3,4-ジクロロ-1-ブテンのラットを用いる
反復経口投与毒性・生殖発生毒性併合試験

Combined Repeat Dose and Reproductive/Developmental
Toxicity Screening Test of 3,4-Dichloro-1-butene in Rats

要約

プラスチック産業で合成ポリマーの製造に用いられている高生産既存化学物質 3,4-ジクロロ-1-ブテンについて,反復経口投与毒性・生殖発生毒性併合試験を,SD系[Crj:CD(SD)]ラットを用い,0(対照),0.4,2,10および50 mg/kg/day用量で実施した.動物数は1群雌雄各10匹とし,被験物質は交配開始14日前から,雄は44日間,雌は分娩後哺育3日(41〜46日間)まで投与した.

1. 反復投与毒性

雄親においては,病理組織学検査で,肝細胞の肥大および腎臓近位尿細管上皮の硝子滴の増加が 10 mg/kg以上の群に認められ,肝臓および腎臓重量は増加した.さらに,50 mg/kg群で,いずれも一過性の自発運動低下,流涎および摂餌量の減少が,投与開始日に認められた.血液生化学検査では,総タンパクの増加および尿素窒素の減少が認められた.体重,尿検査および血液学検査では,有意な変化は認められなかった.一方,雌親においても,雄親と同様に,一過性の一般状態の変化および摂餌量の減少傾向が50 mg/kg群で認められ,1匹は分娩後哺育2日に死亡した.また,同群で肝細胞の肥大が少数例にみられたが,肝臓重量には有意な変化は認められず,腎臓は相対重量のみ増加したが,病理組織学的に異常は認められなかった.

以上の結果から, 3,4-ジクロロ-1-ブテンのラットへの反復投与により,肝臓および腎臓に対する影響が認められ,無影響量は雄2mg/kg/day,雌10 mg/kg/dayと推定された.

2. 生殖発生毒性

親動物の生殖について,交尾率,受胎率,妊娠期間,分娩および哺育状態に有意な変化は認められなかった.また,児動物の発生についても,出産児数,生存児数,性比,生存率,体重および形態に,被験物質の投与に起因する変化は認められなかった.したがって,雌雄親動物の生殖能および児動物の発生に対する無影響量は,いずれも 50 mg/kg/dayと推定された.

方法

1. 被験物質

3, 4-ジクロロ-1-ブテンは,分子量124.99,融点-61℃,沸点116℃の無色透明な液体で,水に溶けにくく,エタノール,植物油に溶けやすく,ベンゼン,クロロホルムに極めて溶けやすい.試験には,東京化成工業(株)製造の試薬(ロット番号FHD01,純度99.7%)を入手し,冷暗所(4℃)で密栓保管し,使用した.投与液は,これを局方ゴマ油(宮澤薬品)に溶解して調製し,使用時まで冷暗条件下で密栓保管した.被験物質の原体および投与液中の被験物質を分析し,安定であることを確認した.

2. 使用動物および飼育条件

日本チャールス・リバー (株)より搬入したSD系[Crj: CD(SD)]ラットを9日間検疫・馴化飼育した後,一般状態に異常が認められなかったものを,雄は9週齢(343-384 g),雌は8週齢(192-222 g)で,1群雌雄各10匹として試験に供した.ラットは,温度22±3℃,湿度55±10%,換気回数10回以上/時,照明12時間(6-18時)に設定した飼育室で金網ケージに個別に収容し,固型飼料(ラボMRストック,日本農産工業(株))および水を自由に摂取させた.ただし,交尾成立後の雌は,巣作り材料(ホワイトフレーク,日本チャールス・リバー(株))を入れたポリカーボネート製ケージに収容した.

3. 投与量および投与方法

投与量設定試験として,ラットを 1群雌雄各2匹とし,3,4-ジクロロ-1-ブテンの20,60,200,600あるいは2000 mg/kg用量を単回経口投与した.2000 mg/kg群で雌雄全例が死亡した.ラットを1群雌雄各4匹とし,0,3,10,30,100あるいは300 mg/kg/day用量を,14日間反復経口投与した.投与7日の夕方から交配が成立するまで,雌雄各1匹づつを同居させた.自発運動低下,流涎などの症状,肝臓および腎臓重量の増加が,30 mg/kg以上の雌雄に認められた.交尾は,各群の全例に成立した.そこで,本試験における投与量は,50 mg/kgを最高用量とし,以下10,2および0.4 mg/kg/dayの4用量を設定した.投与方法は,投与液量を体重100 g当たり0.5 mlとし,胃ゾンデを装着した注射筒を用いて,1日1回(午前中),交配開始14日前から雄は44日間,雌は分娩後哺育3日(41〜46日間)まで,経口投与した.対照群には,局方ゴマ油を同様に投与した.

4. 観察および検査

1) 親動物に関する項目

(1) 一般状態観察

投与期間中毎日,動物の生死,外観,行動等について観察した.

(2) 体重および摂餌量測定

体重の測定は,投与開始日 (投与開始直前)およびその後は7日間隔で行い,さらに最終投与日および屠殺日に測定した.ただし,雌の妊娠後は,妊娠0,7,14および20日,ならびに哺育0および4日に測定した.摂餌量は,体重測定日に合わせて,翌日までの24時間の飼料消費量を測定した.雌の哺育4日の摂餌量は,前日からの24時間消費量を測定した.

(3) 交配および分娩状態観察

投与 14日の午後に,雄のケージに同一群内の雌を入れて1対1の対を作り,交尾が確認されるまで(5日間で全例の交尾を確認),連続同居させた.交尾の確認は毎朝一定時刻(9:30分頃)に行い,膣栓形成あるいは膣垢中に精子が確認された日を妊娠0日とした.分娩状態の観察も同じ時刻に行い,1腹ごとに全例の出産が確認された日を哺育0日とした.交配および分娩の観察結果から,各群について交尾率[(交尾成立動物数/同居動物数)×100],受胎率[(受胎雌数/交尾成立雌数)×100]および出産率[(生児出産雌数/生存妊娠雌数)×100]ならびに分娩の確認された例について妊娠期間(妊娠0日から分娩が確認された日までの期間)を算定した.

(4) 雄の臨床病理学検査

尿検査:投与開始 38あるいは40日に,ラットを代謝ケージに約3時間収容して採尿し,外観の観察ならびにpH,潜血,タンパク,糖,ケトン体,ビリルビンおよびウロビリノーゲン[以上,マイルス・三共(株),マルティスティックス]および沈渣(URI-CELL液で染色,ケンブリッジケミカルプロダクト社)を検査した.

血液学検査:供試血液の採取は,投与期間終了翌日における屠殺剖検時に行った.動物は採血前日の午後 5時より除餌し,水のみを給与した.採取した血液は3分割し,その一部はEDTA-2Kで凝固防止処理し,多項目自動血球計数装置[東亜医用電子(株),E-4000]により,赤血球数(電気抵抗検出方式),血色素量(ラウリル硫酸ナトリウム-ヘモグロビン法),ヘマトクリット値(パルス検出方式),平均赤血球容積,平均赤血球血色素量,平均赤血球血色素濃度(以上,計算値),白血球数および血小板数(以上,電気抵抗検出方式)を,Evelyn-Malloy法の変法1)によりメトヘモグロビン濃度を,また塗抹標本を作製して網状赤血球数(Brilliant cresyl blue染色)および白血球百分率(May-Giemsa染色)を測定した.さらに一部は3.8%クエン酸ナトリウム液で処理して血漿を得,血液凝固自動測定装置(アメルング社,KC-10A)により,プロトロンビン時間(Quick一段法)および活性化部分トロンボプラスチン時間(エラジン酸活性化法)を測定した.

血液生化学検査:採取した血液の一部から血清を分離し,生化学自動分析装置 [日本電子(株),JCA-VX-1000型クリナライザー]により,総タンパク(Biuret法),アルブミン(BCG法),A/G比(計算値),グルコース,トリグリセライド,総コレステロール(以上,酵素法),総ビリルビン(Jendrassik法),尿素窒素(Urease-UV法),クレアチニン(Jaff法),GOT,GPT,γ-GTP,LDH(以上,SSCC法),アルカリホスファターゼ(GSCC法),コリンエステラーゼ(BTC-DTNB法),カルシウム(OCPC法)および無機リン(酵素法)を,また電解質自動分析装置[東亜電波工業(株),NAKL-1]により,ナトリウム,カリウムおよび塩素を測定した.

(5) 病理学検査

瀕死動物は発見後速やかに,雄の計画屠殺動物は採血に続いて,また雌の計画屠殺動物は哺育 4日の観察終了後に,分娩予定日を過ぎても分娩が認められない雌については分娩予定の4日後に,いずれもエーテル麻酔下で放血屠殺して剖検し,脳,心臓,肝臓,腎臓,脾臓,副腎,胸腺ならびに雄についてはさらに精巣,精巣上体を秤量した.雌については,卵巣の黄体数および子宮の着床数を調べ,着床率[(着床数/黄体数)×100]を算定した.病理組織学検査は,採取した器官を10%中性リン酸緩衝ホルマリン液(精巣,精巣上体のみブアン液)で固定後,対照群および50 mg/kg群の全例,ならびに他の群の妊娠の成立しなかった対の脳,下垂体,眼球,甲状腺(上皮小体を含む),胸腺,心臓,肺,肝臓,腎臓,副腎,脾臓,胃,小腸(十二指腸・空腸・回腸),大腸(盲腸・結腸・直腸),膵臓,膀胱,骨髄,さらに雄では精巣,精巣上体,前立腺,精嚢,雌では卵巣,子宮,膣,乳腺について,0.4,2および10 mg/kg群の妊娠が成立した対では,50 mg/kg群で毒性影響と考えられる変化の認められた雌雄の肝臓および雄の腎臓について,常法に従いパラフィン切片を作製し,ヘマトキシリン・エオジン染色を施して鏡検した.また,沈着物を同定するため,雄の腎臓についてはPAS染色,一部の例の肝臓,腎臓,胃および腸については脂肪染色(ズダン)も行った.

2) 新生児に関する項目

(1) 産児数および性比の観察

分娩完了の確認後各腹の産児数 (生存児と死亡児の合計)を調べ,分娩率[(総出産児数/着床数)×100]を算定した.性別は肛門と生殖突起の距離の長短により判定し,群ごとの性比を算出した.

(2) 外表異常および一般状態の観察

分娩完了後,口腔内を含む外表の異常を観察した.また,毎日一般状態および生死を確認し,出生率[ (出産確認時生児数/総出産児数)×100]および新生児生存率[(哺育4日生児数/出産確認時生児数)×100]を求めた.

(3) 体重測定

哺育 0日および4日に,雌雄別に各腹ごとの総体重を測定し,1匹当たりの平均体重を算出した.

(4) 病理学検査

死亡例は発見時に,生存例は雌親の解剖時 (哺育4日)にエーテル・クロロホルムで麻酔死させ,胸腹部における主要器官を肉眼的に観察した.

5. 統計処理

パラメトリックデータは Bartlettの分散検定を行い,分散が一様な場合は一元配置の分散分析を行った.分散が一様でない場合およびノンパラメトリックデータはKruskal-Wallisの順位検定を行った.それらの結果有意差を認めた場合,Dunnett法あるいはScheffe法(群の大きさが異なる場合)により対照群に対する各群の比較検定を行った.カテゴリカルデータは,χ^2検定を行った.なお,新生児に関するデータは,1腹当たりの平均を1標本とした.

結果

1. 反復投与毒性

1) 死亡および一般状態

死亡については, 50 mg/kg群で,分娩後哺育2日に雌の1匹が瀕死状態となったので,切迫屠殺した.この1匹以外,死亡は認められなかった.一般状態については,雄において,投与1日に,自発運動低下および流涎が50 mg/kg群のほぼ全例に認められた.投与2日以降は,自発運動の低下が投与5〜12日にかけて1匹に認められた以外,異常は認められなかった.雌においても,50 mg/kg群で投与1日に自発運動低下が全例に,流涎が約半数に認められた.また,哺育2日に切迫屠殺した例では,妊娠末期の投与39日以降において自発運動が著しく低下し,深大呼吸,眼瞼下垂などが認められた.その後分娩はしたが,一般状態はさらに悪化し,哺育行動をとらず,皮膚は蒼白で瀕死状態となった.

2) 体重(Fig. 1,2)

雌雄とも,体重に有意な変化は認められなかった. 50 mg/kg群の体重は,雌雄とも対照群をやや下回って推移し,雄の投与期間中の体重増加量,雌の交配前,妊娠期間および哺育期間中の体重増加量はいずれも対照群に比べて少なかったが,統計学的有意差は認められなかった.

3) 摂餌量(Fig. 3,4)

雌雄とも, 50 mg/kg群で,投与1日の摂餌量は対照群に比べて有意に少なかった.投与8日以降は,有意な変化は認められなかった.

4) 雄の尿所見,血液学所見および血液生化学所見(Table 1)

尿および血液学所見では,各検査項目に有意な変化は認められなかった.血液生化学所見では,有意な総タンパクの増加および尿素窒素の減少が, 50 mg/kg群で認められた.

5) 剖検所見

生存動物において,雄は肝臓の腫大が 50 mg/kg群の2匹,腎臓の腫大が10 mg/kg群の1匹および50 mg/kgの3匹に認められた.雌は肝臓の腫大が,50 mg/kg群の1匹に認められた.雌の50 mg/kg群の切迫屠殺動物には,肝臓および腎臓の退色,副腎の肥大・退色,胸腺および脾臓の萎縮が認められた.これらの所見以外にも,各群に変化が認められたが,散発的で,被験物質投与との関連性はみられなかった.

6) 器官重量(Table 2)

雄において,いずれも有意な肝臓の絶対および相対重量の増加が 50 mg/kg群に,腎臓の絶対重量の増加が10 mg/kg群,絶対および相対重量の増加が50 mg/kg群に認められた.雌においても,肝臓および腎臓重量の増加傾向が50 mg/kg群でみられたが,有意差は腎臓の相対重量にのみ認められた.

7) 病理組織学所見(Table 3)

被験物質の投与に起因すると考えられる変化が,肝臓および腎臓に認められた.妊娠を成立させた雄において,肝細胞の小葉中心性肥大が 50 mg/kg群の9匹中4匹に認められた.腎臓では,近位尿細管上皮にPAS陽性硝子滴が対照群にも認められたが,10 mg/kg群の10匹中5匹および50 mg/kg群の9匹全例では,その数および大きさが明らかに増加していた.また,やや萎縮し,多核で,障害後の再生像と考えられる好塩基性尿細管の目立つ例が,50 mg/kg群の2匹に認められた.分娩し,哺育も順調であった雌においては,肝細胞の肥大が50 mg/kg群の8匹中3匹に認められた.妊娠が成立しなかった対においては,50 mg/kg群の1対の雄の肝臓および腎臓に,妊娠を成立させた雄と同様の変化がみられたが,雌雄とも下垂体や生殖器系器官に異常は認められなかった.50 mg/kg群の雌の切迫屠殺動物においては,肝細胞,腎臓の近位尿細管上皮ならびに胃および小腸粘膜表層上皮の脂肪変性,腎臓の好塩基性尿細管の増加および遠位尿細管の拡張,脾臓および胸腺の萎縮,骨髄の造血減少などの所見が認められた.以上の変化以外にも検査した器官に異常が認められたが,散発的あるいは用量依存性傾向のない所見であった.

2. 生殖発生毒性

1) 親動物に及ぼす影響(Table 4)

(1) 交尾率および受胎率

交尾は,同居開始 5日以内に,対照群および被験物質投与各群の全例に成立した.受胎率も,対照群の90%に対し,被験物質投与各群では80〜100%の範囲にあり,有意な変化は認められなかった.

(2) 黄体数,着床数および着床率

対照群の黄体数は 18.3,着床数は17.6,着床率は95.6%であった.被験物質投与各群の黄体数,着床数,着床率とも対照群と類似した値を示し,有意な変化は認められなかった.

(3) 出産率および妊娠期間

出産率は,対照群および被験物質投与各群とも 100%であった.妊娠期間は,対照群の22.6日に対し,被験物質投与各群では22.3〜22.5日の範囲にあり,有意な変化は認められなかった.

(4) 分娩および哺育状態

50 mg/kg群の切迫屠殺した1匹を除いて,いずれの動物にも分娩および哺育状態に異常は認められなかった.切迫屠殺例は妊娠末期から一般状態が悪化し,自然分娩したが分娩確認時において16匹中9匹の児動物は死亡していた.親動物は分娩後一般状態がさらに悪化し,哺育行動を取らず,哺育2日までに残りの児動物も全例が死亡した.全児が死亡した時点で,親動物は瀕死状態であった.

2) 新生児に及ぼす影響(Table 5)

(1) 生存性

対照群の 1腹当たり総出産児数は16.7匹,分娩率は95.0%であった.また,新生児数は16.3匹,出生率は98.0%,性比は0.88,哺育4日生存率は99.3%であった.10 mg/kg以下の群では,これらの指標は対照群と類似した値を示した.50 mg/kg群においても,上述の切迫屠殺した1匹の雌親で全児が死亡したため,哺育4日生存率が対照群に比べてやや低値を示したが,有意な変化ではなかった.生存した新生児の一般状態に,異常は認められなかった.

(2) 体重

対照群の哺育 0日における体重は雄7.1 g,雌6.7 gに対し,被験物質投与各群は雄6.7〜7.0,雌6.3〜6.6 gの範囲にあった.また哺育4日における体重は対照群の雄11.2 g,雌10.9 gに対し,被験物質投与各群は雄10.7〜11.3 g,雌10.2〜10.5 gの範囲にあり,いずれも有意な変化は認められなかった.

(3) 形態

被験物質の投与に起因すると考えられる外表および内臓の異常は認められなかった.外表異常については, 10 mg/kg群で長鼻,眼球および下顎の欠損,小耳,唇裂など顔面の複合異常を有する1匹が認められた.この例は分娩確認時に死亡していた.内臓異常は,いずれの児動物にも認められなかった.内臓変異については,胸腺の頚部残留,左臍動脈遺残あるいは尿管の拡張・屈曲が総計対照群で2匹(1.3%),0.4 mg/kg群で4匹(2.9%),2 mg/kg群で1匹(0.5%),10 mg/kg群で1匹(0.6%)および50 mg/kg群で5匹(3.6%)認められた.しかし,これらの発現率には群間に,有意な差は認められなかった.

考察および結論

1. 反復投与毒性

雄親について,投与初日の投与後,自発運動低下および流涎がほぼ全例に認められ,摂餌量も減少した.しかし,これらの変化は一過性で,大部分の例では投与 2日以降症状は消失し,摂餌量も投与8日以降対照群と比べて差はなく,体重に対して有意な変化は認められなかった.病理学検査において,肝臓重量の増加および肝臓の肉眼的腫大例が50 mg/kg群に認められ,組織学的には肝細胞の肥大が観察された.血液生化学検査で認められた総タンパクの増加は,この肝臓の形態的変化と関連する所見と考えられ,肝機能に対してはむしろ亢進的な影響がうかがわれた.しかしながら,14日間の投与量設定試験においては,100 mg/kg以上でグルコースの減少,300 mg/kgでGOT,GPT,γ-GTP,総ビリルビンの増加およびプロトロンビン時間の延長が認められている.したがって,より高用量の投与では,肝臓に対し障害的に影響すると推察される.

腎臓においては, 10 mg/kg以上の群で近位尿細管上皮におけるPAS陽性硝子滴の増加が認められ,腎臓重量は増加し,肉眼的にも腎臓が腫大する例があった.

尿細管上皮の硝子滴は,多くの化学物質で雄ラットへの投与により増加することが知られており 2, 3, 4),これはα2u-グロブリンの沈着像で,近位尿細管上皮におけるタンパクの再吸収あるいはその代謝過程に対する何らかの障害によるものと考えられている4).

しかしながら,尿検査および血液生化学検査においては,腎機能の異常を示唆する所見は認められず,腎臓に対する影響としては,軽度なものと判断される.

一方,雌親においても,雄親と同様に一般状態および摂餌量に対する一過性の影響が 50 mg/kg群で認められた.

肝臓では,肝細胞の肥大が 50 mg/kg群の少数にみられたが,肝臓重量には有意な変化は認められなかった.また,腎臓においても,相対重量のみの増加が50 mg/kg群でみられたが,病理組織学的には変化は認められなかった.したがって,肝臓および腎臓に対する影響は,雄親に比べてより軽度なものと考えられた.

50mg/kg群の雌親の1匹は妊娠末期から一般状態が悪化し,哺育2日に瀕死状態となったので切迫屠殺した.この例の病理組織学検査では,特徴的な変化として,肝細胞,腎臓尿細管上皮ならびに胃および小腸粘膜の表層上皮に脂肪変性が認められ,全身的な脂質代謝の異常がうかがわれた.しかしながら,この変化は生存動物には認められず,また,より高用量投与した投与量設定試験においても,組織の脂肪変性をうかがわせる器官の肉眼的変化は認められていないことから,被験物質による直接的な毒性影響と考えるのは困難であった.

以上の結果から, 3,4-ジクロロ-1-ブテンのラットへの反復投与により,肝臓および腎臓に対する影響が認められた.無影響量は,雄2 mg/kg/day,雌10 mg/kg/dayと推定された.

2. 生殖発生毒性

雄親および雌親の生殖に対しては,観察した各指標とも対照群との間に有意な差は認められなかった.また,児動物の発生に対しても,有意な影響は認められなかった.

50 mg/kg群で,分娩後哺育行動が認められず,全児が死亡した雌親が認められたが,この例は妊娠末期から一般状態が悪化し,哺育2日に瀕死状態となったこと,および下垂体や生殖器系器官には異常は認められなかったことから,重度な一般毒性学的影響に伴う所見と判断される.

また,交尾が確認されたにもかかわらず妊娠しなかった対が,投与量とは無関係に散発したが,いずれの対にも生殖能の異常を示唆する病理学的な異常は認められず,偶発的なものと考えられた.

本被験物質の異性体である 1,4-ジクロロ-2-ブテンについて,妊娠ラットへの吸入投与により,胚の核酸および糖代謝に影響がみられ,着床後の胚の死亡率が増加するとの報告5)がある.しかし,3,4-ジクロロ-1-ブテンのラットへの経口投与においては,着床後の胚に対する影響を示唆する変化は認められなかった.

以上の結果から,雌雄親動物の生殖能および児動物の発生に対する影響は, 50 mg/kg/day投与によっても認められず,無影響量はいずれも,50 mg/kg/dayと推定された.

文献

1)E. J. van Kampen, W. G. Zijlstra, Adv. Clin. Chem., 8, 141(1965).
2)C. A. Halder, C. E. Holdsworth, B. Y. Cockrell, V. J. Piccirillo, Toxicol. Indust. Health, 1, 67(1985).
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4)S. J. Broghoff, B. G. Shrt, J. A. Swenberg, Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol., 30, 349(1990).
5)F. R. Petronsyan, Zh. Arm., 35(5), 830(1982).

連絡先
試験責任者:伊藤義彦
試験担当者:山本譲,赤木博,下平裕二,
福田苗美,藩栗緒
(財)畜産生物科学安全研究所
〒229-11 神奈川県相模原市橋本台3-7-11
Tel 0427-62-2775Fax 0427-62-7979

Correspondence
Authors:Yoshihiko Ito (Study director)
Yuzuru Yamamoto, Hiroshi Akagi, Yuuji Shimodaira,
Naemi Fukuda, Cleo Pan
Research Institute for Animal Science in Biochemistry and Toxicology
3-7-11 Hashimotodai, Sagamihara-shi, Kanagawa, 229-11, Japan
Tel +81-427-62-2775Fax +81-427-62-7979