2-sec-ブチル-4,6-ジニトロフェノールのラットを用いる
反復経口投与毒性・生殖発生毒性併合試験

Combined Repeated Dose and Reproductive/Developmental Toxicity Screening Test
of 2-sec-Butyl-4,6-dinitrophenol by Oral Administrarion in Rats

要約

 2-sec-ブチル-4,6-ジニトロフェノールのラットを用いる経口投与による反復投与毒性・生殖発生毒性併合試験を行い,雌雄動物に対する毒性影響を検討するとともに,性腺機能,交尾行動,受胎および分娩などの生殖行動に及ぼす影響について検討した.投与量は,7.0 mg/kgを高用量とし,以下2.33および0.78 mg/kgとした.対照として媒体(トウモロコシ油)投与群を設けた.各群の使用動物数は試験群を雌雄各12例とし,雄では各群ともそのうち半数を回復群とし,雌では別に各群に6例の回復群を設けた.

1. 反復投与毒性

 死亡例は7.0 mg/kg群で妊娠末期に雌8例,瀕死例は同群で妊娠末期に2例に認められた.一般状態では,7.0 mg/kg群の死亡例および瀕死例で自発運動の低下,腹臥位,体温下降,呼吸困難,チアノーゼあるいは緩徐呼吸がみられた.体重は,7.0 mg/kg群の雄で投与期間に低値,雌で交配開始前および交配期間に低値がみられた.回復期間には,雌雄の体重推移に異常はみられなかった.摂餌量は,2.33および7.0 mg/kg群の雄で投与期間に一過性の低値がみられた.行動機能(FOB),感覚反応,握力および自発運動量では,雌雄とも投与に起因する変化はみられなかった.

 尿検査では,雌雄とも投与に起因する変化は認められなかった.血液学検査において,投与期間終了時に雄では0.78 mg/kg以上の投与群で赤血球数およびヘマトクリット値の高値あるいは高値傾向,2.33 mg/kg以上の投与群でヘモグロビン量の高値,7.0 mg/kg群で平均赤血球容積の高値がみられた.雌では,0.78および2.33 mg/kg群で赤血球数の高値あるいは高値傾向がみられた.回復期間終了時には,雌雄とも投与に起因する変化は認められなかった.血液生化学検査では,投与期間終了時に7.0 mg/kg群の雄でクレアチニンの高値およびALPの高値傾向がみられたが,雌では投与に起因する変化は認められなかった.

 剖検および器官重量において,雌雄とも投与に起因する変化は認められなかった.精子検査において,投与期間終了時に7.0 mg/kg群で運動精子率,前進精子率,最短距離移動速度,生存精子率および生き残り精子率の低値あるいは低値傾向,精子頭部の振幅,総奇形精子率,尾部奇形精子率および頭部奇形精子率の高値あるいは高値傾向がみられた.回復期間終了時には,7.0 mg/kg群で生存精子率および生き残り精子率の低値,総奇形精子率および頭部奇形精子率の高値がみられた.

 病理組織学検査では,雌死亡例で肺および肝臓に鬱血がみられた.雄では投与期間終了時に投与に起因する変化は認められなかった.雌では,投与期間終了時に2.33および7.0 mg/kg群で脾臓の髄外造血の低下あるいは低下傾向,回復期間終了時に7.0 mg/kg群で脾臓の髄外造血の低下傾向が認められた.

2. 生殖発生毒性

 発情回数,交尾率,交尾所要日数,受胎雌数,受胎率,妊娠期間,分娩状態,哺育状態,妊娠黄体数,着床数および着床率には,投与に起因する変化はみられなかった.出産率は,7.0 mg/kg群で低値がみられた.

 児動物では,総出産児数,死産児数,新生児数,性比,分娩率,児の産出率,出生率,一般状態,4日の新生児数,新生児の4日の生存率,外表異常,体重および剖検において,0.78および2.33 mg/kg群では投与に起因する変化はみられなかった.

 以上のように,2-sec-ブチル-4,6-ジニトロフェノールの無影響量は,雄では0.78 mg/kg投与で赤血球数およびヘマトクリット値の高値が認められたことから0.78 mg/kg/day未満,雌では0.78 mg/kg投与で赤血球数の高値が認められたことから,0.78 mg/kg/day未満と考えられる.また,生殖発生毒性学的な無影響量は,雄では7.0 mg/kg投与で精子の活動性および精子の形態に影響が認められたことから2.33 mg/kg/day,雌では7.0 mg/kg投与で出産率の低値がみられたことから2.33 mg/kg/dayと考えられる.児動物への無影響量は,2.33 mg/kg投与で生存性および体重などに影響が認められなかったことから2.33 mg/kg/dayと考えられる.

方法

1. 被験物質および媒体

 2-sec-ブチル-4,6-ジニトロフェノールは,融点が41.0℃,黄色の塊,溶融時は黄色澄明液体であり,水に不溶である[Lot No.RWN9641,純度:96.0 %,和光純薬工業(大阪)].入手後は,冷蔵条件下で保管した.投与期間終了後に被験物質を分析し,使用期間中安定であったことを確認した.

 2-sec-ブチル-4,6-ジニトロフェノールは,トウモロコシ油で溶解して調製した.なお,被験物質の調製に際して,純度による換算を実施した.0.02,1および30 mg/mLの調製液は,冷蔵・遮光条件下で7日間保管後,さらに室温・遮光条件下で6時間保管しても安定性に問題のないことが確認されている.各投与検体は,週1回以上の頻度で調製し,冷蔵・遮光条件下で保管後,7日以内に使用した.雌雄試験群投与開始日および雄投与終了日に使用した各投与検体中の被験物質濃度を測定した結果,被験物質の濃度に問題はなかった.

2. 使用動物および飼育条件

 7週齢のCrj:CD(SD)IGS雌雄ラット(SPF)を日本チャールス・リバーから購入した.入手した動物は,5日間の検疫期間およびその後16日間(ただし,回復群雌は17日間)の馴化期間を設け,一般状態,体重推移あるいはFOB観察に異常がなく,また性周期観察で異常が認められなかった動物(発情期が認められ,4日あるいは5日周期と考えられた動物)を群分けした.群分けは,コンピュータを用いて体重を層別に分けた後に無作為抽出法により各群の平均体重および分散がほぼ等しくなるように投与開始日に行った.

 動物は,室温20〜26℃,湿度40〜70 %,明暗各12時間(照明:午前6時〜午後6時),換気回数12回/時に維持された飼育室で飼育した.検疫・馴化期間中および群分け後ともステンレス製ケージを用いて個別飼育した.母動物は,妊娠18日以降オートクレーブ処理した床敷(サンフレーク,日本チャールス・リバー)を入れたプラスチック製ケージで個別飼育し,自然分娩および哺育させ,哺育4日以降ステンレス製ケージを用いて個別飼育した.飼料は,固型飼料(CRF-1,オリエンタル酵母工業)を自由に摂取させた.剖検前日の午後4時から絶食させた.飲料水は,水道水を自由に摂取させた.

3. 投与経路,投与方法,投与量および投与期間

 投与経路は,経口投与を選択した.投与に際しては,金属製経口胃ゾンデを取り付けたポリプロピレン製ディスポーザブル注射筒を用いて,強制経口投与した.投与液量は,投与日あるいは投与日に最も近い測定日の体重を基準とし,5 mL/kgで算出した.投与回数は1日1回とした.投与開始日の週齢は雌雄とも10週齢であり,体重範囲は雄が343〜381 g,試験群雌が238〜267 g,回復群雌が239〜262 gであった.

 各群の動物数は,試験群に雌雄各12例,回復群に雌各6例とした.ただし,雄は半数を回復群とした.

 予備試験(投与段階:0,2.5,5,10および20 mg/kg,各群雄5例)において,10 mg/kg以上の投与により死亡例および体重の低値が認められた.そこで,当試験の投与量は,7.0 mg/kgを高用量とし,以下公比3により2.33および0.78 mg/kgとした.また,対照として媒体(トウモロコシ油)のみを同容量投与する群を設けた.

 投与期間は,雄では交配前14日間とその後28日間の合計42日間とし,試験群雌では交配前14日間,交配期間中(最長4日間),妊娠期間中および哺育6日までの合計44〜48日間とした.雄については,42日間の投与後に各群とも半数の動物について14日間の回復期間を設けた.また,回復群雌については,42日間の投与後に14日間の回復期間を設けた.なお,投与開始日を投与1日とし,最終投与の翌日を回復1日とした.

4. 観察および検査項目

1) 一般状態

 一般状態および死亡の有無は,投与期間中に投与前・後の1日2回,回復期間中に毎日1回観察した.雌死亡例は,発見後速やかに剖検し,妊娠黄体数および着床数を算定後,剖検した.雌瀕死例は,発見後速やかにペントバルビタールナトリウムの腹腔内投与による麻酔下で腹大動脈から放血致死させた後,妊娠黄体数および着床数を算定し,剖検した.

2) 体重測定

 雄の体重は,投与期間中および回復期間中とも1週間に2回測定した.雌の体重は,投与期間中および回復期間中とも1週間に2回測定し,妊娠期間中は妊娠0,7,14および21日,哺育期間中は哺育0,4,6および7日に測定した.

3) 摂餌量測定

 雄の摂餌量は,交配開始前14日間および交配期間終了後から1週間に2回測定した.雌の摂餌量は,交配開始前14日間までは1週間に2回,妊娠期間中は妊娠2,9,16および20日,哺育期間中は哺育2日に測定した.

4) 行動機能(FOB)観察

 全例について,投与期間中に週1回下記の項目を観察した.観察は,投与後1時間に実施した.

 (a)姿勢,かみつき行動,眼瞼閉鎖状態および痙攣はケージ内で観察した.

 (b)ケージからの出し易さ,扱い易さ,筋の緊張,毛の状態,流涙,流涎および呼吸は手に持って観察した.

 (c)立ち上がり回数,毛づくろい回数,歩行状態,眼瞼閉鎖状態,覚醒度,行動異常および正向反射はオープンフィールド内で観察した.

5) 感覚反応検査

 雄は,投与期間終了時剖検例について,投与41日の行動機能(FOB)観察後に瞳孔反射,接近反射,行動異常,触覚反射,聴覚反射および痛覚反射を検査した.

 試験群の雌は,対照群,0.78および2.33 mg/kg群の動物番号の若い順に各6例ならびに7.0 mg/kg群の生存例1例について,哺育3日の行動機能(FOB)観察後に雄と同一項目を検査した.

6) 握力測定

 雄は,投与期間終了時剖検例について,投与41日の感覚反応検査終了後にCPUゲージ(アイコーエンジニアリング)を用いて,前肢および後肢の握力を測定した.

 試験群の雌は,対照群,0.78および2.33 mg/kg群の動物番号の若い順に各6例ならびに7.0 mg/kg群の生存例1例について,哺育3日の感覚反応検査終了後にCPUゲージを用いて,前肢および後肢の握力を測定した.

7) 自発運動量測定

 雄は,投与期間終了時剖検例について,投与40日にActivity Monitor(MED Associates)を使用し,歩行量および立ち上がり回数を投与後1時間まで10分間隔で測定した.

 試験群の雌は,対照群,0.78および2.33 mg/kg群の動物番号の若い順に各6例ならびに7.0 mg/kg群の生存例1例について,哺育4日にActivity Monitorを使用し,歩行量および立ち上がり回数を投与後1時間まで10分間隔で測定した.

8) 尿検査

 雄は,投与期間終了前に投与期間終了時の剖検用動物,回復期間終了前に回復期間終了時の剖検用動物について,採尿ケージを用いて絶食・給水下で新鮮尿を採取後,引き続いて給餌・給水下で24時間尿を採取した.試験群の雌は,対照群,0.78および2.33 mg/kg群の動物番号の若い順に各6例ならびに7.0 mg/kg群の生存例1例について,哺育5日に採尿ケージを用いて絶食・給水下で新鮮尿を採取後,引き続いて給餌・給水下で24時間尿を採取した.回復群の雌は,回復期間終了前に採尿ケージを用いて絶食・給水下で新鮮尿を採取後,引き続いて給餌・給水下で24時間尿を採取した.採取した尿について,以下の検査を実施した.

 新鮮尿:色調は,外観判定とした.pH,蛋白質,ブドウ糖,ケトン体,ビリルビン,潜血,ウロビリノーゲンは,尿検査試験紙(ウロペーパー怯標7,栄研化学)と尿自動分析装置(US-2100,栄研化学)を用いて検査した.尿沈渣は,尿沈渣染色液(新Sternheimer法,国際試薬)で染色後に顕微鏡下で観察した.採尿は,当日の投与前に行った.

 24時間尿:尿量は,尿比重と重量から算出した.比重(S.G.)は,屈折率により屈折型尿比重計(ユリペット-D,ニコン)を用いて測定した.

9) 血液学検査

 雄は,最終投与の翌日および回復期間終了後にペントバルビタールナトリウムの腹腔内投与による麻酔下で腹大動脈から血液を採取した.試験群の雌は,対照群,0.78および2.33 mg/kg群の動物番号の若い順に各6例ならびに7.0 mg/kg群の生存例1例について,最終投与の翌日(哺育7日)にペントバルビタールナトリウムの腹腔内投与による麻酔下で腹大動脈から血液を採取した.回復群の雌は,回復期間終了後にペントバルビタールナトリウムの腹腔内投与による麻酔下で腹大動脈から血液を採取した.採取した血液について,以下の検査を実施した.

 赤血球数(RBC),ヘモグロビン,ヘマトクリット,血小板数および白血球数(WBC)は,EDTA-2K処理した血液について,多項目自動血球計数装置(Sysmex K-4500,シスメックス)を用いて測定した.さらに,平均赤血球容積(MCV),平均赤血球血色素量(MCH)および平均赤血球血色素濃度(MCHC)を算出した.

 網状赤血球比率は,EDTA-2K処理した血液をBrecher法により超生体染色後,Giemsa染色標本を作製して顕微鏡下で赤血球1000個中の網状赤血球数を計数して算出した.

 白血球百分率は,EDTA-2K処理した血液のMay- Giemsa染色標本を作製して顕微鏡下で白血球100個を分類計数して算出した.

 プロトロンビン時間(PT),活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)およびフィブリノーゲンは,血液を3.13 %クエン酸ナトリウムで処理後,遠心分離(約4 ℃,3000 rpm,15分間)して得た血漿について,散乱光検出方式により血液凝固分析装置(コアグマスター供せ斡)を用いて測定した.

10) 血液生化学検査

 雌雄とも,血液学検査用の血液と同時期に腹大動脈から採取した血液を遠心分離(約4℃,3000 rpm,15分間)して得た血清について,以下の検査を実施した.

 ASTはMDH-UV法,ALTはLDH-UV法,ALPはp-ニトロフェニルリン酸基質法,g-GTPはL-g-グルタミル-3-カルボキシ-4-ニトロアニリド基質法,総蛋白はBiuret法,総ビリルビンは安定化ジアゾニウム塩法,尿素窒素はウレアーゼ・GlDH法,クレアチニンはクレアチニナーゼ・F-DAOS法,ブドウ糖はヘキソキナーゼ・G-6-PDH法,総コレステロールはCOD・HDAOS法,トリグリセライドはGPO・HDAOS法,Caはo-CPC法,無機リンはPNP・XDH法,Na,KおよびClはイオン選択電極法により,いずれも生化学自動分析装置(AU 400,オリンパス光学工業)を用いて測定した.

 アルブミンは総蛋白および蛋白分画[電気泳動法,自動電気泳動装置(AES 310,オリンパス光学工業)]から,A/G(アルブミン/グロブリン)は蛋白分画から算出した.

11) 剖検および器官重量測定

 雌雄とも,採血後さらに放血致死させ,剖検した.脳(大脳,小脳,延髄),下垂体,甲状腺,胸腺,心臓,肝臓,脾臓,腎臓,副腎,精巣,精巣上体,精巣上体の尾部,卵巣および子宮は重量を測定した.各器官重量(精巣上体の尾部を除く)を最終体重で除して相対重量も算出した.ただし,下垂体および甲状腺は20 %中性緩衝ホルマリンで1晩固定後,測定した.精巣上体の尾部を除くこれらの器官は,肺,気管,膵臓,唾液腺(舌下腺・顎下腺),食道,胃,十二指腸,空腸,回腸,盲腸,結腸,直腸,リンパ節(下顎・腸間膜),膀胱,精嚢,前立腺,腟,上皮小体,脊髄,坐骨神経,眼球,ハーダー腺,胸骨および大腿骨とともに20 %中性緩衝ホルマリンで固定した.ただし,精巣および精巣上体の頭部はブアン液で2〜3時間固定後,90 %アルコールに再固定し,眼球はグルタールアルデヒド・ホルマリンで1晩固定後,20 %中性緩衝ホルマリンに再固定した.また,左右の精巣上体の尾部を用いて,精子検査を実施した.母動物は,妊娠黄体数および着床数を算定した.

12) 精子検査

(1) 精子原液の調製

 右精巣上体の尾部は,37℃に加温した精子培養液(0.5 %牛血清アルブミン加Medium 199)中で分割し,約5分間静置後,精子原液とした.この精子原液を用いて精子の活動性,精子の生存性および精子の形態を検査した.

(2) 精子の活動性

 精子原液を精子培養液で希釈し,約30分間培養(培養条件:37℃,5 %炭酸ガス,95 %空気)後に精子希釈液をサンプルチャンバー(MICROSLIDES, #HTR1099, VitroCom)に入れ,TOX IVOS(Hamilton Thorne Research)を用いて,運動精子率,前進精子率,基準点移動速度,最短距離移動速度,総移動速度,精子頭部の振幅および精子頭部の横切り回数を算出した.

(3) 精子の生存性

 精子原液をCalcein acetoxy methyl esterとEthidium homodimer-1で二重染色(炭酸ガス培養器内で約1時間培養)後,蛍光顕微鏡下で精子を生存精子,途中死亡精子および死亡精子とに分類し1),生存精子率および生き残り精子率を求めた.

(4) 精子の形態

 精子原液をスライドガラスに塗抹し,10 %中性緩衝ホルマリンで固定後,1 %エオジン染色液で染色した.顕微鏡下で精子の形態を観察し,総奇形精子率,頭部奇形精子率および尾部奇形精子率を求めた.

(5) 精子数

 精子数は,左精巣上体尾部を凍結(-80℃)保存後,0.1 % Triton X-100中でホモジナイズして作製した精子懸濁液をTOX IVOS(Hamilton Thorne Research)を用いて算出した.なお,左精巣上体尾部1 g当たりの精子数も算出した.

13) 病理組織学検査

 投与期間終了時剖検用動物の対照群および7.0 mg/kg群の雄,試験群の対照群および2.33 mg/kg群の雌の動物番号の若い順に各6例ならびに7.0 mg/kg群の雌死亡例および瀕死例を含む12例全例について,パラフィン包埋標本を作製後,HE染色組織標本を作製し,病理組織学検査を実施した.2.33および7.0 mg/kg群の雌の検査において対照群と比べて異常を示す動物数に差があると考えられた脾臓については,0.78 mg/kg群の雌についてもHE染色組織標本を作製し,病理組織学検査を実施した.また,回復群の対照群,0.78,2.33および7.0 mg/kg群の雌について,脾臓も同様に検査した.

14) 性周期

 試験群雌の性周期は,投与開始日から交尾確認前日まで毎日1回観察した.

15) 交配

 14日間投与した雄と試験群雌を同一群内で1対1に組み合わせて同居交配した.交配期間は14日を限度として,交尾を確認するまでの連続同居交配とした.

 交尾確認は毎朝ほぼ一定時刻に行い,腟垢内に精子または腟栓を確認した雌を交尾成立動物として,その日を妊娠0日として起算した.

16) 分娩状態の観察

 交尾雌は自然分娩させ,分娩状態の異常の有無,分娩終了の確認を妊娠21日から妊娠25日の午前10時まで毎日行った.午前10時に分娩が終了していた場合,その日を哺育0日とした.

17) 哺育状態の観察

 母動物は,哺育状態を哺育0日から4日まで毎日観察した.

18) 児動物(F1)

 出産時に総出産児数と性,死産児数,新生児数および外表異常の有無を観察した.児動物は,一般状態および死亡の有無を毎日1回観察した.体重は,哺育0日(出生日)および4日に測定した.生存児は,哺育4日にジエチルエーテル麻酔下で腹大動脈から放血致死させた後に剖検した.

5. 統計解析

 有意差検定は下記に示したように,対照群と各投与群の間で行い,危険率を5 %とした.

 体重,摂餌量,握力,自発運動量,尿量,尿比重,血液学検査成績,血液生化学検査成績,器官の絶対重量および相対重量,精子検査成績,発情回数,交尾所要日数,妊娠期間,妊娠黄体数,着床数,着床率,総出産児数,新生児数,死産児数,分娩率,児の産出率,出生率,4日の新生児数,新生児の4日の生存率,外表異常の出現率および性比は,各群で平均値および標準偏差を算出した.その後,Bartlett法による等分散性の検定を行い,等分散の場合にはDunnett法により行った.一方,等分散と認められなかった場合は,順位を利用したDunnett型の検定法により行った.

 交尾率,受胎率および出産率は,x^2検定により行った.

 病理組織学検査において,2.33および7.0 mg/kg群の雌で毒性学的影響が示唆され,0.78 mg/kg群についても検査を実施した脾臓の髄外造血については,対照群との群間比較を上記の順位を利用したDunnett型の検定法を用いて行った.

結果

1. 反復投与毒性

1) 一般状態

(1) 雄

 死亡および瀕死例は,いずれの群にも認められなかった.

 投与期間中には,対照群では一般状態の異常はみられなかった.0.78 mg/kg群では,投与14日の投与直後に一過性の流涎が1例にみられた.2.33 mg/kg群では,投与8日以降の投与直後に一過性の流涎が11例にみられた.7.0 mg/kg群では,投与2日以降の投与直後に一過性の流涎が12例全例にみられた.

 回復期間中には,いずれの群とも一般状態の異常はみられなかった.

(2) 試験群雌

 7.0 mg/kg群では,妊娠19日に7例と妊娠21日に1例が死亡し,妊娠19および20日に各1例が瀕死となった.対照群,0.78および2.33 mg/kg群では,死亡例および瀕死例は認められなかった.

 交配開始前および交配期間中には,対照群および0.78 mg/kg群では一般状態の異常はみられなかった.2.33 mg/kg群では,投与10日以降の投与直後に一過性の流涎が5例にみられた.7.0 mg/kg群では,投与3日以降の投与直後に一過性の流涎が11例にみられた.

 妊娠期間中には,対照群および0.78 mg/kg群では一般状態の異常はみられなかった.2.33 mg/kg群では,投与直後に一過性の流涎が3例にみられた.7.0 mg/kg群では,死亡8例および瀕死2例において死亡および瀕死の前日あるいは当日に一過性の流涎,自発運動の低下,腹臥位,体温下降,呼吸困難,チアノーゼあるいは緩徐呼吸がみられた.同群の生存例2例では,投与直後に一過性の流涎がみられた.

 哺育期間中には,いずれの群とも一般状態の異常はみられなかった.

(3) 回復群雌

 死亡および瀕死例は,いずれの群にも認められなかった.

 投与期間中には,対照群では一般状態の異常はみられなかった.0.78 mg/kg群では,投与16および17日の投与直後に一過性の流涎が1例にみられた.2.33 mg/kg群では,投与12日の投与直後に一過性の流涎が1例にみられた.7.0 mg/kg群では,投与3日以降の投与直後に一過性の流涎が6例全例にみられた.

 回復期間中には,いずれの群とも一般状態の異常はみられなかった.

2) 体重

(1) 雄(Fig. 1)

 投与期間中には,0.78および2.33 mg/kg群では対照群と比べて各測定日の体重に有意差はみられなかった.7.0 mg/kg群では,対照群と比べて投与18〜42日に体重の有意な低値がみられた.

 回復期間中には,各投与群とも対照群と比べて各測定日の体重に有意差はみられなかった.

(2) 試験群雌(Fig. 2)

 交配開始前および交配期間中には,0.78および2.33 mg/kg群では対照群と比べて各測定日の体重に有意差はみられなかった.7.0 mg/kg群では,対照群と比べて投与11および15日に体重の有意な低値がみられた.

 妊娠期間中には,各投与群とも対照群と比べて各測定日の体重に有意差はみられなかった.

 哺育期間中には,0.78および2.33 mg/kg群では対照群と比べて各測定日の体重に有意差はみられなかった.

(3) 回復群雌

 投与期間中及び回復期間中には,各投与群とも投与による影響は認められなかった.

3) 摂餌量

(1) 雄(Fig. 3)

 投与期間中には,0.78 mg/kg群では対照群と比べて各測定日の摂餌量に有意差はみられなかった.2.33および7.0 mg/kg群では,対照群と比べて投与2日に摂餌量の有意な低値がみられた.なお,7.0 mg/kg群では,対照群と比べて投与12,33,37および40日に摂餌量の有意な高値がみられたが,投与による毒性学的影響とは考えられない.

 回復期間中には,0.78 mg/kg群では対照群と比べて各測定日の摂餌量に有意差はみられなかった.2.33 mg/kg群では対照群と比べて回復12日,7.0 mg/kg群では回復2および12日に摂餌量の有意な高値がみられたが,投与による毒性学的影響とは考えられない.

(2) 試験群雌(Fig. 4)

 交配開始前には,0.78および2.33 mg/kg群では対照群と比べて各測定日の摂餌量に有意差はみられなかった.7.0 mg/kg群では,対照群と比べて投与9日に摂餌量の有意な高値がみられたが,一過性の変化であり,投与による毒性学的影響とは考えられない.

 妊娠期間中には,0.78および2.33 mg/kg群では対照群と比べて各測定日の摂餌量に有意差はみられなかった.7.0 mg/kg群では,対照群と比べて妊娠2,9および16日に摂餌量の有意な高値がみられたが,投与による毒性学的影響とは考えられない.

 哺育期間中には,0.78および2.33 mg/kg群では対照群と比べて測定日の摂餌量に有意差はみられなかった.

(3) 回復群雌

 投与期間中および回復期間中には,各投与群とも投与による影響は認められなかった.

4) 行動機能(FOB)

(1) 雄

 各投与群とも,各測定日のいずれの項目にも投与による影響はみられなかった.

(2) 試験群雌

 各投与群とも,各測定日のいずれの項目にも投与による影響はみられなかった.

(3) 回復群雌

 各投与群とも,各測定日のいずれの項目にも投与による影響はみられなかった.

5) 感覚反応

(1) 雄

 各投与群とも,いずれの項目にも異常はみられなかった.

(2) 試験群雌

 各投与群とも,いずれの項目にも異常はみられなかった.

6) 握力(Table 1)

(1) 雄

 各投与群とも,対照群と比べて前肢および後肢の握力に有意差はみられなかった.

(2) 試験群雌

 0.78および2.33 mg/kg群では,対照群と比べて前肢および後肢の握力に有意差はみられなかった.

7) 自発運動量(Table 2)

(1) 雄

 各投与群とも,対照群と比べて各測定項目に有意差はみられなかった.

(2) 試験群雌

 0.78および2.33 mg/kg群では,対照群と比べて各測定項目に有意差はみられなかった.

8) 尿検査(Table 3, 4)

(1) 投与期間終了前

(藤) 雄

 各投与群とも,対照群と比べて尿量および尿比重に有意差はみられなかった.

 色調,pH,蛋白質,ブドウ糖,ケトン体,ビリルビン,潜血,ウロビリノーゲンおよび沈渣は,各投与群とも対照群とほぼ同程度であった.

(討) 試験群雌

 0.78および2.33 mg/kg群では,対照群と比べて尿量および尿比重に有意差はみられなかった.

 色調,pH,蛋白質,ブドウ糖,ケトン体,ビリルビン,潜血,ウロビリノーゲンおよび沈渣は,0.78および2.33 mg/kg群では対照群とほぼ同程度であった.

(2) 回復期間終了前

(藤) 雄

 各投与群とも,対照群と比べて尿量および尿比重に有意差はみられなかった.

 色調,pH,蛋白質,ブドウ糖,ケトン体,ビリルビン,潜血,ウロビリノーゲンおよび沈渣は,各投与群とも対照群とほぼ同程度であった.

(討) 回復群雌

 各投与群とも,対照群と比べて尿量および尿比重に有意差はみられなかった.

 色調,pH,蛋白質,ブドウ糖,ケトン体,ビリルビン,潜血,ウロビリノーゲンおよび沈渣は,各投与群とも対照群とほぼ同程度であった.

9) 血液学検査(Table 5)

(1) 投与期間終了時

(藤) 雄

 0.78 mg/kg群では,対照群と比べて赤血球数およびヘマトクリット値の有意な高値がみられた.2.33 mg/kg群では,対照群と比べてヘモグロビン量およびヘマトクリット値の有意な高値,有意差はないものの赤血球数の高値傾向がみられた.7.0 mg/kg群では,対照群と比べてヘモグロビン量,ヘマトクリット値および平均赤血球容積の有意な高値,有意差はないものの赤血球数の高値傾向がみられた.なお,2.33および7.0 mg/kg群では,対照群と比べてプロトロンビン時間の有意な高値がみられたが,背景データの値に近いことから,投与に基づく変化ではないと判断される.

(討) 試験群雌

 0.78 mg/kg群では,対照群と比べて赤血球数の有意な高値がみられた.2.33 mg/kg群では,対照群と比べて有意差はないものの赤血球数の高値傾向がみられた.なお,0.78 mg/kg群では,対照群と比べて平均赤血球容積および平均赤血球血色素量の有意な低値がみられたが,投与量に依存した変化ではなかった.また,2.33 mg/kg群では,対照群と比べてフィブリノーゲン濃度の有意な低値がみられたが,背景データの値に近いことから,投与に基づく変化ではないと判断される.

(2) 回復期間終了時

(藤) 雄

 0.78および2.33 mg/kg群では,対照群と比べて各測定項目に有意差はみられなかった.7.0 mg/kg群では,対照群と比べて赤血球数の有意な低値および平均赤血球血色素量の有意な高値がみられたが,投与期間終了時には認められない変化であり,投与による影響とは考えられない.

(討) 回復群雌

 各投与群とも,対照群と比べて各測定項目に有意差はみられなかった.

10) 血液生化学検査(Table 6)

(1) 投与期間終了時

(藤) 雄

 0.78 mg/kg群では,対照群と比べて各測定項目に有意差はみられなかった.7.0 mg/kg群では,対照群と比べてクレアチニンの有意な高値,有意差はないもののALPの高値傾向がみられた.2.33 mg/kg群では,対照群と比べて総コレステロールの有意な低値がみられたが,7.0 mg/kg群で有意差が認められなかったことから,投与に基づく変化ではないと判断される.

(討) 試験群雌

 0.78 mg/kg群では,対照群と比べて各測定項目に有意差はみられなかった.2.33 mg/kg群では,対照群と比べてアルブミン量およびA/Gの有意な高値がみられたが,いずれも背景データの値に近いことから,投与に基づく変化ではないと判断される.

(2) 回復期間終了時

(藤) 雄

 0.78 mg/kg群では対照群と比べてA/GおよびClの有意な低値,2.33 mg/kg群ではA/Gの有意な低値および総コレステロールの有意な高値,7.0 mg/kg群ではALPおよびアルブミンの有意な低値ならびに尿素窒素の有意な高値がみられたが,いずれも投与期間終了時には認められなかった変化であり,投与に基づくものではないと判断される.

(討) 回復群雌

 各投与群とも,対照群と比べて各測定項目に有意差はみられなかった.

11) 剖検

(1) 投与期間終了時

(藤) 雄

 いずれの群とも,異常はみられなかった.

(討) 試験群雌

 哺育7日の剖検では,いずれの群とも異常はみられなかった.

 全新生児死亡母動物では,異常はみられなかった.

 死亡例および瀕死例では,異常はみられなかった.

 不受胎雌では,異常はみられなかった.

(2) 回復期間終了時

(藤) 雄

 0.78,2.33および7.0 mg/kg群では,異常はみられなかった.対照群では,肝臓の白色斑が1例にみられた.

(討) 回復群雌

 いずれの群とも,異常はみられなかった.

12) 器官重量(Table 7)

(1) 投与期間終了時

(藤) 雄

 剖検日の体重は,0.78および2.33 mg/kg群では対照群と比べて有意差はみられなかった.7.0 mg/kg群では,対照群と比べて有意差はないものの,体重の低値傾向がみられた.

 器官重量において,0.78および2.33 mg/kg群では対照群と比べて各器官の絶対重量および相対重量に有意差はみられなかった.7.0 mg/kg群では,対照群と比べて脳の相対重量の有意な高値がみられたが,絶対重量に有意差が認められないことから,対照群との体重差に基づく変化と考えられる.

(討) 試験群雌

 剖検日の体重は,0.78および2.33 mg/kg群では対照群と比べて有意差はみられなかった.

 器官重量において,0.78および2.33 mg/kg群では対照群と比べて各器官の絶対重量および相対重量に有意差はみられなかった.

(2) 回復期間終了時

(藤) 雄

 剖検日の体重は,各投与群とも対照群と比べて有意差はみられなかった.

 器官重量において,2.33および7.0 mg/kg群では対照群と比べて各器官の絶対重量および相対重量に有意差はみられなかった.0.78 mg/kg群では,対照群と比べて脳の相対重量の有意な低値および肝臓の絶対重量の有意な高値がみられたが,投与量に関連した変化ではないことから,投与による影響とは考えられない.

(討) 回復群雌

 剖検日の体重は,0.78および7.0 mg/kg群では対照群と比べて有意差はみられなかった.2.33 mg/kg群では,対照群と比べて体重の有意な高値がみられたが,投与量に関連した変化ではないことから,投与による影響とは考えられない.

 器官重量において,0.78 mg/kg群では対照群と比べて心臓の相対重量の有意な低値がみられたが,絶対重量に有意差が認められないことから,投与に基づく変化ではないと考えられる.2.33 mg/kg群では対照群と比べて脳の相対重量の有意な低値がみられたが,絶対重量に有意差が認められないことから,対照群との体重差に基づく変化と考えられる.7.0 mg/kg群では,対照群と比べて心臓の絶対重量の有意な高値がみられたが,投与期間終了時にその傾向は認められなかったことから,投与に基づくものではないと判断される.

13) 精子検査(Table 8)

(1) 投与期間終了時

 0.78および2.33 mg/kg群では,対照群と比べて各検査項目に有意差はみられなかった.7.0 mg/kg群では,対照群と比べて運動精子率,前進精子率,最短距離移動速度および生存精子率の有意な低値,精子頭部の振幅,総奇形精子率および尾部奇形精子率の有意な高値,有意差はないものの生き残り精子率の低値傾向,頭部奇形精子率の高値傾向がみられた.

(2) 回復期間終了時

 0.78および2.33 mg/kg群では,対照群と比べて各検査項目に有意差はみられなかった.7.0 mg/kg群では,対照群と比べて生存精子率および生き残り精子率の有意な低値,総奇形精子率および頭部奇形精子率の有意な高値がみられた.

14) 病理組織学検査(Table 9)

(1) 投与期間終了時

(藤) 雄

[眼球] 対照群では,左網膜に異形成が1例にみられた.

[ハーダー腺] 対照群では,リンパ様細胞浸潤が1例にみられた.

[心臓] 対照群では,単核細胞浸潤が4例にみられた.7.0 mg/kg群では,単核細胞浸潤が4例にみられた.

[肝臓] 対照群では,微小肉芽腫が1例,リンパ様細胞浸潤が2例にみられた.7.0 mg/kg群では,汎動脈炎が1例にみられた.

[脾臓] 対照群では,髄外造血が1例にみられた.

[腎臓] 対照群では,リンパ様細胞浸潤が1例,尿細管上皮の好塩基性化が2例と尿細管上皮の硝子滴が1例にみられた.7.0 mg/kg群では,尿細管上皮の好塩基性化が2例と嚢胞が1例にみられた.

[精巣] 7.0 mg/kg群では,限局性の精細管萎縮が1例にみられた.

[前立腺] 対照群では,リンパ様細胞浸潤が4例にみられた.7.0 mg/kg群では,リンパ様細胞浸潤が2例にみられた.

 なお,これらの変化は対照群でも通常観察される変化であること,それらの程度はごく軽度あるいは軽度であること,7.0 mg/kg群のそれらの出現頻度は対照群と比べて差がないことから,偶発的変化と判断される.

(討) 試験群雌

[脾臓] 対照群では,髄外造血が6例にみられ,その程度はごく軽度が1例,軽度が3例および中等度が2例であった.0.78 mg/kg群では,髄外造血が6例にみられ,その程度はごく軽度が1例,軽度が4例と中等度が1例であった.2.33 mg/kg群では,髄外造血が6例にみられ,その程度はごく軽度が5例と軽度が1例であった.7.0 mg/kg群では,髄外造血が1例にみられ,その程度はごく軽度であった.髄外造血の低下は,2.33 mg/kg群で対照群と比べて有意差が認められた.

 その他の変化として以下に示した所見が得られた.

[心臓] 2.33 mg/kg群では,単核細胞浸潤が1例にみられた.7.0 mg/kg群では,単核細胞浸潤が1例にみられた.

[胸腺] 7.0 mg/kg群では,皮質の萎縮が1例にみられた.

[肝臓] 対照群では,微小肉芽腫が3例,胆管増生が1例とリンパ様細胞浸潤が2例にみられた.2.33 mg/kg群では,限局性の肝細胞壊死が1例と胆管増生が2例にみられた.7.0 mg/kg群では,微小肉芽腫が1例にみられた.

 なお,これらの変化は対照群でも通常観察される変化であること,それらの程度はいずれもごく軽度であること,2.33および7.0 mg/kg群のそれらの出現頻度は対照群と比べて差がないことから,偶発的変化と判断される.

(謄) 雌死亡例および瀕死例

 7.0 mg/kg群の8例の死亡例では,各組織に死後変化が中等度に認められたが,その他に以下の組織学所見が得られた.

[肺] 鬱血が8例全例にみられ,その程度は軽度あるいは中等度であった.

[肝臓] 鬱血が8例全例にみられ,その程度は軽度あるいは中等度であった.

 7.0 mg/kg群の2例の瀕死例では,以下の組織学所見が得られた.

[脾臓] 髄外造血が1例にみられ,その程度はごく軽度であった.

(2) 回復期間終了時雌

[脾臓] 対照群では,髄外造血が4例にみられ,その程度はごく軽度であった.0.78 mg/kg群では,髄外造血が2例にみられ,その程度はごく軽度であった.2.33 mg/kg群では,髄外造血が3例にみられ,その程度はごく軽度が2例と軽度が1例であった.7.0 mg/kg群では,髄外造血が1例にみられ,その程度はごく軽度であった.なお,髄外造血は,7.0 mg/kg群で対照群と比べて有意差はないものの低下傾向が認められた.

2. 生殖発生毒性

1) 親動物の生殖発生

(1) 発情回数,交尾率および受胎率(Table 10)

 交配開始前の投与期間(14日間)の発情回数は,各投与群とも対照群と比べて有意差はみられなかった.

 交尾率は,いずれの群とも100 %であった.交尾所要日数は,各投与群とも対照群との間に有意差はみられなかった.受胎率は,各投与群とも対照群との間に有意差はみられなかった.

(2) 妊娠期間,妊娠黄体数,着床数,着床率,出産率,分娩状態および哺育状態(Table 11)

 妊娠期間は,0.78および2.33 mg/kg群では対照群と比べて有意差はみられなかった.各投与群とも,対照群と比べて妊娠黄体数,着床数および着床率に有意差はみられなかった.

 出産率は,対照群および2.33 mg/kg群では100 %であった.0.78 mg/kg群では,全新生児死亡母動物が1例に認められたため,出産率は90.9 %となったが,対照群との間に有意差はみられなかった.7.0 mg/kg群では,死亡あるいは瀕死母動物が10例と全新生児死亡母動物が1例に認められたため,出産率は8.3 %であり,対照群と比べて有意な低値がみられた.

 分娩状態の異常としては,0.78 mg/kg群で分娩時間の延長が1例と7.0 mg/kg群で腟口からの著しい出血が1例にみられた.

 哺育状態において,いずれの群とも異常はみられなかった.

2) 児動物(F1)に及ぼす影響

(1) 分娩率および出生率(Table 11)

 0.78および2.33 mg/kg群では,対照群と比べて総出産児数,死産児数,新生児数,性比,分娩率,児の産出率および出生率に有意差はみられなかった.7.0 mg/kg群では,分娩母動物数が2例と少なく,児動物(F1)の評価ができなかった.

(2) 児動物の一般状態および生存率(Table 11)

 0.78および2.33 mg/kg群では,対照群と比べて4日の新生児数および新生児の4日の生存率に有意差はみられなかった.

 新生児の外表異常としては,0.78 mg/kg群で無尾と短尾が各1例にみられたが,対照群との間に有意差は認められず,いずれも自然発生例と考えられる.

 児動物の一般状態において,いずれの群とも異常はみられなかった.

(3) 児動物の体重(Table 11)

 0.78および2.33 mg/kg群では,対照群と比べて哺育0および4日の雌雄体重に有意差はみられなかった.

(4) 死亡児の剖検

 いずれの群とも,異常はみられなかった.

(5) 生存児の剖検

 対照群,0.78および7.0 mg/kg群では,異常はみられなかった.2.33 mg/kg群では,腎盂拡張が1例にみられたが,発現頻度が低いことから自然発生例と考えられる.

考察

 2-sec-ブチル-4,6-ジニトロフェノールのラットを用いる経口投与による反復投与毒性・生殖発生毒性併合試験を行い,雌雄動物に対する毒性影響を検討するとともに,性腺機能,交尾行動,受胎および分娩などの生殖行動に及ぼす影響について検討した.投与量は,7.0 mg/kgを高用量とし,以下2.33および0.78 mg/kgとした.

 反復投与による毒性については,試験群の7.0 mg/kg群の雌で死亡例が妊娠末期に8例,瀕死例が妊娠末期に2例に認められた.死亡例および瀕死例では,自発運動の低下,腹臥位,体温下降,呼吸困難,チアノーゼあるいは緩徐呼吸がみられた.死亡例の病理組織学検査では,肺および肝臓に軽度あるいは中等度の鬱血が8例全例にみられた.ジニトロフェノールは,急性中毒では酸化代謝機構,次いで熱産生が刺激され,酸素消費量の増加,体温上昇,呼吸数および心拍数の増加を呈し,循環性あるいは呼吸性ショックにより死に至ると考えられている2).当試験においても,死亡例で循環性あるいは呼吸性ショックを示す一般状態の変化ならびに肺および肝臓に鬱血がみられたことから,死因は2-sec-ブチル-4,6-ジニトロフェノール投与に基づく循環障害あるいは呼吸障害と考えられる.なお,死亡例および瀕死例は,妊娠19〜21日にのみ認められ,雄および非妊娠雌ではみられないことから,妊娠要因が付加的に作用していると考えられる.2-sec-ブチル-4,6-ジニトロフェノールのラットを用いる単回経口投与毒性試験3)では50 mg/kg投与により,当試験の予備試験では10 mg/kg投与により,死亡例の発現と当試験と同様の一般状態の変化がみられている.

 一般状態の変化としては,各投与群の雌雄で流涎がみられたが,いずれも投与直後に一過性に認められたのみであり,痙攣などの神経症状あるいは唾液腺の形態学的変化は認められないことから,被験物質の刺激性に基づく変化と判断され,毒性症状とはみなさなかった.

 体重は,7.0 mg/kg群の雄で投与期間に低値,雌で交配開始前および交配期間に低値がみられたが,回復期間には雌雄とも異常はみられなかった.

 摂餌量は,2.33および7.0 mg/kg群の雄で投与期間に一過性の低値がみられた.

 行動機能(FOB),感覚反応,握力および自発運動量では,投与に起因する変化はみられなかった.

 尿検査では,雌雄とも投与に起因する変化は認められなかった.

 血液学検査において,雄では投与期間終了時に0.78 mg/kg以上の投与群で赤血球数およびヘマトクリット値の高値あるいは高値傾向,2.33 mg/kg以上の投与群でヘモグロビン量の高値,7.0 mg/kg群で平均赤血球容積の高値がみられた.雌では,投与期間終了時に0.78および2.33 mg/kg群で赤血球数の高値あるいは高値傾向がみられた.従って,雌雄とも0.78 mg/kg以上の投与群で多血症を呈していると考えられる.雌では,投与期間終了時に脾臓の髄外造血が対照群でごく軽度〜中等度が6例全例,0.78 mg/kg群でごく軽度〜中等度が6例全例,2.33 mg/kg群でごく軽度あるいは軽度が6例全例,7.0 mg/kg群でごく軽度が1例にみられ,その程度は2.33および7.0 mg/kg群で対照群に比べて弱かった.また,7.0 mg/kg群の瀕死例では,脾臓の髄外造血はごく軽度に1例に認められた.従って,2.33および7.0 mg/kg群では脾臓の髄外造血は低下していると考えられる.妊娠雌は,元来貧血傾向を示し,髄外造血も旺盛であることが知られている.従って当試験では,雌が雄に比べて明らかな影響が現れたものと考えられる.回復期間終了時には,雌で脾臓の髄外造血が対照群でごく軽度が4例,0.78 mg/kg群でごく軽度が2例,2.33 mg/kg群でごく軽度あるいは軽度が3例,7.0 mg/kg群でごく軽度が1例にみられ,その出現頻度は7.0 mg/kg群で対照群に比べて低い傾向にあった.回復期間終了時には,血液学検査で多血傾向は認められないことからも,脾臓の髄外造血の低下は回復傾向にあると考えられる.2,4-ジニトロフェノールのラットを用いる28日間反復経口投与毒性試験4)においても,80 mg/kg群の雄で多血症が報告され,脾臓における髄外造血の低下傾向は多血症に対する生体の適応性変化であり,多血症の成因はジニトロフェノール類の酸素消費量増加作用と関連した変化と考えられると報告している.当試験で用いた2-sec-ブチル-4,6-ジニトロフェノールでも,酸素消費量増加により動脈血酸素飽和度の低下を来たし,エリスロポエチンの産生増加が起こり,その結果赤血球産生の増加が起きる(多血症)5)と考えられる.

 血液生化学検査では,7.0 mg/kg群の雄でクレアチニンの高値およびALPの高値傾向がみられ,背景データの値と比べても高かかったが,病理組織学検査および関連する他のパラメータに変化がみられないことから,それらの程度はごく軽微と考えられる.一方,雌では,投与に起因する変化は認められなかった.

 剖検および器官重量において,雌雄とも投与に起因する変化は認められなかった.
 精子検査において,投与期間終了時に7.0 mg/kg群で運動精子率,前進精子率,最短距離移動速度,生存精子率および生き残り精子率の低値あるいは低値傾向,精子頭部の振幅,総奇形精子率,尾部奇形精子率および頭部奇形精子率の高値あるいは高値傾向がみられた.回復期間終了時には,7.0 mg/kg群で生存精子率および生き残り精子率の低値,総奇形精子率および頭部奇形精子率の高値がみられた.2-sec-ブチル-4,6-ジニトロフェノールを含むジニトルフェノール系化学物質では,精子細胞以降の精子完成過程を障害することにより,精子の形態および運動性に影響を及ぼすことが報告されている6,7).当試験においても,精子の運動性,生存性および形態に異常は認められるものの,精巣の病理組織学検査で精子形成に異常は認められず,精祖細胞および精母細胞に対する障害性は確認できなかった.

 病理組織学検査では,上述した雌の2.33および7.0 mg/kg群における脾臓の髄外造血の低下以外には投与に起因する変化はみられなかった.

 親動物の生殖発生毒性については,発情回数,交尾率,交尾所要日数,受胎雌数,受胎率,妊娠期間,分娩状態,哺育状態,妊娠黄体数,着床数および着床率には,投与に起因する変化はみられなかった.7.0 mg/kg群では,死亡あるいは瀕死母動物が10例と全新生児死亡母動物が1例に認められたため,出産率の低値がみられた.

 児動物(F1)については,総出産児数,死産児数,新生児数,性比,分娩率,児の産出率,出生率,一般状態,4日の新生児数,新生児の4日の生存率,外表観察,体重および剖検において,0.78および2.33 mg/kg群では投与に起因する変化はみられなかった.2-sec-ブチル-4,6-ジニトロフェノールのラット催奇性試験では,15 mg/kg投与で母動物への毒性および胎児死亡の増加が認められるものの,胎児に形態異常を生じさせないことが報告されている8)ことからも,2-sec-ブチル-4,6-ジニトロフェノールには催奇形成作用はないと考えられる.

 以上のように,2-sec-ブチル-4,6-ジニトロフェノールの無影響量は,雄では0.78 mg/kg投与で赤血球数およびヘマトクリット値の高値が認められたことから0.78 mg/kg/day未満,雌では0.78 mg/kg投与で赤血球数の高値が認められたことから,0.78 mg/kg/day未満と考えられる.また,生殖発生毒性学的な無影響量は,雄では7.0 mg/kg投与で精子の活動性および精子の形態に影響が認められたことから2.33 mg/kg/day,雌では7.0 mg/kg投与で出産率の低値がみられたことから2.33 mg/kg/dayと考えられる.児動物への無影響量は,2.33 mg/kg投与で生存性および体重などに影響が認められなかったことから2.33 mg/kg/dayと考えられる.

文献

1) Kato M et al.:Evaluation of mitochondrial function and membrane integrity by dual fluorescent staining for assessment of sperm status in rats. J Toxicol Sci 27:11-18(2002).
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3) 古橋忠和ら:2-sec-ブチル-4,6-ジニトロフェノールのラットを用いる単回経口投与毒性試験.化学物質毒性試験報告,12:77-78(2005).
4) 山本譲ら:2,4-ジニトロフェノールのラットを用いる28日間反復投与毒性試験.化学物質毒性試験報告,8:15-26(2001).
5) 獣医学大辞典編集委員会編:「獣医学大辞典」チクサン出版社,東京(1989).
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7) 高橋研ら:4,6-Dinitro-o-crezol投与ラット精巣上体精子における形態異常の発現.第26回日本Toxicology学会抄録,276(1999).
8) Giavini E et al.:Effect of method of administration on the teratogenicity of dinoseb in the rat. Arch Environ Contam Toxicol 15:377-384(1986).

連絡先
試験責任者: 古橋忠和
試験担当者: 長瀬孝彦,内藤一嘉,藤村高志,
木村 均,小澤雅代,名嘉真志保
蠧本バイオリサーチセンター羽島研究所
〒501-6251 岐阜県羽島市福寿町間島6-104
Tel 058-392-6222 Fax 058-392-1284

Correspondence
Authors: Tadakazu Furuhashi(Study director)
Takahiko Nagase, Kazuyoshi Naito,
Takashi Fujimura, Hitoshi Kimura,
Masayo Ozawa, Shiho Nakama
Nihon Bioresearch Inc.
6-104, Majima, Fukuju-cho, Hashima, Gifu, 501-6251, Japan
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