ρ-ニトロフェノールナトリウムのラットを用いる単回経口投与毒性試験

Single Dose Oral Toxicity Test of ρ-Nitrophenol sodium salt in Rats

要約

ρ-ニトロフェノールナトリウムをCrj:CD(SD)IGS系雌雄ラットに単回経口投与し,その毒性を検討した.なお,被験物質としては,安定でありかつ市販されているナトリウム=ρ-ニトロフェノキシド二水和物(ρ-ニトロフェノールナトリウムの二水和物)を用いた.投与量(二水和物としての量)は,雌雄とも125,250,500および1000 mg/kgの4用量とし,対照群には媒体(0.5 w/v%カルメロースナトリウム水溶液)を投与した.

500 mg/kg群の雌雄各3例と1000 mg/kg群の雄4例および雌全例が死亡した.一般状態では,250 mg/kg以上の投与群で自発運動の減少および腹臥/横臥,500 mg/kg以上の投与群で強直性痙攣がみられ,死亡動物は投与直後から投与30分後の間に認められた.一方,生存動物にみられた症状は,投与2時間後までに全て消失した.体重推移および剖検では,雌雄ともに被験物質投与による変化は認められなかった.

以上の結果から,本試験条件下におけるρ-ニトロフェノールナトリウムのLD50値(95 %信頼限界値)は,雄で550 mg/kg(303〜1160 mg/kg),雌で467 mg/kg(334〜651 mg/kg)であった.

方法

1. 被験物質および被験液の調製

被験物質ナトリウム=ρ-ニトロフェノキシド二水和物(三井化学(株),東京,純度98.5 %,ロット番号8J-001)は,融点>300 ℃の黄色晶の化合物である.なお,投与終了後の残余被験物質について分析を行った結果,使用期間中は安定であったことが確認された.

投与容量が10 mL/kg体重となるよう,0.5 w/v%カルメロースナトリウム水溶液に懸濁して12.5,25,50および100 mg/mL懸濁液(濃度は二水和物としての濃度)を調製した.1〜100 mg/mL懸濁液は,冷蔵(約4 ℃)8日後室温24時間,暗所(褐色ガラス瓶)保存で安定であったことから,被験液は投与日の4日前に調製し,褐色ガラス瓶に入れて使用時まで冷蔵庫(約4 ℃)に保存した.また,本投与に用いた被験液について当施設で測定した結果,濃度は適正でかつ均一であった.

2. 試験動物および飼育条件

4週齢のCrj:CD(SD)IGS系SPFラットを日本チャールス・リバー(株)から購入し,当所で15日間検疫・馴化飼育した後,健康な動物を選び6週齡で試験に供した.投与日の体重範囲は雄で174〜200 g(平均値:183.8 g),雌で126〜146 g(平均値:134.4 g)であった.

動物は,投与前日の体重により層別化し,無作為抽出法により各群の平均体重ができるだけ均等となるように割りつけた.

動物は,温度23 ± 3℃,相対湿度50 ± 20 %,換気回数1時間当たり10〜15回,照明1日12時間の飼育室で,金属製網ケージに2〜3匹ずつ収容し,固型飼料(放射線滅菌CRF-1,オリエンタル酵母工業(株))および飲料水(水道水)を自由に摂取させて飼育した.

3. 投与量および投与方法

125,250,500,1000および2000 mg/kgを1群雌雄各3匹のラットに投与した予備試験では,1000および2000 mg/kg群の雌雄全例,500 mg/kg群の雌雄各2例および250 mg/kg群の雄2例と雌1例が死亡した.これらの結果から,1000 mg/kg群を最高用量とし,以下公比2で500,250および125 mg/kgを設定し,これに対照群を加えて5群構成とした.

動物は,投与前に約16時間絶食させたのち,所定濃度の被験液を10 mL/kg体重の容量で,金属製胃ゾンデを用いて1回強制経口投与した.対照群には溶媒(0.5 w/v%カルメロースナトリウム水溶液)を同様に投与した.1群の動物数は雌雄とも5匹とした.なお,投与後の給餌は投与6時間後に実施し,給水は投与に関係なく継続して行った.

4. 検査項目

1) 一般状態および生死の観察

投与後6時間までは頻繁に,その後は1日1回,14日間にわたって実施した.

2) 体重測定

投与直前に体重を測定し,これを投与液量の算出基準にした.さらに,投与後1,2,3,7,10および14日に体重を測定した.

3) 病理学検査

14日間の観察期間終了後にエーテル深麻酔下で放血致死させ,体外表の観察を行った後,頭部,胸部,腹部を含む全身の器官・組織の異常の有無を肉眼的に観察した.

5. 統計解析

投与後14日間の累積死亡率をもとに,雄はProbit法,雌はVan der Waerden法を用いてLD50値とその95 %信頼限界値を求めた.体重については,まずBartlett法により各群の分散の均一性の検定を行った.その結果,分散が均一の場合にはDunnett法を用いて対照群と各投与群との平均値の差の検定を行った.分散が均一でない場合にはDunnett型のmean rank testを用いて対照群と各投与群との平均順位の差の検定を行った.

結果

1. 死亡状況およびLD50値(Table 1)

125および250 mg/kg群では死亡は認められなかったが,500 mg/kg群の雌雄各3/5例および1000 mg/kg群の雄4/5例と雌5/5例が死亡した.LD50値(95 %信頼限界値)は,雄で550 mg/kg(303〜1160 mg/kg),雌で467 mg/kg(334〜651 mg/kg)であった.

2. 一般状態

125 mg/kg群では,いずれの動物にも異常はみられなかった.

250 mg/kg群では,投与15分後に雄の2例で自発運動の減少,更に腹臥/横臥がみられたが,投与1時間後には消失した.

500 mg/kg群では,投与直後〜5分後あるいは投与15分後から自発運動の減少がみられ,その後腹臥/横臥,更にほとんどの例では強直性痙攣を呈して投与直後〜5分後から投与30分後の間に雌雄各3例が死亡した.生存例では,投与直後〜5分後から雄1例,投与15分後から雌2例に自発運動の減少,その後腹

臥/横臥がみられたが,すべて投与1時間後には消失した.

1000 mg/kg群では,投与直後〜5分後から自発運動の減少がみられ,その後腹臥/横臥,更にほとんどの例では強直性痙攣を呈して投与直後〜5分後から投与15分後の間に雄4例と雌全例が死亡した.雄の生存例1例は,投与直後〜5分後に自発運動の減少,投与15分後に腹臥/横臥がみられたが,投与2時間後には消失した.

3. 体重

各投与群の体重は,対照群とほぼ同様に推移した.

4. 剖検

いずれの動物にも異常は認められなかった.

考察

死亡動物は,雌雄ともに500 mg/kg群から認められ,LD50値(95%信頼限界値)は,雄で550 mg/kg(303〜1160 mg/kg),雌で467 mg/kg(334〜651 mg/kg)であった.

一般状態では,250 mg/kg以上の投与群で自発運動の減少および腹臥/横臥,500 mg/kg以上の投与群で強直性痙攣がみられ,死亡動物は投与直後〜5分後から投与30分後にかけて認められた.一方,生存動物にみられた症状は,投与2時間後までにはすべて消失した.

体重および剖検では,被験物質投与による変化は認められなかった.

連絡先
試験責任者:榎並倫宣
試験担当者:鷹野正生,津田敏治
(株)ボゾリサーチセンター 御殿場研究所
〒412-0039 静岡県御殿場市かまど1284
Tel 0550-82-2000Fax 0550-82-2379

Correspondence
Authors:Tomonori Enami(Study director)
Masao Takano, Toshiharu Tsuda
Gotemba Laboratory, Bozo Research Center Inc.
1284 Kamado, Gotemba-shi, Shizuoka, 412-0039, Japan
Tel +81-550-82-2000Fax +81-550-82-2379