて各動物の投与液量を算出した.

 対照群と30 mg/kg群の雌雄各5匹に,投与期間終了後14日間の回復期間を設けた.

4. 観察および検査方法

 下記の項目を検査した.なお,日と週の表記は投与開始日を第1日,第1〜7日を第1週とした.また,第29日以降を回復期間とした.

1) 一般状態,体重および摂餌量

 全例について一般状態を毎日(投与期間中は投与前および投与後約30分の1日2回,その他の期間は1日1回)観察した.体重は第1,8,15,22,28,29,36,42および43日に測定した.ただし,第29日および43日の絶食後体重は体重データとしては利用せず,それぞれ解剖時の器官相対重量の算出のみに用いた.摂餌量は第1〜8,8〜15,15〜22,22〜25,29〜36および36〜39日の測定日間における1日平均摂餌量を算出した.

2) 行動検査

 詳細な症状観察(ホームケージ内,ハンドリング時,オープンフィールドでの観察)は,投与開始前日に1回,投与期間中に毎週1回,いずれも午後に行った.機能検査(刺激に対する反応性,握力)および自発運動量の測定は,第4週に1回午後に実施した.握力はデジタルフォースゲージ(イマダ,DPS-5),自発運動量はSUPERMEX(室町機械)を用いて測定した.投与期間中の検査で被験物質の影響が疑われる変化が認められなかったため,回復期間中の検査は実施しなかった.

3) 血液学検査

 投与および回復期間終了時の計画解剖日(第29および43日)に,全対象動物を前日夕方より絶食し,チオペンタールナトリウムを腹腔内投与して麻酔し,後大静脈より採血した.採取した血液を用いて以下に示す項目を測定した.

 赤血球数(球状化処理二次元レーザーFCM法),ヘモグロビン濃度(シアンメトヘモグロビン法),ヘマトクリット値(球状化処理二次元レーザーFCM法),網赤血球数(RNA染色によるレーザーFCM法),血小板数(球状化処理二次元レーザーFCM法),白血球数(酸性界面活性剤によるレーザーFCM法)を多項目自動血球分析装置(ADVIA120:バイエルメディカル)を用いて測定した.さらに平均赤血球容積(MCV),平均赤血球血色素量(MCH),平均赤血球血色素濃度(MCHC)を算出した.白血球百分率(ペルオキシダーゼ染色によるFCM法および酸性界面活性剤によるレーザーFCM法)を自動血球分析装置(ADVIA120:バイエルメディカル)を用いて測定した.プロトロンビン時間(PT,光散乱検出方式),活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT,光散乱検出方式)を自動血液凝固測定装置(CA-510:シスメックス)で測定した.

 凝固阻止剤としてプロトロンビン時間および活性化部分トロンボプラスチン時間の測定には,3.2w/v%クエン酸三ナトリウム水溶液を,その他の項目の測定には,EDTA-2 Kを用いた.

4) 血液生化学検査

 採取した血液の一部を室温で約30分間以上静置後遠心分離し,得られた血清を用いて下記の項目を測定した.

 GOT(UV-rate法(JSCC改良法)),GPT(UV-rate法(JSCC改良法)),g-GT(g-グルタミル-p-ニトロアニリド基質法(SSCC改良法)),ALP(p-ニトロフェニルリン酸基質法(JSCC改良法)),総ビリルビン(酵素法(BOD法)),尿素窒素(酵素-UV法(Urease-LEDH法)),クレアチニン(酵素法(Creatininase-POD法)),グルコース(酵素法(HK-G6PDH法)),総コレステロール(酵素法(CO-HDAOS法)),トリグリセライド(酵素法(GPO-HDAOS法,グリセリン消去法)),総蛋白(Biuret法),アルブミン(BCG法),A/G比(総蛋白およびアルブミンより算出),カルシウム(OCPC法),無機リン(酵素法(PNP-XOD-POD法)),ナトリウム(イオン選択電極法),カリウム(イオン選択電極法),クロール(イオン選択電極法)を自動生化学分析装置(TBA-200FR:東芝)により測定した.

5) 尿検査

 第25日に各群の雌雄各5匹の新鮮尿を採取して,pH,蛋白,グルコース,ケトン体,ビリルビン,潜血,ウロビリノーゲン(試験紙法;マルチスティックス,バイエルメディカル)を自動尿分析器(クリニテック100,バイエルメディカル)を用いて測定した.その結果,被験物質投与の影響を疑わせる変化が認められなかったため,その他の検査項目(尿沈渣,尿定量検査)および回復期間中(第39および40日)の検査は実施しなかった.

6) 病理学検査

 第29および43日に計画解剖した動物について,採血後に腹大動脈を切断して放血,安楽死させ剖検した.全動物の下記の器官重量を測定した.また,解剖日の体重に基づいて相対重量(対体重比)を算出した.

 [肝臓,腎臓,副腎,精巣,精巣上体,卵巣,胸腺,甲状腺(ホルマリンで固定後測定),脾臓,脳,心臓]

 全動物の下記の器官・組織を採取し,10vol%中性リン酸緩衝ホルマリン液で固定し,保存した.ただし,精巣および精巣上体はブアン液(Bouin液)で,眼球とハーダー腺はダビドソン液(Davidson液)でそれぞれ固定後,10vol%中性リン酸緩衝ホルマリン液で保存した.

 [脳(大脳,小脳および橋を含む部位),脊髄,胃,十二指腸,空腸,回腸(パイエル板を含む),盲腸,結腸,直腸,肝臓,腎臓,副腎,脾臓,心臓,胸腺,眼球・ハーダー腺,下垂体,甲状腺(上皮小体含む),気管および肺,精巣,卵巣,精巣上体,前立腺,子宮,腟,膀胱,下顎リンパ節,腸間膜リンパ節,坐骨神経(大腿筋に付けて採材),骨髄(大腿骨),各種の検査結果から病理組織学検査が必要と判断された器官・組織,肉眼的異常部位]

 投与期間終了後解剖動物の対照群と30 mg/kg群の上記の器官・組織および全群の肉眼的異常部位について常法に従ってヘマトキシリン・エオジン染色標本を作製し,鏡検した(眼球・ハーダー腺は片側のみ標本作製し,鏡検した).また,剖検結果から雌雄の皮膚に対する被験物質の影響が疑われたため,全例の皮膚を採取し,投与期間終了後解剖動物の対照群と30 mg/kg群の雌雄の皮膚についても検査を実施した.その結果,被験物質の影響が疑われる変化が雌雄の肝臓,下垂体,甲状腺および皮膚で認められたため,投与期間終了後解剖動物の1および6 mg/kg群と回復期間終了後解剖動物の雌雄全例の当該器官・組織についても常法に従ってヘマトキシリン・エオジン染色標本を作製し,鏡検した.全試験動物の甲状腺についてコロイド量をみるために過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色を実施し鏡検した.皮膚の検査は投与期間終了後解剖動物で被験物質投与に起因すると思われる変化が最も顕著に認められた肩甲間部について実施した.さらに回復期間終了後解剖動物で皮膚の変化が認められた30 mg/kg群の雌雄9例については,腰部の変化が目立っていたため,肩甲間部に加えて腰部皮膚の組織検査も実施した.

5. 統計解析

 計量データは,Bartlett法による等分散性の検定を行い,分散が等しい場合は一元配置分散分析,分散が等しくない場合は,Kruskal-Wallisの検定を行った.群間に有意な差が認められた場合はDunnett法またはDunnett型の多重比較検定を行った.計数データは,a×bのx^2検定を行い,有意差が認められた場合はArmitageのx^2検定で対照群と各用量群を比較した.有意水準はいずれも5 %とした.

結果

1. 一般状態

 投与期間中に全身の被毛状態の異常(光沢の消失)が30 mg/kg群の雄全例,雌8例で認められた.本変化は雌雄いずれも第6日より発現し,経過と伴に発現動物数は増加した.1および6 mg/kg群では,異常は認められなかった.

 回復期間中には,被毛状態の異常の発生部位が全身性から限局性へと移行しており,回復傾向が認められた.

2. 体重(Fig. 1)

 投与期間中に,体重の低値が30 mg/kg群の雄で第15日以降,雌では第15日に認められた.1および6 mg/kg群では雌雄ともに有意差は認められなかった.

 回復期間中には,30 mg/kg群の雄で体重の低値が認められたが,体重増加量は対照群とほぼ同等にまで回復していた(文中表1参照).また,同群の雌では有意差はみられなかった.

3. 摂餌量(Fig. 2)

 投与期間中に,摂餌量の低値が30 mg/kg群の雄で第8日以降,雌では第15日に認められた.

 回復期間中には,回復期間初期に30 mg/kg群の雄で摂餌量の低値が認められたが,最終週(第39日)には回復した.また,同群の雌では有意差はみられなかった.

4. 行動検査(Fig. 3, Table 1)

 自発運動量の経時的推移をFig. 3,第4週の機能検査結果(刺激に対する反応性,握力)をTable 1に示した.

 投与期間中の詳細な症状観察,機能検査および自発運動量測定の結果,いずれの検査においても,被験物質投与に起因すると思われる変化は認められなかった.

5. 血液学検査(Table 2)

 被験物質投与に起因すると思われる変化は認められなかった.

 投与期間終了時の検査で,PTの短縮が30 mg/kg群の雄,リンパ球比の高値および好中球比の低値が1,6および30 mg/kg群の雄,好酸球比の低値が6 mg/kg群の雄,APTTの短縮が30 mg/kg群の雌で認められた.しかし, 6 mg/kg群の雄で認められた好酸球比の低値は,30 mg/kg群では認められていない変化であることから,被験物質投与とは関連のない変化と判断した.また,30 mg/kg群の雄で認められたPTの短縮および30 mg/kg群の雌で認められたAPTTの短縮は,毒性学的意義のある延長とは反対方向の変化であることから被験物質投与とは関連の無い偶発的変化と判断した.1,6および30 mg/kg群の雄で認められたリンパ球比の高値および好中球比の低値は,白血球数に異常がみられないことや,いずれも生理的変動範囲内の変化であることから(文中表2:背景データ.2002〜2003.三菱化学安全科学研究所鹿島研究所),被験物質投与とは関連のない変化と判断した.

6. 血液生化学検査(Table 3)

 投与期間終了時の検査で,クロールの高値が30 mg/kg群の雌雄,総コレステロールの高値とALPおよび無機リンの低値が30 mg/kg群の雄,g-GTの高値が30 mg/kg群の雌で認められた.

 回復期間終了時の検査では,これらの変化は認められなかった.

 なお,g-GTの高値は1 mg/kg群の雌でも認められたが,6 mg/kg群では統計学的有意差は認められていないことから,被験物質投与とは関連のない偶発的変化と判断した.

7. 尿検査(Table 4)

 投与期間中(第25日)の尿定性検査において,雌雄とも有意差は認められなかった.

8. 器官重量(Table 5)

 投与期間終了時に,甲状腺絶対重量および相対重量の高値が30 mg/kg群の雌雄,肝臓相対重量の高値が30 mg/kg群の雌で認められた.また,胸腺絶対重量および相対重量の低値が1,6および30 mg/kg群の雌で認められた.回復期間終了時には甲状腺相対重量の高値が30 mg/kg群の雌で認められたが,その程度は軽減していた.その他の変化は消失した.

 その他,投与期間終了時に脾臓,腎臓および心臓の絶対重量の低値,脳相対重量の高値が30 mg/kg群の雄,回復期間終了時に脳,心臓および肝臓の絶対重量の低値が30 mg/kg群の雄で認められた.これらの変化は同群で最終体重の低値が認められていること,重量の変化に対応する病理組織学変化は認められないことから,毒性学的には意義のない変化と考えられた.また,投与期間終了時に,心臓絶対重量の低値が1 mg/kg群の雄で認められたが,6 mg/kg群では認められていないことから,被験物質投与とは関連のない変化と判断した.

9. 剖検所見

 被験物質に起因すると思われる変化が雌雄の甲状腺および皮膚に認められた.

 投与期間終了後解剖動物で,甲状腺の腫大が6 mg/kg群の雄1例,30 mg/kg群の雄4例と雌2例に認められた.6 mg/kg群の雄1例と30 mg/kg群の雌1例にみられた変化は片側性であった.また,被毛の光沢の消失が30 mg/kg群の雄全例と雌4例に認められた.いずれも全身性の変化であったが,肩甲間部において最も顕著に認められた.

 回復期間終了後解剖動物では,甲状腺の変化は認められなかった.被毛の変化は30 mg/kg群の雄全例と雌4例に認められたが,病変程度は極めて軽度であった.また,全身性の変化がみられた例は,雄3例と雌1例で投与期間終了後解剖時と比較して少なく,それ以外の例では,頭部,胸部,腹部,腰部に局所性の変化が認められるにすぎなかった.被毛の変化がみられた9例に共通する発現部位は腰部であった.また,腰部の変化は他の領域と比較して若干目立っていた.

 このほかいくつかの変化が投与期間終了後および回復期間終了後解剖動物で認められたが,被験物質投与群で多発するものはなく,いずれも偶発的所見と判断した.

10. 病理組織所見(Table 6)

 被験物質に起因すると思われる変化が雌雄の肝臓,下垂体,甲状腺および皮膚に認められた.認められた変化と,その発現状況を文中表3に示す.

 肝臓の小葉中心性肝細胞肥大が投与期間終了後解剖動物の30 mg/kg群の雌雄全例に認められた.回復期間終了後解剖動物では,この変化は認められなかった.

 下垂体前葉の塩基好性細胞の肥大が投与期間終了後解剖動物の30 mg/kg群の雄全例と雌2例に認められた.雄全例にみられた変化は程度が強かった.肥大細胞の多くは細胞質内に大型の空胞を持っていた.回復期間終了後解剖動物では,同様の変化が30 mg/kg群の雄3例に認められたが,いずれも軽度の変化であった.

 甲状腺のコロイドの減少が投与期間終了後解剖動物の6 mg/kg群の雄4例,30 mg/kg群の雌雄全例に認められた.30 mg/kg群の雄全例と雌4例にみられた変化は程度が強かった.コロイドの減少がみられた動物では,全例にびまん性の濾胞上皮細胞の肥大が認められた.コロイド減少の程度が強い例では濾胞上皮細胞肥大の程度も強かった.回復期間終了後解剖動物では,これらの変化は認められなかった.

 皮膚の皮脂腺の萎縮が投与期間終了後解剖動物の30 mg/kg群の雄全例と雌3例に認められた.この変化は剖検時に認められた被毛の光沢の消失に対応する組織変化と思われた.ただし,被毛の光沢の消失とした例のうち,雌1例では皮脂腺の萎縮が認められなかった.回復期間終了後解剖動物では,30 mg/kg群の多数例で軽微な被毛の光沢の消失が認められたが,皮脂腺の萎縮を含め,この肉眼的変化に対応する組織変化は認められなかった.

 このほか種々の組織変化が投与期間終了後および回復期間終了後解剖動物の対照群を含む各群で認められたが,ラットでは非特異的に発現する変化であり,その発現状況に明らかな群差がみられないことから,被験物質投与とは関連のない変化と判断した.

考察

 2-イミダゾリジンチオンを0,1,6および30 mg/kgの用量で雌雄のCrj:CD(SD)IGSラット(SPF)に28日間反復経口投与し,現れる生体の機能および形態の変化を観察した.

 被験物質投与に起因すると思われる変化が一般状態,体重,摂餌量,血液生化学検査,器官重量,病理解剖検査,病理組織学検査で認められた.

 一般状態観察で,全身の被毛の異常(光沢の消失)が30 mg/kg群の雌雄に認められた.本被験物質の混餌投与試験では脱毛が報告されている1).今回の試験では明らかな脱毛はみられなかったが,被毛の光沢の消失が認められた.また,病理組織学変化として皮脂腺の萎縮が30 mg/kg群の雌雄で観察された.皮脂腺の萎縮は回復期間終了時には消失していた.回復期間には,被毛の異常の発生部位が全身性から限局性となり,皮脂腺の萎縮は消失しており,回復傾向がみられた.

 体重および摂餌量の低値が30 mg/kg群の雌雄で認められた.回復期間には,これらの変化は消失あるいは軽減した.

 血液生化学検査では,総コレステロールの高値が30 mg/kg群の雄,g-GTの高値が30 mg/kg群の雌で認められた.これらの変化は,後述する肝臓の変化(肥大性変化)あるいは甲状腺の変化(機能低下)との関連が疑われた.その他,クロールの高値が30 mg/kg群の雌雄,ALPおよび無機リンの低値が30 mg/kg群の雄で認められた.いずれの変化も回復期間終了時には消失した.

 病理学検査では,肝臓の相対重量の高値が30 mg/kg群の雌,小葉中心性の肝細胞肥大が30 mg/kg群の雌雄で認められた.肝臓の小葉中心性肝細胞肥大は種々の化学物質の投与によってしばしば惹起される変化で,一般に薬物代謝酵素誘導による生体の適応性変化と考えられている2, 3).甲状腺の絶対重量および相対重量の高値が30 mg/kg群の雌雄,肉眼的な腫大と甲状腺のコロイドの減少および濾胞上皮細胞の肥大が6 mg/kg群の雄および30 mg/kg群の雌雄で認められた.また,下垂体前葉の塩基好性細胞の肥大が30 mg/kg群の雌雄に認められた.肥大した塩基好性細胞は細胞質内に大型空胞を持っており,甲状腺摘出細胞に類似していた4).本被験物質は,ラットに混餌投与することにより甲状腺機能を低下させることが報告されている1).また,甲状腺機能低下により循環血中の甲状腺ホルモンが減少するとnegative feedback機構により下垂体前葉の甲状腺刺激ホルモン産生細胞の肥大(甲状腺摘出細胞の出現)および甲状腺濾胞上皮細胞の肥大が惹起されることも知られている5, 6).本試験で認められた甲状腺および下垂体の変化も,被験物質の甲状腺機能低下作用に起因した変化と考えられた.回復期間終了時には,これらの変化は消失あるいは軽減していた.

 上記変化の他に,胸腺絶対重量および相対重量の低値が1,6および30 mg/kg群の雌で認められた.6 および 30 mg/kg群の変化については変動幅が大きかった(絶対重量,相対重量とも対照群の約66〜70 %)ことから,被験物質投与の影響と判断した.しかし,1 mg/kg群の変化については,変動幅は小さく(絶対重量,相対重量とも対照群の約80 %),背景データ(文中表4:背景データ.2002〜2003.三菱化学安全科学研究所鹿島研究所)と比較しても平均±1S.D.以内のごく軽微な変化であったこと,病理組織学検査および血液学検査(白血球数,白血球百分率)においても胸腺の重量変化に関連した変化は認められなかったことから,被験物質投与の影響ではないものと判断した.

 以上,被験物質投与に起因すると考えられる変化が,雌雄とも6 mg/kg以上の群で認められたことから,本試験条件下における2-イミダゾリジンチオンの無影響量(NOEL)は雌雄とも1 mg/kg/dayと判断した.

文献

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連絡先
試験責任者: 平塚秀明
試験担当者: 松本 忍,土居卓也,豊田直人,
島村祐二
蟷杏化学安全科学研究所鹿島研究所
〒314-0255 茨城県鹿島郡波崎町砂山14
Tel 0479-46-2871 Fax 0479-46-2874

Correspondence
Authors: Hideaki Hiratsuka(Study director)
Shinobu Matsumoto, Takuya Doi,
Naoto Toyota, Yuuji Shimamura
Mitsubishi Chemical Safety Institute Ltd., Kashima Laboratory
14 Sunayama, Hasaki-machi, Kashima-gun, Ibaraki, 314-0255, Japan
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