ピグメントオレンジ16のラットを用いる28日間反復経口投与毒性試験

Twenty-eight-day Repeat Dose Oral Toxicity Test of Pigment orange 16 in Rats

要約

ピグメントオレンジ16の28日間反復経口投与毒性試験(回復14日間)を雌雄のSprague-Dawley系ラットを用いて実施した.投与量は雌雄とも0(対照群),100,300および1000 mg/kgとし,0および1000 mg/kg投与群は回復試験の動物を含む1群10匹,100および300 mg/kg 投与群は1群5匹を使用して試験を行った.

その結果,いずれの投与群においても死亡例は認められなかった.被験物質投与群では,投与第2日以降,投与期間終了時まで継続して被験物質と同様のオレンジ色の便が排泄されたが,この他には被験物質投与に起因したと考えられる一般状態の変化はなかった.また,体重,摂餌量,尿検査,血液学検査,血液生化学検査および器官重量を含む病理学検査では,いずれも被験物質投与に起因したと考えられる変化は認められなかった.

以上のことから,本試験条件下におけるピグメントオレンジ16の無影響量は,雌雄とも1000 mg/kg/dayであると判断された.

方法

1. 被験物質

被験物質として,大日本インキ化学工業(株)(茨城)より提供されたピグメントオレンジ16(ロット番号:46236L,純度:99 %以上)を用いた.提供された被験物質は,不純物として水可溶分(NaCl)0.18 %を含有していた.被験物質は,使用時まで室温で保管した.なお,被験物質の試験期間中の安定性は,残余被験物質を提供元で再分析することにより確認した.

投与検体は,用量ごとに被験物質を秤量し,所定濃度となるようにコーン油(ロット番号:V8P7069,ナカライテスク(株))を加えて懸濁して調製した.なお,本被験物質は通常の取り扱いにおいては安定であることを基に,投与検体の調製は投与期間中1回とし,室温で保管した.また,本被験物質は,いずれの溶媒にも溶解性を示さないため,投与検体の化学分析は不可能と判断し,安定性,含量測定および均一性試験は実施しなかった.

2. 動物および飼育方法

試験には,生後4週で購入し,検疫を兼ねて9日間予備飼育した雌雄のSprague-Dawley系ラット(Crj:CD(SD)IGS,日本チャールス・リバー(株))各30匹を使用した.

群分けは,検疫期間中に異常がなかった動物を用い,投与開始前日の体重に基づいて体重別層化無作為抽出法により行った.動物数は,雌雄とも対照群および高用量群を各10匹とし,低および中用量群を各5匹とした.

動物は,温度24 ± 1 ℃,湿度50〜65 %,換気回数約15回/時,照明12時間(7〜19時点灯)に設定した飼育室内で,金属製金網床ケージに1匹ずつ収容し,固型飼料(CE-2,日本クレア(株))および水道水(秦野市水道局給水)を自由摂取させて飼育した.

3. 投与量の設定および投与方法

本試験の投与量は,投与量設定のための予備試験の結果に基づき決定した.すなわち,500および1000 mg/kgの用量で,7日間反復投与することにより,雌雄とも便および消化管内容物の色調が被験物質と同様になった以外に変化は認められなかった.以上のことから,1000 mg/kgは,28日間の反復投与に耐えうる用量であると判断し,本試験の用量は,高用量を1000 mg/kgとし,以下公比約3で除して300および100 mg/kgを中用量および低用量とした.また,雌雄とも媒体であるコーン油を投与する対照群を設けた.

投与経路は強制経口投与とし,1日1回,28日間,ラット用胃管を用いて投与した.投与容量は10 mL/kgとし,投与液量は雌雄とも最近時の体重をもとに個体別に算出した.なお,回復期間は14日間とした.

4. 観察および検査

1) 一般検査

毎日(投与期間中は投与前および投与後)全例の一般状態を観察した.また,体重は,投与第1週に投与第1日の投与直前と5日,投与第2週以降回復期間終了週までは1週に2回の頻度で測定し,その他,投与期間終了日,回復期間終了日および剖検日にも測定した.摂餌量は,投与第1週では,投与第1日から2日にかけて1日あたりの摂餌量を測定し,以後回復期間終了週まで毎週1回の頻度で測定した.

2) 尿検査

各群とも全例について,投与第4週および回復第2週に代謝ケージに収容して蓄尿し,約4時間の時点で採尿した.この4時間尿を用いて,pH,潜血,蛋白,糖,ケトン体,ビリルビン,ウロビリノーゲンを試験紙法(クリニテック200+,バイエル・三共(株))により,また色調および濁度を視診により検査した.

3) 血液学検査

投与期間ないし回復期間終了日から翌日の剖検日にかけて定期解剖例全例を18から24時間絶食させ,ペントバルビタールナトリウム麻酔下で腹部後大静脈よりEDTA 2Kを抗凝固剤として採血し,Coulter Counter Model S-PLUS(コールターエレクトロニクス(株))により赤血球数,白血球数,平均赤血球容積,血小板数(以上,電気抵抗法)および血色素量(吸光度法)を測定し,これらを基にヘマトクリット値,平均赤血球血色素量および平均赤血球血色素濃度を算出した.血液の一部は塗抹標本とし,白血球分類(Wright-Giemsa染色)および網状赤血球比率(Brecher法)を求めた.また,クエン酸ナトリウムを抗凝固剤として採取した血液をCA-1000(東亜医用電子(株))によりプロトロンビン時間および活性部分トロンボプラスチン時間(光散乱検出法)を測定した.

4) 血液生化学検査

血液学検査用の採血に引き続き,ヘパリンを抗凝固剤として採血し,血漿を分離して遠心方式生化学自動分析装置(COBAS-FARA,ロシュ・ダイアグノスティックス(株))により,総蛋白濃度(ビウレット法),アルブミン濃度(BCG法),総コレステロール濃度(COD・DAOS法),ブドウ糖濃度(グルコキナーゼ・G6PDH法),尿素窒素濃度(ウレアーゼ・Gl.DH法),クレアチニン濃度(Jaff法),アルカリフォスファターゼ活性(GSCC法),GOT活性(IFCC法),GPT活性(IFCC法),γ-GTP活性(γ-グルタミル-3-カルボキシ-4-ニトロアニリド基質法),トリグリセライド濃度(GPO・DAOS法),無機リン濃度(モリブデン酸直接法),カルシウム濃度(OCPC法)を測定し,A/G比を算出した.また,全自動電解質分析装置(EA05,(株)A&T)により,ナトリウム濃度,カリウム濃度および塩素濃度(イオン電極法)を測定した.

5) 病理学検査

上記の採血に引き続き,動物を放血屠殺したのち,器官および組織の肉眼的観察を行った.また,各動物の脳,胸腺,心臓,肝臓,腎臓,脾臓,副腎,卵巣または精巣,精巣上体の重量測定を行い,各器官重量を剖検日の体重で除して,それぞれの相対重量を算出した.さらに,脳,下垂体,脊髄,眼球,甲状腺,上皮小体,心臓,気管,気管支,肺,肝臓,腎臓,胸腺,脾臓,副腎,胃,十二指腸,空腸,回腸,盲腸,結腸,直腸,前立腺,精嚢,卵巣,子宮,腟,乳腺,膀胱,下顎リンパ節,腸間膜リンパ節,骨格筋(下腿部),坐骨神経,大腿骨骨髄,膵臓,顎下腺,舌下腺,舌,食道,大動脈,ハーダー腺,皮膚,病変部を0.1 mol/Lリン酸緩衝10 vol%ホルマリン溶液(pH 7.2)に固定し,精巣,精巣上体はブアン液に固定した.次いで,心臓,肝臓,腎臓,脾臓,副腎,精巣,精巣上体,卵巣および病変部はパラフィン包埋後,ヘマトキシリン・エオジン染色標本を作製し,対照群および高用量群について病理組織学検査を実施した.この他,肉眼的異常が認められた器官・組織についても病理組織学検査を実施した.

5. 統計解析

体重,摂餌量および定期解剖例の血液学検査,血液生化学検査ならびに器官重量について,群ごとに平均値および標準偏差を求めた.また,試験群が3群以上の場合は,Dunnett法で多重比較を行い,2群の場合には,Studentのt検定ないしAspin-Welchのt検定を行った.さらに,病理組織学検査所見は,グレード分けしたデータについてMann-WhitneyのU検定を,陽性グレードの合計値についてFisher直接確率の片側検定を行った.なお,これら対照群および被験物質投与群との間の有意差検定はいずれの場合も有意水準を5 %とした.

結果

1. 一般状態

被験物質投与群の雌雄いずれの例においても,投与第2日以降,投与期間終了時まで継続して被験物質と同様のオレンジ色の便が排泄された.一方,回復期間中には,この便の着色は回復第1日のみに認められたが,回復第2日以降には消失した.この他,100 mg/kg投与群の雌1例では,投与第23から24日にかけて排便量の減少が認められたが,同例では剖検で胸腔内に投与検体が確認されたことから,この排便量の減少は投与過誤およびこれに伴う摂餌量の減少による症状と考えられた.また,観察期間中に痂皮あるいは脱毛が,対照群の雌1例および1000 mg/kg投与群の雄1例に観察された.なお,投与期間および回復期間中に死亡例はなかった.

2. 体重(Fig. 1, 2)

観察期間中,被験物質投与群では,雌雄いずれにおいても対照群との間に体重の有意な差は認められなかった.

3. 摂餌量(Fig. 3)

100 mg/kg投与群の雌では,投与第4週の摂餌量が対照群と比較して有意な低値を示した.なお,同群の1例では前述のように,同時期に投与過誤があったため摂餌量が減少したものと考えられた.この他には,投与期間および回復期間を通して,被験物質投与群と対照群との間に摂餌量の有意な差は認められなかった.

4. 尿検査(Table 1)

投与第4週および回復第2週の尿検査では,いずれの検査項目においても,対照群と被験物質投与群の間に著しい差は認められなった.

5. 血液学検査(Table 2)

投与期間終了時の検査では,いずれの検査項目においても対照群と被験物質投与群の間に有意な差は認められなかった.一方,回復期間終了時の検査では,被験物質投与群の雌で赤血球数の減少がみられたが,他に関連した変化が認められなかったため,被験物質投与およびその後に続く回復期間に起因した変化ではないと判断した.

6. 血液生化学検査(Table 3)

投与期間終了時の検査では,300 mg/kg投与群の雄でA/G比が有意な低値となり,1000 mg/kg投与群の雌では,カリウム濃度の有意な低下が認められた.また,回復期間終了時の検査では,被験物質投与群の雌で総コレステロール濃度の有意な増加がみられたが,いずれも他に関連した変化はなかったことから,被験物質投与およびその後に続く回復期間に起因した変化ではないと判断した.

7. 病理学検査

1) 肉眼所見

投与期間終了時解剖例のうち,対照群の雌1例に脱毛がみられ,300 mg/kg投与群の雌1例に副脾が認められた.なお,100 mg/kg投与群の雌1例では,前述した通り剖検において胸腔内に投与検体が認められたことから,投与過誤があったものと判断した.この他には回復期間終了時解剖例を含め,いずれにも異常所見は観察されなかった.

2) 器官重量(Table 4)

投与期間終了時解剖例の100 mg/kg投与群では,卵巣の相対重量に有意な増加がみられたが,用量に依存した変化ではなかった.また,この他には回復期間終了時解剖例の器官重量を含め,いずれも有意な差は認められなかった.

3) 病理組織学検査(Table 5)

投与期間終了時解剖例の対照群および1000 mg/kg投与群では,雌雄とも肝臓,腎臓,脾臓に自然発生性の所見が観察されたが,いずれの所見も群間でその発生頻度および程度に差は認められなかった.なお,肉眼的に脱毛がみられた対照群の雌1例では,これに対応する変化として痂皮がみられ,また,副脾がみられた300 mg/kg投与群の雌1例の脾臓では,軽微な髄外造血と褐色色素沈着が観察された以外に変化は認められなかった.

考察

ピグメントオレンジ16を,100,300および1000 mg/kgの用量で雌雄のSprague-Dawley系ラットに28日間にわたって強制経口投与し,その後14日間の回復期間を設けた.

その結果,被験物質投与群の便の着色以外には,被験物質投与に起因したと考えられる一般状態の変化は認められなかった.また,体重,摂餌量および尿検査には被験物質投与による有意な差は認められず,血液学検査,血液生化学検査および器官重量で,対照群と被験物質投与群との間に有意な差が認められる項目があったが,他の関連所見がなかったこと,用量依存性のある変化でなかったことなどから,いずれも被験物質投与に起因した変化ではないと考えられた.さらに,病理組織学検査においても,対照群と高用量群との間に差は認められなかった.

以上のように,ピグメントオレンジ16を1000 mg/kgの用量で反復投与しても,生体の機能および形態の変化は認められなかった.したがって,本試験条件下におけるピグメントオレンジ16の無影響量は,雌雄とも1000 mg/kg/dayであると判断された.

連絡先
試験責任者:畔上二郎
試験担当者:松岡千明,加藤博康,関 剛幸,古谷真美,永田伴子,吉村愼介,堀内伸二,稲田浩子,三枝克彦
(財)食品薬品安全センター 秦野研究所
〒257-8523 神奈川県秦野市落合729-5
Tel 0463-82-4751 Fax 0463-82-9627

Correspondence
Authors:Jiro Azegami(Study Director) Chiaki Matsuoka, Hiroyasu Katoh, Takayuki Seki, Mami Furuya, Tomoko Nagata, Shinsuke Yoshimura, Shinji Horiuchi, Hiroko Inada, Katsuhiko Saegusa
Hatano Research Institute, Food and Drug Safety Center
729-5 Ochiai, Hadano-shi, Kanagawa, 257-8523, Japan
Tel +81-463-82-4751 Fax +81-463-82-9627