2,6-ジメチルアニリンのラットを用いる反復経口投与毒性・生殖発生毒性併合試験

Combined Repeated Dose and Reproductive/Developmental Toxicity Screening Test
of 2,6-Dimethylaniline by Oral Administration in Rats

要約

 2,6-ジメチルアニリンの毒性については,ラットやマウスにおける経口LD50値は705-840 mg/kg1)で,ラットにおける反復投与毒性試験で肝臓,腎臓および造血器系に対する影響が,がん原性試験で鼻腔上皮の腺腫および腺がんの有意な増加が認められたという報告2)はあるが,必要かつ充分な情報が不足し,また,生殖発生毒性についての報告はみられない.本物質の異性体である2,3-3),2,4-(未発表)および3,4-4)については,ラットにおける反復投与毒性に関する詳細な報告がみられ,溶血性貧血および造血器系組織の変化,肝臓および腎臓に対する影響などが発現している.

 今回,2,6-ジメチルアニリンについて,SD系[Crj: CD(SD)IGS]ラットを用い,0(溶媒),2, 10, 50および250 mg/kg用量で,交配開始14日前から,雄は42日間,雌は分娩後哺育4日まで経口投与した.動物数は,1群雌雄各12匹の投与期間終了後屠殺の5群とした.さらに,雄については,12匹から5匹を選別して対照および250 mg/kg用量の回復群とし,雌については1群雌雄各5匹の対照および250 mg/kg用量の衛星群を設けて,14日間回復群を設定した.

1. 反復投与毒性

 250 mg/kg群において,雌雄に投与直後の一過性の流涎,自発運動低下,眼瞼下垂,握力および自発運動量の低値並びに体重増加抑制が認められた.雌の3匹は,急激に一般状態が悪化し,瀕死状態となったため切迫屠殺した.雄の尿検査では,尿量の増加およびそれによる尿比重,ナトリウム,カリウム,タンパクおよびケトン体濃度の低値並びにpHの低下が認められた.血液学検査では,雌雄にメトヘモグロビン濃度の増加,雄に赤血球数および血色素濃度の減少並びに網状赤血球数の増加が認められ,雄の平均赤血球容積は高値,平均赤血球血色素濃度は低値を示した.血液生化学検査では,雄に無機リンの増加,雌にGOT,総ビリルビンおよび総コレステロールの増加が認められた.器官重量では,雌雄に腎臓,雄に肝臓,雌に甲状腺のいずれも相対重量の増加並びに雄に脾臓の絶対および相対重量の増加が認められた.病理組織学検査では,肝臓の肝細胞肥大が雌雄に,腎臓の好塩基性尿細管の増加傾向および乳頭壊死が雌雄に,近位尿細管上皮の硝子滴増加および蛋白円柱が雄に,尿細管のびまん性拡張が雌に,脾臓のヘモジデリン沈着増加が雌雄に,髄外造血の増加傾向が雄に認められた.50 mg/kg群では,雌雄に投与初期の自発運動低下および肝臓の肝細胞肥大例が,さらに雌には総コレステロールの増加が認められた.回復群においては,被験物質の投与による変化は回復あるいは回復傾向を示し,可逆的であることが確認された.

 以上の結果から,2,6-ジメチルアニリンのラットへの反復経口投与により,主に血液,肝臓,腎臓および脾臓などに対する毒性影響が認められた.無影響量(NOEL)は,雌雄とも10 mg/kg/day と結論された.

2. 生殖発生毒性

 雄親動物の生殖能に対する毒性影響は認められなかった.雌親動物については,250 mg/kg群で黄体数の低値傾向が認められ, 着床数は有意な低値を示した.児動物の発生に対する影響については,250 mg/kg群の総出産児数は低値傾向にあり,生児数は有意な低値を示した.

 したがって,雄親動物の生殖能に対する無影響量は250 mg/kg/day,雌親動物の生殖能および児動物の発生に対する無影響量は,いずれも50 mg/kg/dayと結論された.

方法

1. 被験物質

 2,6-ジメチルアニリンはエタノールやジエチルエーテルなどの有機溶媒に可溶な無色の液体である.試験には,東京化成工業(東京)から入手したロット番号 FGL01(純度 99.7 %)を入手し,冷暗(3〜5℃)条件下で保管し,使用した.被験物質の投与液は,局方オリブ油(宮澤薬品)を溶媒として,所定の投与用量になるような濃度の溶液として調製し,使用時まで冷所(3〜5℃)遮光下で密栓保管し,調製後7日以内に使用した.保管条件下および投与形態での被験物質は安定であることを確認した.

2. 供試動物および飼育条件

 動物は,SD系・Crj:CD(SD)IGS・ラットを,日本チャールス・リバー(神奈川)より搬入し,雌雄とも13日間検疫を兼ねて試験環境に馴化させ,その間に雌については膣垢検査による性周期の確認も行い,10週齢で試験に供した.1群の動物数は雌雄各12匹とし,投与期間終了後屠殺の5群のほか,対照群および最高用量群については,雄は12匹から5匹を選別して対照および250mg/kg用量の回復群とし,雌は1群雌雄各5匹の対照および250mg/kg用量の衛星群を設けて回復群とし,14日間の回復期間を設けた.なお,雌の回復群については交配を行わなかった.群分けは,投与開始前日の体重に基づく層化無作為抽出法により行なった.投与開始時の体重は雄で326〜416g,雌で200〜249gであった.ラットは,温度21.2〜25.4℃,湿度47〜63%に制御した飼育室で,金網ケージに個体別に収容し,固型飼料[ラボMRストック,日本農産工業]および水を自由に摂取させて飼育した.ただし,交尾確認後の雌は,巣作り材料[ホワイトフレーク,日本チャールス・リバー]を入れたポリカーボネート製ケージに収容した.

3. 投与量および投与方法

 投与量設定試験として,1群雌雄各4匹のラットに,被験物質を0,2, 6, 20, 60および200 mg/kg用量で14日間反復経口投与した結果,20 mg/kg群では,雄に自発運動の低下が認められ,60 mg/kg群では,雌雄に自発運動の低下および眼瞼下垂が認められた.200 mg/kg群では,雌雄に自発運動の低下および眼瞼下垂,血色素濃度およびヘマトクリット値の低値,雄に体重増加の抑制傾向および 摂餌量の低値傾向が認められた.以上の結果から,本試験における投与量は,250 mg/kg/dayを最高用量とし,以下50,10および2 mg/kg/dayの4用量を設定した.投与方法は, 投与液量を体重1 kg当たり5 mLとし,テフロン製胃ゾンデを装着した注射筒を用いて,1日1回(午前中),交配開始14日前から,雄は42日間,雌は分娩後哺育4日まで経口投与した.対照群には,局方オリブ油を同様に投与した.

4. 観察および検査

1) 親動物に関する項目

(1) 一般状態観察

 投与期間およびそれに続く14日間の回復期間を通じて, 動物の生死, 外観, 行動などを毎日観察した.

(2) 詳細な臨床観察

 投与開始前日およびその後は週1回,動物をケ−ジから取り出す時およびケージ外のアルミ製オープンフィールド(370 W×560 D×40 Hmm)で,ケージからの出し易さ,ケージから出す時の扱い易さ,体躯緊張(弛緩〜強直),皮膚(色),毛並み,立毛,眼分泌物,眼瞼閉鎖状態,眼球突出,流涙,口鼻分泌物(汚れ),流涎,下腹部被毛の尿による汚れ,肛門周囲の便による汚れ,発声,呼吸,姿勢,痙攣,振戦,探索行動(覚醒度),警戒性,自発運動(活動性),歩行(よろめき),異常行動(自咬,後ろ向き歩行など),常同(過度の毛繕い,反復旋回運動など),意識不全(混迷,カタレプシー,昏睡),四肢筋緊張度,排尿および排糞の29項目について観察した.

(3) 感覚反射機能検査

 雄は最終投与日,雌は哺育期間中に1回,また回復群の雌雄は最終投与日および回復期間終了日に,聴覚反応,視覚反応,触覚反応,耳介反射,痛覚反応,瞳孔反射,同側屈筋反射,眼瞼反射および正向反射を調べた.

(4) 着地開脚幅,握力および自発運動量測定

 雄は投与41日,雌は哺育期間中に1回,また回復群の雌雄は最終投与日および回復13日に,着地開脚幅(足趾に墨を塗り,30 cmの高さから落とした時の足跡の幅を測定),前肢および後肢の握力(ラット・マウス用握力測定装置,MK-380R/FR,室町機械)並びに雄は30分間および60分間,雌は30分間の自発運動量(自発運動量測定装置,SUPERMEX,室町機械,測定装置内の区画間の60分間における移動回数を測定)を測定した.回復群の雌の自発運動量は,60分間も測定した.

(5) 体重および摂餌量測定

 体重は,週1回および屠殺日に測定した.摂餌量は, 毎週1回,1日(24時間)の飼料消費量を測定した.

(6) 性周期検査

 雌について,馴化・検疫期間に引き続き,交尾が確認されるまで,Giemsa染色による膣垢塗抹標本を作製し,鏡検により性周期段階の判定を行った.平均性周期は,角化細胞のみが散在または集塊状にみられる発情後期・が回帰する日数の平均値とした.

(7) 交配および分娩状態観察

 投与15日の午後に,雄のケージに同一群内の雌を入れ(1対1),交尾が確認されるまで14日間を限度として連続同居させた.交尾の確認は毎朝一定時刻に行い,膣栓形成あるいは膣垢中に精子が確認された日を妊娠0日とした.分娩状態の観察も同じ時刻に行い,1腹ごとに分娩の終了が確認された日を哺育0日とした.交配および分娩の観察結果から,各群について交尾率(%)[(交尾動物数/同居動物数)×100],受胎率(%)[(受胎雌数/交尾成立雌数)×100]および出産率(%)[(生児出産雌数/妊娠雌数)×100]並びに分娩が確認された例について妊娠期間(妊娠0日から分娩が確認された日までの日数)を算定した.雌の衛星群は,交配を行わなかった.

(8) 尿検査

 雄について,投与40日および回復群については回復8日に,動物を約3時間代謝ケージに収容し,得られた尿を用いて,外観の観察,試験紙法[マルティスティックス,バイエル・三共]によるpH,潜血,タンパク,糖, ケトン体,ビリルビンおよびウロビリノーゲンの定性的検査並びに沈渣の検査(URI-CELL液,ケンブリッジケミカルプロダクト社,で染色して鏡検)を行った.さらに,18時間収容して得られた尿について,尿量,比重[屈折計,エルマ光学]並びにナトリウムおよびカリウム[電解質自動分析装置,NAKL-132,東亜電波工業]を測定した.

(9) 血液学検査

 採血は,投与期間および回復期間終了翌日にエーテル麻酔下で開腹して腹大動脈より行った.動物は採血前日の午後5時から除餌し,水のみを給与した.採取した血液は3分割し,その一部は,EDTA-2Kで凝固防止処理し,多項目自動血球計数装置[E-4000,東亜医用電子]により,赤血球数(電気抵抗検出方式),血色素量(ラウリル硫酸ナトリウム-ヘモグロビン法),ヘマトクリット値(パルス検出方式),平均赤血球容積(MCV),平均赤血球血色素量(MCH),平均赤血球血色素濃度(MCHC,以上計算値),白血球数および血小板数(以上,電気抵抗検出方式)を,また塗抹標本を作製して網状赤血球数(Brilliant cresyl blueで染色して鏡検)および白血球百分率(May-Giemsaで染色して鏡検)を測定した.また一部は,3.8 %クエン酸ナトリウム液で凝固阻止処理して血漿を分離し,血液凝固自動測定装置[KC-10A,アメルング社]により,プロトロンビン時間(PT,Quick一段法)および活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT,エラジン酸活性化法)を測定した.

(10) 血液生化学検査

 採取した血液の一部から血清を分離し,生化学自動分析装置[JCA-BM8,日本電子]により,総タンパク(Biuret法),アルブミン(BCG法),A/G比(計算値),グルコース,トリグリセライド,総コレステロール(以上,酵素法),総ビリルビン(ジアゾ法),尿素窒素(Urease-UV法),クレアチニン(Jaff事@),GOT,GPT,g-GTP,ALP(以上,JSCC法),LDH(SFBC法),コリンエステラーゼ(BTC-DTNB法),カルシウム(OCPC法)および無機リン(酵素法)を,また電解質自動分析装置[NAKL-132,東亜電波工業]により,ナトリウム,カリウムおよび塩素(以上,イオン電極法)を測定した.

(11) 病理学検査

 雄の計画屠殺動物は投与42日の翌日,雌では分娩し哺育も順調であった例は哺育5日,交尾の成立しなかった例は交配期間終了後24日(投与52日の翌日),交尾は成立したが分娩予定の4日後まで分娩が認められなかった例はその翌日,また,回復群については回復14日の翌日に,それぞれエ−テル麻酔下で放血屠殺し,体表,開口部粘膜および内部諸器官を肉眼的に観察した.また,各群雌雄各5匹の肝臓,腎臓,副腎,胸腺,脾臓,脳,心臓,下垂体,甲状腺および精嚢並びに全ての雄の精巣および精巣上体を秤量(絶対重量)し,屠殺日の体重に基づいて対体重比(相対重量)を算出した.雌については,卵巣の黄体数および子宮の着床数を調べ,着床率(%) [(着床数/黄体数)×100]を算出した.

 全例について脳,下垂体,甲状腺,胸腺,気管・肺(固定液を注入後浸漬),胃,腸,心臓,肝臓,脾臓,腎臓,副腎,膀胱,精巣,精巣上体,前立腺,精嚢,卵巣,子宮,脊髄(頸部,胸部,腰部),坐骨 神経,骨髄(大腿骨),リンパ節(頸部リンパ節,腸間膜リンパ節),乳腺,その他肉眼的異常部位を採取し,10 %中性リン酸緩衝ホルマリン液(精巣,精巣上体はブアン液で前固定)で固定し,保存した.病理組織学検査は,途中死亡例並びに対照群および250 mg/kg群の雌雄各5匹のこれら保存器官について実施した.精巣については,精子形成サイクル検査(ステージ供Ν掘き后き擦よび=)も行った.回復群を含むその他の群については,250 mg/kg群で被験物質の投与による影響が考えられた雌雄の肝臓および脾臓並びに雄の腎臓および精巣,回復群についてはさらに器官重量に変化が認められた雌の腎臓についても検査した.各群の肉眼的異常部位については全例について検査した.また,交尾不成立の雌雄および交尾は成立したが分娩予定の4日後まで分娩が認められなかった雌については,雄では精巣,精巣上体,前立腺および精嚢を,雌では卵巣,子宮および下垂体を検査した.検査は,常法に従ってパラフィン切片を作製し,H-E染色を施して鏡検した.また,沈着物を同定するため,脾臓は全例について鉄(ベルリンブルー)染色,対照群および250 mg/kg群の雄の各2匹の腎臓はPAS染色も行った.

2) 新生児に関する項目

(1) 産児数,性比および外表観察

 分娩完了の確認後,各腹の産児数(生産児と死亡児の合計)を調べ,分娩率〔(総出産児数/着床数)×100〕を,また,肛門と生殖突起の長短により性別を判定し,群ごとの性比を算出した.新生児については,口腔内を含む外表の異常を観察した.

(2) 一般状態観察

 毎日一般状態および生死を確認し,出生率〔(出産確認時生児数/総出産児数)×100〕および新生児生存率率〔哺育4日生児数/出産確認時生児数)×100〕を求めた.

(3) 体重測定

 新生児について哺育0日および4日に雌雄別に各腹ごとの総体重を測定し,1匹当たりの平均体重を算出した.

(4) 病理学検査

 死亡例はその都度,生存例は哺育4日にエーテル麻酔下で放血死させ,胸腹部における主要器官を肉眼的に観察した.

5. 統計解析

 得られた平均値あるいは頻度について,対照群との有意差(危険率5 %以下)を,定量的データおよびパラメトリックデータについて,試験群が3群以上の場合,Bartlettの分散検定を行い,分散が一様な場合は一元配置の分散分析を行った.分散が一様でない場合およびノンパラメトリックデータは,Kruskal-Wallisの順位検定を行った.それらの結果有意差を認めた場合,DunnettないしDunnett型の検定法による多重比較を行った.試験群が2群間の場合は,パラメトリックデータについてF検定を行い,その結果分散が一様な場合は Studentのt検定を,分散が一様でない場合はAspin-Welchのt検定を行った.また,ノンパラメトリックデータは,Mann-WhitneyのU検定を行った.カテゴリカルデータについては,Fisherの直接確率法を用いて検定した.なお,出産児に関するデータは,1腹を1標本とした.

結果

1. 反復投与毒性

1) 死亡および一般状態

 50 mg/kg群の雄の2匹および雌の3匹で投与1日,250 mg/kg群の雌雄全例で投与1〜6日の間に,軽度な自発運動低下が投与後概ね10分から3〜6時間にかけて認められ,多くは眼瞼下垂も伴っていた.また投与15日以降に,250 mg/kg群の雄の3匹および雌の5匹で,投与のための保定時あるいは投与直後に発現し1時間以内に消失する流涎が認められた.250 mg/kg群の雌雄の自発運動低下および眼瞼下垂並びに雌の流涎の発現率には有意差が認められた.投与初期の自発運動低下および眼瞼下垂並びに投与直後の流涎は,250 mg/kg群の雌の衛星群においても認められた.

 なお,250 mg/kg群の雌で,1匹は投与22〜24日にかけて,別の2匹は投与40日に,急に一般状態が悪化し,3匹とも自発運動低下が重度となって腹臥位を呈し,低体温,呼吸微弱,チアノーゼ,紅涙,下腹部の汚れ,あるいは削痩が認められ,いずれも瀕死状態となったため切迫屠殺した.瀕死期に採取した血液の検査では,3匹に共通して,メトヘモグロビン,尿素窒素,総ビリルビン,クレアチニン,総コレステロールおよびトリグリセライド,うち2匹ではさらにLDH,GOT,GPT,g-GTPなどのいずれも高値が認められた.

 回復期間においては,一般状態の変化および死亡は認められなかった.

2) 詳細な臨床観察

 投与前,投与期間中および回復期間中の観察において,各観察項目に有意な変化は認められなかった.

3) 感覚反射機能検査

 投与6週および回復2週の検査において,各検査項目に有意な変化は認められなかった.

4) 着地開脚幅,握力および自発運動量

 250 mg/kg群で,投与期間終了時の測定で雌雄とも前後肢握力並びに自発運動量の低値傾向が認められ,雌の運動量には有意差が認められた.また,回復群のための動物の投与期間中の検査においても同様の傾向が認められ,雌の前後肢握力および雌雄の自発運動量に有意差が認められた.

 回復期間中の測定では,雌雄とも有意な変化は認められなかった.

5) 体重(Fig. 1, 2)

 雄の250 mg/kg群は,各測定時点の体重に有意差は認められなかったものの対照群を下回って推移し,投与期間中の体重増加量は有意な低値を示した.雌においても雄と類似した傾向が認められ,交配前14日間の体重増加量は有意な低値を示した.妊娠期間中および分娩後哺育4日までの間の体重および体重増加量には有意な変化は認められなかった.また,250 mg/kg群の雌の衛星群の体重も対照群を下回って推移し,投与35日を除く投与14日以降の体重に有意差が認められ,投与期間中の体重増加量は有意差が認められなかったものの低値傾向にあった.

 回復期間においては,雄で,250 mg/kg群の体重増加量が対照群を有意に上回り,回復傾向が認められた.雌の衛星群も,体重に有意差は認められなくなり,回復傾向が認められた.

6) 摂餌量

 250mg/kg群で,雄は投与1日の摂餌量が有意な低値を示した.同群の雌では有意な変化は認められなかったが,雌の衛星群では,投与1日の摂餌量は低値傾向にあった.

 回復期間においては,雄は回復7日の摂餌量が有意な高値を示した.雌の衛星群では有意な変化は認められなかった.

7) 雄の尿検査(Table 1)

 投与期間中の検査において,250 mg/kg群で,尿量の有意な増加が認められ,尿比重並びにカリウムおよびタンパクの濃度は有意な低値を示し,ナトリウム濃度も低値傾向にあった.しかしながら,カリウムおよびナトリウムの18時間における総排泄量には有意な変化は認められなかった.タンパクについては50 mg/kg群でも有意な低値が認められたが,背景データにおける正常範囲は“±〜++”で,その62 %は“+”を示し,正常範囲のものであった.

 回復期間中の検査では,投与期間中の検査で認められた変化は認められず,ケトン体濃度の有意な低値のみが認められた.

8) 血液学検査(Table 2)

 250 mg/kg群で雄に赤血球数および血色素濃度の有意な減少,ヘマトクリット値の減少傾向並びに網状赤血球数およびメトヘモグロビン濃度の有意な増加が認められ, 平均赤血球容積は有意な高値,平均赤血球血色素濃度は有意な低値を示した.また,同群の雌においても,メトヘモグロビン濃度の有意な増加および網状赤血球数の増加傾向が認められた.なお,雌のヘマトクリット値において,2 mg/kg群で有意な低値,50 mg/kg群で有意な高値が認められたが,変化に用量相関性は認められず,いずれも背景データにおける正常範囲の値であり,被験物質の投与とは無関係な偶発的所見と判断された.

 回復群では,各検査項目に有意な変化は認められなかった.

9) 血液生化学検査(Table 3)

 50 mg/kg 群で雌に,総コレステロールの有意な増加が認められた.250 mg/kg群では,雌に総コレステロール,GOTおよび総ビリルビンの有意な増加,雄に無機リンの有意な増加が認められた.なお,被験物質投与各群の雄のA/G比は対照群と比べて全般的に高値傾向にあり,2,10および50 mg/kg群に有意差が認められたが,変化に用量相関性は認められず,いずれも背景データにおける正常範囲の値であり,被験物質の投与とは無関係な偶発的所見と判断された.

 回復群では,各検査項目に有意な変化は認められなかった.

10) 剖検

 妊娠を成立させた雄において,250 mg/kg群で6匹中脾臓の大型化が2匹,胸腺の赤色域が1匹に認められた.また,精巣の小型化(片側性)が対照群で7匹中1匹および250 mg/kg群で1匹に認められた.受胎,分娩から哺育まで順調であった雌において,変化は認められなかった.一方,10 mg/kg群で認められた交尾不成立の1対では,雌雄とも変化は認められなかった.交尾は成立したが受胎しなかった対照群の1対および10 mg/kg群の1対では,いずれも雌の子宮に正常範囲を越えた中等度の子宮腔水腫が,また2 mg/kg群の1対では雄に精巣の小型化(両側性)が認められ,50 mg/kg群の1対および250 mg/kg群の1対では雌雄とも変化は認められなかった.2,10および250 mg/kg群で各1匹に認められた分娩後全児死亡の雌には変化は認められなかった.

 投与期間中に瀕死状態となったため切迫屠殺した250 mg/kg群の3匹では,脾臓および胸腺の小型化および副腎の大型化が共通して認められ,さらに腎臓の大型化が2匹および肝臓の大型化が1匹に認められた.

 回復群においては,対照群の1対の交尾不成立の雄を含めて,いずれの雌雄にも変化は認められなかった.

11) 器官重量(Table 4)

 250 mg/kg群で,雌雄に腎臓,雄に肝臓,雌に甲状腺の相対重量並びに雄の脾臓の絶対および相対重量のいずれも有意な増加が認められた.

 なお,雌の脾臓で10 mg/kg群は相対重量,50 mg/kg 群は絶対および相対重量の有意な低値が認められたが,250 mg/kg群では変化は認められず,用量相関的な所見ではなかった.

 回復群では,各器官の重量に変化は認められなかった.

12) 病理組織学検査(Table 5, 6)

(1) 生存動物

A. 生殖器系以外の器官

 被験物質の投与に起因する変化が,肝臓,腎臓および脾臓に認められた.

a. 肝臓

 肝細胞肥大が50mg/kg群で雄1匹,雌1匹に,250mg/kg群では雄4匹および雌3匹に認められ,250mg/kg群の雄の発現率には有意差が認められた.肥大した肝細胞は小葉中心帯に限局する軽度な変化であった.回復群では雄の1匹に肝細胞肥大が残存していたが,他の動物には認められず,明らかな回復傾向を示した.肝細胞肥大以外に,微小肉芽腫および巣状壊死が散発的な発現したが,被験物質の投与との関連性は認められなかった.

b. 腎臓

 好塩基性尿細管が雄では対照群の軽度例1匹に対して250 mg/kg群では軽度あるいは中等度例が5匹,雌においても250 mg/kg群にのみ軽度例が3匹認められ,雌雄とも好塩基性尿細管の発現率に増加傾向が認められた.また,同群で乳頭壊死が雄の3匹および雌の4匹に認められ,雌の1匹では鉱質沈着を伴っていた.さらに,対照群の雄の近位尿細管上皮には硝子滴が軽度に認められたが,250 mg/kg群では硝子滴が増加し,5匹全例が中等度な変化を示した.また,250 mg/kg群で主に皮髄境界部における蛋白円柱が雄の3匹,尿細管のびまん性拡張が雌の2匹に認められた.これらの変化のうち,雄の好塩基性尿細管および中等度硝子滴並びに雌の乳頭壊死の発現率には有意差が認められた.回復群では,雌雄とも好塩基性尿細管および乳頭壊死は残存していたが,発現率あるいは変化の程度から回復傾向が伺われ,またその他の変化は認められず,回復していた.

 以上の変化に加えて,孤立性嚢胞が雌雄に,皮質リンパ球浸潤が雄に,皮髄境界部鉱質沈着が雌に認められたが,被験物質の投与との関連性は認められなかった.また,雄で近位尿細管上皮の好酸性小体が50および250 mg/kg群に,雌では硝子円柱が250 mg/kg群に認められたが,いずれも1〜2匹の発現で,ラットに自然発生的に認められる所見であることから,被験物質の投与とは無関係な変化と判断された.

c. 脾臓

 脾臓の赤脾髄におけるヘモジデリン沈着は,対照群では雌雄全例が軽度であったが,50 mg/kg群の雄の1匹並びに250 mg/kg群の雄の5匹および雌の4匹には中等度の沈着が認められ,250 mg/kg群の雌雄の中等度沈着の発現率には有意差が認められた.また,雄で,赤脾髄の髄外造血は対照群を含む 50 mg/kg以下の群では全例が軽度であったが,250 mg/kg群では3匹が中等度で,髄外造血の亢進傾向が認められた.回復群では,雌雄のヘモジデリン沈着および雄の髄外造血亢進とも回復傾向が認められた.

d. その他の器官

 対照群および250 mg/kg群の雌雄あるいはそのいずれかに,肺の動脈壁鉱質沈着および泡沫細胞あるいはマクロファージの集簇並びに胸腺の出血が認められたが,軽度,かつ,散発的な変化で,被験物質の投与との関連性は認められなかった.また,雌の甲状腺に相対重量増加が認められたが,病理組織学的には変化は認められなかった.

B. 生殖器系器官

 被験物質の投与に起因する変化は,認められなかった.妊娠を成立させた雄において,250 mg/kg群で精巣の精細管萎縮が2匹(両側性1匹,片側性1匹)に認められたが対照群にも1匹(両側性)に認められ,精子形成サイクル検査でも有意な変化は認められなかった.また,前立腺および精嚢に変化は認められなかった.なお,対照群の精巣精細管萎縮例では精巣上体の精巣上体管内精子の減少を伴っていた.妊娠,分娩から哺育まで順調だった雌では,卵巣および子宮に変化は認められなかった.

 一方,対照群および10mg/kg群で認められた交尾は成立したが妊娠しなかったそれぞれ1対では,いずれも雌で子宮の性周期に伴う変化を越えた子宮腔拡張および内膜上皮の空胞変性が認められ,さらに10mg/kg群の例の雄には精巣の精細管萎縮が認められた.2mg/kg群で認められた不妊の1対においても,雄で精巣の精細管萎縮および精巣上体の精巣上体管内精子減少が認められた.10mg/kg群で認められた交尾不成立の1対並びに50および250mg/kg群で認められた不妊の各1対では雌雄の生殖器系器官および雌の下垂体に変化は認められず,10,50および250mg/kg群で各1匹に認められた分娩後全児死亡の雌においても,卵巣,乳腺および下垂体に変化は認められなかった.

(2) 切迫屠殺動物

 投与期間中に切迫屠殺した250 mg/kg群の雌の3匹では,肝臓の小葉中心性肝細胞肥大が2匹,腎臓のびまん性尿細管拡張が3匹,乳頭壊死が1匹,脾臓の比較的重度なヘモジデリン沈着が3匹に認められたほか,胸腺の皮質萎縮,脾臓およびリンパ節のリンパ系細胞低形成並びに副腎の皮質細胞肥大が3匹に共通して認められた.

2. 生殖発生毒性

1) 親動物に及ぼす影響(Table 7)

(1) 性周期検査

 群分けの翌日から交配前までにおいて,対照群の1匹を除いて全例が3.7〜5.5日で発情を回帰し,対照群を含む各投与群の平均性周期は4.0〜4.2日であり,有意な変化は認められなかった.

 なお,前述の対照群の1匹は,群分け時までの性周期は順調であったが,その翌日からスメア像が発情休止期となり,13日目以降に性周期が回復した.

(2) 交尾率および受胎率

 交尾は,10 mg/kg群の1対を除いて全例で成立し,交尾成立までに要する日数や受胎率にも有意な変化は認められなかった.10 mg/kg群の交尾不成立の雌は,交配前までの性周期は順調であり,交配開始日(0日)に発情後期・()期像を示した.交配中の膣垢検査において交配開始後2日から発情休止期が持続し,交配開始後14日(交配終了日)に発情回帰兆候が認められた.妊娠不成立は,対照群を含む各投与群でそれぞれ1対ずつ認められた.これらの対は,交尾確認された日のスメア像が発情後期()から()の中間像を示すもの(対照群1匹,10 mg/kg群1匹),発情休止期()像を示すもの(250 mg/kg群1匹)および発情後期()像を示すもの(2 mg/kg群と50 mg/kg群各1匹)で,このなかで50 mg/kg群の雌は,交配開始後2日より発情休止期が持続し,発情前期()像を認めず,交配終了日に交尾が確認された.

(3) 黄体数,着床数および着床率

 250 mg/kg群で,黄体数の低値傾向が認められ,着床数は有意な低値を示したが,着床率には変化は認められなかった.

(4) 出産率および妊娠期間

 対照群を含む50mg/kg以下の群では,受胎した動物の全例に出産が認められた.250mg/kg群においても受胎した10匹中2匹は分娩前に瀕死状態のため切迫屠殺した.250mg/kg群の生存した8匹全例に出産が認められ,全ての群で出産率は100%であった.また,妊娠期間にも変化は認められなかった.

(5) 分娩および哺育状態

 分娩状態の異常は認められなかった.哺育状態については,10 mg/kg群の1匹,50 mg/kgの1匹および250 mg/kg群の1匹でいずれも全児が哺育1日までに死亡したが,用量相関的な変化ではなかった.これらの母動物は,いずれも分娩後哺育行動をとらなかった.

2) 新生児に及ぼす影響(Table 8)

(1) 生存性および体重

 250 mg/kg群の出産児数は低値傾向にあり,哺育0日の生児数は有意な低値を示した.同群の出生率もやや低値傾向にあったが,有意差は認められなかった.性比には変化は認められなかった.

(2) 形態

 矮小児が10 mg/kgで1匹(発現率0.7 %)および50 mg/kg群で1匹(0.6 %)認められた他は,いずれの群においても外表および内臓異常を有する児動物は認められなかった.内臓変異については,胸腺の頸部残留が対照群を含む各群(1.3〜4.2 %)に,左臍動脈遺残が2 mg/kg群(0.6 %)および10 mg/kg群(0.7 %)に,蛇行尿管が対照群を含む各群(1.0〜2.1 %)に,また,尿管拡張が2 mg/kg群(0.6 %)でのみ認められ,これらの内臓変異を有する児動物は,対照群で9匹(5.5 %),2 mg/kg群で7匹(4.4 %),10 mg/kg群で6匹(4.2 %),50 mg/kg群で5匹(3.0 %)および250 mg/kg群で3匹(2.7 %)であった.これらの内臓変異の発現率には対照群と被験物質投与群との間に有意差はなく,また,用量に相関した増加傾向も認められなかった.

考察

1. 反復投与毒性について

 ジメチルアニリンの毒性について,2,6-ジメチルアニリンの異性体である2,3-体3),2,4-体(未発表)および3,4-体4)のラットでの反復投与毒性については知られており,これらに共通してメトヘモグロビン血症に伴う溶血性貧血所見および溶血性貧血と関連する造血器系組織の病理学的変化並びに小葉中心性肝細胞肥大を特徴とする肝臓に対する影響が認められている.また,腎臓においては,2,3-体で乳頭壊死および尿細管拡張などの変化,2,4-体および3,4-体で雄の近位尿細管上皮の硝子滴増加が認められている.今回実施した2,6-ジメチルアニリンのラットを用いる28日間の反復経口投与毒性試験においても,血液,肝臓,脾臓,腎臓などに対する毒性影響が認められた.

 血液に対する影響について,250mg/kg群で雌雄にメトヘモグロビン濃度の増加が認められ,さらに雄では赤血球数,血色素濃度およびヘマトクリット値の減少傾向並びに平均赤血球容積の高値および平均赤血球血色素濃度の低値が認められた.これらのメトヘモグロビン血症および貧血所見と関連して,脾臓に赤血球の破壊亢進を示唆するヘモジデリン沈着の増加が雌雄に認められた.血液生化学検査で250mg/kg群の雌に認められた総ビリルビンの増加も,後述の肝臓に対する影響に加えて,赤血球の破壊亢進と関連した変化である可能性が考えられる.さらに,同群で網状赤血球の増加傾向が雌雄に,脾臓の髄外造血巣の増加傾向が雄に認められたが,これらは貧血に対する代償性の造血亢進を示唆する所見と考えられる.また,250mg/kg群の雌雄で認められた脾臓重量の増加は,これらの病理組織学的変化によるものと思われる.

 芳香族アミン化合物はメトヘモグロビン血症に伴う溶血性貧血を惹起し5),前述の異性体においても溶血性貧血の発現が確認されているが,2,6-ジメチルアニリンにおいても血液に対する同様の影響を有するものと考えられる.

 なお,50mg/kg群で脾臓のヘモジデリン沈着が対照群で認められた沈着の程度を上回る雄の1匹を認めたが,当該例の血液学検査所見は正常範囲のもので,回復群においては同程度のヘモジデリン沈着が対照群の1匹にも認められていることから,被験物質の投与による血液に対する影響を示唆するものではないと判断された.

 肝臓に対する影響について,250mg/kg群で雄に肝臓相対重量の増加が認められ,病理組織学検査では肝臓に小葉中心性肝細胞肥大が50mg/kg群で雄1匹,雌1匹に,250mg/kg群では雄4匹および雌3匹に認められた.血液生化学検査で50mg/kg以上の群で雌に認められた総コレステロ−ルの増加および250mg/kg群で雌に認められたGOTおよび総ビリルビンの増加も,肝臓に対する影響と関連する変化と考えられる.

 腎臓に対する影響について,病理組織学検査で250mg/kg群の雌雄に乳頭壊死および障害された尿細管の再生像と考えられる好塩基性尿細管の増加が認められ,さらに雄では近位尿細管上皮の硝子滴の増加および蛋白円柱,雌では尿細管のびまん性拡張が認められ,雌雄とも腎臓相対重量は高値を示した.雄の尿検査で同群に認められた尿量の増加や血液生化学検査で雄に認められた無機リンの増加も,腎臓に対する影響と関連する変化と考えられる.

 なお,尿の比重並びにナトリウム,カリウム,タンパクおよびケトン体濃度の低値傾向は尿量の増加に伴うもので,ナトリウム,カリウムの18時間総排泄量には変化は認められなかった.

 ジメチルアニリンの腎臓に対する影響として,前述したように2,3-体で乳頭壊死および尿細管拡張などの変化,2,4-体および3,4-体で雄の近位尿細管上皮の硝子滴増加が認められているが,2,6-体ではこれら2,3-体と2,4-体および3,4-体で認められる変化のいずれもが認められた.

 以上の変化に加えて,250mg/kg群で雌雄に投与開始初期の軽度な自発運動低下や眼瞼下垂,握力および自発運動量の低値および体重増加の抑制が認められたほか,雌の3匹は急激な一般状態の変化を伴って瀕死状態となったため切迫屠殺した.これらの動物には生存動物で認められた変化と質的に類似した肝臓,腎臓および脾臓における病理学的変化,メトヘモグロビン血症並びに総ビリルビン,総コレステロール,トリグリセライド,LDH,GOT,GPTおよびg-GTPの高値などの肝機能の異常を示唆する所見や尿素窒素およびクレアチニンの高値などの腎機能の異常を示唆する所見が認められた.また,副腎の皮質細胞肥大,胸腺の皮質萎縮並びに脾臓およびリンパ節のリンパ系細胞低形成が認められたが,これらの変化は生存動物では認められていないことから,被験物質の毒性が重度に発現したことによるストレスの非特異的影響6)によるものと推察される.

 なお,雌に甲状腺の相対重量増加が認められたが病理組織学的には変化は認められず,毒性影響を示唆する所見ではないと判断された.さらに,雌雄に流涎が認められたが投与直後の変化であり,詳細な臨床観察で自立神経系に対する影響を示唆する変化も認められていないことから,被験物質の毒性影響によるものではなく,投与液に対する忌避反応と解せられる.

 50mg/kg群においては,雌雄に自発運動低下および肝臓の肝細胞肥大例,さらに雌には総コレステロールの増加が認められ,被験物質の投与による毒性影響が軽度に発現しているものと判断された.

 なお,雄の尿検査でタンパク濃度の低値が認められたが正常範囲の変化で,対照群がやや高値傾向にあったことによると思われ,他に関連する所見も認められなかったことから,毒性学的意義はないものと判断された.また,回復群において,尿中ケトン体濃度の増加が認められたが,投与期間中の検査では認められなかった変化であり,偶発的所見と考えられる.

2.生殖発生毒性について

 親動物に対して,250mg/kg群で黄体数の低値傾向および着床数の有意な低値が認められ,同群の児動物においては,総出産児数の低値傾向および生児数の有意な低値が認められた.これらの結果は,卵巣における卵子形成あるいは排卵に対する何らかの影響を示唆しているものと考えられるが,卵巣および下垂体を含む生殖系および内分泌系器官に病理組織学的変化は認められず,発現機序を明らかにすることは出来なかった.

 なお,用量相関性の認められない交尾不成立例,妊娠不成立例および全児死亡の母動物が各投与群に散発的に認められた.

 10mg/kg群の1対に認められた交尾不成立は,雌雄ともに病理学的異常は認められず,雌は性周期検査の結果から,スメア採取などの外的刺激によって偽妊娠を起したものと判断され,これが交尾不成立の原因になったものと考えられる.また,対照群の雌において,交配前に発情休止期が約12日間持続した1匹についても偽妊娠を起こしたものと判断された.

 妊娠不成立が対照群を含む各投与群でそれぞれ1対ずつ認められたが,雌雄ともに病理学的異常は認められなかった.分娩後哺育行動をとらず,分娩の翌日までに全児が死亡した母動物が10,50および250mg/kg群で1匹ずつみられた.いずれも一般状態および下垂体を含む生殖系器官に異常は認められなかったことから,投与とは無関係な偶発的所見と判断された.

 児動物においては,被験物質投与群で少数例の外表異常が,また,対照群を含む各投与群で内臓変異がみられたが,いずれも自然発生的に認められるもので,発現率に有意差および用量相関性も認められないことから,催奇形性を示唆する変化ではないと判断された.

 以上の結果から,2,6-ジメチルアニリンのラットへの反復経口投与による毒性影響が,主に血液,肝臓,腎臓および脾臓などに認められ,親動物への反復投与による無影響量(NOEL)は雌雄ともに10mg/kg/dayと結論された.また,雄親動物の生殖能に対する無影響量は250mg/kg/day,雌親動物の生殖能および児動物の発生については,着床数の低値および生児数の低値が認められ,無影響量はいずれも50mg/kg/dayと結論された.

文献

1) Richardson ML and Gangolli S:In "The Dictionary of Substances and their Effects", Volume 3, The royal society of chemistry, England(1993) pp.592-594
2) IUCLID(International Uniform Chemical Information Data Base)Data Set, EU(2000).
3) 榎並倫宣ら:2,3-ジメチルアニリンのラットを用いる28日間反復経口投与毒性試験.化学物質毒性試験報告,5:133-146(1997)
4) 井上博之ら:3,4-ジメチルアニリンのラットを用いる28日間反復経口投与毒性試験.化学物質毒性試験報告,3:143-156(1996)
5) 谷本義文:「血液学-ヒトと動物の接点-」清至書院,東京(1982)p.708.
6) 日本毒性病理学会編:「毒性病理組織学」アイペック,東京(2000)pp.383-433.

連絡先
試験責任者: 山口真樹子
試験担当者: 野田 篤,伊藤雅也,赤木 博,
 杉本忠美,藤波志保,昆 尚美,
 伊藤義彦
7畜産生物科学安全研究所
〒229-1132 神奈川県相模原市橋本台3-7-11
Tel 042-762-2775 Fax 042-762-7979
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Correspondence
Authors: Makiko Yamaguchi(Study director)
Atsushi Noda, Masaya Ito, Hiroshi
Akagi, Tadami Sugimoto
Shiho Fujinami, Naomi Kon,
Yoshihiko Ito
Research Institute for Animal Science in Biochemistry and Toxicology
3-7-11 Hashimotodai, Sagamihara-shi, Kanagawa, 229-1132, Japan
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