1-ナフチル酢酸のラットを用いる28日間反復経口投与毒性試験

Twenty-eight-day Repeat Dose Oral Toxicity Test of 1-Naphthylacetic acid in Rats

要  約

 OECDを中心にして,既存化学物質点検作業が実施されているが,日本独自の点検作業として,1-ナフチル酢酸の毒性を明らかにするため,SD系ラットを用いた強制経口投与による28日間反復投与毒性試験を実施した.本試験は,環保業第700号,薬発第1039号,61基局第1014号(昭和61年12月5日)の「新規化学物質に係る試験の方法について」に準拠し,環企研第233号,衛生第38号,63基局第823号(昭和63年11月18日)の「新規化学物質に係る試験及び指定化学物質に係る有害性の調査の項目等を定める命令第4条に規定する試験施設について」に基づいて実施したものである.

 ラットは1群雌雄各5匹で対照群を含む4群,さらに対照群および高用量群には雌雄各5匹の回復群を設け,計60匹を使用した.

 1-ナフチル酢酸は,0.5%カルボキシメチルセルロース・ナトリウム水溶液に懸濁し,0,25,125および625 mg/kgを毎日1回,4週間連続経口投与し,一般状態の観察,体重測定,摂餌量測定,血液学的検査,血液凝固能検査,血液生化学的検査,尿検査,器官重量測定および病理学的検査を行った.なお,回復期間は2週間とし,投与終了時と同様な検査を実施した.

 その結果は,次のとおりである.

 一般状態の観察では,雄の625 mg/kg群で流涎が認められたが,投与前の一過性の発現であることから被験物質の直接的影響とは判断されなかった.

 体重は雌雄の625 mg/kg群で増加が抑制され,摂餌量は,雌の同群で投与前半に減少が認められた.

 血液学的検査の結果,雄の625 mg/kg群でヘマトクリット値,ヘモグロビン量およびフィブリノーゲン量の低値が認められた.

 血液生化学検査の結果,625 mg/kg群の雌雄で中性脂肪の高値が認められ,雄の同群で尿素窒素,クレアチニン,総ビリルビンおよびALPの高値が,雌の625 mg/kg群で尿素窒素の低値が認められた.

 尿検査の結果,雌雄の125または625 mg/kg群で尿量の増加,雄の625 mg/kg群で白血球数2+および上皮細胞2+動物の増加,雌の125および625 mg/kg群で白血球数3+動物,さらに625 mg/kg群でケトン体1+,ビリルビン1+,ウロビリノーゲン1.0 E.U./dl,上皮細胞3+動物が認められた.

 器官重量測定の結果,雄では125および625 mg/kg群で脾臓の実重量および相対重量の低値,腎臓相対重量の高値が認められ,さらに625 mg/kg群で肝臓相対重量が高値を示した.一方,雌では125および625 mg/kg群で肝臓相対重量が高値を示し,さらに625 mg/kg群で肝臓実重量の高値,卵巣実重量の低値が認められた.

 回復試験の結果,体重,臨床検査および器官重量で認められた変化は回復が認められた.

 病理学的検査の結果,組織学的検査では被験物質投与の影響が示唆する病変として肝臓の周辺性脂肪化および肝細胞腫脹が雌の被験物質投与群で観察された.しかし,これらの変化は回復試験終了時には観察されなかったことから可逆性変化と考えられた.

 以上の結果,中毒量は雌雄とも125 mg/kg,無影響量は雌雄とも25 mg/kgと判断された.

材料および方法

1.被験物質

 1-ナフチル酢酸(CAS No.86-87-3,東洋化成工業(株)製造,(社)日本化学工業協会提供)は白色粉末で,水に難溶,分子式C12H10O2,分子量186.22の物質である.本試験に用いたロット2C1002の純度は99.7%であった.

2.供試動物

 供試したラット[Crj: CD(SD)系,SPF]は日本チャールス・リバー(株)(神奈川県厚木市)から4週齢で購入した.

 動物を検収後,試験環境に9日間馴化させた後,6週齢で投与を開始した.動物はあらかじめ体重によって層別化し,無作為抽出法により各試験群を構成するように群分けした.動物の識別は,個別飼育ケージに動物標識番号(Animal ID-No.) を付すことにより行った.投与開始時の体重は雄で130〜144 g,雌で112〜122 gであった.

3.飼育条件

 動物はバリアシステムの飼育室(W 4.2×D 8.2×H 2.5 m, 86.1 cm^3)で飼育し,環境調節の目標値は温度23±2℃,相対湿度55±10%,換気回数20回/時,照明150〜300 lux ,12時間(午前7時点灯,午後7時消灯)とした.

 (株)東京技研サービス(東京都府中市)の水洗式飼育機(W 674.2×D 48.0×H175.5 cm)を使用し,金属製前面・床網目飼育ケージ(W 20.0×D 28.2×H 18.0 cm,飼育ケージ・スペース10,152cm^3 )に動物を1匹ずつ収容し,オリエンタル酵母工業(株)(東京都中央区)製造の放射線滅菌改良NIH公開ラット・マウス飼料および水道水を自由に摂取させた.飼育ケージは隔週1回,給餌器は週1回取り換えた.

 なお,動物の馴化期間を含め,投与および回復期間中,データの信頼性に影響を及ぼしたと思われる環境要因の変化はなかった.

4.試験群の構成

 試験群の構成は1群雌雄各5匹とし,0および625 mg/kg群に雌雄各5匹の回復群を設け,計60匹を使用した.

[用量設定理由]

 用量設定のための2週間投与による予備試験を0,200,600および1,800 mg/kg/dayの4用量で実施した.その結果,雌の1,800 mg/kg群で死亡が1例認められた.また,雄のすべての被験物質投与群で脾臓実重量が低値を示し,雄の600および1,800 mg/kg群,雌の200 mg/kg以上の群で肝臓実重量および相対重量の高値が認められた.本試験では雌雄とも600mg/kg程度で確実な影響がでることが推察され,無影響量は雄の脾臓実重量を考慮すると予備試験の低用量の1/10〜1/5程度と推察された.従って,本試験の最高用量を625 mg/kgと設定し,以下公比5で除し中用量を125 mg/kg,低用量を25 mg/kgとした.別に担体(0.5%カルボキシメチルセルロース・ナトリウム水溶液)のみを投与する対照群を設けた.

5.投与方法

 被験物質の投与経路は経口とした.被験物質は0.5%カルボキシメチルセルロース・ナトリウム水溶液に懸濁し,胃ゾンデを用いて経口投与した.投与容量は体重100 g当り0.5mlとした.対照群には担体のみを投与した.

6.投与液の調製,分析

 被験物質は,各用量(25,125および625 mg/kg)ごとに所定量を精秤し,メノー乳鉢を用いて0.5%カルボキシメチルセルロース・ナトリウム水溶液(和光純薬工業(株))に懸濁した.投与液は調製後,冷蔵庫保存で1週間安定であることが確認されているので,本試験においては毎週1回調製を行った.投与液の濃度分析をすべての群に関し投与1および4週の調製液について実施した結果,設定濃度の89.6〜110%の範囲であり,適切に調製されていた.

7.投与期間

 投与期間は28日間とし,投与終了後0および625 mg/kg群について2週間の回復試験を実施した.

8.観察,測定および検査

1)一般状態の観察

 全動物を毎日午前,午後の2回(休日は1回)観察し,中毒症状の有無,行動異常,死期の迫った動物および死亡動物の有無等を記録した.

2)体  重

 投与開始から回復試験終了時まで,毎週1回測定した.

3)摂餌量

 毎週1回給餌した残量を測定し,飼料摂取量(g/week)を算出した.

4)臨床検査

 投与終了時および回復期間終了時の計2回実施した.採血するに当り,動物は約16時間絶食させた.動物をエーテルで麻酔後開腹し,腹部大動脈から採血した.

a.血液学的検査

 検査にはEDTA-3Kを添加した初血を用いた.

白血球数(WBC:暗視野板法),赤血球数(RBC:暗視野板法),ヘモグロビン量(HGB:シアンメトヘモグロビン法),ヘマトクリット値(HCT:全赤血球の容積より補正),平均赤血球容積(MCV:RBC, HCTより算出),平均赤血球血色素量(MCH:HGB, RBCより算出),平均赤血球血色素濃度(MCHC:HGB, HCTより算出),血小板数(PLT:暗視野板法)および白血球百分率(フローサイトケミストリー法)を血液自動分析装置THMS H6000(米国テクニコン社)を用いて測定した.

 網赤血球(RC)率算定用に,全血をキャピロット(テルモ(株),東京都渋谷区)で染色後,血液塗抹標本を作製し保管した.

 また,クエン酸ソーダ添加血液の血漿について,プロトロンビン時間(Quick 1 段法),活性化部分トロンボプラスチン時間(クロット法)およびフィブリノーゲン量(トロンビン時間法)を血液凝固自動測定装置KC-40(独国 Amelung社)を用いて測定した.

b.血液生化学検査

 血清を用いて,総蛋白(ビューレット法),アルブミン(B.C.G.法),A/G比(計算値),血糖(グルコースオキシダーゼ法),中性脂肪(酵素法),総コレステロール(酵素法),尿素窒素(BUN:ウレアーゼ改良法),総ビリルビン(ジアゾ色素法),カルシウム(アルセナゾ型Я破 法ぬ亀.螢鵝淵皀螢屮妊鷸瀬▲鵐皀縫Ε猖 法ぅ淵肇螢Ε燹陛填頬 法ぅリウム(電極法)および塩素(電極法)をEKTACHEM 700N(米国コダック社)で,クレアチニン(アルカリ性ピクリン酸比色法),グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT:Karmen改良法),グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(GPT:Karmen改良法),γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(γ-GTP:Szasz改法)およびアルカリホスファターゼ(ALP:Bessey-Lowry-Brock改良法)をCentrifiChem ENCORE供癖胴颯戞璽ー社)で測定した.

c.尿検査

 血液学検査に先立ち,採尿器を用いて24時間(午前10時から翌日午前10時まで)尿を採取し,尿量,色調および濁度を検査後,尿比重計UR-S((株)アタゴ,東京都板橋区)を用いて尿比重を測定した.また,尿を遠心分離後Sternheimer変法により沈渣を染色し,鏡検した.

 pH,潜血,ケトン体,糖,蛋白,ビリルビンおよびウロビリノーゲンについて,N-マルティスティックスSG試験紙(マイルス・三共(株),東京都中央区)およびCLINITEK 200(米国マイルス社)を用いて測定した.

5)病理学検査

 病理解剖は投与終了時および回復期間終了時に動物をエーテル麻酔し,放血致死させ実施した.肉眼的異常を病理解剖所見記録シートに記録した.また,脳,肝臓,腎臓,脾臓,副腎,精巣および卵巣について重量を測定し,器官重量・体重比を算出した.

 上記重量測定器官と下垂体,眼球,甲状腺(上皮小体を含む),心臓,肺,胃,膀胱,骨髄(大腿骨)および肉眼所見で変化が認められた器官・組織は10%中性緩衝ホルマリン液で固定した.

 病理組織学検査は固定した器官・組織のうち,対照群と高用量群の心臓,肝臓,脾臓,腎臓および副腎について行った.常法に従って薄切標本を作製し,ヘマトキシリン・エオジン染色し鏡検した.

6)データの記録および統計分析

 各試験群の体重,摂餌量,血液学的検査値,生化学検査値,尿検査値(尿量および尿比重のみ),器官重量および器官重量・体重比は,下記に示した自動判別方式に従い,最初にBartlettの等分散検定を実施した.等分散の場合は一元配置の分散分析を行い,分散が有意で各群の標本数が同数の場合はDunnettの多重比較検定,各群の標本数が異なる場合はDuncanの多重範囲検定で対照群と各投与群間の有意差を検定した.Bartlettの等分散検定で不等分散の場合はKruskal-Wallisの順位検定を実施し,有意の場合はノンパラメトリックのDunnettの多重比較検定で対照群と各投与群間の有意差を検定した.

なお,用量相関性については,Jonckheereの傾向検定を用いて有意差を検定した.

 有意水準は5および1%の片側検定で実施した.

試験結果

1.死亡率

 投与期間中,雌雄とも対照群を含むすべての被験物質投与群で死亡例は認められなかった.また,回復期間中,雌雄とも対照群および625 mg/kg群で死亡例は認められなかった.

2.一般状態

 投与期間中,雄の625 mg/kg群で1例に流涎が認められた.また,雌の125 mg/kg群で1例に外傷が認められた.その他,投与期間および回復期間を通じて,雌雄いずれの群にも異常動物は観察されなかった.

3.体  重(Fig. 1)

 投与2および3週に雌雄の625 mg/kg群で対照群に比較して低値が認められた.これらの群では,投与4週においても対照群に比較して低値の傾向にあったが,統計学的有意差は認められなかった.4週間の体重増加量は,対照群に比較して625 mg/kg群の雄で24 g,雌で8 g低値であった.

 回復期間中,雌雄とも625 mg/kg群は体重の回復傾向が認められ,2週間の体重増加量も雌雄とも対照群より大であった.

4.摂餌量

 雄では,いずれの被験物質投与群も対照群との間に明確な差はなかった.

 雌では,625 mg/kg群で投与後1および2週に対照群に比較して僅かに減少した.

 回復期間中は,雌雄の625 mg/kg群は対照群と差がなかった.

5.血液学的検査(Table 1)

 投与終了時の結果

 雄の625 mg/kg群で,対照群に比較してヘマトクリット値およびヘモグロビン量が低値を示した.
 その他,雄の25および125 mg/kg群でヘマトクリット値の低値が,25 mg/kg群でヘモグ ロビン量の低値がみられたが,軽微で用量相関性のない変化であった.

 回復試験終了時の結果

 雄の625 mg/kg群で対照群に比較してヘマトクリット値,ヘモグロビン量,赤血球数および平均赤血球色素濃度が僅かに低値を示したが,いずれも生理的変動の範囲内の値であった.その他の項目は雌雄とも対照群と差がなかった.

6.血液凝固能検査(Table 1)

 投与終了時の結果

 雄では,625 mg/kg群で対照群に比較してフィブリノーゲン量が低値を示した.

 雌では,625 mg/kg群で対照群に比較して活性化部分トロンボプラスチン時間が短縮を示したが,生理的変動の範囲内の値であった.

 回復試験終了時の結果

 雌雄の625 mg/kg群は,プロトロンビン時間,活性化部分トロンボプラスチン時間およびフィブリノーゲン量ともに対照群と差がなかった.

7.血液生化学検査(Table 2)

 投与終了時の結果

 雄では,対照群に比較して625 mg/kg群で尿素窒素,クレアチニン,中性脂肪,総ビリルビンおよびALPが高値を示した.その他,すべての被験物質投与群で血糖およびカルシウムの低値が,さらに25および125 mg/kg群でGOT,25 mg/kg群で尿素窒素の高値が認められたが,用量相関性のない変化または生理的変動の範囲の変化であった.

 雌では,625 mg/kg群で,対照群に比較して尿素窒素が低値を示し,中性脂肪が高値を示した.

 回復試験終了時の結果

 雌の625 mg/kg群で対照群に比較してGOTが僅かに低値を示したが,投与終了時には認められなかった変化であり,変化の程度も僅かで低値を示していることから意義のある変化ではなかった.その他の項目は雌雄とも対照群と差がなかった.

8.尿検査 (Table 3)

 投与終了時の結果

 雄では,125および625 mg/kg群で対照群に比較して尿量が増加した.また,この両群ではpH 8動物が増加し,さらに625 mg/kg群では黄褐色尿,ケトン体+/- 動物が,沈渣で白血球数2+および上皮細胞2+動物が増加した.その他,25 mg/kg群で尿比重が高値を示したが,用量相関性のない変化であった.

 雌では,125および625 mg/kg群で対照群に比較して尿量が増加し,尿比重が低値を示した.また,この両群では沈渣で白血球数3+動物が認められ,さらに625 mg/kg群ではケトン体1+,蛋白100 mg/dl,ビリルビン1+,ウロビリノーゲン1.0 E.U./dl,沈渣で上皮細胞1+動物が認められた.

 回復試験終了時の結果

 雌雄とも625 mg/kg群はすべての検査項目で対照群との間に明確な差は認められなかった.

9.器官重量(Table 4)

 投与終了時の結果

 雄では,125および625 mg/kg群で対照群に比較して脾臓重量が低値を示した.

 雌では,625 mg/kg群で肝臓重量が高値を示し,卵巣重量が低値を示した.

 回復試験終了時の結果

 雄の625 mg/kg群で対照群に比較して脳重量が低値を示したが,正常範囲内の値であった.その他の器官は雌雄とも625 mg/kg群と対照群とで差は認められなかった.

10.器官重量・体重比(相対重量)(Table 4)

 投与終了時の結果

 雄では,125および625 mg/kg群で対照群に比較して腎臓相対重量が高値を示し,脾臓相対重量が低値を示した.さらに625 mg/kg群で肝臓相対重量比が高値を示した.

 雌では,125および625 mg/kg群で対照群に比較して肝臓相対重量比が高値を示した.

 回復試験終了時の結果

 雌雄とも625 mg/kg群と対照群との間で差は認められなかった

11.病理学的検査

a)解剖所見(Table 5)

 投与終了時の剖検所見では被験物質投与の影響が示唆される変化として,脾臓の萎縮が雄の125および625 mg/kg群でそれぞれ1および4例,肝臓の小葉明瞭化が,雄の625 mg/kg群で2例,雌の125および625 mg/kg群でそれぞれ2および4例,肝臓の肥大が雌の625 mg/kg群で3例に観察された.その他,観察された所見はいずれも各群に単発性の発生であった.

 回復試験終了時の計画屠殺動物では,被験物質投与の影響が示唆される変化は観察されなかった.

b)病理組織学的所見(Table 6)

 投与終了時の組織学的検査において被験物質投与群に発生数の増加を示し,被験物質投与の影響が示唆される所見が肝臓および副腎に観察された.肝臓では周辺性脂肪化が雌の0,25,125および625 mg/kg群でそれぞれ1,2,5および5例,肝細胞腫脹が雌の625 mg/kg群で2例に観察された.副腎の空胞化は雄の625 mg/kgで他群に比べ発生数の減少を示した.その他,対照群を含め肝臓の肉芽巣,リンパ球浸潤が雌雄に,髄外造血が雄に,腎臓の好塩基化が雌雄に,蛋白円柱が雄に観察された.

 上記以外に観察された所見はいずれも単発性の発生であった.

 回復試験終了時の計画屠殺動物では,被験物質投与の影響が示唆される変化は観察されなかったが対照群を含め,肝臓の肉芽巣が雌に,副腎の血管拡張および空胞化が雄に観察された.その他,観察された所見はいずれも単発性の発生であった.

考察および結論

 雌雄いずれの群にも死亡例は認められなかった.

 一般状態の観察で,投与4週に雄の625 mg/kg群の1例に流涎が認められたが,投与前の一過性の発現であることから,被験物質投与の直接的影響とは考えられなかった.

 体重は,雌雄とも625 mg/kg群で増加が抑制された.摂餌量は,雌の625 mg/kg群で投与前半期に減少が認められた.

 血液学的検査の結果,雄の625 mg/kg群でヘマトクリット値およびヘモグロビン量が低値を示した.この群では赤血球数も対照群に比較して僅かに低値であったが,統計学的に有意差が認められず,網赤血球比率の増加もみられなかった.また,血液凝固能検査に関しては,雄の625 mg/kg群でフィブリノーゲン量の低値が認められたが,変化の程度は軽微で肝臓での生成低下を反映したものと推察された.

 血液生化学検査の結果,雄の625 mg/kg群では尿素窒素およびクレアチニンの高値から腎臓に対する影響が,また,中性脂肪,総ビリルビンおよびALPの高値から肝臓・胆道に対する影響が示唆された.一方,雌の625 mg/kg群では中性脂肪のみ高値が認められた.その他,雌の625 mg/kg群で尿素窒素の低値が認められたが,被験物質投与の影響か否か明確ではなかった.

 尿検査の結果,雌雄とも125または625 mg/kg群では尿量の増加,白血球2+または3+動物,上皮細胞1+または2+動物の増加などが認められ,これらの成分が尿路由来であること,血液生化学的検査結果,器官重量とあわせ,腎臓への影響を反映した変化と考えられる.その他,雌雄で認められた変化は,発生例数や障害の程度の上から特に重要と考えられる変化ではなかった.

 器官重量測定の結果,雄では125および625 mg/kg群で脾臓の実重量および相対重量の低値,腎臓相対重量の高値が認められ,さらに625 mg/kg群で肝臓相対重量が高値であった.

 雌では125および625 mg/kg群で肝臓相対重量が高値を示し,さらに625 mg/kg群で肝臓実重量の高値,卵巣実重量の低値が認められた.

 病理学的検査の結果,被験物質投与の影響が示唆される剖検所見として,脾臓の萎縮が,雄の125および625 mg/kg群で用量相関性に観察された.また,肝臓では肥大が雌の625mg/kg群で,小葉明瞭化が雄の625 mg/kg 群,雌の125および625 mg/kg群で観察され,雌では用量相関性が認められた.組織学的所見でも,雌の肝臓において周辺性脂肪化が125および625 mg/kg群でそれぞれ全例に観察され,また,少数例ながら肝細胞腫脹が625 mg/kg群で観察された.しかし,いずれも軽度な変化であり,かつ回復試験終了時には観察されなかったことから可逆性変化と考えられた.なお,剖検時に雄の625 mg/kg群および雌の125および625 mg/kg群に見られた肝臓の小葉明瞭化を裏付ける明確な組織学的な変化は認められなかった.また,剖検所見で認められた脾臓の萎縮,脾臓および卵巣重量減少についてもこれらに対応する明瞭な組織形態学的変化は観察されなかった.

 以上のことから,本被験物質の標的器官は雌雄で肝臓,腎臓さらに雄で脾臓であり,認められた変化はいずれも可逆性の変化であった.中毒量は雌雄とも125 mg/kg,無影響量は25 mg/kg と判断された.

文献

1)大森義仁編,“化審法毒性試験法の解説改訂版,”化学工業日報社,1992.
2)吉村 功編,“毒性・薬効データの統計解析,”サイエンティスト社,1987.
3)A. Jonckheere, Bionetrika , 41, 133-145, (1954).

連絡先
試験責任者:井上博之
試験担当者:各務 進,庄子明徳,渡 修明,小林和雄,三上真一
財団法人 食品農医薬品安全性評価センター
〒437-12静岡県磐田郡福田町塩新田字荒浜 582-2
Tel 0538-58-1266Fax 0538-58-1393

Correspondence
Authors:Hiroyuki Inoue(Study director),
Susumu Kakamu,
Akinori Syoji,
Nobuaki Watari,
Kazuo Kobayashi,
Shi-nichi Mikami
Biosafety Research Center, Foods, Drugs and Pesticides(An-Pyo Center)
582-2 Shioshinden Arahama, Fukude-cho,Iwata-gun, Shizuoka, 437-12, Japan
Tel +81-538-58-1266Fax +81-538-58-1393