2,4,6-トリニトロフェノールのラットを用いる単回経口投与毒性試験

Single Dose Oral Toxicity Test of 2,4,6-Trinitrophenol in Rats

要約

2,4,6-トリニトロフェノールは,火薬,花火,農薬,染料の原料である1).今回,2,4,6-トリニトロフェノールを1群あたり5匹/性のSD系ラットに1回経口投与し,その急性毒性を検討した.投与用量は雌雄ともに0,200,400および800 mg/kg,さらに雌には100 mg/kgを設定した.

その結果,200 mg/kg群の雌1例,400 mg/kg群の雄1例,雌4例,800 mg/kg群の雌雄全例が投与日に死亡した.死亡動物では,一般状態観察において,200 mg/kg群の雌に着色尿(濃黄色),皮膚の着色(黄色)および歩行異常,400 mg/kg群の雄に着色尿(濃黄色)および歩行異常,400 mg/kg群の雌および800 mg/kg群の雌雄に自発運動の低下,歩行異常,間代性けいれん,着色尿(濃黄色),皮膚の着色(黄色),腹臥位あるいは側臥位,800 mg/kg群の雄に紅涙,雌に軟便が認められた.剖検においては,腺胃壁の硬固が400および800 mg/kg群の雌雄,腺胃の出血が200 mg/kg群の雌,400および800 mg/kg群の雌雄,腺胃壁の肥厚が800 mg/kg群の雌,全身の黄色化が全死亡例に認められた.

生存動物では,全被験物質投与群に着色尿(濃黄色),被毛の着色(黄色),400 mg/kg群の雌雄に自発運動の低下,歩行異常および皮膚の着色(黄色),400 mg/kg群の雄に間代性けいれん,軟便および下腹部の汚れが認められた.体重では,いずれの被験物質投与群も対照群と同様に推移した.剖検では,全被験物質投与群に被毛の着色(黄色)が認められた.

2,4,6-トリニトロフェノールを雌雄のラットに1回経口投与した結果,半数致死量(LD50値)は,雄では492 mg/kg(95 %信頼限界 375〜646 mg/kg),雌では283 mg/kg(95 %信頼限界 168〜478 mg/kg)と結論した.

方法

1. 被験物質

三井化学(株)(東京)から提供された2,4,6-トリニトロフェノール(ロット番号8802403,純度81.4 %)を冷所,遮光,通風,換気条件下で保存し使用した.被験物質の安定性は,被験物質提供者より保証する資料を入手し,確認した.

被験物質を0.1 % Tween 80添加0.5 % CMC-Na水溶液(Tween 80 東京化成工業(株),CMC-Na 岩井化学薬品(株))に懸濁あるいは溶解調製した.なお,調製時には被験物質の純度換算を行った.100 mg/kg群の投与液の調製は投与3日前,それ以外については投与日に行った.投与液中の被験物質が0.1から200 mg/mLの範囲で均一であること,室温保存条件下で0.1から10 mg/mLの範囲で8日間,200 mg/mLまでは4日間安定であることを確認した.また,各用量群の投与液を分析し,被験物質の濃度が設定濃度± 10 %以内であることを確認した.

2. 試験動物および動物飼育

日本チャールス・リバー(株)からCrj:CD(SD)IGSラット(SPF)を入手し,5日間検疫・馴化した.1群の動物数は雌雄各5匹とし,投与前日に各群の体重がほぼ均一となるように群分けした.投与日の週齢は5週齢,体重範囲は雄が120〜128 g,雌が101〜117 gであった.

検疫・馴化期間を含む全飼育期間を通して,温度22 ± 2 ℃(目標値),相対湿度55 ± 15 %(目標値),換気約12回/時(オールフレッシュエアー供給),照明12時間/日(7:00-19:00)に自動調節した飼育室を使用した.動物は,実験動物用床敷(ベータチップ,日本チャールス・リバー(株))を敷いたポリカーボネート製ケージに,群分け前はケージあたり5匹以下(同性),群分け後はケージあたり5匹(同性)収容し,飼育した.動物には,実験動物用固型飼料(MF,オリエンタル酵母工業(株))と,5 μmのフィルター濾過後,紫外線照射した水道水を自由に摂取させた.

3. 投与量および投与方法

予備試験として,被験物質を50,200,800 mg/kgの用量で1群雌雄各3匹のSD系ラットに1回経口投与し,投与後7日間観察した.その結果,800 mg/kg群の雌雄全例が死亡し,50および200 mg/kg群では,重篤な変化はみられなかった.このため,本試験の用量は雌雄ともに800 mg/kgを最高用量とし,以下公比2で400および200 mg/kgの3用量および溶媒のみを投与する対照群を設けた.しかし,本試験において200 mg/kg群の雌1例が死亡したため,雌についてさらに100 mg/kgの用量を追加した.投与前日より約18時間絶食させたラットに胃ゾンデを装着したシリンジを用いて1回強制経口投与し,投与後約3時間は飼料を与えなかった.投与液量は10 mL/kgとし,投与直前の体重に基づいて算出した.

4. 観察および検査方法

下記の項目を検査した.なお,日の表記は投与日を第1日とした.

1) 一般状態および体重

一般状態の観察は,投与日には15,30分,1,3および6時間の5回,以後は1日1回14日間にわたって行った.生存動物の体重は,投与直前,第4,8および15日に測定した.

2) 病理学検査

観察終了後(第15日)に生存動物をチオペンタール・ナトリウムによる麻酔下で腹大動脈を切断・放血し,安楽死させた後剖検した.また,死亡動物については発見後速やかに剖検した.

5. 半数致死量(LD50値)の算出

観察終了時の死亡率から雄についてはVan der Waerden法で,雌についてはProbit法で算出した.

結果

1. 死亡およびLD50値(Table 1)

200 mg/kg群の雌1例,400 mg/kg群の雄1例,雌4例,800 mg/kg群の雌雄全例が投与日に死亡した.LD50値は,雄では492 mg/kg(95 %信頼限界 375〜646 mg/kg),雌では283 mg/kg(95 %信頼限界 168〜478 mg/kg)であった.

2. 一般状態

死亡動物では,200 mg/kg群の雌に着色尿(濃黄色),皮膚の着色(黄色)および歩行異常,400 mg/kg群の雄に着色尿(濃黄色)および歩行異常,400 mg/kg群の雌および800 mg/kg群の雌雄に自発運動の低下,歩行異常,間代性けいれん,着色尿(濃黄色),皮膚の着色(黄色),腹臥位あるいは側臥位が認められた.この他,800 mg/kg群では雄に紅涙,雌に軟便がみられた.

生存動物では,投与日に全被験物質投与群に着色尿(濃黄色),400 mg/kg群の雌雄に自発運動の低下,歩行異常,着色尿(濃黄色)および皮膚の着色(黄色),400 mg/kg群の雄に間代性けいれん,軟便および下腹部の汚れが認められた.これらの症状のうち,着色尿は200 mg/kg群の雌と400 mg/kg群の雄,歩行異常は400 mg/kg群の雌で第2日までみられた.第3日から第9日までは異常はみられなかったが,第10日以降には被毛の着色(黄色)が全被験物質投与群でみられた.

3. 体重

生存動物の体重は対照群とほぼ同様に増加した.

4. 剖検所見

死亡動物では,腺胃壁の硬固が400 mg/kg群の雄1例,雌2例,800 mg/kg群の雄全例,雌4例,腺胃の出血が200 mg/kg群の雌1例,400 mg/kg群の雄1例,雌4例,800 mg/kg群の雄全例,雌4例,腺胃壁の肥厚が800 mg/kg群の雌1例,全身の黄色化が全例に認められた.

生存動物では,被験物質投与群の全例に被毛の着色(黄色)が認められた.

考察

2,4,6-トリニトロフェノールを雌雄のラットに0,200,400および800 mg/kgの用量,さらに雌には100 mg/kgの用量で1回経口投与した.その結果,主な毒性変化として200 mg/kg以上の用量群で歩行異常,400 mg/kg以上の用量群で自発運動の低下および間代性けいれんがみられ,200 mg/kg以上の用量群では死亡が発現した.また,死亡動物では腺胃に変化が認められた.

本被験物質のLD50値は,雄では492 mg/kg(95 %信頼限界 375〜646 mg/kg),雌では283 mg/kg(95 %信頼限界 168〜478 mg/kg)と結論した.

文献

1)化学工業日報社編,“12093の化学商品,”化学工業日報社,東京,1993, p.271.

連絡先
試験責任者:山下弘太郎
試験担当者:伊勢記代子,鈴木美江
(株)三菱化学安全科学研究所 鹿島研究所
〒314-0255 茨城県鹿島郡波崎町砂山14
Tel 0479-46-2871Fax 0479-46-2874

Correspondence
Authors:Kotaro Yamashita(Study director)
Kiyoko Ise, Yoshie Suzuki
Kashima Laboratory, Mitsubishi Chemical Safety Institute Ltd.
14 Sunayama, Hasaki-machi, Kashima-gun, Ibaraki, 314-0255, Japan.
Tel +81-479-46-2871Fax +81-479-46-2874