N-(カルボキシメチル)-N,N-ジメチル-1-ドデカナミニウムのラットを用いる単回経口投与毒性試験

Single Dose Oral Toxicity Test of N-(Carboxymethyl)-N,N-dimethyl-1-dodecanaminium, inner salt in Rats

要約

 N-(カルボキシメチル)-N,N-ジメチル-1-ドデカナミニウムはカルボキシベタイン型の両性界面活性剤で,繊維仕上げ剤,化粧品,シャンプー,医薬品,金属イオン封鎖剤等の幅広い分野で使用されている1).毒性情報としては,ラットLD50値が71 mg/kgとの報告がある2).今回,OECD Test Guideline 423に従って8週齢のCrj:CD(SD)IGS系雌ラットに強制経口投与し,その急性経口毒性を検討した.投与用量は第一回および第二回投与を300 mg/kg,第三回投与を2000 mg/kgとした.被験物質は注射用水で溶解調製し,投与前日の夕方から絶食したラットに10 mL/kgの液量で投与した.

 2000 mg/kg群で第2日までに全例が死亡した.死亡までの一般状態の変化として自発運動低下,不整呼吸,軟便,下腹部の汚れがみられ,剖検では消化管障害を示唆する変化が認められた.300 mg/kg投与群では一般状態,体重および剖検とも変化は認められなかった.

 以上,本試験条件下におけるN-(カルボキシメチル)-N,N-ジメチル-1-ドデカナミニウムの概略の半数致死量は300 mg/kg以上,2000 mg/kg未満,Globally Harmonized Classification System(GHS)はCategory 4(>300-2000 mg/kg b.w.)に分類された.

方法

1. 被験物質

 N-(カルボキシメチル)-N,N-ジメチル-1-ドデカナミニウム(花王,東京),ロット番号3047,純度27.1 %は,石油エーテル可溶分0.1 %,乾燥減量65.8 %,強熱残分7.0 %を有する透明液体である.被験物質は室温,暗所,密栓容器にて保存し,試験期間中安定であることを確認した.投与液の調製には,被験物質の有効成分の純度が27.1 %であることから,所定量の3.7倍を秤量し,媒体(日本薬局方注射用水,大塚製薬工場)に溶解させた.投与液中の被験物質の安定性を投与開始前に調製後8日間安定であることを確認した.投与液は投与に供するまで冷蔵・遮光・密栓保存条件下で保存し,調製後7日以内に使用した.また,投与液中の被験物質濃度が設定濃度±10 %以内にあることを確認した.

2. 試験動物

 日本チャールス・リバー(厚木生産所)から入手した雌のSD系ラット〔Crj:CD(SD)IGS,SPF〕を5日間検疫し,その後投与日まで馴化した.投与前日に体重層別化無作為抽出法により,抽出・選抜した.各投与段階に雌3匹を振り分けた.投与日の週齢は8週齢,体重範囲182〜203 gであった.

 検疫・馴化期間を含む全飼育期間を通して,温度22 ± 3℃,相対湿度55 ± 20 %,換気約6〜20回/時,照明12時間/日(7:00 - 19:00)に自動調節した飼育室を使用した.

 動物は実験動物用床敷(ベータチップ,日本チャールス・リバー)を敷いたポリカーボネート製ケージに収容し,飼育した.動物には実験動物用固型飼料(MF,オリエンタル酵母工業)と,5 μmのフィルター濾過後,紫外線照射した水道水を自由に摂取させた.

3. 投与量および投与方法

 被験物質製造者(花王)のMSDS (Material Safety Data Sheet)では29.1 %水溶液でラットLD50が3.6 mL/kg 3),RTECS (Registry of Toxic Effects of Chemical Substances)ではラットLD50が71 mg/kg 2)との情報がある.このことから,第一回投与を300 mg/kgとし試験を実施した.

 第一回および第二回投与の300 mg/kgではいずれも死亡は認められなかった.このため,第三回投与として2000 mg/kgを投与した結果,第2日までに全例が死亡した.2000 mg/kgで全例が死亡したため,第四回投与は実施しなかった.

 投与経路は経口,投与回数は1回とした.投与液量は投与直前の測定した体重に基づいて10 mL/kgで算出した.投与前日より約18時間絶食させたラットに,胃ゾンデを用いて強制経口投与し,投与後約3時間は飼料を与えなかった.

4. 観察および検査項目

1) 一般状態

 投与日は投与前,投与後10分,30分,1,3および6時間の6回,以後は1日1回14日間にわたって生死および一般状態を観察した.

2) 体重

 全生存動物について投与直前,第4,8および15日に上皿電子天秤を用いて測定した.なお,死亡例は死亡発見時にも測定した.各測定日間の増加量を算出した.

3) 病理検査

 死亡例および第15日まで生存した動物の全例について剖検した.第15日まで生存した動物は,観察終了後にチオペンタールナトリウム(ラボナール,田辺製薬)の腹腔内投与による麻酔下で腹大動脈を切断・放血し,安楽死させた後剖検した.死亡動物は発見後速やかに剖検した.なお,肉眼的異常部位(胃,小腸)を10 v/v%中性リン酸緩衝ホルマリン液に保存した. 

 結果

1. 一般状態

 300 mg/kg投与群では異常は認められなかった.

 2000 mg/kg投与群では,投与後30分から症状の発現がみられ,自発運動低下,不整呼吸および軟便が投与後6時間までに全例で認められた.さらに,下腹部の汚れが投与後3時間で1例にみられ,本動物は投与後6時間に死亡した.他の2例も投与翌日(第2日)に死亡が発見された.

2. 体重

 300 mg/kg投与群の体重は順調に増加した.

3. 病理所見

 300 mg/kg投与群では異常は認められなかった.

 2000 mg/kg投与群では,胃および小腸の膨満が2例,腺胃粘膜の赤色化,小腸の異常内容物,胸腔内の出血,赤色透明な腹水の貯留がそれぞれ1例に認められた. 

考察

 N-(カルボキシメチル)-N,N-ジメチル-1-ドデカナミニウムを300または2000 mg/kgの用量で雌ラットに単回経口投与した.

 その結果,2000 mg/kg投与群で第2日までに全例が死亡した.死亡までの一般状態の変化として,自発運動低下,不整呼吸,軟便,下腹部の汚れがみられ,剖検では胃および小腸全域に消化管障害を示唆する変化が認められた.被験物質はカルボキシベタイン型の両性界面活性剤であることから1),その作用により消化管障害が発現し,死亡したものと考えられる.なお,被験物質による神経障害と考えられる症状は認められなかった.300 mg/kg投与群では一般状態,体重および剖検とも変化は認められなかった.

 以上,本試験条件下におけるN-(カルボキシメチル)-N,N-ジメチル-1-ドデカナミニウムの概略の半数致死量は300 mg/kg以上,2000 mg/kg未満,GHSはCategory 4(>300-2000 mg/kg b.w.)に分類された.

文献

1) 「13901の化学商品」化学工業日報社,東京(2001) pp.1262-1264.
2) RTECS (Registry of Toxic Effects of Chemical Substances), CAS No. 683-10-3.
3) アンヒトール 24B.製品安全データシート,花王(2003).

連絡先
試験責任者: 星野信人
試験担当者: 藤代真弓,小山 隆
(株)三菱化学安全科学研究所 鹿島研究所
〒314-0255 茨城県神栖市砂山14
Tel 0479-46-2871 Fax 0479-46-2874

Correspondence
Authors: Nobuhito Hoshino (Study director)
Mayumi Fujishiro, Takashi Koyama
Kashima Laboratory Mitsubishi Chemical Safety Institute Ltd.,
14 Sunayama, Kamisu-shi, Ibaraki, 314-0255, Japan
Tel +81-479-46-2871 Fax +81-479-46-2874